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酸素はタダだと思ってた。2500年の未来で少女は深呼吸!  作者: くろねこ
第一章 : 白銀の監獄と、神の呼気

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11. 崩れるゼクスの野望

要塞のドッキング・ベイに、漆黒の流線型シャトルが着陸した。


タラップから降りてきたのは、カサンドラ・クロムウェルが派遣した特級監査官、ハル・ソーン。


彼は人間だが、その神経系の半分以上がナノマシンと換装された、歩く精密測定器である。


「……第14要塞、司令官ゼクス・ヴァン。出迎えご苦労」


ソーンの声は抑揚がなく、金属的だった。ゼクスは軍礼で応えたが、その背中には微かな緊張が走っていた。


「ソーン監査官。我が要塞に不備はない。カサンドラ指揮官の懸念は杞憂だと、すぐに証明されるだろう」


「……。先ほどから、微弱なバイオ・アノマリーを感知している。通常の出力値ではありえない、異常なほどの中和反応だ。……どこだ?」


ソーンの網膜に投影された熱源グラフが、ななみの居住区画を指して激しく点滅している。

ゼクスは平然を装い、彼を別の方向へと促した。


「それは現在テスト中の次世代バイオ・フィルターの実験区画だ。機密事項ゆえ、案内は後ほどにしたい。まずは司令室で全体ログの確認をするが良い」





ななみの部屋に、小型の掃除ドローン、ポチ(ななみが勝手に命名)が入ってきた。


最新鋭のAIを搭載したこのドローンは、部屋の塵を吸引するだけでなく、空気の質をリアルタイムで分析し、最適なアロマを調合する機能を持っている。


「あ、ポチ。お疲れ様。」


ポチはななみの吐く息が大好きだった。ななみの近くで飛び回る。


「あなた機械なのにモノ好きねぇ。」


ななみは冗談半分で、ドローンの吸気口に思い切り浄化された息を吹きかけた。


ポチのセンサーが、未曾有の清浄エネルギーを感知して狂喜した。ドローンの基幹プログラムは、良質な空気を要塞内に拡散せよ、という優先指令がある。


ポチはななみの呼気を限界まで圧縮・貯蔵する。


そしてまるで尻尾を振るかのように上機嫌(に見える)に部屋を出て行った。


「あ、行っちゃった……。」


ポチは要塞内を高速移動し、主軸となる排気口から、濃厚な、ななみの圧縮された息を散布し始めた。

それはゼクスが隠蔽しようとしていた証拠を、要塞全体にバラ撒く行為に他ならなかった。





司令室で改ざんしたログを確認していると、ソーン監査官が突然立ち上った。


ソーンの鼻腔代わりのセンサーが反応する。


冷たいはずの司令室の空気が変わり、突如としてセンサーの数値が跳ね上がる。


「……バカな。この数値変動はなんだ」


ソーンの手元のデバイスが、警告音を鳴らす。


『警告:バイオ・アノマリー数値の上昇を確認。反応源は……調査完了。生体。生体から出力される気体、ゲノムの、呼気』


「……ゼクス・ヴァン。どういうことだ?……これは実験の範疇を超えている。……君は、タイラント・セルを中和する生体を隠し持っているな?」


ソーンの冷徹な問いに、ゼクスは絶句した。


隠蔽工作は完璧だった。データは丁寧に改ざんし、ログも記録も辿れないようにした。外の異常な数値変動も強化フィルターの実験結果に見えるよう細工した。


なのに、なぜ今ここで数値変動が起きたのか。


その時、司令室のメインモニターに、カサンドラ・クロムウェルがホログラムで介入してきた。


彼女は勝利を確信したような、冷酷な美貌に笑みを浮かべていた。


「見つけたわよ、ゼクス。あなたの秘密を」





10分後。ななみの部屋の前に、ゼクスと、カサンドラのホログラム、そしてソーン監査官が揃っていた。


ゼクスは言い逃れを諦め、しかし瞳に鋭い光をすでに戻していた。


「……カサンドラ。私を売るつもりか? 評議会にこれを報告すれば、私は君の望む通り処刑されるが、この少女は奴らに回収されるぞ」


「最初は評議会に恩を売れればそれで良いと思っていたのよ。けれど状況が変わったわ。想像以上よ。…ソーン、ここを遮断して。これまでのすべてのログを書き換えて、私のプライベート・サーバーへ転送しなさい」


カサンドラは、部屋を仕切る透明プレート越しに、こちらを見て驚いているななみを観察した。


「ゼクス、あなた一人ではこの奇跡を守りきれないわ。監査官の目を盗み続けるには限界がある。……けれど、私の監査権があれば話は別よ」


カサンドラが提示した提案は、極めて合理的な共犯の契約だった。


ゼクスは軍事による現場支配で第14要塞をななみ専用の実験場として隔離・保護し、武力による隠蔽を完遂する。


カサンドラは監査・情報統制で連合上層部への報告書を合法的に偽造し、ななみの存在を浄化実験テストとして抽象的なデータで埋没させる。


「軍事の力で物理的に隠し、監査の力で法的に消す。……二人で手を組めば、評議会の目すら欺ける。そして、この少女が作り出すタイラント・セルを無効化する力を、私たち二人で独占するのよ。評議会の上層部の奴らに上手く使えれば、末端の席なんていくらでも手に入るわ……どうかしら?」


ゼクスは沈黙した。


カサンドラは信用できない蛇だ。協定する気が無いことは明白だ。だが、彼女を仲間に引き入れなければ、明日には自分の首が飛ぶ。


「……いいだろう。協定成立だ、カサンドラ」


二人の権力者が、実態ホログラム越しに手を組んだ。



部屋の中では、ななみが不思議そうに首を傾げていた。


「……ポチが遊んでるの、バレちゃったのかな?お仕置きされてなきゃいいけど」


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