トゲがあることを綺麗な花は知らない
ズルズル ズルズル
「っはぁ~、お、も、い、なぁ」
ズルズル ズルズル
「っと、よいしょッ」
ボト、と黒い袋に詰められた『何か』が地面に落とされる。
その黒い袋の周辺にもいくつか袋が集められ、小さい山と化していた。
大小様々ではあるものの、全て『ゴミ』であると見受けられる。
「今日のはちょっと大きいなぁ、燃えるかな~」
少女はそう言いながら、最近では見られなくなったマッチを取り出し、ゴミの山に火を灯した。
あらゆる色が消え、黒い炭になり、やがては白い灰となってゆくさまを、少女はどこか恍惚な表情で見つめていた。
少女、というのは見た目だけで、実際は遥かに歳をとっているが......。
それでも、出るとこは出、引っ込むところは引っ込んでいるので、俗に言う「ナイスバディ」な少女なのである。
「今回はちょっと危なかったけど、鴨がネギしょってきて助かったわ~」
という、独り言を聴く者はいない。
周りにあるのは木々だけである。先ほどの独り言も木々のあいだに入り込み、吸収され、無音となる。
ここはとある樹海、簡単には人など寄り付かない場所である。そのせいで、音という音といえば鳥の鳴き声ぐらいしかない。しかし少女は、この静かな空間が、心が落ち着くこの場所が好きだった。
ガサガサッ
先ほども言ったように、この森にはほとんど人など寄ってこない。基本、物音がしても動物かなにかである。
のだが......。
「よ、よかった~、もう人間に会えないかと思ったわぁ~」
という感じに、もの好きが迷い込んでくるときがたまにある。
◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇
二人は少女の家に移動していた。
「どうぞ~、狭くて申し訳ありませんが」
「いやいや、狭いなんてそんな.....十分広いですよ~」
「ホントですか?そう言って頂けると嬉しいです~」
「って、本当にいいんですか?。初対面なのに、その......と、泊めて下さるなんて......」
「はい~、どうせもう夕方ですし、夜になると私でも帰り道はちょっと不安になるくらいなんで......」
少女が言うように、空はもう夕焼けに染まっている。
日中でも木々が光を遮るせいで日光があまり地面まで届かないような場所である。夜になると電灯さえないこの場所は真っ暗よりも、暗黒に染まる。
最初男と会ったとき、男は気まずそうにしていたが、少女が、とりあえずお茶でも飲みますか?、と言ったので、そのまま少女の家まで移動することとなった。
その道中で、成り行き的に泊まることになったのだ。
少女はあくまでも親切心で言ったのだが、男は、フラグが立ったぜ!!、と内心舞い上がっていた。
「晩御飯は何がいいですか?といってもお口に合うかわかりませんが......」
「え、晩御飯まで頂けるんですか!?」
「はい、私も、今から食事ですので......、ついでです♪」
「そ、そうですか、じゃあ、お願いします」
「はい~、それじゃ、そこの椅子にでも座って待っててください」
男は少女に促され席に着く。
一人暮らしのはずだが、椅子はなぜか二つ用意されていた。
「別にそこまでおかしくはないんだけど......」
それから数分後、とても香ばしい匂いがあたりを漂い始めた。
「出来ましたよ~、はい」
そう言いながら少女は男ともうひとつの椅子の前に晩御飯となるものを置いた。
目の前にあるテーブルは木で出来ていて、なんだか味わい深い。そのせいか料理も一層おいしそうに見えた。少女が作った料理は、カレーだった。
「やっぱ、カレーは定番かなぁ、と思いまして、不味くなければいいんですけど......」
「そんな、絶対美味しいですよ!、不味いわけないじゃないですか!」
「まあ、だから失敗の少ないカレーにしたんですけど......そう言われると自信持っちゃいそうです♪」
少女は頬を赤くして照れくさそうに話した。
それから軽く雑談をした。
といっても、ほとんど男の話を少女が聞いているだけだったが。
男はこの樹海に、というか樹海の近く、に、車でドライブに来ていたそうだ。助手席には男の彼女が座っていた。
その時に軽く樹海を散歩してみようと思い、二人で樹海に踏み入ったそうだ。
よく噂では、方位磁石が狂う、GPSが使えない、霧が出て何度も同じところを歩いてしまう、なんてことが話される樹海だが、実際そんなことはほとんど起きない。
が、それでも、景色がずっと同じで、なおかつ日光もほとんど地面へと届かない樹海は、精神衛生上良いわけがない、並大抵の精神力じゃパニックになってもおかしくないのである。
結局、その後二人は道に迷い、少し落ち込んでいた。
その時に彼女と言い合いになって、男とは別れたそうだ。恋人、としても。
男は自分のことしか頭になく、彼女を追いかけようとはしなかった。自分だけで帰ろうとしたのだ。
しかし、やはり車まではたどり着かず、少女と会った。
「まあ、そんな感じです」
男は恥ずかしそうに語った。
「明日、帰り道を案内してくれる時に、彼女も探したいと思うんですが......いいですか?」
「ええ、いいですよ。明日......、ですね?」
意味深な言い方をした少女が少し気になったが、考えないことにした。
「んぁ、っはふぅ~」
少女が艶かしく伸びをした。少女にとってはそんなこと意識していないのだろうが。
男は、失礼とは分かりつつも、洋服の裾からチラリと見える白い柔肌に釘付けになる。
「さて、では寝ますか」
「え?、は、はい、そうですね」
