元戦神と囚われの魔導書
知恵を働かせて日々をしっかりと生きている人間と、本能の赴くままその戦闘特化した身体を振るう魔物と、その2つの性質を受け継いだ亜人の3種類が存在する世界、異世界クレシデント。
剣と魔法の、武器と己の力だけで勝ち上がるこの世界。沢山の街や都市が存在する世界。
この世界に1人の神が堕ちて来た。
彼の名前は、伊達アックス。格闘術を司る戦神、かなり優秀な男だったがこの異世界に自ら堕ちた自由奔放な元神である。
これはそんな自由奔放な元戦神と、永遠に生きる事を強いられた生きる魔導書の話。
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我、伊達アックスは仲間内から、要らない事に拘る奴だと馬鹿にされていた。我の役目は自らに加護を求めた者に、伊達アックスとして加護を与える。そして時々、他の戦神達と一緒にその世界の者達では対処出来ないような一大事に緊急として力を振う。それが我の格闘術の戦神、伊達アックスとしての役割なのだ。
けれども我はどうでも良い所まで求めてしまった。例えばその世界の人の営みと言った神としては些事な出来事しか言いようがない物を。仲間内からは仕事熱心な者としてある種褒められており、そんな事が本当に神として必要かと言う事をからかわれたりした。けれども、我の中ではその神として無駄だと思える人への興味は尽きなかった。
ある時、1人の人間が無謀にも神に挑みに来た。その行動理由は自分が愛した女性が死んだ事に異議を申し立てるような出来事で、あれは彼女がお前を助けるための行動であり、彼女が死ななければお前は住んでいる国の貴族連中に殺されたと言う事を、我は担当者に代わってそう代弁した。しかし、彼はその話を受け入れなかった。いや、認めようとしなかった。彼も薄々と気付いていたようだが、それを認めたくなかったらしい。認めたくなかったとはいえ、貴族連中よりもよっぽど勝ち目のない神に挑む彼に、いや人間にますます興味が湧いた。
そして、我は異世界に降りた。理由は何でもない。ただやりたいからやっただけ、反省はしていない。
== 1 ==
異世界クレシデントのとある森、アシュート。その森の中、1人の少女が道なき道を息を切らしながら歩いていた。白髪で紫の瞳、黒いドレスを身に纏っており、その上に白いローブのような物を羽織った、全身傷だらけで血を流している少女は、何かから逃げるように身体を動かし続ける。
(可笑しいわ……魔物が1体も出てこないだなんて……)
少女は必死に逃げながら、頭の中でその異常性について考える。魔物はあらゆる場所に現れる。魔物を根絶する事は出来ず、街や村では魔物達を”入れないようにしている”だけ。力がある魔物なら大きな街や、長年続いて来た村も壊される事も多く、魔物と言うのはそう言うどこにでも現れ出でる。
そして魔物は本能に忠実だ。生きるために物を食い、生きるために牙を尖らせる。そして今の少女は傷だらけで血だらけの状態。魔物にとってはすぐに殺せる恰好の獲物。それなのにも関わらず、魔物が1体も現れないと言う異常事態に可笑しいとしか思えなかった。
(こんな状況であろうとも……私は食べたくないって事です、か。ハハ、やっぱりそう言う事、ですか)
少女は自分の運命を恨み、森を進んで行くと。
1人の男性が地面に、周りに魔物の骸の真ん中に倒れていた。その男性は赤と黒のチェック柄の長袖と半袖の中間くらいの長さの服と、青と白のズボンをはいている。濃い藍色の肩まで伸ばしており、夕焼け色の瞳をした凛々しい顔立ち。右足に刀の鞘を紐で巻きつけており、左腕には赤い文字で『伊達』の2文字が刻まれている。
そんな男性は空腹で、目を回していていた。
「あぁ……腹が減った。我のような料理下手が異世界転生するとこういう事になるのか。そうか、そうなのか」
彼はそう言いながら、腹を大きく鳴らして森の真ん中に倒れていた。
これが彼、伊達アックスと彼女、ブック=フォン=ジュリの初めての出会いだった。
== 2 ==
「いやー、良かった、良かった。君が調理魔法と言う便利な魔法を持っててくれてありがい。恩に着る。では、いただきまーす!」
「め、めしあがれ?」
パクパクと調理された物を食べる我、伊達アックスの姿を見てそれを調理した彼女、ブック=フォン=ジュリは「は、はぁ……」とどうにも納得していない様子でゆっくり食べ進める。
「いやー、我は昔から調理だけはなかなか美味くならなくて……。何故かは分からないが、お湯に塩コショウを入れるだけで爆発が起きちゃってな」
「それはもはや、苦手うんぬんのレベルだと思いますよ?」
と、問いかける彼女。むっ……そうだろうか? 確かに調味料で爆発していたのは我だけだが、別に調理中に爆発くらい起こせるのは何名か居た気がする。
