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この作品には 〔ガールズラブ要素〕が含まれています。
苦手な方はご注意ください。

幽々子「妖夢、私、死ぬほど満腹になるまでご飯食べてみたいわ~!」

作者: ザ・ディル

「ようむ~。私、死ぬほど満腹になるまでご飯食べてみたいわ~!」


「ゆ、幽々子(ゆゆこ)さま?」


 白玉楼(はくぎょうろう)の和室。長テーブルにあった食料を食べ終わった幽々子が発した言葉は、白玉楼(せかい)を震撼させた。

 片付けようとした食器を思わず落としかけた妖夢は、わなわなと慌てるように話す。


「い、以前はこのくらいがちょうどいいっていいませんでしたっけ?」


「ちょうどいいっていうのはそのとおりね。ちょうどいい感じにお腹は満たされているわ。だけれどね、一度くらいは限界を知ってみたいのよね~」


 妖夢は長テーブルにある平らげられたご飯の数々を思い出す。

 妖夢と幽々子で食べただけだが、もちろん2人前などという量ではない。

 妖夢は1人前だが、幽々子は軽く見積って5人前。

 食卓に並べられていたのは白米、みそ汁、焼き魚、副菜等、和食がメインだった。それ以上に食べるのは大食漢すぎる。


「おねが~い、ようむ~。」


 きらきらした瞳を宿し、妖夢に懇願する。

 その主の姿を見て、妖夢は「みょんみょんみょん……」といいながら、眉間にしわを寄せながら悩む。そして結論を出す。


「えーと、幽々子さま。すぐには難しいので明日でもいいですか?」


「もちろんよ、ようむ~。私のお願い聞いてくれてありがとう~。よいしょ」


 そういいながら、幽々子は妖夢に抱き着く。


「幽々子さま!?」


 主人から最大の寵愛を受け、妖夢は顔がにへら~と笑みがこぼれる。


「し、しあわせ~」


 幽々子の激励に、妖夢は最高の料理を作ろうと決心したのだった。



******


「それで私に声をかけたわけね?」


 紅魔館内。広い廊下の中、妖夢は彼女を探していた。

 完全で瀟洒な従者。十六夜(いざよい)咲夜(さくや)、その人だった。


「ええ、咲夜さんの手腕があれば、幽々子さまを満足できると思います。ただ、美鈴(めいりん)さんにも手伝ってほしかったんですけど、その……」


「はぁ、寝てるわけね。まったく、休憩時間はとっくに過ぎているのだけれど」


 咲夜はため息をついたあと、歩き出す。伴って身に着けていた懐中時計が揺れる。


 時が止まる。モノクロの世界で動けるのは咲夜だけ。


 彼女は美鈴のもとに移動し、彼女を連れたまま先ほどいた場所に戻る。


「え? 咲夜さん?」


「美鈴? 侵入者を見過ごす門番ってこの世に必要かしら?」


 美鈴の寝ぼけた頭は、妖夢を見てすぐに覚醒した。


「あ! 妖夢さんですよね。もちろん通しましたよ。殺気はないでしょ咲夜さん? いやだなー、殺気あったら気づきますって。それに妖夢さんは友達でしょう? 門番の務めは敵を紅魔館に通さないことですよ」


