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即死記録更新

「異世界転生」だれしも憧れたことがあるのではないだろうか。チートスキル貰って無双して・・・。

私もそれを想像してた。なのに、それなのにっ・・・

「火の海の中に転生するなんて聞いてなぁぁぁぁぁい!」

本当に訳が分からないのだ。気が付けば火がそこらじゅうで燃え盛っている中にいたのだから。

「だ、誰かぁ!」

叫び続けたせいか、煙を吸いすぎたせいか喉が痛い。頭がくらくらするし外に出たい・・・。

でもここ、やたら広い。西洋のお城みたいな・・・。焼け焦げてしまってよくわからないけど。鉛ほど重い体をひきずって一歩一歩前に進む。

こんなの前世でパソコンに向かって作業してただけの私には地獄だよ。しかも、この体子供だし。せめて、美少女であってほしいな。いや、そもそもここで死んだら、美人でも意味ないか。

前世の私の死因は多分過労死。じゃあ、転生先では焼死?

「笑えないんですけど。あっやば」

上から瓦礫落ちてくる。短い一生でした。どんな異世界小説でもこんなに早く死ぬ主人公、いなかったんじゃないかな・・・。異世界に転生して転生もの即死記録更新!わーおめでとう!

なんてくだらないことを考えながらゆっくりと目をつむった。あーイケメンが助けてくれないかな。


**


「・・・さい!」

頭がぼんやりする。体中痛いし、なんか耳キンキンするんですけど・・・。

「起きなさい、このブス!」

・・・え?今悪口言われた?思わず目、開けちゃったじゃん。最初はぼんやりとしか映らなかった視界がはっきりと見えてくる。

「やっと起きたわね?」

はっきりと見えたはいいが、私をのぞき込んでくる幼女の顔しか見えない。うん、生意気そう。

こいつか、私をブスと言ったのは。ていうかなんで私は・・・。

段々と頭によみがえってくる記憶の数々。どうやら私は即死記録更新を達成できなかったらしい。・・・喜ぶべきことだ。

「感謝なさい!私があなたを瓦礫の中から引っ張り出してあげたんだから。・・・正確にはじいやがやったんだけど」

じいや、と呼ばれたその人は多分この子の後ろに控えているおじいさんのことだろう。いかにもな執事服を着ているあたり異世界と実感させられる。

そのじいやが口を開く。

「お嬢様」

見た目にたがわぬ柔らかな声音でなんだか安心する。

「分かっているわ。貴族たるもの礼儀はわきまえなくちゃね」

私の視界を独占していた顔がここにきてようやくなくなり、あたりがよく見える。

なんだか大きなベッドに寝ているとは思ったけれど・・・この眩しすぎるベッドはなんだ?屋根付きのベッド。その屋根には天使が舞っている。小さな装飾は一つ一つこまかいし、これ現代に持っていったらうん百万するんじゃ・・・。

「ちょっとどこ見てるの。これから人が挨拶しようって時に」

言われて改めてこの幼女を見る。さっきは近すぎてわからなかったが、この子とてもきれいな顔立ちだ。全てが整っている。何より黒髪がその美しさを際立たせていた。

見惚れていたら、その女の子がスカートの端をつまみ上げ膝を折って礼をする。

それだけのことのはずなのに、ひとつひとつの動きが洗練されていて空気ががらりと変わった。

この子、本当に子供か・・・?

「わたくしの名前はエリザ・ルノワール。あなたの名前を聞いても?」

すかっり気圧されていた私はまさか話を振られると思っておらず、わたわたと答える。

「え、えっと、私の名前は律!」

「りつ?変わった名前ね」

はっ・・・前世の名前を思わず言ってしまった。

「いや、そのえっと・・・・」

「まあいいわ。それで?」

「それで?」

「いいこと?私はあなたが瓦礫の下敷きになっているところを見つけたの。それで助けて手当までしたわ。さらにさらに、私はあなたにベッドまで貸した。はい、なにか言いたいことはなあい?」

言いたくない。なんか癪に障る。だけど命の恩人であることは確かなのだ・・・。仕方ない。

「ありがとうございましたっ」

「ふふふ、よくできました」

こんのクソガキ!