しかし、美味いな。調理魔法とは彼女曰く、『自分が思い描いた形の料理を作り出す魔法』と言う事。勿論、自身の能力的な問題や材料不足だと上手くは出来ないらしいが。
「あ、あの……ダテさん」
「むっ? どうした、ブック?」
「いえ、あなたは……ブック=フォン=ジュリ、『7人の魔導書』について知らないんですか? だからこうして、私に優しくしてくれるんですか?」
「いや、すまんな。我はここに来たばかりなので、良く知らないんだ。すまないな」
本当の事を言えば、神が住まう世界から降りて来たのだが、その事を理解せよと言うのは酷だと言う物だろう。それを聞くと、ブックは「そう……ですか」と訳知り顔な顔で、一つ息を吸った後にピッと顔を整える。
「私は、『7人の魔導書』の中の1人です」
「我は知らないがそもそも、その『7人の魔導書』ってどう言う意味なんだ?」
「そこから!? はぁ―――、あなたはどこに住んでいたんでしょうか……。まぁ、良いです」
そう言って、彼女、ブックは説明を始めた。
「魔法と言うのは、基本的には一子相伝。本に残すのも一部のみで、ほとんどの魔法使いが一子相伝で伝えるために、魔法はどんどん廃れていく一方です」
「まぁ、一子相伝の拳法と言うのは大抵そう言う物だしな……。よし、理解した」
「そう言う事では無いんですけれども……まぁ、似たような事なのでそれで正しいです。と言う訳で、数百年前にその魔法を記して、魔法の知識を残そうとしました。
炎、水、雷、土、光、闇、そして無。その魔法の知識を後世に残し、なおかつ自分自身でその魔法を悪しき目的で使おうとする所有者から防衛するように自意識を植え付けられた、不老不死の魔導書。それが『7人の魔導書』。私はその1人、『闇』の魔導書です」
「『闇』の魔導書……ね」
と言われて、我は色々と闇について考える。
暗黒、破壊、消滅、邪悪。我は『闇』についてあまり良い印象を抱いていない。元々、『闇』の魔法にはそう言った破壊や消滅を持った魔法しかないとさえ思っている。それに今の話が本当だったとして、そんな危険な存在であるとしか思っていない我としては、彼女はヤバい存在、なのだろう。
けれども、彼女の、悲しそうな顔を見て、我は決断した。そしてスー、っと息を吸い込む。
「分かりまし……たか。そう、私はそう言った、『闇』の魔法を操る、皆がその存在自体に顔をしかめる『7人の魔導書』の1人で……あなたが感謝を述べるような存在では……」
「『世界を敵に回したとしても、君だけは僕の手で救って見せる!』」
「ですから……はい? 今、なんと?」
突然我が発した大きな声に驚いたのか、ブックさんは何を言ったのかと聞き返す。それに対して我はガハハ! と笑いながら、肉を頬張って返事を返す。
「ただの虚言だ。『世界を敵に回したとしても、君だけは僕の手で救って見せる!』、つまりは例え全世界をひっくり返して、世界中の人間に恨まれたとしても、君を必ず我の手で救おうと言う心地よい妄想」
「妄想……つまりは嘘、って事ですか?
はぁ……あなたは知らないんですか? 『嘘は泥棒の始まり』って言う言葉を」
ジト目であからさまに引いた目つきで、ブックさんは我を見る。それに対して我は「そうだな」と答える。
「確かに『嘘は泥棒の始まり』、それは道理。しかし、我は嘘は決して悪いものではないと思うのだ。
世の中には百の真実、千の真理、そして万の理がある。しかし、それは正しいだけであり、優しい訳ではない。故にそう言った事よりも、たった一つの嘘が良いという場合もあるのだ」
「理解出来ませんね……。嘘は結局、嘘なんじゃないですか」
「それでも、お前が笑ってさえしてくれれば、吐いた方からしても嬉しいのだが」
「私が……笑う?」
「おう、今のはお前を笑わせるために、笑顔にするために吐いた嘘だ。どうだ、少しは気持ちが軽くなったか?」
とニコリと、笑顔で彼女のほうを見ると、彼女はようやく理解したのか顔を赤らめて横を向く。
「ば、バカじゃないですか!? 嘘を吐いてでも、私なんかを、『闇』の魔導書なんかを喜ばせたいだなんて……」
「それが我の行動原理みたいなものだからだ。
『幸福を満たすための虚偽』。我は他人を笑顔にするためならば、平気で嘘を吐く」
「可笑しな人ですね……。それ、詐欺師とやっている事は変わりませんよ?」
「詐欺師とは違う。詐欺師は己の欲、つまりは金を得るために人を騙すが、我は他人を笑顔にするために相手を騙すのだ。嫌いか、こう言う考え方は?」
「いえ……」
そう言って、彼女は若干目に溜まっていた涙を腕で拭って、こっちにニコリと笑顔を作って微笑む。
「そう言うの、良いと思いますよ。私は」
彼女はそうニコリと笑っていた。
== 3 ==
「しかし、そんな『闇』の魔導書であるブックがなんでこんな所に……」
と、我がそう尋ねようとすると彼女が答える前に別の場所から声が聞こえてきた。
「それは姉さんが逃げて来たからですよ、わたくしの糞だらけの胸糞悪くなるような糞主から」
