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4-11.容疑者の逮捕

 11.容疑者の逮捕


 ルシス国の対策委員が、妖魔を誘導する機能を持った古代装置を

 アウグル国の武器製造職人たちにばらまき、

 それを彼らに使用させ、

 わざと国内で混乱を招いていた、という事実。


 どのくらいの人間がこの件に関与しているか調べるため、

 私は、対策委員たちに会うために城へと向かった。

 名目はあくまでも”調査の経過報告”として。


 もちろんデレク王子が公爵家に滞在していることは確認済みだ。

 未だに、私が許可証を取りに来るのを待っているのだとしたら

 あまりにも残念過ぎる話だ。

 ……本当にこの国の王としてやっていけるのか? 彼は。


 歴史的にも”未婚の女王”がいたくらいなんだから

 既婚・未婚などどうでも良い話だし、

 能力や資質も、周囲のバックアップさえあれば何とでもなる。


 しかしデレク王子は、それ以上に問題があるだろう。

 私は他国のことながら、ため息をこぼしてしまった。


 ************


 私は城に到着し、久しぶりに対策委員の面々と会合した。

 以前は何も思わなかったが、全員怪しく思えてくるから不思議なものだ。


 しかし話せば話すほど、彼らは無関係なのでは? と感じられた。

 損害に対し、本気で嘆いているし、

 身内の畑に実害をこうむった者もいる。

 そうなると、例の公爵家の侍従だった年配の男の単独犯なのだろうか。


 しかし様子を伺おうにも、その対策委員だけ不在だったのだ。

「あの方の担当は何をなさっている方でしたっけ?」

 私がそう尋ねると、聞かれた人は苦笑いをしながら

「あの方? ああ、ホランド様ですね。

 ホランド様は、デレク王子の補佐が担当ですので、

 対策委員としての任務は特にございません」

 と答えた。デレク王子、何もしてなかったのにね。


「では王子が登城しない日はいらっしゃらないのか……」

 と私がつぶやくと、

「まあお二人とも、登城されても滅多にお会いしませんし、

 お話することもありませんけどね」

 と、興味なさそうに答える。

 そうなると単独犯の可能性は高まるなあ。



 そんなことを考えながらの帰り道。

 城の出口にある庭園で、

 この国の貴族の娘たちが集っているのに出くわした。


 会釈し通り過ぎようとする私を見つけ、

「あら、あの方よ!」

 と叫び、ニヤニヤ笑っている。

 その声の主は、森で号泣していた貴族の娘だった。

 確かメイジー伯爵令嬢と言ったな。


 そういえば、王子に

「身分が違いすぎるから泣く泣く身を引く」

 と私が言っていた、などと嘘をついた娘だ。

 急に怒りが湧いてくる。ひとこと、言っておこうかな。


 彼女は、周囲の友だちらしき娘に耳打ちする。

「信じられないわよね?」

 メイジー伯爵令嬢はそう言ってクスクス笑っている。


 そして今度は私を呼び止め、

 メイジー伯爵令嬢はとんでもないことを言い出した。

「ねえ、あなた。皇国の貴族と婚約してるって話、実は嘘でしょ?」

 なんだ、それは。私はあきれ顔で答える。

「いいえ。もう二年前、婚約いたしました。

 皇国のどなたに確認してくださっても大丈夫です」

 私がそう言うと、周囲の娘たちはあれ? という顔になる。


 メイジー伯爵令嬢はかんしゃくを起こしたような口調で

「まあ! 認めないのね。この子、ホント嘘つきだわ。

 だって、そんなわけないじゃない。

 ただのメイナ技能士が、皇国の貴族と婚約なんてありえないでしょ」

「他国の王子が相手よりかははるかに現実的ですわ」

 私にすぐに言い返され、目を吊り上げるメイジー伯爵令嬢。


「見栄をはるのもいい加減になさったら」

「こんなところで見栄を張る意味がございません」

「虚言癖があるのね? もしかして妄想癖?

