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第0話 プロローグ インフレ世界から転生

始まりは、名もなき辺境の村だった。

少年アレクは、幼馴染の少女カレンと共に、聖騎士を目指して旅立った。

魔王を倒せば、世界に平和が訪れる――。

教会で教えられたその言葉を、アレクたちは疑いもしなかった。


だが、世界は残酷だった。


聖騎士とは、人族の英雄などではない。

天使たちの命令に従い、戦場に赴くためだけの『兵器』。

そして、憎むべき魔族もまた――。

悪魔の力に縛られ、自由を奪われただけの哀れな犠牲者。


人と魔の戦いは、天界と地獄が仕掛けた、ただの『代理戦争』。


アレクも、カレンも。

知らぬ間に『駒』として、盤上に並べられていただけだったのだ。


だが――アレクとカレンは、歩みを止めなかった。

数多の戦場を越え、多くの仲間と出会い、そして別れた。

その旅路で、一人の男と出会う。

魔族の戦士、アーク。


生涯にわたり刃を交え続けた、唯一無二のライバルだ。

互いに敵対しながらも、剣を通じてその魂を理解し合った。

やがてアークもまた、同じ運命に抗う者として、俺たちの傍らに並び立つ。


それだけではない。

一部の天使たち、そして悪魔たちですら。

自分たちの所業に疑問を抱き、俺たちに手を貸したのだ。

ついに、アレクたちは成し遂げた。

天使と悪魔、その終わりなき戦争に、終止符を打った。


だが。その果てに待っていたのは、更なる絶望だった。


天使も、悪魔も。そして、人間すらも。

全ては『神』を名乗る存在によって創られた、ただの使い捨ての命に過ぎなかったのだ。神は、確かに存在する。

だが――それは決して、崇めるべきものではなかった。


そして、ついに――アレクたちは成し遂げた。

アレク、カレン。そして、かつての宿敵アーク。

三人の刃は神々を貫き、ついにその玉座を打ち倒したのだ。

天使も悪魔も、呪縛から解き放たれた。

世界には、誰もが待ち望んだ『自由』が訪れた――。


はずだった。


だが、それは嵐の前の静寂に過ぎなかった。

知らなかったのだ。

倒した神々が、単なる独裁者ではなかったことを。

彼らは、この世界を外敵から守るための機構――。

『ノアシステム』の担い手でもあった。

システムのあるじを失った瞬間、世界の境界が崩壊する。


そして。遥か外宇宙から、奴らが動き出した。

既存の神々すら『下位存在』と見なす、侵略者。

宇宙の理を支配する、『真なる神々』。


守るべき防壁を自らの手で壊したアレクたちは、今、かつてない危機に直面している。

神を殺したこの手で、今度は神に成り代わり、世界を護らねばならない。

神すら超えた『外なる絶望』に立ち向かうために。


――外宇宙から来た神々との戦いは、壮絶を極めた。

想像を絶する『異なる法則』を持つ存在たち。

だが、アレクたちは折れなかった。積み上げた意志と絆で、それらすべてを討ち果たしたのだ。


――だが。

それこそが、この宇宙最大の『異常』だった。


全宇宙の均衡を司る最上位存在――創生神ソウセイシン


あらゆる進化、あらゆる選択。

それらが許容される中で、唯一の禁忌。

それは、定められた『物語』を超える意志を持つこと。

アレクたちは、宇宙にとって排除すべき『バグ』となってしまったのだ。


異常を検知した創生神は、ついにその牙を剥く。

宇宙リセット機構――終焉システム《エンド・ノヴァ》。


あらゆる次元、物質、精神、そして記録。

すべてを無に帰す、絶対的な『宇宙終焉装置』。

その核に座するのは、万象を喰らい尽くす絶望の化身。


――ワールドエンド。


もはやこれは、戦いなどではない。

世界が『最初からなかったこと』にされるのを待つだけの、存在への否定。


それでも。

消えゆく世界の中で、アレクたちは叫ぶ。

「終わらせない。俺たちの物語は」


――アレクは、世界を一つにまとめた英雄となった。

戦いの果てに残ったのは破壊ではない、希望だ。

人族も、天使も、悪魔も。

誰もが『創られた存在』として手を取り合い、新しい時代を歩み始めていた。

だが、それを良しとしない者がいた。


――創生神ソウセイシン


すべての法則を司り、宇宙という物語の『枠』そのもの。

彼にとってアレクたちは、物語の外側へ踏み出した異物。

宇宙の理を揺るがす、決して許容されぬ『バグ』に過ぎなかった。


アレク、カレン、アーク。

