4-9.国王からの呼び出し
9.国王からの呼び出し
今回捕まったアウグル国の男の供述により、
彼らに無償で古代装置を配布したのは、
ルシス国の妖魔対策委員の一人ということが分かった。
それも、デレク王子に近しい者らしい。
調べを進めるうち、すぐにひとりの年配の男性が浮上した。
「そういえば”デレク王子の乳母の父親”って人がいたなあ」
デレク王子の母親、つまり王妃の実家である公爵家の者で
大人しく目立たない人だったのだが。
「おそらく彼で間違いないわね」
クルティラがそう言うと、リベリアが首をかしげて言う。
「でも、いきなり尋問しても”知らない”って言われますわね」
「アウグル国の実行犯たちの証言だけでは、ちょっとね。
顔を覚えてない人もいるくらいだし」
私も同意する。
彼らはあくまでも、古代装置という説明すら無く、
”この針を妖魔に刺し、この送信機を鳥に付け案内させれば
妖魔を好きなところに都合の良いタイミングで動かせるぞ”
くらいの説明だったらしい。
実際、小さなスライムでやったらその通りだったので
豊かなルシス国の収穫時期やイベントを狙って騒ぎを起こし、
武器や防具の売り上げを伸ばしていたそうだ。
「何回も、それにあからさまにやっちゃうとこが
古代兵器にもメイナにも、犯罪にすら慣れてない感じがするよね」
私が呆れながらいうと、クルティラがちょっとコワイ笑顔で
「この古代装置、使い方を考えれば、もっと効果的な方法があるわよね」
……確かに。今回はそそのかしたルシス国の男も、
アウグル国の実行犯も、シンプルな思考で助かったのかもしれない。
私たちは、とりあえず犯人が捕まったことはルシス国側には秘密にし
アウグル国に出回った古代装置の回収を密かに進めていった。
目星を付けた対策委員は、徹底的にマークすることになる。
こちらが一山超えたこともあり、私は白シギを呼び、
久々にルークスに連絡を出した。
私の近況と、簡易的な古代装置が量販されている旨について知らせる。
どこかで大きな争いがあると、必ず他国に影響があるものだ。
彼が対応している北の抗争でも、
似たような古代装置が使われている可能性があるだろう。
結構長い事、会ってないなあ。
デレク王子の振る舞いにイライラする時、
必ず思い浮かぶのはルークスだった。
どうしても”彼がここに居れば”……そう思ってしまうから。
私は白シギの頭にキスをして、ルークスに届くよう祈った。
************
今日、私は久しぶりに王城に来ている。
なんと国王より私に対し、呼び出しがあったのだ。
カーテシーで礼をする私に対し、国王が声をかける。
「妖魔の退治では本当によくやってくれた」
「この国のお力になれて恐悦至極に存じます」
などなど、型通りの挨拶をすませる。
本題はなんだろう。デレク王子の話だったらどうしよう。
何故なら国王の横には、当たり前と言えば当たり前だが
シェーナ王妃が穏やかな笑みを浮かべて立っているのだ。
……何か企んでいるような目つきだ。
国王はすぐに本題に入った。なんだか、ちょっと面倒そうでもあり
さっさと話を終わらせたい雰囲気すら感じられる。
「近々、わが国で大きな式典があるのだが、
皇国のメイナ技能士代表として出席してもらえぬか」
私はちょっとビックリして畏まる。
「御国の式典に出席させていただくには、私では務まりません。
皇国より、上院議員をお呼びいたします」
急に王妃が前に出てきて言う。
「国民の皆が、あなた自身に感謝しているのよ。
本当に多くのものを助けてくださったでしょう?
あなたに感謝の意を伝えたいと思っているの」
いや、国の式典でそんなことを兼ねるの、おかしくないか?
