4・南方作戦・1
1941(昭和16)年12月8日未明、コタバル
「SB艇5隻、無事擱座成功です」
その報告を聞いた侘美は暗闇の中頷いた。
「凄い時代になった物だ。一度に1000人を上陸させられるのか」
「2隻は戦車を積んでおりますので、歩兵は600ほどになります。しかし、これほどの規模を瞬時に揚陸可能となれば、その威力はすさまじいですな」
幕僚はやや修正するような発言を付け加えたが、侘美は多少、苦笑するだけでそれを聞き流した。
「さらに主力3隻から1000を向かわせておりますので、一度に戦車16、歩兵1600となります。機動団の編成が成ったことで上陸作戦は上々です」
「まさか、フネごと乗り上げて戦車や大砲を揚げる様になるとはなぁ」
幕僚の説明により感心した声を上げる侘美であった。
「だが、ここや蘭印で実績を積めば本番は『次』という訳か」
侘美はそう言って遥か空をにらんだ。
「はい。まさしく、我々もアメリカ海兵隊同様の上陸専門部隊という訳です。歩兵に戦車、さらには蘭印には専属の空母も参加予定です」
侘美自身も午前3時前、第三次上陸隊としてコタバルへと上陸するのだった。
帝国陸軍水陸機動団、機動第一旅団長、それが今の彼の地位である。配下には小さいながらも戦車中隊や砲兵中隊を持ち、6000からの部隊を率いている。
主力はシンゴラ、タバニに上陸しているが、米海兵隊に倣うように新編された水陸機動団は最前線であるコタバルへと配されていた。
SB艇によって上陸させた戦車や重装備部隊によって橋頭堡が確立され、侘美たち団司令部は安全に海岸へと降り立つことが出来た。
「英軍と激しく交戦が起きているものの、我が方優勢、ただいま飛行場へ向けて進軍中であります!」
橋頭堡へと司令部の設営が終るのを待ちかねたように飛び込んできたのはSB艇により上陸していた那須連隊長であった。
「そうか、やはり初動で戦車を持ち込めばその衝撃力は大きいという訳だな」
侘美はうんうんと頷きながら那須の報告を聞きいる。
「よし、昼までに飛行場の占領を目指す!」
ようやく白みだした東の空へと視線を向けた侘美はそう宣言するのだった。
1942(昭和17)年1月24日、バクリパパン沖
「南方より反応4!」
那珂艦橋では電測員がそう叫んでいた。
「南方?味方ではないのか?」
西村が確認をとるが
「味方艦の反応より遠方に新たな反応が4現れました!」
「何?そんな事があるか!」
西村はそう怒鳴るが、暫く後
「第十五掃海艇より四本煙突の駆逐艦隊接近との報告!」
「電測より報告のあった4隻ではないでしょうか」
そう助言された西村は無視も出来ず、4隻の動向を探る様に各艦艇へと伝達する。
「報告!泊地船団に異常反応!攻撃を受けているものと思われます!」
さらに電測が報告する頃には他の艦船からも敵艦影に関する報告が次々と舞い込んで来た。
「くそ!オランダ軍の襲撃だ!迎撃せよ!」
西村はそう指示を出し、電測と通信に対して各艦へ敵艦艇のおおよその位置を打電させていった。
この時、電探を装備していたのは那珂のみであり、他の駆逐艦以下にはまだ装備されていなかった。
「敵はどこだ!電測!」
西村は混乱しながらそう叫んだが、電測はバラバラに行動しだした敵を追い切れていなかった。
「ええい!おおよその位置でいい」
混乱してそう叫ぶところへ新たな報告が入る。
「球磨川丸より入電、敵に反撃中との事!」
「第38号哨戒艇より、現在交戦中との報告!」
突入して来た米駆逐艦隊は船団内を高速でかき乱していたため、那珂のみでは追い切れず、味方との誤認もある事から射撃も出来る状況にはなった。
次々と発見や交戦の報が入る混乱の中、西村はただいら立つ事しか出来なかった。
そうこうしているうちに新たに電測から報告が入る
「泊地より離脱中と思しき高速の反応あり!」
「反応、2、いえ、3」
増えていく反応に対して西村は吠える。
「見張り!見えるか!?」
「見えません!」
見張りは周囲へと目を凝らすがそれらしき姿が見えなかった。
「電測!方位は!」
搭載が始まったばかりの電探はまだ正確な位置を示すには心もとなかったが、おおよその方位を知らせた。
「探照灯で探れ!」
その命令で那珂の探照灯が灯され、おおよその方位へと向けられ探る事しばし、4本煙突の艦が南へ逃げ去るのを発見した。
「あれだな!第九駆逐隊に伝えよ、我に続け!」
こうして、那珂が照らし出す駆逐艦ポールジョーンズへと射撃が始められたが、混乱の最中とあって何とかその撃破にこそ成功したものの、他の3隻は取り逃がすことになってしまった。
夜が明けた泊地では輸送船4隻が沈没し、2隻が損傷、哨戒艇1隻損傷と言う惨状が広がっていた。
さらに夜明け直前には潜水艦の襲撃も受けたが、これは撃退に成功している。
1月27日早朝、エンドウ沖
「味方外縁に反応2!」
軽巡洋艦川内艦橋に電測の報告が響いた。
「来たか」
橋本はそう呟くと更なる報告を待った。
「反応、更に近づく」
しばらくすると更なる接近を告げて来た。すでに月は沈み、周囲はあまり見通せない状態だった。
方位があいまいで信用ならない事からまずは各艦船に対して警戒を呼び掛ける。
「第4号掃海艇より敵艦らしきものを発見との報告!」
しかし、まだ方位は定かでは無かったが、敵方が少数であることは判明していたので橋本は川内の探照灯を敵へと向けるように命じた。
川内が探照灯を灯すと駆逐艦がそれに反応して動き出し、少し後に探照灯が煙幕を捉えた。
まだ電探でしか探知されていなかったが、英駆逐艦は掃海艇によって位置が報告されているものと思い、すぐさま煙幕を焚いて隠れたのだった。
「電測、距離とおおよその方位!」
その声に応えて電測が最新の距離と方位を告げるとそれに従って川内が射撃を開始した。
それに倣うように駆逐艦も照らし出された煙幕へと射撃を開始し、駆逐艦吹雪が煙幕へと探照灯を照射すると隠れ切れていない艦影を発見し、その艦影へと射撃を開始し、川内へと報告。
白雪も加わって砲撃を続けていると川内は電測に従って探照灯を動かし、新たに晴れだした煙幕の隙からもう1隻の駆逐艦も露わとなり、初雪、天霧が射撃を集中した。
しばらく射撃を続けていると煙幕を焚いていなかった駆逐艦が沈没し、残る1隻へと射撃を集中すると、川内の放った一発が艦中央へ命中し、完全に停止、降伏を伝えてきたため射撃を中止した。
こうして2件の夜戦が生起した事で駆逐艦への電探装備が促進されることになった。