「…………!」
その声を聴いた瞬間、ブックは険しいような顔をする。そして辺りをきょろきょろとし始める。そして何かを見つけたのか、そこに腕を向ける。そして何かの呪文のような物を唱え始めた。
「"深淵より来たりし暗黒の魔法、そのものに望むは障害の排除。障害となりし相手を吹き飛ばし、敵を倒せ! ブラックボール!"」
呪文を唱えていると、彼女の手の先から大きな黒い闇の球が生まれたかと思うと、唱え終わると共にその指差す先めがけて、黒い球が物凄い勢いでその先へと向かっていく。向かっていく先には木があり、その木の先で黒い球は破裂する。破裂した黒い球は周りの木々を飲み込み、黒い球が消えた時にはもうそこには何も存在しなかった。
「……凄い破壊力、これが『闇』の魔法」
「流石ですね、ブック姉さん。咄嗟に転移魔法を使っていなければ、身体が滅んでいましたよ」
と、今まで何もなかった目の前の地面に1人の少女が降り立っていた。
その少女はまるで左右対称に恨みがあるかと思うくらい、左右非対称の格好をしていた。綺麗な黒髪を右半分はストレートにロングとして伸ばし、左半分は三つ編みにしている。着ている赤い服も左袖は長袖であるが、右側は半袖になっており、透き通るような白い肌が出ていた。スカートも右半分はチェックで、左半分は水玉と呆れるほどに徹底している。顔は美少女と言っても過言ではないような美しい顔をしており、その緑色の瞳は無表情にこちらの姿を映している。そしてその首と両腕には黒い首輪と腕輪をしている。
「お前はいったい……」
「初めましてですね、そこの人。わたくしは『7人の魔導書』の1人で『無』の魔導書。ライト=フォン=ジュリと申します。以後、お見知りおきを」
深々と頭を下げるライト。そしてその顔はブックの方を向いていた。
「ごめんなさい、姉さん。わたくしの糞だらけの胸糞悪くなるような糞主から、姉さんを連れて来るように言ったので。逆らいたいのは山々ですが、そう言う訳にも行きません。仕方がないと諦めて欲しいです、これが『7人の魔導書』の宿命みたいな物なのですから」
ライトはそう言って、手を天に掲げる。ブックはそれを見てすぐさま我の手を取って我を突き飛ばす。
「逃げてください! ダテさんが巻き込まれる必要はありません!」
「おい、ブック!」
我はブックに突き飛ばさられていたけれども、ライトはそれにも関係無く呪文を唱え終わっていた。
「"重力上乗せ"」
そのブックに対して短い呪文が唱え終わると共に我らは地面に叩き伏せられていた。これは身体自体と言うよりも持っていた物まで地面にめり込むほど重くなっている所を見ると、重力操作の類か……。
「姉さん。わたくしとしても、あんな糞みたいな糞主に従うのは嫌ですが、仕方ない事なのです。『7人の魔導書』であるわたくし達は、希望と言う物を持ってはいけないんです。分かりましたか、姉さん?」
「くっ……!」
「姉さん、そこの人にはわたくしなりに対処しておきますので。では、姉さん。先に行っててください。
"転送"」
「ダテさん!」
その叫び声と共にブックは白い光に包まれて消えた。後にはそれを行っただろうライトと名乗る彼女と、呆然とする我だけが残された。
== 4 ==
「さて、あなたは一体何者ですか? ダテさん」
と、眼を細めた彼女、ライト=フォン=ジュリはそう聞いて来る。
「禁術を集めたがる収集家の貴族? それともそう言った人から頼まれて禁術を集めるよう依頼された人? それともただ巻き込まれただけ? 何にしても、どんな人間にしても、わたくし達、『7人の魔導書』に関わる事はお勧めしません」
「…………」
「だんまり、ですか。それでも良いです。聞くだけでもそれなりに心は折れると思うので。
わたくし達、『7人の魔導書』は初めから人外だったと言う訳では無く、初めはただの魔力が高いだけの女性達でした。とある国の魔導師、ファースト=フォン=ジュリがとある報告書を上げるまでは」
「報告書……」
それが何か関係しているのだろうか? 事情を良く知らない僕は事情を知るために、彼女の話に耳を傾ける。
「なるほど、話を良く聞くために喋るのを避けていた、と言う事ですか。良く分かっているじゃないですか。嫌いじゃないですよ、そう言う考え方は。
話を続けると、彼、ファースト=フォン=ジュリが提案したのが、『7人の魔導書計画』なのです。
7属性のそれぞれの魔法の全てを書き記した魔導書を、無理矢理わたくし達に覚えさせる事によって、わたくし達は魔導書と言う人外になったのです」
「むっ……? 覚えさせる? それでどうやって、魔導書になると言うのだ?」
魔導書に書かれている内容を覚えるだけで魔導書になるのだとすれば、今頃全ての魔導書を読んだ人間が魔導書になっていても、可笑しくはない。でも、どうも話から察するとそんな存在は彼女達7人だけのようだ。いったい、何が違うのだ?
