雪を待つ
雪が降ってきた。
サンタは一張羅の赤い服にブラシをかける手を止め、窓を見つめる。
まだ、本当の雪ではない。
再び、視線を赤い服にもおとす。前のクリスマスからほぼ、一年経ち、服はくすみまるでアーモンドの薄皮だ。
サンタは人を待っていた。彼女は雪とともにくる。
ただし、本当の雪がふらないとこない。
彼女がいうには、サンタが雪だと思っていたものは雪ではなく、塵だそうだ。家の周りをひらめく生物たちが死に、死骸の欠片が降り注いでいたらしい。それを知ってからは、雪遊びは(ソリや雪投げはもちろん、雪の味見も)すっぱりとやめた。本当の雪は、真っ白い月光、あるいは塩のような光があるそうだ。
偽の雪がふり始めて一時間経っても彼女はまだ来ない。サンタの手には毛羽立った赤い布が握られている。
サンタはうなり声をあげた。彼女は来ない。
ぼろぼろになった赤い服を見て、ついに激怒する。
子供たちへ贈り物。子供たちへ贈り物。子供たちへ贈り物!!
望みもしないその作業、限りなく生まれる赤ん坊。
どこに報いがあるのかな!
「メリルにボート、レイチェルに羊、フィリップにはぜひ子馬」
奥歯ががたがたと鳴り出した。壊れたように口が動く。
「ネイサンに聖書」
サンタは笑い出した。なんだか、ばかばかしい。
「そうだ!グリーブにさいころを、インタイヤにマッチを」
本物の雪が降り出した。彼女が扉を叩く。迎え入れれば今年のサンタは役目を終えて、赤い布の上に倒れる。
雪とともに来た女は、その死骸を布にくるみ、雪として空へ放つのだろう。