男は、自分が少女のおへそを見ていたことがバレてないか、と、ドキドキしながら答えた。
「と、いってもベッド一つしかないんですよねぇ~」
「大丈夫ですよ!俺、どこでも寝れますんで、床にでも眠りますし!」
「ダメですよ~、客人なんですから、それは失礼です」
少女は、人差し指を立て、可愛らしく話す。
「あ、そうだ!、いや、でも......」
ポン、と少女は手のひらに拳を乗せる。なにか思いついたようだ。
「なんですか?」
「え、ええと、言いにくいんですけど、その.....一緒に寝る、というのはどうでしょう......?」
「一緒に!?、ですか!?」
「あ、いえ、別に深い意味とかはないですよ!?」
そのくらいわかっている、男は心の中でそう呟いた。
それでも、男は男であって、オスである。一緒に『寝る』、となると、否応なしに反応してしまう。
「その......ダメ、ですか?」
上目遣いで尋ねて来る少女。
「べ、別に、ダメってわけじゃ.....ないですけど......」
「じゃ、いいですね♪、こちらです、付いてきてください」
「切り替え早い!?」
そうは言うものの内心とても喜んでいる男であった。
少女に連れられてきた部屋にはランプしか明かりがなかった。この家は基本木造のようで、さっきのリビング同様、壁には木目が刻まれている。
木の爽快な香りと、アロマのような不思議な香りが男の鼻腔をくすぐる。
とても落ち着いていて、ぐっすり眠れそうな部屋だった。
「先に寝ててください、枕は一応二つあるので大丈夫だと思います」
「ホントにいいんですか?、今更ですが初対面なのに.....」
「さっきも言ったように客人ですからね、このくらいは」
「は、はぁ......」
「それでは私は着替えてきますので......」
そう言って少女はどこかへ行った。というか、隣の部屋へ行っただけだった。
壁が薄いせいで隣の音が聞こえる。
少女の衣擦れの音さえもしっかりと男の耳に届いていた。
男の鼓動が一層早まる。
別に、何かあるわけではないし、何もする気はない男だが、間違い、というのはあるものだ。
と、男は考え、想像し、悶えていた。
「あの、起きて、ますか?」
少女が男の肩を軽く揺さぶる。
男は正直理性を抑えれるか心配だったが、どうにか振り向いた。
しかし、直後、はち切れんばかりに心臓が動くのがわかった。
少女は、『下着姿』だった。
「な、な、な....../////」
「あ、すみません、その......汚れるといけないので......」
ナニで何を汚すんですかー!、という男の心の叫びを聞いてくれる者はいない。
少女は、ニコッ、と笑うと、男の上に跨ってきた。
息吹がお互いの頬を撫でるほどの距離で見つめ合った後、男は恥ずかしさと後ろめたさから目を閉じた。
少女の体温が男のカラダを包み込む感触は、目を閉じたことでよりはっきりとわかるようになった。少女の体はひんやりとしていて心地よかった。
少女は男の首筋に、ほう、と、甘い息をかけた。
男はその行為に背筋かビクビクッ、となる。
「あはは、かわいい♪」
少女は男の反応が楽しかったのか上機嫌になる。
そして、少女の唇が男の首に触れる。
とても柔らかく、スポンジなんて比じゃなかった。
そのまま、少女は男の首を咥えるように口を広げる。
カプッ
ブチュッ
「..............................、は?」
不思議な、不快な音がした。
男は目を薄く開ける、そのまま、目を見開いた。
さっきと変わらず少女はいた。
さっきと変わらず少女は男を見ていた。
さっきと変わらず少女は下着姿だった。
さっきと変わって、少女の口には肉片らしきものと、赤い、とても赤い液体が口から垂れていた。
「は?......は?、、は?、は?は?は ?は ? は ? は?」
男は痛みで理解した。
男は手で触った感触で戦慄した。
えぐれていた、流れていた、男の首が、一口サイズで『千切られて』いた。
「なんで?、何が?、は?、どういうこと?、ええ?」
男はパニックに陥る。
分からなかった。首がえぐられていることも、少女がそれを行ったという事実も。
「私、『ゴミ』処理が趣味なんですよ~」
そんな中少女が関係ないようなことを口にする。
心なしか、さっきよりも体温が上がり、興奮しているようにも見える。
はぁ、はぁ、と喘ぎ声に似た声を上げる少女。
実際、状況が状況でなければ、男も本能に負けていただろう。
「人間って、やっぱり死ぬ間際が一番美しいですね♪」
少女が満面の笑みで、顔面蒼白の男に語りかける。
「ドクドクと流れる血液、皮膚の下に隠れているピンク色の肉、徐々に体温が奪われ、冷たくなってゆくカ・ラ・ダ♪」
「何度見てもうっとりしますね♪」
少女が言葉を紡ぐ度に、男の恐怖感は募ってゆく。
「お、まえ、は、なん、なんだ、なんで、こんなことを......!」
男は必死の思いで少女に問う。
少女は男の問いかけに答える。
「私?、私ですか?、そうですね~、名前とかは特にないんですが、よく、『やまんば』なんて呼ばれています♪、ひどいですよねぇ、婆さんなんて♪」
「私が生まれた時にはもう、江戸時代末期だったってのに、まだまだ『若者』ですよ?私は」
口を尖らせ、怒ったように少女は愚痴った。
そして男は、意識と、命を失った。
数日後、今度は女性の悲鳴、断末魔のような声が樹海に響いたとか、響かなかったとか。
うはぁ、ちょっとエロくなってしまいました......orz
そこまでエロくする気なかったんだけどなぁ
え?、そこまでエロくないよ?って、そうですか。
ちなみに、やまんばの起源が江戸時代末期とかそういうのはないです。