「まぁ、いきなりそんな事を言われても困りますよね。魔導書と言うのはそれだけで世界的に重要な存在であり、重要と世界に認められた魔導書は、あらゆる手段をもってしても破壊不可能となります。ファースト=フォン=ジュリはそれを利用して、重要な魔法を2冊に分断、その2冊の内容をわたくし達に覚えさせることによって、わたくし達を魔導書として完成させたのです」
つまりは、例えばブック=フォン=ジュリを例に挙げるとすれば。
まず『闇』の魔法を2冊の魔導書として書き記す。これによって2冊の魔導書が完成する。この2冊の内容をブック=フォン=ジュリが覚える事によって、ブック=フォン=ジュリは2冊の魔導書と同じだけの価値を得た事になる。そして口頭で禁術の魔法を覚えさせれば、ブック=フォン=ジュリは2冊の魔導書よりも価値がある事になる。そして魔導書としての価値は、ブック=フォン=ジュリの方が高くなる。こうやってブック=フォン=ジュリは不老不死と言う魔導書と言う存在になったと言う事。
言ってて良く分からなくなるが、要するにそう言った魔導書として存在を押し付けられた『7人の魔導書』。それが彼女達と言う事なのか。
「あなたに分かりますか? わたくし達は魔導書として、悪しき者にはその力を狙われ。善い者であろうとも、確実にわたくし達はあなた達よりも長生きをして、最後には取り残される。
不老不死、それは不幸で、最悪な事なんですよ」
「『だからどうだと言うのだ。それを忘れさせるくらい、俺がお前を救ってやるよ!』」
「……先程の会話、失礼ながら聞かせていただきました。虚偽妄想、それは優しい嘘」
「あぁ。優しい嘘だ。我は確かにお前達の問題を全て解決できない、ちっぽけな存在なのかもしれない。けれども、例え一瞬であろうとも我が貴様らを幸せにしてみせる!」
「理想主義ですね、あなたは。そんな日は永遠に来ません。わたくしは姉さんほど楽観主義ではありませんので、そんな嘘には乗りません。
所詮は嘘、悲しきうたかたの夢。いつかは覚める虚構。わたくしも姉さんくらい純真無垢な存在であれば、その虚構に……浸りたかったんですけれども」
と、悲しそうな顔で言うライト。
彼女は理解している。我の言葉が嘘偽りで、悲しい虚構である事を。そしてそれでもなお、その嘘に浸りたいと思っている。
(なんと悲しい……。彼女達はこんなにも救われたがってる……。情けない。彼女達を救えないこんな自分が……。昔の、神の頃だったら救えたかもしれないのに。
だと言うのに、今のこの軟弱な我の身体では彼女達を助ける算段が思いつかない。情けない。虚構でしか彼女達を慰められない自分が……)
本当に情けない。情けなすぎて泣けてくる。ならば、我が今出来る事をやるしかない。
「ライト=フォン=ジュリ。我は確かにまだまだ未熟で、お前らを完全に救えるとは思っていない。けれども、だとしても、我は今、我が出来る事で、お前達2人を救って見せる!」
我は堂々と、ライト=フォン=ジュリに宣言する。ライトはそんな我を見て、一瞬惚けた顔をしたかと思うと、顔を赤らめてそっぽを向いてしまった。
「……わたくし単体に言っても、その言葉は効果を持ちません。その言葉はブック姉さんにもちゃんと伝えるべきです」
「そうだな、その通りだ」
「……ですね。では、まずお姉さんを助けないといけません」
彼女はそう言って、自分の黒い首輪と腕輪をゆっくりと触る。
「――――――『無』属性の禁術、『奴隷装飾』。これを身に着けている限りは、わたくしはあの糞貴族の奴隷です。この首輪と腕輪を外さないといけませんが、これを外すには着けさせたあの糞貴族以外は防衛反応が出ます。わたくしを救うにはまずこの首輪と腕輪を外してください」
「あぁ、理解した」
我はそう言って腕を構えて戦闘態勢に入り、彼女もまた防衛反応か何かなのか、戦闘態勢に入る。
