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妖御飯【2000文字】

作者: 有梨束
掲載日:2026/01/14

食卓はいつも1人だった。

お父さんは単身赴任で、お母さんも夜遅くまで働いている。

兄弟はいないし、祖父母や親戚も近くに住んでいない。

夕食をうちに食べにおいでと言われるような、親同士が仲のいい友達もいない。

幼稚園や小学校で給食をみんなと食べると、余計に夕飯が寂しくて仕方なかった。

テレビをつけても、動画を流しても、味は落ちていくばかり。

作り置きしてくれているおかずも、特別美味しく思えなかった。

ぽつんと独り残されているような気持ちで食べるご飯が、嫌いだった。


だから、お願いした。

「誰か、僕と一緒にご飯を食べてください」

そう言ってから、夕飯を口にする。

それがなんとなく日課になり始めていた頃、とうとう返事が返ってきた。


「オイラが一緒に食べてあげようか?」


家の中は1人のはずなのに声がして、僕は固まった。

じっと目を凝らしていると、壁の方にぼんやり影が差した。

そして、それがゆらゆらと揺れているのがくっきりしていった。

「…誰?」

「オイラは、あやかしだよ」

「あやかし…?」

「妖怪のことさ」

ゆらゆらと影の塊が、なんだかニヤついているようにも見えた。

妖怪って、漫画とかに出てくるやつ…?

「オイラが一緒にご飯を食べてあげるよ」

「…本当に?あやかしってご飯を食べるの?」

「食べるさ。うんと食べるよ」

影は嬉しそうに言った。

「キミは1人でご飯を食べるのが嫌なんだろう?」

「うん…」

「だったら、オイラが毎日一緒に食卓についてやるよ」

「うーん…」

「それからオイラの友達も1人ずつ呼んでくるよ。賑やかになるよ」

「本当!?」

僕は思わず食いついてしまった。

だって、1人でご飯を食べるのはもう繰り返しすぎた。

小学生だから1人でも大丈夫でしょって言われたけど、全然大丈夫じゃない。

僕だって、誰かと一緒にご飯を食べたい…!

「本当さ。オイラ嘘はつかないよ」

影がゆらゆらと、さっきより濃くなった気がした。

「その代わり、オイラのお願いも聞いてほしいな」

「お願い?僕にできることあるかな…」

「あるよ」

あやかしははっきりと言った。

「いつかオイラが食べたいものを譲ってくれるだけでいいんだ」

「それだけでいいの?」

「ああ、簡単だろ?」

食べたいものを譲る、例えば唐揚げの日に唐揚げを譲ってほしい、とかかな。

唐揚げは譲りたくないけど、でも唐揚げをあげれば一緒にご飯を食べてくれる。

それは唐揚げよりも、今の僕にとっては大事なことだ。

「その話、のった」

「物分かりのいい坊やじゃないか。じゃあ決まりだ。さあ、一緒にご飯を食べよう」

そう言って、あやかしは姿形を現した。

かっぱみたいなあやかしだった。

「それが本当の姿なの?」

「そうさ、ちゃんと妖怪だろ?」

あやかしは愉快そうに笑うのだった。


その日は、あやかしと一緒にご飯を食べた。

いつもよりぐんと味がして嬉しかった。

その次の日、あやかしは本当に友達を連れてきた。

鬼に似た大きいあやかしを。

その次の日は遊火みたいなあやかしを。

その次の日はろくろ首みたいなあやかしを連れてきた。

賑やかになるのに時間はかからなかった。

また1人と増えていき、毎日夕飯の時間になると食卓はあやかしでいっぱいになった。

テレビも動画も、音楽もいらなくなった。

僕とあやかしのみんなで食べる夕飯。

お母さんが作り置きしてくれるおかずも美味しかった。

前よりも食欲が戻り、お腹いっぱい食べられるようになった。

「今日も美味しかった。ごちそうさまでした」

「なんだい、もういいのかい。最近は食欲が増してきたというのに」

「お茶碗2杯も食べたよ、いっぱい食べたよ」

「そうかい、たくさん食べられるようになってよかったね」

「うん!みんなのおかげ!」

僕は米を一粒ずつ食べているあやかしたちに、笑顔でお礼を言った。

「いいんだよ、キミがたくさん食べられるようになったのなら」

「にひひ、ありがとう」


そうしてあやかしと夕飯を共にするのが当たり前になったある日、最初のあやかしが僕にお願いをした。

「どうだい、そろそろオイラのお願いを聞いて欲しいんだ」

「いいよ、今日のおかずは肉じゃがだけど、肉じゃがが食べたいの?」

いつも米しか食べなかったあやかしは、肉じゃがが好きなんだろうか。

「いいや、違うよ。もっと良い物だよ」

「もっといいもの?」

「ああ。とても美味しそうに肥えていて、そろそろ食べ頃だと思うんだ」

「…?よくわからないけど、僕はどうしたらいいの?」

「そのままいておくれよ」

「そのまま?」

「ああ、きっと『キミ』は今が一番美味しいだろうからね」

「え」

よくわからなかった。

わからないまま全員のあやかしに囲まれていた。

そして、家の中には誰もいなくなった。


「──圭太?圭太、どこにいるの?」

「なんだ、圭太いないじゃないか」

「やーね、あの子。どこ行っちゃったのかしら。せっかく久々に家族3人揃うのに」

「ちょうど俺と君が帰ってこれるとはね」

「本当にね。やだ、肉じゃがほったらかしにしてるわ、あの子」




短編毎日投稿14日目。お読みくださりありがとうございました!

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