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2・大和ショック

 1942(昭和17)年元日、大本営は海軍に新たな戦艦が加わったことを大々的に発表した。


 新戦艦の艦名は大和、6万トンの巨艦であり、主砲は46センチと発表され、長門と共に映る写真には、確かにその大きさがよく分かるものであった。


 細部は意図的に不鮮明な状態に加工されていたが、その写真は海外へも流れ、当然ながらアメリカの手にもわたっている。


 それを見たアメリカ海軍情報部は、自らが推測していた新型戦艦とあまりにもかけ離れた姿に驚愕し、改めて日本の発表をもとに分析をやり直し、写真からは6万トンどころか7万トンになる可能性がある事、全長は少なくとも260メートル前後はある事、主砲は45口径18インチ級ないし50口径超の16インチ砲であるとの情報が海軍、そして大統領へと伝えられることとなった。


1942年2月、ワシントンDC 


「これはどうなんだね?」


 大統領は報告書を持って現れた作戦部長へと問うた。


「はい、閣下。報告の通り戦艦ヤマトは我がモンタナに匹敵する巨艦であり、アイオワ以下既成の戦艦を一発で葬る可能性を秘めております」


 報告書の通り繰り返す作戦部長を睨む大統領。


「ジャップが我が国の戦艦を、かね?」


「はい、閣下。少なくともツシマにおいてパーフェクトゲームをやった海軍であり、その戦力を侮る訳にはいきません。ならば、我々はその前提に立ち、正しく対策を行う必要に迫られております」


「それが、アイオワ級を4隻犠牲にする理由であると言うのだね?」


 大統領はさらに眼光鋭く問い質す。


「アイオワ級2隻の建造を中止、2隻は延期とし、モンタナ級の起工を急ぎます。さらに、エセックス級空母もすでに起工済みの5隻、準備がすでに整った1隻を除き、優先順位を下げます。これにより、モンタナは早ければ44年秋、計画より1年早い就役を実現させる所存です」


 作戦部長が言い切ると大統領はもう一度報告書へと視線を落とし、読み漏らしが無いか確かめる。


「ふむ。空母はある。急いで増やす必要は無いか。戦艦はパールハーバーで8隻が損傷。基地施設の稼働も夏まで不可能。ふん」


 そう口に出し、作戦部長を睨み、口を開いた。


「英軍はマレーで2隻の戦艦を失った。なぜだね?」


「はい、閣下。適切な防空を欠いた艦隊を敵勢力圏へと進出させたため、ジャップの不慣れな空襲により戦闘力を落とし、格下のコンゴー級に撃ち据えられ、水雷戦隊の餌食となったものと判断いたします」


 その返答に満足した様に頷く大統領。


「空母はさしあたり6隻を整備し、まずは戦艦戦力の充実を図る。分かった、その様に進めたまえ」



 時を遡る1941(昭和16年)4月、東京


「海軍としては、陸軍の提案に反対である!」


 ムスッとした顔でそう答える海軍将校が居た。


「では、アメリカが送り出す20隻にもなる大型空母をどうする腹積もりか?」


 陸軍側は顔色すら変えずに問い返した。


「沈めてしまえばよかろう」


 ドヤッと海軍将校が答える。


「なるほど、匹敵する大型空母を2隻しか作れない海軍が常に損害なく20隻を沈めるとは恐れ入った。3年後には彼我の差は一気に開く。搭載機数で劣る海軍が無傷で沈めきるとは到底思えないのだが?」


「なんだと!貴様に海軍の何が分かるというのだ!!」


 陸軍将校の嫌味にキレる海軍将校。


「陸軍には海軍の事は分からん。だからこそ、手にした貴重な文書をこうして海軍にも提供し、共に共有しているのだ。資料を見ろ、貴様の言う事が一度でも破綻すれば、南洋の孤島に取り残されるのは、我ら陸軍だ。海軍の勝手な自己満足で語られては困るのだよ。このレイテ沖海戦なる文書を見ろ。何だこれは。上陸部隊打破より敵艦隊撃滅を優先した結果、敵への打撃を与えられず、あろうことか奪取した比島を奪い返されるだと?貴様の考えはまさにコレだろう!」


 陸軍将校は机の書類をコツコツ突付きながら、徐々にヒートアップしていった。


「ふん!海軍は海戦し、敵艦隊を撃滅するのが本分。敵を撃滅出来ん陸軍に問題があったのだろう」


 海軍将校は胸を張ってそう言い放った。


「その結果、南方資源を絶たれても。か?」


「グッ」


 海軍将校は何も言えなかった。


「海に陣地は無いのだろうが、南洋や南方は陣地戦だ。決めてとなるのは島や環礁。海軍風に言えば港や泊地であろう?港や泊地を奪われては船とて動けまいに」


「だからどうだと言うのだ」


「空母。我らからすれば野戦飛行場が少なければ少ないほど敵を叩きやすい。アメリカが空母よりコレを優先すれば、戦い易くなるのではないのかね?」


 陸軍将校がある資料を見せながらそう口にした。


「モンタナか。出どころの分からん秋丸文書を出されるのは気に食わんが、極秘の我が戦艦の要目まで記載されていては否定も出来ん。あまつさえ、これまで秘匿してきた内容をバラすなど・・・」


 海軍将校は苦しげな表情で悩み出した。


「貴様が責任を負う必要は無い。そうした場合を考察する。ここではそこまでの事をやるだけだ。難しく考えるな」


 こうして戦艦大和の要目を公表した場合の考察が行われ、米海軍はモンタナ級戦艦を優先するためにエセックス級空母を後回しにし、その完成が1年から2年後退するとの結果を導き出す事になった。




 

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― 新着の感想 ―
『電子立国日本の自叙伝』と言う本があった‥‥何処までこの作品は後追いできる❓
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