「手加減は出来ないと思うので、思う存分、やってくださいね。私は『無』属性の魔導書でしたので、この『奴隷装飾』の効果も今の今まで抑えてきましたが、そろそろ『関係者を殺せ』と言う命令に逆らえそうにありませんので!」
彼女はそう言って魔法を放ち、我はそれを身体をよろけて受け流す。
「……! 確実に当たる魔法だったのに、どうして当たらない! まさか、あなたも魔法か何かで……」
「なーに。そんな大振りな攻撃では、避けろと言っているような物だ。軽く重心を移動させるだけで済ませたよ」
「……化け物ですか、あなたは」
そう言いながら、自身の頭上に大きな鉄球を作り出している彼女を見て、
「お前も、な」
と我はそう返していた。
== 5 ==
エリック=ローディー=ピックは、異世界クレシデントにあるフュートの街の貴族である。貴族と言っても、数代前の親が王家に仕えた上級騎士だったり、王直属の大臣だったりしたためにそれなりに経済的に余裕があるだけの、本人には何も才能も、技術も無いただの贅肉だけを無駄に蓄えた穀潰しである。そして、24歳となった彼の趣味は禁書探しである。
古今東西、危険すぎて封印されたありとあらゆる魔導書を眺めては悦に浸る事が、突出した才能も親しい友人や恋人が居らず、金だけが有り余るほどたんまりとあるエリックにとってそれが唯一の趣味だった。その最中、とある7冊の魔導書の存在を知った。それこそが『7人の魔導書』、人型にして不老不死であり魔導書である彼女達である。彼女達の伝承は歴史を紐解けば、クレシデントのありとあらゆる箇所に残っていた。
その地獄の業火に似た火炎で敵を焼き切った、『火』の魔導書の存在。
その激流の水にて街2つを沈めた、『水』の魔導書の存在。
その神の雷を思わせる雷で最強のドラゴンを討ち取った、『雷』の魔導書の存在。
その土の構成技術により難攻不落の城を築きあげた、『土』の魔導書の存在。
その光の癒しにて『聖女』と記されて神の化身とまで言われた、『光』の魔導書の存在。
その混沌の闇の破壊にて『魔女』と記されて悪魔の手先とまでされた、『闇』の魔導書の存在。
そして、ありとあらゆる無属性の魔法で人々の暮らしを豊かに発展させた、『無』の魔導書の存在。
炎、水、雷、土、光、闇、そして無。それぞれ活躍したとされる年代に若干の誤差はあれども、その7人は確かに居て、死んだとか滅んだとか言う事はどの書物にも記されていなかった。
彼はありとあらゆる手段を金を用いて使い、国が傾くほどの金額を借金までして使った所で1冊の魔導書を回収した。それが『無』の魔導書、ライト=フォン=ジュリ。そしてそいつを以前に手に入れた禁書に書かれていた『無』属性の『奴隷装飾』にて隷属。残りの6冊の魔導書の存在を探った。借金もその過程でその魔導書を使って貸してくれた相手を殺したので、エリックとしては万々歳だった。
そして今、ライトが送って来た1人に、彼は慎重に『奴隷装飾』を施した首輪と腕輪を取り付けた所だ。
「ふぅ~。上手く言ったぶひ」
彼はそう言って重い身体から流れる汗を拭きながら、そう言う。
『7人の魔導書』の1人である『闇』の魔導書、ブック=フォン=ジュリ。彼女の破壊力は7冊中最も強いとされている。そんな彼女を隷属させることが出来た彼は、最強の戦力を保有して有頂天になっていた。
「ぶひひひひ! これで我に最強の戦力が手に入ったぶひ! 後は残り5冊の魔導書だが今度はもっと早く手に入るぶひよ。何故ってどの国に隠れていようが、この『闇』の魔導書、ブック=フォン=ジュリが持つ闇の破壊魔法で更地に変えてしまえば探すのは容易ぶひ!
彼女達は不老不死、つまりいかなる手段でも殺害は不可能ぶひが、ブックの魔法で隠れていた場所は消えて彼女達は丸裸になるぶひ! そうすれば、彼女達は出て来ざるを得ないぶひ!