 何にしても、いい加減、現実を受け入れることね。

 これは、あなたのための忠告ですわよ!」

 それをお前らの王子に言ってやれ! と叫んでやりたい。


 そんな気持ちを押さえつつ、

「もちろんですわ。現実逃避など、意味のないことですから」

 と答える。彼女はいぶかし気に、言葉を続ける。

「本当にお分かりになっていただけたの?」


 あんなに嫌がって泣いていたのに、

 この国の貴族として、デレク王子の妃になる決心をしたのだろう。

 もしかして彼女は、デレク王子の婚約者候補だったなどと吹き込まれ

 しなくても良い嫉妬をしているのだろうか。

 なんにしても私を目の敵にしているのは間違いない。


 私は彼女をなだめるように笑顔を作って、

「どうか私のことなどおかまいなく。

 この国に滞在するのは、おそらくあと僅かですから」

 そういってその場を立ち去ろうとした。


 すると彼女は一瞬顔をしかめ、何か言いたげな口元になった後、

 思い直すかのように黙り込んだ。

 そして、私を上目づかいに見ながら言った。

「良くって? どんなに虚勢を張っても権力には逆らえないの。

 運命を受け入れて、大人しく従うしかないのよ……」


 自分に言い聞かせているのだろうか。

 私は彼女を悲しく思った。

 私はどのみち、権力も運命も丸無視するタイプの人間なのだ。

 もし本当に嫌なら、何かしら方法があるだろうに。


 形だけの笑顔で挨拶し、その場を離れた。

 その時は、メイジー伯爵令嬢の言葉が、

 私に向けた言葉だったとは、思いもしなかったのだ。


 ************


 ここはアウグル国。


 黒いフード付きマントをまとった年配の男が、

 人が賑わう市場を抜け、こちらにやってくる。

 そして周囲を見渡し、誰も自分を見ていないことを確認した後、

 私たちの潜む、このテントに入ってきた。


 年配の男は、テント内に座り込む、

 肩にルドヨウムを乗せた作業着の男に話しかける。

 どうやら顔見知りらしい。


「ヨルダ、最近どうしたんだ? 全然、()()してないだろう」

 ヨルダと呼ばれた作業着の男は、

 妖魔の駆除に使う部品を作る作業をしている最中だった。

 金属を削った際に飛び散る破片を避けるため、顔にシールドを付けており

 くぐもった声で返事をした。


「うまく捕まえられなくてね。だいぶ無駄にしちまった。

 ……もう無いのか? ()()

 肩の(ルドヨウム)の首をかきながら、男が答える。


 年配の男は、やれやれという顔つきで懐から古代装置の”針”を出す。

「高いんだから、大事に使ってくれよ」

「おお、ありがたい。……まあ、任せてくれよ。

 ついでといってはなんだが、仲間で、

 金を払っても良いから欲しいって奴がいるんだ。

 それ、もっとたくさん手に入らないか?」

 作業着の男が尋ねる。

 ルドヨウムは落ち着きなく頭をキョロキョロさせている。


 年配の男はちょっと興味を持ったようだ。

「その男は”捕まえる”のは上手いのか?」

「ああ、仲間内では一番だな。たぶんたくさん()()ぜ?

 だから、あるだけ売ってくれよ。

 どのくらいの数、すぐ用意できる?」

 肩のルドヨウムが羽をばたつかせる。……もう少しの我慢だ。


「100セットくらいなら……」

 そこまで言って、年配の男は目を見開く。

 ルドヨウムが急に、肩から飛んでいったのだ。

「待て……お前は……ヨルダじゃないな?! 誰だ!」


 ルドヨウムは決して、主人の指示なしに飛んだりしない。

 勝手に離れるのは、主人ではない者の肩に止まらされ、

 耐え切れなくなった時のみだ。


 シールドを外すと、それはアウグルの男の顔ではなかった。

「お前は、誰だ」

 震える声で、もう一度繰り返す、年配の男。

 彼はすでに周囲を取り囲まれていることにも気が付いていた。


 テントの奥から、私とリベリア、クルティラが出てくる。

 さっきまでルドヨウムを肩に乗せていた男は、

 声帯模写や模倣が得意な皇国の工作員だ。

 ヨルダはとっくに逮捕され、皇国に拘留されている。

 その彼の声や仕草、そしてルドヨウムを拝借したのだ。


「古代装置の保持の現行犯で逮捕します」

 私がそう言うと、年配の男、

 つまりルシス国の対策委員ホランド氏は、

 ゆっくりと膝から崩れ落ちていった。


 ************


 ホランド氏は、デレク王子の乳母だった人の父親だ。

 もちろん王妃の実家の公爵家につながっている。

 先祖代々、長く公爵家に仕えており、王妃の信頼も厚いことで有名だった。


 彼の供述は、おおむね予想通りのものだった。


 なんの業績もない王子を心配して作戦を思いついたと。

「王子が対応した妖魔対策によって被害が減少すれば、

 それは立派な成果として認めてもらえるのではないか。

 そう、思ったんです」

 ……その思いとは裏腹に、臆病で面倒くさがりの王子は

 けっして現場には向かってくれなかったのだが。


 今まで見つからなかったのは、”任務”といいつつ、

 ホランド氏が現場に残された証拠を必死に隠ぺいしていたようだ。

 今回、私が国外追放されたことで、

 皇国が独自で調査することができたため、やっと発覚したのだ。


 彼は、自分がひとりで考え、ひとりで実行したと譲らなかった。

 この古代装置をどこで手に入れたか、という問いには、

「時々王国を訪れる旅の商人ですよ。

 だから名前も素性もわからない、顔も覚えてない」

 と目をそらすのだ。そして、

「早く自分を皇国に連れていき、牢に入れるなり好きにすれば良い」

 と言い捨てた。そして何も語ろうとはしなくなった。


 私たちはその姿を見て、

 彼は初めから、自分の身を犠牲にするつもりだったことを悟った。

 バレた時は、一身にその罪を背負うつもりだったのだろう。


 しかしそれは自分の想いなのか、

 それとも王妃に命じられて行っているのかがわからない。


「どちらにせよ、彼一人の単独犯というのは不自然よ」

 クルティラの言う通りだ。

 何故なら、今回の古代装置は、聖女の一件で使用されていたような

 古めかしい”遺物”などではなく、機能を簡易化された新しい製品だ。


 破滅の道化師たちはどうやら、

 安価で気軽に使える古代装置を、量販する方向に切り替えたらしい。

 とにかく早く、一般に普及させたいのだろう。


 しかしそれでも、皇国が常に目を光らせている以上、

 まだまだ一般民が手にするのは難しい存在なのだ。


 何もかも諦めた様子のホランド氏を悲し気に見て、リベリアがつぶやく。

「絶対に、裏に誰かいるはずですわ」


 もっともっと、悪い奴がいて、

 それは忠実な家臣をトカゲのしっぽのように切り捨てて

 平然と生き延びるつもりなのだろう。


 もちろん、そんなの絶対に許さないけどね。



最後までお読みいただきありがとうございました。

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