三人はついに、その存在と対面する。

真っ白な空間。重力も、時間も存在しない、完全なるゼロ地点。


そこに、一人の老人が座っていた。


目を閉じ、何も語らず。

ただ静かに、闖入者たちを見つめている。

もはや、言葉は不要だった。

これは『ことわり』と『意志』の、手加減無用の決闘。

拳一撃で、宇宙が砕ける。

剣が振るわれれば、時空が悲鳴を上げる。

神の言葉一つで、数多の星々の歴史が書き換えられていく。

だが、それでも。

アレクたちは一歩も退かない。


「神よ。創ったというのなら――責任を取れッ!」


英雄 vs 創生神。宇宙そのものを賭けた、最後の戦い


「……お前の拳、それより強い拳を返すだけだ」

アークが不敵に笑う。

「ならばワシは、それを上回る拳で返そう」

創生神が静かに応じる。

「それなら私は、すべてを包み込む祈りを捧げます」

カレンが聖なる光を纏う。

「ならば、ワシはその祈りすら届かぬほどの祈りを捧げよう」


「だったら俺は――それすら断つ刃を振るうまでだ!」


アレク。カレン。アーク。

三人の放つ一撃は、もはや宇宙を砕く領域に達していた。

創生神の一睨みで次元が折れ曲がり、一指でことわりが反転し、一言で存在そのものが塗り替えられていく。

だが、そのすべてを――彼らは、耐え抜いた。


もはや両者に、限界など存在しない。強い攻撃には、より強い攻撃を。無限に続く、終わりのない力比べ。

それは、端から見れば――あまりに無邪気な、子供の喧嘩だった。


それでも。彼らは、決してやめなかった。


歯を食いしばり、血を吐きながら立ち上がるアレク。

倒れ傷ついた二人を、最後の祈りで癒すカレン。

自らの肉体を削り、魂だけで剣を振るい続けるアーク。


――その姿を見て。


創生神は、ついに。ほんのわずかに、目を伏せた。


「……やれやれ。人間というものは、実に面倒くさいな」


その呟きとともに。全てを覆っていた白の空間が、大きく揺らぎ始める。

無敵を誇った創生神の腕が、初めて、わずかに震えた。

無限に等しい宇宙の理に、有限なる者たちの意志が食い込んだ瞬間。


彼は、静かに座り直した。

そして、ゆっくりと目を閉じて――。


「私の……負けだよ。君たちの『心』に」


創生神は、静かに敗北を認めた。白の空間に、かつてない静寂が戻る。

その中心で、宇宙終焉装置――ワールドエンドは、静かに機能を停止した。


あらゆる終わりを喰らう絶対の理は。終わることのない『意志』の前に、ついに沈黙したのだ。もはや、誰も彼らを止められない。神々も、外宇宙の神も。そして、創造神ですら。


アークは、折れた刃を静かに下した。

カレンは、最後の祈りをそっと胸に仕舞った。

アレクは、ゆっくりと何もない白の空間の空を見上げた。


彼らはようやく、望んでいた『自由』を手に入れたのだ。


世界を覆っていた運命のかせは、すべて砕け散った。


空には新たな星々がまたたき、

神なき宇宙に、ようやく『人の時代』が始まろうとしていた。


――だが。彼らの心には、ひとつだけ、どうしても捨てられない問いがあった。


「なあ、アレク。俺たち、最後に決着をつけようぜ」

「……ああ。言うと思ったよ、アーク」


それは、世界最強を冠する二人の戦士による。

どちらが『本当に』強かったのかという、あまりに純粋な問い。

守るべきものも、背負うべき宿命も、もう何もない。

ただ拳と刃を。技と意志を。剥き出しのままぶつけ合うだけだ。


彼らの激突は、もはや『極限』すら超える戦いとなる。

カレンは少し離れた場所で見守っている。


英雄 vs 英雄。


世界最強の名は、ただ一人に。

風が吹く。空間が、あまりのプレッシャーにきしむ。


場所は、創生神が残した『白の空間』。

すでに機能を停止したワールドエンドの中枢に、戦いの舞台は用意された。


理由は、たったひとつ。

――この二人は、あまりにも強すぎるのだ。

地上でやれば星々が砕け、宇宙でやれば千の銀河が消し飛ぶ。

ゆえにこの決闘は、『白の空間』でしか成立し得なかった。


静かに向き合うアレクとアーク。それを、カレンはただ黙って見守る。

かつて誰もが恐れたその力は、今や神々すら超える『純粋なる意志』として激突する。


剣が振るわれ、時が裂ける。拳が放たれ、空間が反転する。一撃ごとに千の宇宙が軋み、百万の星が消える幻視を見せる。一歩も退かぬ、互角の応酬。力、速度、技、心――すべてが完璧に拮抗していた。