ぶひひひひひ! 今から他の5冊を所有できるかと思うと、わくわくするぶひよ!」
「そ、そう簡単に行きますかね……」
「……ぶひ?」
エリックは声に驚いて後ろを向くと、そこには苦しみながらも立ち上がるブックの姿があった。
「今、ここであなたを殺せば、その計画もとん挫ですよ……」
「ぶひ~、立てるとは予想外ぶひ。我はまだ麻痺で動けないかと思ってたぶひが、これは麻痺薬を作ったあのへぼ医者を後で殺さないといけないぶひね」
「その前にあなたを……!」
そう思って、ブックが闇の魔法を使おうとして呪文を唱え始めようとして、いきなり首元が絞まって呪文を中断させられていた。
「ぐっ……!」
「唱えさせると思ったぶひか? 我がそんな対策をしてないほどバカだと思うぶひか? その『奴隷装飾』には我を殺害出来るほどの呪文の発動は止めておるのじゃ。『無』の魔導書で無属性耐性があるライトにすら、出来なかった事がお前なぞに出来ませんぶひ?」
「ちっ……!」
と、ブックは躊躇いを持って舌打ちしていた。確かに魔導書はそれぞれの極大魔法、言わば自身にもそれなりにダメージがあるとされている魔法を発動するのに、それぞれの強力な属性耐性を持っている。
『火』の魔導書には強力な『火』の耐性が。
『水』の魔導書には強力な『水』の耐性が。
『雷』の魔導書には強力な『雷』の耐性が。
『土』の魔導書には強力な『土』の耐性が。
『光』の魔導書には強力な『光』の耐性が。
『闇』の魔導書には強力な『闇』の耐性が。
『無』の魔導書には強力な『無』の耐性が。
それぞれの魔法とそれぞれ耐性を持っていたから、『無』属性の『奴隷装飾』に対して強力な『無』属性の耐性を持つライトは、かなりあれでも反抗的な態度を取っていた。けれども強力な『闇』属性の耐性しか持たないブックではライトほど反逆が出来ないのだ。
「困っていたんだぶひね~。あのライトはそれなりに役に立つけれども強力な『無』属性の耐性があるぶひから、あの腕輪と首輪を破壊させる事はせぬぶひが、態度が反抗なので扱いづらいぶひが。
けれどもお前ならば、そんな心配もないぶひしね」
そう言って、「ハハハ!」と笑うエリックに対してブックは悔しがっている。首輪と腕輪を壊そうとするとその行為をする前に頭が熱くなってしまってその行為が出来ない。無意識ながらそう言った事が出来ないようにされているとブックは感じていた。
(けれども、何か一発攻撃くらいは……)
ブックはそう思いながら詠唱が短い攻撃魔法をしようと思って、エリックに対して攻撃をする。しかし、魔法を発動させて攻撃は出来たのだが、その魔法は彼の身体に当たると共に霧散してしまった。
「な、なんで……痛っ!」
「言ったはずぶひよ……我を殺せるほどの攻撃は許可してないと。それにお前は確かに人格もあるぶひが、それでもお前はただの道具ぶひ。道具とは人間に使われる、それだけが使命。それだけしか許されていない、ただの道具ぶひよ」
ぶひひ! と気持ち悪く笑うエリックに対して、ブックは何も言い返せなかった。ただ、
(-―――――あぁ、やっぱり私はこうなる運命。道具だから仕方ないか。私はそうなるしかないか……)
そうやって彼女なりに絶望していた所に彼は現れた。
「『ぶひぶひ言ってここは豚小屋か何かなのかよ……。だったらお前はこの豚小屋で一番醜い人と言う名の豚だな』」
「ぶひ! な、何者だ、貴様は!」
と思っていると窓を開けて現れた彼はニコリと笑って、あの時のように虚勢を張っていた。
「『なに、ただの通りすがりのヒーローだ』」
== 6 ==
「き、貴様! 衛兵たちをどうやって倒して来たんだぶひ! 一応、この部屋までに来るまでに禁術で強化した衛兵達が居たはずぶひ! それなのにどうやって倒したぶひ!?」
ぶひぶひ……うるさい奴だなと我、伊達アックスはそう思っていた。
「まぁ、ただそこのブックを助けに来ただけの、どこにでも居る元神だ!」
「い、意味が分からないぶひ!」
「うるさい、黙れ、この豚野郎。お前に話してるんじゃない。我はそこのブックに話しかけているんだ」
我はそう言いながら、よっと窓から部屋の中に入り、堂々とブックの元に歩いて行く。その姿を見るブックの目元には若干の涙が浮かんでいた。
「ダテさん……」
「虚勢ばかり吐く我だが、虚勢ばかりでは要られない。今のように実際にお前を救いに来た。我はお前を助けに来たのだ! さぁ、一緒に出よう!」
「ダテさん……」
そう言って、手を差し出す彼女。しかし、急に右手で頭を押さえて、左手をこちらに向ける。そして物騒な黒い球を作り出していく。
「ブック……?」
「―――――不味い! 逃げて、ダテさん!」
