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酸素はタダだと思ってた。2500年の未来で少女は深呼吸!  作者: くろねこ
第一章 : 白銀の監獄と、神の呼気

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15. 見えない網

第14浮遊要塞アイギスの空気は、エリアス・ヴァイン卿が到着してからというもの、いっそう冷たく、そして鋭利なものへと変質していた。


評議会の特権的な権限を盾に、二日目からエリアスは資源最適化監査という名の、事実上の兵糧攻めを開始したのである。


「ゼクス司令官。君のラボが消費している高純度希ガス、および有機触媒の供給量を20%削減させてもらった。評議会の基準に基づけば、プロジェクト・エオンの初期段階において、現在のリソース配分は過剰であるとの演算結果が出たのでね。」


エリアスは司令室のメインコンソールに、冷徹な数字の列を並べてみせた。


これは単なる経費削減ではない。ゼクスが何かの存在を隠し通すために必要な、膨大なカモフラージュ用のリソースを削り取ること。そして嘘の防壁を薄くするための布石だった。


ゼクスは、エリアスの背後で静かに、しかし激しい憎悪を燃やしながら一礼した。表面上は、あくまで従順な司令官として。


「……承知いたしました、ヴァイン卿。限られたリソースの中で、最大限の成果を出すのが軍人の務めです。ですが、実験の安定性が損なわれ、万が一にもエーテル・パールの供給が滞れば、それは評議会にとっても大きな損失となるでしょう」


「ふむ。であるならば、不足分は私が個人的に管理している外部ラボから、同等の品質のものを融通しよう。……その代わり、その搬入経路を確保するため、セクター・ゼロ周辺のセンサー・グリッドの権限を開放してもらう」


ゼクスは嵌められたことにやっと気づく。


エリアスの狙いは明白だった。外部からの物資搬入を名目に、ゼクスが聖域として封印しているセクター・ゼロの監視網に、自身の直接的な目を滑り込ませようというのだ。


ゼクスは制御プログラムと視覚通信を繋ぎ、すぐさま瞬時に数千のダミー・ログを生成させた。


エリアスの目が入る前に、セクター・ゼロの深部、ななみが眠る硝子の箱を、光学的な死角と、偽造されたホログラムで埋め尽くす。


「……光栄です。卿の私的なご協力があれば、百人力というもの」


ゼクスは微笑みながら、しかし内心は煮えたぎっていた。





二日目の夜。要塞最上層にある特別展望室で、二人は晩餐を共にしていた。


「ゼクス、君はこの世界の現状をどう思う? タイラント・セルという死の霧に包まれ、人々が正常な空気を奪い合うこの地獄を」


エリアスは、最高級のフレーバー・セレクトで作られた、見た目は完璧なステーキにナイフを入れながら、静かに問いかけた。


「秩序を維持するための、必要なコストにございます、卿。強き者が空気を統治し、弱き者はその恩恵に預かるために資源を供出する。それがこの世界で、人類が生き延びてきた唯一の理です」


「理、か。だが、もしその理が崩れるとしたら?」


エリアスはグラスを置き、ゼクスの目を真っ直ぐに見据えた。


「もし、フィルターなど介さずとも、誰もがこの世界を自由に生きられる術があるとしたら、君はどうする? それを一部の権力者の延命のために独占するか、それとも……平等のために解放するか。」


ゼクスは、エリアスの言葉の端々に、下層民特有の泥の匂いを感じ取った。この男は、単なる貴族ではない。虐げられてきた者の執念を知っているのだ。


「……ヴァイン卿。過激な理想や期待は、時に現実を壊します。仮にそのような奇跡があったとしても、それはあまりに脆く、管理を誤れば全人類を巻き込む災厄となるでしょう。私は、仮にそのような術があるのであれば、適切に保護するのが最善だと考えます」


「適切に、か。箱に閉じ込め、資源として使い潰すことが、君の言う保護なのか?」


一瞬、展望室の空気が凍りついた。エリアスはまだ、ななみの存在を特定してはいないはずだ。これは単に探りを入れてきているだけだ。


ゼクスはカチリ、とワイングラスを置いた。


「卿の想像力には脱帽します。ですが、あまりに荒唐無稽なことをおっしゃっていると……卿自身の立場も、危ぶまれることになるかもしれませんよ」


エリアスはそれを受け、満足げに微笑んだ。ゼクスが焦りを見せたことこそが、真実に近づいている証左だったからだ。


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