 冷や汗をだらだらとたらしながら、必死に弁明をする。

 咲夜はその弁明を聞いたあと、問う。


「それで? さっき私が貴方を見たとき、鼻提灯を作り出していた弁明は?」


「えーと、趣味の鼻提灯作りですね……」


「お仕置きよ……!」


 美鈴の頭にナイフが刺され、血がどっぴゅと噴出した。


「ごめんなさーい、咲夜さん! だ、だって、今日はぽかぽか晴天で絶好のお昼寝日和だったんですもん」


「貴方、あと何本ナイフ刺されたいのかしら?」


 咲夜は笑う。当然、表面上の笑いで、奥底では怒っている。


「あぅ、ごめんなさい。反省します」


 今にも泣きそうな美鈴をじっと見て、咲夜は「はぁ」と息をこぼす。


「……まあ、いいわ。本当に敵が来たら目覚めるとは思っているけれど、私は心配なのよ。今日は許してあげるわ」


「さ、咲夜様ぁ~」


 美鈴は胸が救われたような気がした。頭は血が出て救われていないが。


「その代わりといってはなんだけれど、白玉楼にいって、幽々子を満足するまで料理を振るうわよ!」


「はい! 咲夜さんのご命令とあれば喜んで!!」



******


「ナイフって勝手に抜け落ちるんですね……」


 白玉楼に着いた妖夢は、美鈴に思わずそう聞いた。

 ナイフが刺さっていた額には、すでにナイフが勝手に外れており、自然治癒で血の跡もないように見えた。


「まあ、慣れるとこうなりますよ。手で抜くと出血多量で、そっちのほうが危険なので、自然放置で勝手に抜け落ちるようになってます」


「慣れているからってそんな現象起きないですよ……」


 思わず突っ込んでしまうが、紅魔館の日常なのか咲夜からの突っ込みは特になかった。

 突っ込みはない代わりに、咲夜は妖夢に確認する。


「調理場はここでいいのかしら?」


 咲夜が先導して白玉楼の巨大な調理場にたどり着いていた。


「合ってますよ咲夜さん。よく覚えていますね、たしか過去に1度だけ案内した気がしますけど……」


「記憶力はいいほうなのよね。さて食料出すわね」


 咲夜は指をぱちんと鳴らすと、空間が切り裂かれ、そこから大量の食材が落ちてきた。

 妖夢はそのシーンを見て、驚く。


「す、すごいですね。咲夜さんの能力でしたっけ?」


 咲夜は顎に手を当て思考した後、滔々と語る。


「正確には違うけれどね。私は時間を操る程度の能力よ。時間を操れるなら速度にも影響を及ぼす。私が瞬間移動しているように見えるがわかりやすいかしら? それを応用すると、モノも瞬間移動で呼び出すことができるのよ。今の原理は簡単に言うならそれよ」


