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酸素はタダだと思ってた。2500年の未来で少女は深呼吸!  作者: くろねこ
第二章 救世の代償と、沈黙の誓い

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19. やってくる日常

「……ちょっと、ななみ!あんた何やってるのよ!」


第13管理エリアの隅っこにある、私たちの見た目はボロいジャンク屋。朝っぱらからライラの鋭い声が響いて、私は虹色の粒子が弾けるハードライト・ベッドから転げ落ちそうになる。


「ふぇ?あ、ライラおはよう……。見て見て、この新しい美顔器、すっごくお肌がプルプルになるよ!」


私が手に持っていたのは、ライラが昨日「触るな」って言ってた、細長い銀色のデバイス。

先端からピンク色の怪しい光が出てて、それを顔に当ててうっとりしてたんだけど。


「美顔器なわけないでしょ!それは高出力のイオン粒子・重金属除去デコンタミネーター!工業用エンジンの内部を分子レベルで削り取るための道具よ!」


「ええっ、そうなの?でも見て、2026年の高級エステよりずっと潤ってる気がする……」


「当たり前でしょ、表面の細胞が強制的に再構成されてるんだから!そのまま当て続けてたら、あんたの顔、つるつるののっぺらぼうになるわよ!本当、21世紀の人類ってどうしてこう危機感がないの!?」


ライラは呆れたように銀色の髪をかき上げて、私の手から乱暴にデバイスをひったくった。


私はベッドの上で正座して、しょんぼり。


「だってお肌のケアは大事だもん……。2500年のプラズマ・ミスト・サウナもいいけど、たまには直接肌に当てる刺激が欲しくなっちゃって」


「刺激の意味が命懸けすぎるのよ、あんたの場合」


ライラは溜息をつきながら、私の隣に座った。ライラの口の悪さは、相変わらずだね。


「……ねえライラ、このお店、なんだか最近森の匂いがしない?」


私が大きく息を吸い込むと、ライラは一瞬、複雑な顔をして鼻をひくつかせた。このドームの中は、本来ならRank Dの重たい鉄臭い空気のはずなのに。


「……そうね。あんたが勝手に浄化してるから、少しづつとはいえ、この部屋の空気がきれいになっているのかもね」


「そうかなぁ?私が毎日せっせと換気扇にありがとうってお掃除してるからだと思うけど」


「お掃除って……あんた、ただフィルターに息を吹きかけてるだけでしょ。そんなの科学的じゃないわ」


「でも気持ちは伝わるんだよ。21世紀じゃ、おにぎりも美味しくなれーって握ると美味しくなるんだから!」


「……おにぎり?食べ物に呪文をかけるの?あんたの時代、本当にオカルトだらけだったのね。……でも、タイラント・セルが付着した機器は性能が悪くなるのは確かなのよね。この部屋の空気はもともとランクDだし、あんたの息で性能が回復するのはあるかも…?」


その顔はどこか楽しそう。私はそんな彼女を見て、ふと思い出したように聞いた。


「そういえば、さっきのデコン……なんとか、もう一回だけ使っちゃダメ?お鼻の角質も取れそうなんだけどなー」


「ダメに決まってるでしょ!あんた、本当にいつか自分で自分を分子分解しちゃうわよ!」


「えー」


真っ赤になって言い返すライラを見て、私はおかしくてたまらなくなった。2500年の未来は、空気を吸うのにもお金がかかるし、外は死の世界だけど。この煤けたジャンク屋の中で、ライラとやりとりする毎日、今は生きてるって感じがする。





「……ねえライラ、もしかしてこのお店、透明化のステルス機能とか勝手についてる? 開店して3日間お客さんが来ないなんて、暇すぎて死んじゃうわ」


第13管理エリアの片隅。ここに来て3日目、私たちのジャンク屋にはネズミ一匹、迷いドローン一機すら入ってこないんだ。私は暇すぎて、きれいに磨いた床の上で猫のポーズのヨガをしながら、銀髪をまとめたライラを見上げた。


「あんたね、そんなポーズで床を這いずり回ってたら、ただでさえ怪しい店がさらに不気味に見えるでしょ。大体、実績もない、出所も不明な店に、誰が好んでガラクタを持ってくるっていうのよ」


ライラは動かない診断機のモニターを睨みながら、ため息をついた。


「えー、でも私、昨日からずっと、お客さんカモン!ってステッカーを作って入口に貼っておいたんだよ! 見て、この招き猫・黒にゃんこちゃん!ななみちゃん特製、黒猫バージョンだよ!」