「私には身に余るご厚意です。先ほどのお言葉だけで充分です」
拒否する私に、国王は面倒さを顔に隠さずに告げた。
「……まあ、式典の一部だと思って参加してくれれば良いのだ。
立っているだけで良い。……そうだろう?」
なぜかシェーナ王妃に確認する。うなずく王妃。
やはりこれは王妃の要望か。
王妃が国王に、私を呼び出して出席するように言えと頼んだのだろう。
これはここで断っても長引くだけだな。
「承知いたしました」
私がそう言うと、王妃がニヤリと笑う。私は言葉を続ける。
「では皇国に連絡を出し、その旨お伝えいたします。
メイナ技能士が他国の式典の参加する場合、
メイナース議会の許可が必要ですから」
急に顔をこわばらせる王妃。いきなり国王にキッと視線を向ける。
「すぐに皇国に連絡をし、必ず出席していただけるように手配願います!」
国王は疲れたように”わかった、わかった”と手をふる。
「それでは式典の日時は後ほど伝えますわ。
何も準備などなさらなくて大丈夫ですから」
王妃がにこやかに言ってくる。
是が非でも出席させるつもりなのだろう。
「これで良いか?」
シェーナ王妃にそう言って去っていく国王。
返事もうなずきもせず、見送りもしない王妃。
この二人、仲が冷え切っているのがわかるが、
他国の者の前でくらい、なんとかならないのか?
王が出ていくと、シェーナ王妃は私のところに近づいてくる。
「まだ出席できるかはわかりませんが」
私がそう言うと、王妃はフフフと笑い、
「実はね、式典でデレクの婚約者を皆様にご紹介いたしますの」
そうなんだ! 私は森で泣き叫んでいたあの娘を思い出す。
あれからお茶会を済ませ、王妃と話し、
婚約することを了承したのだろうか。
まあ王妃に直接命じられたら、この国の娘は断れないだろうなあ。
「ご婚約おめでとうございます。お喜び申し上げます。」
「フフフ、だから安心して出席なさってくださいね」
去っていく王妃を見ながら、私は何かモヤモヤとした気持ちでいた。
早く皇国に連絡を取らねば。
************
部屋から出ようとしたら、出口に第二王子が立っていた。
いつも第二王子って呼んでるけど、
この人の名前……確かジョセフ王子だっけ?
ビディア宮殿に騙されて連れて行かれた時、
助けてくれた以来だ。
「その節はお助けいただきありがとうございました」
私が礼をすると、彼はあくまでも表情を変えずにうなずく。
そして周囲を軽く見渡して言う。
「ちょっと良いか? 聞きたいことがある」
私たちは人を避けた場所に移動した。
「単刀直入に尋ねるが、君は兄上との結婚を望んでいるのか?」
その単刀直入さは皇国好みだが、内容は最悪だ。
「それは絶対にございません。皇国に婚約者がおります」
私が早口でそう言うと、ジョセフ王子は笑った。
「たとえ婚約者がいなくても、兄上など嫌だろう」
この人、本当にズバズバ言うなあ。
こんなんで対人関係、大丈夫なのか?
「兄上の妃候補として、久しぶりに国内の貴族の娘が選ばれたんだ」
「……存じております。直接私のところに来て号泣されていました。
私が結婚を了承しなければ、自分が選ばれてしまう、と」
ジョセフ王子はまたもや爽快に笑う。
「それはそうだろうな。泣くほど嫌だろう。
あの娘、確かメイジー伯爵令嬢といったか。
彼女はよほど困ったのだろうな。
兄に対して”君に会ってその気持ちを代わりに聞いてきた”と言ったそうだ」
私は驚く。会ったのは事実だけど、気持ちって?
「私は結婚するつもりはないと言っただけですが」
「確かにその通りだ。しかし、その理由があったぞ。
”私とは身分が違いすぎます”と悲し気に言ったそうだな?」
明らかに嘘だとわかっているせいか、冷やかすように私に言う。
あの貴族の娘! メイジーといったか! 絶対に許さん!