彼女がそう言うと共に黒い球は発射されて我の目の前で破裂。その衝撃で我は部屋の隅まで吹き飛ばされる。
「ちっ……外したぶひか。なかなか当たらないぶひね」
「豚野郎の仕業か……」
と我はそう言いながら構えを取る。戦闘の構えだ。それを見て、豚はまたしても舌打ちする。
「豚野郎じゃないぶひ。我はこのフュートの街の貴族、エリック=ローディー=ピック! 豚などでは無い、高貴な身分の者ぶひ! 俗物な賊よ、さっさと立ち下がるが良いぶひ!」
「エリック=ローディン="ピッグ"? やっぱり豚じゃないか!」
「豚豚言うな、ぶひ! ええい、素直に帰ってさえいれば、両腕をへし折るくらいで許してあげたぶひが、もう許さないぶひ! ブック、闇の者を召喚するぶひ!」
あの豚野郎の命令に従うようにブックは召喚陣にて何かを召喚しようとする。これは恐らくあの首輪と腕輪がライトと同じ物であり、あれに操られているのだろう。
「だったら、あれさえ壊せば……!」
しかし、その前に呪文詠唱が終わり、魔法陣の中から化け物が現れた。部屋を覆い尽くさんばかりの巨体を持った、骨だけのドラゴン、アンデッドドラゴン……。
「やれ、アンデッドドラゴン! 侵入者を殺せぶひ!」
『GYAAAAAA!』
アンデッドドラゴンは声にならない悲鳴と共にその骨で出来た足で我を踏みつけようとしてきた。ただの骨だが、あれはブックの魔力で強化された巨大な骨の足であり、踏みつけられればただでは済まない。
「仕方ない。『やはり戦う運命からは逃れられないのか』」
「何を言ってるぶひ! この巨体を倒す術は無いぶひ! さっさと諦めるが良いぶひ!」
「―――――避ける? そんな事する訳がないだろうが」
我はそう言いながら、両腕で標的である骨の足に狙いを付けて、一気に放つ。
「――――――伊達流、カマイタチ!」
我は両腕を大きく振るって衝撃波を海だし、それを骨の足にぶつける。そしてその衝撃波で骨の足が怯んでいる内に、次の行動に移る。屈んでそのまま拳を握りしめる。そして一瞬で地面を蹴りあげて、部屋の天井すれすれアンデッドドラゴンの前に行くとそのまま拳を突きだす。
「伊達流、大坊主殴り!」
そのまま空中を殴る。ただそれだけなのだが、アンデッドドラゴンは何か大きな者の拳で殴られたように強い衝撃を受けて倒れてしまった。
「お、お前……化け物……」
「化け物じゃない。ただの格闘家だ」
「だ、だが、こっちにはまだブックが……あれ!?」
エリックは命令したのにブックが攻撃しないので慌てて振り向くと、そこには首輪と腕輪をしていないブックとライトの姿があった。
「ライト!」
「ご無事でしたか、お姉ちゃん。不肖、ライト=フォン=ジュリ、只今参上です! お姉ちゃんもわたくしも、もうあんな糞みたいな奴の命令に従わなくても良いんですよ」
「う、うん! そうだね!」
ライトとブックはそのまま下がり、残ったのはエリックただ1人。
「き、貴様がやったぶひか! しかし、ライトの『奴隷装飾』にも、首輪と腕輪を守るよう自己防衛機能があったはずぶひが! どうやったぶひ!」
「なーに、ただ普通に戦って、普通に勝って、普通に外しただけだ」
「バ、バカなぶひ! 『無』の魔導書、ライト=フォン=ジュリは全魔導書の中で最も詠唱速度が速いぶひ! 『無』属性の魔法、詠唱破棄によって最も速いぶひ! と言う事は、彼女は魔法を自由自在に使えるくらい、詠唱を止める事など出来ないくらい、強いぶひ! なのに、魔法を使える彼女からどうやって――――――」
あぁ、うるさい。ぶひぶひうるさいな、これは本格的に豚なのかも知れないな。こんな豚野郎なんかと喋る必要ないと思うんだけど、まぁ、良いか。
「『弱者とは手の内を隠して戦う者であり、強者とは手の内を晒してでも勝てるような者の事である』と誰かが言っていたし。良いだろう、教えてやろう。
我が格闘術、『伊達流』はイタチを手本に開発された格闘術であり、真空波などの『カマイタチ』などをする格闘戦術。魔力など一切使っていない、ただの肉体を行使する、術だ」
『カマイタチ』はその最たる例であり、手刀で生まれた衝撃波をそのまま骨の足に放っただけだし、先程使った『大坊主殴り』も巨大な衝撃波で殴ったように見せただけだ。種を明かせばなんて事はない、ただの戦闘技術である。
「そうぶひか、魔法でも無いただの格闘術。―――――ならば、別に身構える必要はないぶひか」
そう言って、エリックはその脂ぎった指でパチンと器用に指を鳴らす。するとエリックの身体に黒い鎧が現れる。
「少し前に手に入れた禁術から作り上げた鎧、『絶対無敵の銀鎧』。この鎧を着れば我は、どのような攻撃でも破壊されないぶひ! この攻撃はありとあらゆる物理攻撃、それから魔法攻撃を無効化する無敵の鎧ぶひ! お前如きの攻撃力じゃあ、この鎧を壊す術はないぶひ! これを壊すには、少なくともこの街を吹き飛ばすだけの力が無いと、無理ぶひからね!」