「……あのアピール強めの、目がらんらんと輝く黒い獣のこと? あれのせいでみんな古代の生物兵器の呪いか何かか?って余計に警戒してるんじゃないの……?」


ライラが頭を抱えたその時。ガタ、ガタガタ……と、立て付けの悪い入口が、遠慮がちに震えだした。


「……ひっ! 幽霊!? 2500年の幽霊はやっぱりホログラムなの!?」


「あんたが呼び込んだステッカーの効果を信じなさいよ! ……はい、入っていいわよ!」


入口がゆっくり開いて、そこから恐る恐る顔を覗かせたのは、煤で汚れたオーバーオールを着た小柄なおじいさんだった。


「……あ、あの……。ここ、なんでも直してくれるって外の看板にかいてあるんじゃが……。その、入り口に貼ってある右手を挙げた黒い魔物が、なんだか生贄を求めている儀式の入り口に見えて、店の前で迷っておったんじゃ」


「おじいさん!それは招き猫って言って、福を呼び込むとってもハッピーなラッキーアイテムなんだよ!さあさあ、どうぞ!最高のおもてなしをするからね!」


私は飛び起きて、おじいさんの手を握って店の中に引きずり込んだ。


ライラが「ちょっと、ななみ! 引っ張りすぎ!」って後ろで叫んでるけど、そんなの気にしない!逃げられたら困るし。


「……あ、いや、そんなに歓迎されるとは……。実は、この多機能バイブロ・カッターが動かなくなってしまってな。これが無いと、明日からの配管清掃のノルマが達成できんのじゃ」


おじいさんが震える手で差し出したのは、あちこちが錆びて、持ち手が補修材でぐるぐる巻きにされたカッターだった。


「……なるほど。使い込まれてるわね。内部のナノベアリングが埃で固着してるだけみたいだけど……」


ライラがプロの目でカッターをチェックし始めた。 その横で、私は「おもてなし担当」として、とっておきの作戦を実行することにしたんだ。


「おじいさん、ライラの作業が終わるまで、私が癒やしをプレゼントしてあげるね! はい、肩揉みスタート!」


「えっ? か、かたもみ……? ま、まさか黒猫の呪いの儀式か!?」


「あはは、これが効くんだよー! ななみ20歳、秘伝の技だよ!」


私がおじいさんの肩を揉み始めると、おじいさんは「な、なんじゃ、この物理的な圧迫は!?……? なんだか、自分の古いパーツがほぐれていくような……不思議な感覚じゃな……」って、どんどん表情が緩んでいった。


「ななみ、あんたね……。遊んでないで洗浄液持ってきて。……あ、おじいさん、この回路、ちょっと古いけど大切に使ってるわね。今の製品よりずっと頑丈でいい設計だわ」


ライラがそう言いながら、手際よくナノクリーナーで洗浄を始めた。


「……分かるかね。これはワシが若い頃から使っておる相棒でな。どこの修理屋に行ってもかなりの旧型だから直せない、新しいのを買えと言われるばかりで……」


「ライラはね、機械の心が分かるんだよ! ね、ライラ!」


「機械に心なんてないわよ。……ただ、これだけ大切にされてるなら、ちゃんと動かしてあげたいってだけ」


ライラはぶっきらぼうだけど、その手つきはとっても優しかった。


仕上げに、私が「えいっ!」って気合を入れながら、排気孔の汚れをフーフーして、ほんの少しだけ私の浄化の力を込めた。


「はい、おじいさん、輝きを取り戻したよ」


ライラがスイッチを入れると、カッターは「ウィィィィン!」って、驚くほど澄んだ音を立てて回り始めた。


「おおお……! この音、ワシが初めてこいつを手にした時と同じじゃ! 全く振動がない! それに、なんだかこの部屋に来てから、ずっと体が軽い気がするぞ!」


おじいさんはカッターを握りしめて、子供みたいに目を輝かせた。


「これでお仕事もバッチリだね! 黒猫の招き猫、信じてよかったでしょ?」


「……あぁ、確かにのぅ。あの獣には感謝せねばな。あれが目に入って看板に気づいたのじゃから」


おじいさんは、相場よりもずっと多いクレジットを「これはワシの感謝の気持ちじゃ」って、作業台に置いてくれた。


「ありがとう、お嬢ちゃんたち! あの黒い獣様にもじゃ」


「あはは、おじいさん、またいつでも遊びに来てねー!」


外へスキップするような足取りで帰っていくおじいさんの背中を見送って、私とライラは顔を見合わせた。


「……ななみ、あのおじいさん、黒猫を幸運を運ぶ神獣として広めちゃうかもしれないわよ」


「いいじゃない! 第13エリアが、黒にゃんこちゃんでいっぱいになる未来! 最高だよ!」


「……本当、あんたはどこまでもお気楽ね。」


ライラはそう言って作業台を片付け始めたけど、その横顔は明るかった。


3日目にして、ようやく動き出した私たちのお店。 招き猫が呼んでくれた最初のご縁は、とっても温かいものだった。


「ライラ! 明日は黒猫ステッカー、お店の壁一面に貼っちゃおうかな!」


「……絶対にやめて!」

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