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酸素はタダだと思ってた。2500年の未来で少女は深呼吸!  作者: くろねこ
第一章 : 白銀の監獄と、神の呼気

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10. 鉄の女、カサンドラ・クロムウェル

数日後、ゼクス自身の執務室で今後の展開を思考していると、一通の通信が入った。


「ゼクス、あなたの無能な報告書には、思わず笑ってしまったわ」


モニターに現れたのは、鋭い美貌を持つ女性指揮官、カサンドラ・クロムウェル。彼女はゼクスと同じ階級であり、実務執行部隊の中でも完全秩序派と呼ばれるグループのリーダーだ。


「カサンドラ。私の報告書のどこに、君のような閑職が首を突っ込む余地がある?」


「欠陥サンプル?……随分と思い切った嘘をつくものね。あなたの要塞周辺で、バイタル・スキャナーが異常な清浄化反応を感知しているのを知らないとでも?」


ゼクスの背筋に冷たい汗が流れる。カサンドラのグループは、連合内部の監査権を握っている。彼女は、ゼクスを失脚させ、その功績で評議会への推薦を取り付けようとしていた。


「もし、あなたが何かを隠しているなら、それは反逆罪よ。評議会は、秘密を抱える犬を一番嫌うもの」


「……言いたいことはそれだけか?」


「いいえ。あなたの要塞に、監査官を派遣したわ。明日には到着する。……佐藤ななみ、だったかしら? その名前が、あなたの処刑台の銘板にならないことを祈っているわよ」


通信が切れた後、ゼクスはデスクを力任せに殴りつけた。


ホログラムモニターを弄ると、そこには要塞の外のタイラント・セルが減少した数値が出ていた。


「要塞の外にまでやつの呼気が流れたのか?それにしても急すぎる……くそっ、データを注視していなかったのは失敗だった。まずは現状を切り抜けねば。」





ななみは豪華な食事(希望したら出てきた21世紀のカレーに近い味のペースト)を口に運びながら、部屋の隅にある換気口をじっと見つめていた。


「……あの男、顔はいいけど性格最悪だよね。ライラのことが心配……。無事ジャンク屋に帰れていればいいけど……。」


私は、自分が神の呼気を持っているという事実を、冷静に咀嚼し始めていた。


ゼクスは隠すと言った。


けれど、私を物として扱うことに変わりはない。


……もし、私の息が病原体を無効化できるなら……。私がここを逃げ出して、あの市場の人たちに息を吹きかけまくったら、どうなるんだろう?


その突拍子もない考えに、ななみは少しだけ希望が出てきた。


現代人として育った彼女にとって、他人の寿命を削って自分だけが良い思いをすることは、生理的に受け付けなかった。


ここのテクノロジーは壁一つ、食事一つとっても、21世紀とは次元が違う。


こんなに凄い技術があるのに、みんなが苦しんでるなんてバカみたい。……私に何ができるかまだ分からないけれど。でも……たぶん私はみんなを救いたいんだと思う。


無性に何か行動したくなり、まずはこの部屋の空気を、ゼクスの予想以上に清浄してやろうと、ななみは大きく息を吸い込み、思い切り吐き出した。


その呼気は通気口を伝わり、やがてゼクスの野心も、カサンドラの狡猾さも、そして世界のすべてを狂わすことになるとも知らず、何度も何度も吐き出し続けた。






「……ふぅ。よし、これで少しは外に届いたかな」


アイギスの最上層、白銀の独房。ななみはベッドの上に胡坐をかき、目の前の「換気スリット」に向かって大きく深呼吸を繰り返していた。


2500年の空気は、フィルターされているからかどこか作り物の味がする。それはレガシー・パソゲン(ワクチン遺伝子)を持つ人類を保護するために、タイラント・セル(環境病原体)を極限まで取り除いた結果、生命の揺らぎすら失われた無菌室の味だ。


「この換気口、要塞中のパイプに多分繋がってるよね。」


ななみは、21世紀の建物の構造を思い出していた。通常、ある程度大型のビルの空気循環システムは、効率化のために各区画が蜘蛛の巣のように連結されている。今も構造は同じだと信じるしかなかった。


彼女がこの部屋でせっせと浄化を行えば、その清浄な空気の一部は、要塞の外へきっと届くはずだ。


そして自分の吐く息がこの建物の外に流れて、最下層の人に届けばいい、と考えていた。

彼女の内面では、恐怖よりも反抗心が勝っていた。


「飼い殺しにされるくらいなら、ここから外の空気をきれいにしてやるんだから!」

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