「……流石に街を吹き飛ばすほどの攻撃は出来ないな。けれども、お前を殺す事は出来る!」
「強がりを言うなぶひ! お前は負ける運命なんだ、ぶひ!」
そしエリックはその鎧を纏ったまま、我の方に向かって来る。しかし、我は恐れはしない。我には倒す手段があるからだ。
「来いよ、ピッグ野郎。お前を殺す手段ならばある」
「物理攻撃も、魔法攻撃も効かない、事実上お前が倒す事は不可能な我を、お前如きがどうやって殺すと言うぶひか! 笑わせるぶひ!」
そう言って、無策に突っ込んでくる彼の腹目がけて我は拳を放って掌底を打ち込んだ。
「伊達流、てん!」
そうやって、掌底を放つと彼は何をしているんだと一瞬笑みを浮かべたがすぐに苦しそうな顔をして身体を動かし始めた。
「熱いぶひ! か、身体の中が熱いぶひ! これはどう言う事ぶひ!」
「気にする事はない。ただの格闘術の一種だ。そしてお前はこれから死ぬのだから!」
そう言って、僕はもう1度拳を構える。
「や、止めるぶひ!」
そして豚野郎の腹に狙いを定める。
「い、今の攻撃をもう1度喰らったら、死んでしまうぶひ」
そして、背中から修羅の化身を出す。これも伊達流の技、阿修羅。イタチは化ける事に関しては、類を見ない能力を持っている。『狐七化け、狸八化け、鼬九化け』。簡単に言うと狐は七通り、狸は八通りに化けられるとされているが、イタチはそれよりも多い9通りに化けられるとされている。そう言う風にイタチは化かす事に関しては、他よりも優れている。今も相手に『阿修羅』と言う幻想を見せているのである。まぁ、化かすと言っても我はイタチではないから、ただそれらしき幻想を見せているだけだが。
「な、なんぶひ、それは!? 聞いていないぶひ!」
そして、僕はそのまま掌底を打ち込む。打ち込まれた掌底は、彼の身体を通って彼を直接燃やしていた。彼の身体から火の手が上がり、彼の身体を焼いて行く。
「ば、バカなぶひ! ぶひひっひひひひー!」
「豚の丸焼きの完成だ」
== 6 ==
その翌日。1人の馬鹿な豚野郎が自宅にて気絶して倒れていたのが確認された。熱いと言う彼の言葉とは裏腹に、彼の身体にはどこにも火傷の痕跡は見当たらなかった。
そして彼は本来ならば治療されるはずだが、禁書を集めていた事と借金の相手を殺した罪によって彼はそのまま牢屋送りになったと言う。
「えっ? ただの妄想?」
フュートの街から離れた茶屋。白髪の女性、ブック=フォン=ジュリはそう驚いたように言う。それに対して我はあぁ、と付け加えた。
「伊達流の技、『てん』とは、相手に現実と全く差を持たない虚構を鎧通しで相手自身に伝える技だ。鎧を纏っていたがそもそも鎧通しであるためにそれは最初から想定されているし、なおかつこれは物理攻撃でも、ましてや魔法攻撃でもないために、普通にあいつは喰らった訳だ。『自身が燃える』と言う幻想を」
「なるほど……では、最後にあの糞ったれから発火したように見えたのはどう言う事でしょう? わたくしの眼が可笑しくなったんでしょうか?」
と、横に座る黒髪の女性、ライト=フォン=ジュリが聞いて来たのに対して、我はそうだなと答える。
「あれも伊達流だ。伊達流、火達磨。
全身を焼いていると言う幻覚を自分以外の全てに植え付け、あたかも本当に焼いているように見せると言う虚構だ」
「わ、私達に何もやる事はなかったのでは?」
「そうですね。わたくしもそう思います」
「良く言うだろ。『敵を騙すにはまず味方から』と。と言う訳で、敵を化かすために味方も化かした。ただ、それだけだ」
そう、本音を言えばこの術はそう言った有効範囲を抑える事が出来ないためにただそのまんま使っただけなんだが、それを言わなくても良いだろう。それを聞いた2人は揃って大きく溜め息を吐く。
「わたくし、こんな方に救ってもらうなんて……。本当に騙された気分です」
「私もそう思う。何もかもが嘘ばかりで……」
おいおい、ぼろくそ言ってくれるな。
「そう言えば、2人はこれからどうするんだ? 我はもう少しこの異世界を探索したいと思うのだが」
「「……!」」
その言葉を聞いた2人はそれぞれ我の腕を取る。右腕はブックが、そして左腕はライトが。
「今、私達には主が居ないんで暫定的にダテさんが主って事で、お供いたしますよ」
「えっ? 我的にはそれはどうかと思うのだが」
「仕方ないよ。わたくし達を助けると言ったダテが悪い」
「厳しいお言葉で」
「「だから……精一杯私(わたくし)を、幸せにしてね」」
そう言って、ニコリと笑う彼女達。それを見て、我は今日も彼女達を笑わすために嘘を吐く。