デレク王子に嘘の供述をしたな!
「そんなこと言ってないし、思ってもいません!」
他人事だからか面白そうに、ジョセフ王子は言う。
「”だから自分は身を引くつもりだ”とも言ったと。ハハハ。
これを聞いた兄上はもう有頂天で、周囲の者に言って回っているんだ。
”やはり、あいつは俺のこと好きだったのだ!”だってハハハ」
冷え冷えとした私の目に、咳ばらいし、軽く謝罪するジョセフ王子。
「否定しておいてくださいますよね?」
脅迫めいた圧を出しながら私がいうと、王子はうなずき、
ちょっと考え込んだ。
「もちろん否定しよう。国の恥だからな。
しかし、その代わりといってはなんだが、頼みがあるのだ」
急に真面目な様子に変わった。なんだろう。
「皇国の知識や技術を用いて、この国の妖魔を調べてもらいたい」
私は目を丸くする。この人、何か気付いているのだ。
「ここ数年、妖魔の襲撃が増えたのは本当だ。
でも自分たちが昔から知ってる妖魔とは、
行動も見た目も、何かがちょっとおかしいのだ」
王子はそこで言葉を切る。私の反応を見るかのように。
私はうなずく。やはり、この国の妖魔はどこかおかしい。
「この国はメイナも妖魔も不得意だ。
自分たちでいくら調べてもわからないだろう。
だから皇国が介入すれば、きっと調べてくれるのでは?
と考えていたのだが……」
しかし皇国は妖魔自体を調べる以前に、
妖魔の行動ばかり調べることに力を注いだ。
こちらとしては古代装置の調査を優先した結果なのだが
それがとてもじれったかったようだ。
しかも妖魔対策はデレク王子が無理やり担当になったため、
自分の介入を一切許してもらえなかったんだと。
「兄上は業績をあげることに血眼になっているからな。
私に成果を取られるくらいなら、皇国を追い返し、
国民に被害が出たとしても”自分の仕事だ”と離さないだろう」
私は念のため尋ねる。
「ルシス国で調査はなさらないんですか?」
「俺は合理主義なんだ。プロに任せるのが一番だろ」
まあそうだけど……口ごもる私に、王子はいう。
「ラピアという魚は知っているな? この国の収入源だ。
この魚が万が一にも取れなくなっては困るのだ。
この件は確実に処理しなくてはならない」
「妖魔と何か関係が?」
王子は声をひそめて、まだ未確定だが……と言いながら
「この魚はフィレル湖にしかいない。
そして特におかしな妖魔が現れるのは、あの湖の周辺なんだ。
まあラピアの存在自体、年寄りたちは不気味がっているんだがな」
そうなんだ。
クレオに預けたピロピロくんも、
確か湖の周辺にいた妖獣トリプドから生えていたものだ。
「ラピアについて調べても良いでしょうか?」
私がそういうと、ジョセフ王子は眉を曇らせた。
「フィレル湖の中央にある寺院と、ラピアの養殖所は国営なんだが、
湖の周囲は公爵家の領地なんだ。
つまりあの場を調べるとなると、王妃の実家の許可が必要になる」
それはちょっと、面倒なことになりそうだな。
いろいろ借りをつくることになりそうだし、
作業にデレク王子がしゃしゃり出てくる可能性もある。
今度は私が苦い顔をしていたら、
ジョセフ王子はクールな顔つきで恐ろしいことをサラッと言った。
「本当に兄上は国にとって不利益だな。
あいつは早く、完全に排除しないと」
さっきまで軽快に、そしてざっくばらんに話してくれた彼だが。
ときおり見せる残酷なまでに合理的で現実的な面は
身近な誰かを深く傷つけることはないのだろうか。
私は彼の言葉に不穏なものを感じ、何も言えずに立っていた。
最後までお読みいただきありがとうございました。