「なるほど?」


「まあ、私は空間をある程度操れる程度の能力も持っていると思ってもらえればいいわ。というか、それを知っていたから私を呼んだんでしょう?」


「あはは、ばれちゃいましたか」


 てへっと頭に拳をあてる妖夢。


「私だけだと食料運ぶのも大変でしたので。今回は幽々子さまがどれだけ食べるか未知数なので、食料運んでもらって助かりました」


「ただ、本当の目的はここからでしょう? あの西行寺幽々子を満足できるかどうか、よね。美鈴、妖夢。気合い入れて作るわよ!」


「「はいっ」」


*****


「壮観ね~。食べ応えがありそうだわ~」


 幽々子の目の前に並べられた料理の数々はどれも力作に映った。

 和食は妖夢、洋食は咲夜、中華は美鈴が担当した。

 咲夜が持っていた食材は多様かつどれもが最高級と呼べるものばかりだった。それを専門の人間が調理すれば一品一品が神がかっている料理に化ける。


「それじゃあ、いただきます」


 幽々子は手を合わせたあと、箸を進めていく。

 まずは和食から、食べ始めていく。


「お刺身美味しいわぁ~」


 幽々子はほっぺたをとろけそうににっこり笑いながら食べ始める。

 妖夢はその姿に釣られて笑みをこぼしつつ、説明する。


「そのお刺身は、幻想郷(ここ)にはない、別世界から取り寄せた魚だそうです」


 幽々子はそのまま洋食の1つ、ステーキに手を出す。


「こっちもおいしいわね~。すごいおいしいお肉使っているでしょう?」


 質問された咲夜は淡々と答える。


「はい。こちらも幻想郷では手に入らないブランド牛です」


 幽々子はおいしそうな顔をしながらどんどん食べ進めていく。


「こっちのチャーハンもおいしいわね~」


「はい! 腕によりをかけましたよ」


 幽々子の食のスピードはおいしさに比例してどんどん加速していく。

 幽々子の食欲は無限なのではないか。咲夜が時間を操って加速を使っているのではないかと疑うほど、幽々子の姿は加速していく。そしてどんどん食べ物は平らげていく。

 ペースを上げて完食してしまうのではないか? 全員そう思っていたが……、食事の手がぴたりと止まる。


 幽々子は三者を見て、食べ物を見て、そして、指で頬をぽりぽりと搔きながらいう。


「あの……、私がいうのもなんだけれど、皆で食べないかしら?」


 その一言に妖夢は呆然としたような顔でいう。


「え? どうしてですか? 幽々子さま、あんなにお腹いっぱい食べてみたいって……」


「だって、皆が腕によりをかけて作ってくれたのよ。それにとても美味しいわ。皆が丹精込めて作ってくれた料理だってわかるのよ。そう思うと、独り占めするのは嫌になってきてね」


 幽々子はこの状況になって、心の片隅に「食べ物を独り占めしているのでは?」という気持ちを持ち始めていたが、心の奥底にしまいこんでいようとしてたようだ。しかし、実際に料理を作った人たちを見ると、どうしてもその心の片隅においた考えは、言葉に出てしまっていた。

 妖夢たちは互いに顔を合わせる。そして妖夢は幽々子に問う。


「幽々子さま。いいのですか? 満腹になることは諦めてしまうかもしれないですよ?」


 幽々子はにっこりと、おっとりした口調のまま答える。


「いいわよ。こんなにおいしい食べ物、皆で食べたほうがおいしいに決まっているわ!」


*****


 結局、4者全員が豪奢な料理を食べ始め、そして完食した。


「あー、もう食べれないですー!」


 美鈴はお腹が膨れ上がりすぎて一歩も動けなさそうだった。

 それを見ていた咲夜はいう。


「貴方よりも食べている幽々子は動いているけれどね」


 幽々子はもはや巨大化して、丸々とした姿になっていたが、てとてとと歩けていた。


「まるでどこかのピンクの悪魔のようですね!」


「美鈴さん? 幽々子さまを悪魔呼ばわりは私が許しませんよ?」


 瞳が笑っていない妖夢を見て、美鈴は慌てて訂正する。


「いや、良い意味ですよ。ピンクの悪魔っていうのはカー〇ィのことですから。すごいかわいいマスコットですから!!」


「そうなんですか、かわいいんですね。それなら許しましょう」


 瞳はいつもの煌びやかな瞳に戻る。美鈴は胸を撫でおろした。


「しかし、めちゃくちゃおいしかったですね。自分が作った分もですけど、咲夜さんも、妖夢さんの料理も全部が今までで食べたことないくらいおいしかったです」


「私も、美鈴の中華料理久しぶり食べたけれど、とても美味しかったわよ」


「咲夜さん……!!」


 思わず、涙が出かけていた美鈴だったが、咲夜が言葉を続ける。


「これなら、美鈴の料理担当のメインにしてもいいわね。緊急でなければ門番よりもちゃんと働いてくれそうだし」


「さ、咲夜さーん。それはご勘弁をー!!」


 咲夜の話を最後まで聞くと、わなわなと震えだして、涙を流した。

 妖夢はその姿を見て少し笑ってしまう。


「相変わらずの紅魔館メンバーですね」


 その姿を見つつ、妖夢含め、全員の顔を見る。


「まあ、全員で食べておいしかったのは賛同です。幽々子さま、提案していただいてありがとうございました」


「妖夢がそう言ってくれると私も一緒に食べれてよかったわ~」


 このあと、全員は適当に談笑し、解散した。

 幽々子は今後も一緒に食べる機会が欲しいと思ったらしく、後日、白玉楼メンバーが紅魔館に訪れ、その2グループ全員で食卓を囲んだのは、そう近くない出来事だった。



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