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ツンデレ誕生 6話目

「あ、あの、やっぱり……」


「そうじゃ、言い忘れていた。ツンデレを極めれば、推しもソナタに夢中になるぞ。推しがいればじゃがな」


「────!?」


 推しまでもが私だけのモノに……。


 そんな夢のような話、本当なら安いくらいよね。


 でも、本当にそんなことあるのかしら。


「迷っているのなら、これを見るとよい。実際にツンデレをマスターした人の体験談じゃ」


 女性から雑誌を受け取ると、私は体験談のページを開いた。


 そこには書かれていた内容とは──。


『ツンデレをマスターしたら仕事が増えて、ドラマや映画の撮影で毎日が嬉しい悲鳴です。ホント、ツンデレ道場に通ってよかったです。 女優 Mさん』


「えっ……。この写真、このイニシャル、まさかあの有名な……」


「どうじゃ、ツンデレの力を信じる気になったかの?」


「はいっ、私──ツンデレを極めます。お金はその、十回払いにしたいんですけれど……」


「それで構わないぞ。契約……成立じゃな。書類の記入とハンコを押せば今日のところは終わりじゃよ。ハンコがなければ、サインでもいいぞ」


 こうして私はツンデレ道場に通うようになった。


 お金は次回持ってくればいいと言われ、パンフレットだけ貰うと、私はこの怪しい空間から下界に戻っていった。



 翌日、私はなけなしのお小遣いを持って、あのツンデレ道場へ足を運んだ。パンフレットによれば、期間は早くて一ヶ月、遅い人でも一年以内にはツンデレをマスターできるとのこと。


 今日は初日、どんなトレーニングが待っているのか。私の心は、澄み切った青空のように晴れ渡っていた。


「お邪魔しまーす。あのー、昨日の方ー、いませんかー」


 暗闇をスマホのライトで照らしながら進む。これは、昨日学習したばかり。スマホを手に持っておけば、暗くなってもすぐライトをつけられる。


 さすがに二日連続で同じ過ちをするとか、ドジっ娘属性は私にはないのよ。


 だいたい、ドジっ娘なんて私にあったら──ただの痛い子じゃないの。


「返事がないなー。いったいどこに……」


 昨日の女性が見当たらず、スマホライトで周囲を探し始める。すると……。


「待っていたぞ」


「きゃーーーーーーーっ」


 照らした先に顔だけが浮かび、私は反射的に悲鳴をあげてしまう。そのまま尻もちをつき、しばらく立つことすらできなかった。


 鼓動は激しいリズムを奏で始め、吊り橋効果で私は恋に──落ちるはずなどない。


 完全に頭がパニックとなる中、部屋の灯りが突然ついたのだ。


「まったく、これしきのことで驚くとは情けない。近頃の若い者は、肝が据わってると聞いておるのに」


「肝が据わる以前の問題ですよ! 暗闇で顔だけ見えたら、誰だってこうなりますからっ!」


「さて、それではさっそく、ツンデレ修行に取りかかるとしよう。ワシのことは、ツンデレマスターと呼ぶがよい。それと、修行中はこの聖なる装束を着るのじゃ」


 聖なる装束って……ただのジャージじゃないですか。


 しかも、胸の名札は縫いつけられて、手書きでツンデレとか……。


 でも、ツンデレをマスターするためにも、ここはガマンよ。きっと、見た目からは想像できない高級品かもしれないし。


「あ、あの、着替えはどこですればいいんですか?」


「安心していいぞ、ちゃーんと、更衣室があるからの。ほれ、あそこがその更衣室じゃよ」


 女性が指さした方向には、手作り感満載の更衣室が見える。いや、更衣室というよりは、カーテンで遮られた空間、と言った方が近い。


 普通なら不信感が募りそうだが、私の心はツンデレの魅力に取り憑かれ、これも修行の一環だと思っていた。


 茶色のジャージに着替え終わり、ゆっくりと女性のもとへ戻り始める。明るくなった部屋を見渡すと、私の瞳には数多くの怪しげな健康器具が映っていた。

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