それでも。


最後に、アレクの拳はアークを捉えた。止まった時間の中で、二人だけが呼吸を重ねている。


「……やっぱ、お前は……強えな……」

「違うよ。俺は――」


アレクは、ゆっくりと拳を下ろした。脳裏に浮かぶのは、元の世界で笑い、自分を信じてくれた仲間たちの姿。その、たったひとつの『想い』だけが。宇宙の理を超えた二人の、勝敗を分けたのだ。


勝敗は、決した。


アレクの拳が届き、アークはその場に膝を突いた。だが

――その代償は、あまりにも大きすぎた。

神々をも超える存在たちが、一切の手加減を捨ててぶつかり合った最終決戦。

その強大すぎる力の奔流に、肉体も、魂も、もはや耐えられる限界を超えていた。

アークの身体が、いや、その存在そのものが。砂が崩れるように、端から透け始めていく。

彼の存在は、ことわりによって、この世界から消し去られようとしていた。

それでも。アークは、不敵に、そして静かに笑ってみせた。


「……これじゃあ、オレの方が強かったって……言い張れなくなっちまうな」


その冗談を、アレクもカレンも笑うことはできなかった。

崩れゆく親友を前にして、アレクは子供のように泣きじゃくった。カレンもまた、声にならない嗚咽を堪えながら、消えゆく彼の手を握りしめる。


「なんで……なんで笑ってられるんだよ……ッ!俺、お前に勝ったのに……っ。何一つ、嬉しくなんかないんだ……!」


その叫びを聞いて、アークは微かに目を見開いた。

ああ――。これが、


『仲間を想う気持ち』


というやつか。自分にはなかった。必要だとも思わなかった。独り、己の力だけを信じて、牙を研ぎ続けてきた。けれど。

今、この瞬間だけは。自分に注がれる二人の涙が。

なぜか――ほんの少しだけ、温かくて、嬉しかった。


「……悪くねぇな。こういうのも……」


アークは、穏やかな顔で、ゆっくりと目を閉じた。



――白の空間に、すべてが還ろうとしていた。

己が消えゆくことに、未練などなかった。アレクとカレンの涙に、微かな温もりを知った。それだけで十分だと思っていた。だがその時。遠のく意識の淵で、か細い声が聞こえた。


『……たすけて……』

『だれか、たすけて……』


誰だ?これは、誰の声だ――?

思考が闇に沈み、光が消える。やがて意識は、深い奈落へと落ちた。

……はずだった。


「お、お嬢さま!? だ、だれか!! お嬢さまが目をッ……!」


けたたましい叫び声に、まぶたを押し上げる。

アークは――天蓋付きの真っ白なベッドの上にいた。

ふかふかのシーツ。揺れるレースのカーテン。頬を伝うのは、小さくて柔らかい……“誰かの手”。


――違う。これは、自分の手だ。


身体は軽く、驚くほど小さい。腕は細く、手足は華奢きゃしゃで、胸には何もない。混乱する頭で、這いずるように鏡の前へと向かう。


そこに映っていたのは――。


淡い金髪に、透き通るような瞳。あどけなさと気高さをあわせ持つ、ひとりの幼い少女だった。


「…………は?」


その瞬間、脳裏をよぎる数々の記憶。

剣を振るった日々。宇宙を砕いた拳。アレクと交わした、最後の一撃。

しかし、今のこの小さな体では。剣どころか、水差しさえ持ち上げられそうにない。


――アーク、転生。


「……オイ。なんだこれ」


自分の声さえ、鈴を転がすような鈴鳴り。

だが、彼(彼女)はまだ知らない。この国が、まもなく魔の手に堕ちる運命にあることも。そして、この身体の『本当の持ち主』が、何度も死を繰り返していたことも。

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