「それであなた、行く当てはあるの?」

行く当て、行く当て、行く当て・・・・。私が思い浮かべるのは真っ赤な炎と迫りくる瓦礫。

「多分私の家は燃え尽きました」

「そう、ないのね。・・・とりあえず、私はもう行くわ。何かあったら枕元に置いてあるベルを鳴らして。じいやが来てくれるわ」

「は、はい」

「ゆっくり休みなさい」

そう言い残して、エリザはじいやさんを連れて部屋を出た。見た目は6歳くらいなのに随分としっかりしているものだ。

・・・さて、どうしたものか。行く当てがないのは確かだし、いつまでもこうやって居候するわけにもいかない。けがが治るまでには出て行かなければいけないだろう。職は・・・まあ前世の知識フル活用したらいくらでも稼げるし、案外なんとかなるかもしれん。今日はとりあえず寝よう。まずは体を休めることが第一優先だ。


**


「・・・さい!」

なんか聞き覚えのある声だな。

「起きなさいこのブス!」

「それ起こされるとき毎回言われるんですか・・・」

「ふう、ようやく起きたわね。私が直々に来てあげたわ」

「あざす」

「なんか生意気ね。さて、私にお願いしたいこと、ないかしら?」

「ないです」

「嘘おっしゃい!」

理不尽な。

「もう、仕方ないわね。私の城を案内してあげるからそこから考え直しなさい」

ケガが痛むんだけど・・・まあなんか楽しそうだし付き合ってやろう。



広い!広すぎる!まってもう無理。これ以上歩けない。傷口開いちゃう。

「なにもたもたしてるの?次はこっちよ!」

「ちょ、待って・・・」

エリザに腕を引っ張られる。体が急に動いたせいで傷口が開いた感覚がした。

「痛・・・」

あれ、思った以上に出血ヤバいかも。あ、力が入らない・・・。

「律!じいや!じいや!早く来て!」

薄れゆく意識の中、真っ青な顔をしたエリザを見た。


**


なんだかいい香りがして目が覚める。・・・なんでエリザが私と同じベッドで寝てるんだ?

「エリザ・・・様、起きてください」

様をつけるのには少し抵抗が。

「うーん・・・もうちょっと・・・って律!起きたのね!」

「はい、この通り」

「あの、その、ごめんなさい・・・。私がもっと・・・・!」

「エリザ・・・様、気にしてないですよ。ちゃんとごめんなさいも言えましたしね」

それでもまだ不安そうにこちらを見てくるものだからやっぱり子供なんだなあとしみじみ思う。

「分かりました。今からお互いのこと、少し話しませんか?」

「それは、その、女子会ってこと?!」

「はい、女子会です」

「やるわ。じゃあまず私からいくわ」


なんかめっちゃ壮絶な人生歩まれてましたこのお嬢様。三歳で両親が死んでこの公爵家を継ぐことに。だけど三歳が出来ることなんてなにもなく、使用人たちからは金を横領され、虐待まがいのこともされたとか。それを一掃したのがじいやさんらしい。じいやさんはエリザのお父さんに恩があるらしく、公爵家の惨状を聞きつけてやって来たとか。そして使用人を全員解雇。じいやさんはまともな使用人を雇おうとしたが、エリザが嫌がってやめたそう。まあ、トラウマだよね。それでこの広い公爵亭は今、じいやさんと、エリザの二人きりらしい。

「最近はようやく落ち着いてきて、じいやに礼儀作法を教わっているのよ」

この話を聞く限り、エリザに同年代の友達と触れ合う機会はなかったのだろう。きっと、寂しかったに違いない。だから、私が来てはしゃいだのだろう。

「はい、私の話はこれでお終いよ」

「じゃあ、次は私の番ですね。実は私・・・記憶が無いんです」

「ええ?!それって大変じゃない!」

「はい、まあぼちぼち思い出していくかな・・・?」

「そ、その、けがが治ったらどうするつもり?」

不安げな瞳でこっちを見てくる。

「そうですね、働きます」

「どこで?」

「うーんどこでしょう。適当に街にでも」

「だ、ダメよ!町は危険なのよ。魔物とか悪い人とかいっぱいいるのよ!その点ここは安全だわ。じいやが守ってくれるもの」

ははーん、さては私に残ってほしいのだな。

「そうですね、でもご迷惑をおかけしますから」

「迷惑なんて言わないわ!」

「ですけどぉ・・・・」

「んもお!ここまで言わないと分からないなんてあなた馬鹿よ馬鹿。ここで働きなさいって言ってるの!」

「ふふふ、よく言えました」

仕返し成功だね。

「もう、あなた性格悪いわよ」

エリザはツンデレお嬢様だな。可愛いからついついいじめたくなる。


こうして私はエリザ専属メイドに就任・・・とはならなかった。エリザお嬢様のご所望により、執事のほうになった。なんか執事が欲しかったらしい。じいやさんことセバスチャンさんは口数の少ない方だったけど私を歓迎してくれた。そしてここから地獄の日々が始まる。が、そのことを私はまだ知らない。



窓一つない部屋の中、フードを深々と被った男二人は互いの顔も見えぬままに会話をする。

「襲撃に失敗しただと?!」

ろうそくの灯が揺れ、彼らの影もゆがむ。

「恐らくですが、火災に巻き込まれて亡くなったものかと・・・」

「ちっ・・・もういい。下がれ」

男は空を睨む。そして次なる手を考えるのだった・・・。





こんにちは、狛犬です!この度は「お嬢様、執事です。」を読んでいただきありがとうございました。稚拙な文章ですがどうぞ最後までお付き合いくださいませ。

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