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ラゼルの青の遐福  作者: あいせ
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ラゼルの日常

 空が暁を迎えて、街を照らし出すその光景。

 幾度となく見慣れていても、なお美しい。


 リビングに待つミレイアさんとテオさんに朝の挨拶をして、一緒に朝食を食べる。そして、のんびりとする少しの時間。

 これが、私にとっての1日の始まり。



 お店に降りて、ハタキで窓や上の埃を落としたら、次は箒ではいていく。窓を拭いたら床を軽くモップで拭きあげて、テーブルと椅子を綺麗に並べる。そのテーブルと椅子を拭いて観葉植物をふく。そして、机や椅子の下へ荷物カゴを入れていく。

 そこまでの作業をこなしたら、ミレイアさんはカウンターの中へ。

 ミレイアさんがカウンターの中に入るのを見送りながら私は店の外に回って、看板やサンプルケースの窓を拭き、中を軽く乾拭きする。


 それが終わればカウンターの中に入って、ミレイアさんのお手伝いを始める。

 焙煎の終わっている豆を順番に挽いて、瓶の中へ詰める。

 ラベルライターのラベルを張り付けて、順番に棚へ。棚へ詰めている時にミレイアさんが機械を拭いているのが視界に入る。

 それを見ながら、コップやお皿などの軽い食器やカトラリーを横に並んで拭いていく。この時のキュッと音を立てるカップの音が好きだったりする。

 時折合う目は優しい色を宿していて、合うたびにふわりと花が咲くように笑いかけてくれる。それを繰り返していれば、厨房からはテオさんが楽しそうな声に釣られたと飲み物を持ってやってくるのだ。


 コップに注がれたドリンクはその日の日替わりの生搾りジュースのうちの1つ。今日はミックスジュースだった。

 バナナやリンゴがメインのそのジュースは少しとろりとしていて、飲み込むたびに美味しさが喉をすり抜けていく。


 そのジュースを飲み終われば、ミレイアさんと一緒に厨房へ。

 その日のデザートを最後の飾り付けの状態にして、ウォークインへ。テオさんの料理の下準備が終われば、開店時間はいつも10分前ほど。


「それじゃあ、今日もよろしくね。2人とも」


「よろしくね〜」


「はい!」


 テオさんとミレイアさんの言葉に返事を返す。

 ミレイアさんが外に吊ってあるドアプレートのcloseをOpenへ。そうして、1日の営業のスタートだ。





「いらっしゃいませー!」


 ドアベルが知らせる、入店の音に反射と言ってもいいくらいの言葉が出る。


「空いているお席へどうぞ」


 店内を見えるように案内すれば、入ってきたお客さん達は自由に席に座った。


「おはようございます。こちらメニュー表です」

 

 手に持った、お水と温かいお茶。そしてポットを置きながらメニュー表を渡し案内を続ける。


「本日のおすすめセットはフレンチトーストとスクランブルエッグにミニサラダ。そしてコーヒー、紅茶のセットになっております。・・・ご注文はお決まりでしょうか?」


 メニューの1番初めに入ってあるイラスト付きの本日のおすすめ。と書かれた紙を案内しつつ注文を伺ってみる。


「じゃあ、おすすめセット2つを」


「お2つですね。はい。かしこまりました!」


 指で作られた2つを真似して、2つを返す。1つお辞儀をして、そのテーブルを離れれば、向かうはテオさんのいる厨房だ。


「テオさん、おすすめセット2つ、お願いします」


 同じように2つを作ってテオさんにアピールするとテオさんもまた同じように指で作った2を振りかえしてくれた。


「2つだね」




 そうやって、働いているとお昼をまわる頃。ミレイアさんに呼び止められる。


「お昼。先にいってらっしゃい」


 とのことだった。


 完全に店を開けることができないため、ホールの私とミレイアさんは交代しながら昼食を取るのだ。

 カフェのためか、お昼よりも朝やお昼過ぎの方が客足が伸びるため、お昼くらいになるとミレイアさんが先にお昼を呼びにきてくれるのだ。


「ありがとう!」


 お礼を言って、厨房に入り込むとテオさんが待ってましたとばかりにご飯を机の端に並べていく。


 並べられる食事は全てテオさんの手作りで。

 普段はミレイアさんのご飯だけれど、働いているお昼だけはテオさんのご飯なのはちょっとした特別感があって気に入っていたりする。


「いただきます!」


 プレートに盛られた麦ご飯とタレの絡んだ手羽先。そして、添えられたサラダたち。どれも絶品だ。

 黙々と食べ進めていく途中で熱心な視線に気づく。

 チラリと振り返った先にはこちらをじっと見つめるテオさんだ。


「どうしたの?」


 首を傾げて、問うてみるとテオさんは眉を下げて申し訳なさそうに謝った。


「ごめんね。そのお昼ご飯、試作品なんだ。カフェの新しいメニューにしようかなって思って。美味しいかい?」


 納得である。普段、食べている姿を凝視するということをしないテオさんが。とは思っていたが私の反応を気にしていたのだ。


「美味しいよ!」

 すぐにでもカフェのメニューに出せるくらいに。


 素直にそう伝えると、テオさんはほっと安心したように一息吐いた。


「ラゼルがそう言うのなら安心だね。メニューに本格的に考えていくよ」


 テオさんはそう言うと残っている注文のサンドウィッチへと取り掛かっていった。


 残っている昼食を口の中に入れながら、これがカフェのメニューになることを思う。カフェのメニューは今は2/3はパンメインが多い。それは、この国の主食がパンだからではあるが、ご飯も人気の層には人気である。

 前々から、ご飯もののメニューを増やしたいと言っていたテオさんに取ってはとても大事なメニューなのだろう。


 ご飯ものは、基本的に断続的な人気を誇るパンに比べて食べる人に揺らぎがある。が、このご飯はきっと今後の人気メニューに仲間入りしてくれるだろうと思うほどの美味しさだ。


 食べ終わるのが名残惜しくなるほどに。


 残り一口というところで、そんなことを思ってしまう。

 ミレイアさんの昼食の時間もあるが為に、出来はしないけれど・・・。

 最後の一口を口の中に押し込んで、手を合わせる。


「ごちそうさまでした」


 私のその言葉に、そっと横には温かなお茶が差し出される。


「ありがとうございます」


 そっと手に取ったお茶は程よい温かさで、少し冷たくなった指先を温める。

 喉を通る熱が身体を暖めていくのを感じながらほっと息を吐き出す。食後のこのほっとするこの瞬間は、ミレイアさんの家に来てから教わったものだ。


 飲み干したカップを洗い場で流して、籠へ直せばエプロンを付け直して立ち上がる。


「午後も頑張ります!」


「はい、よろしくね」


 独り言のつもりの言葉にいつも返事をしてくれるテオさんのお陰で、いつのまにか独り言ではなくなっていた言葉。

 のれんをくぐり抜けてカウンター内に出ると、店内には1人のお客様を残してミレイアさんだけだった。


「ミレイアさん!」


 呼び止められたミレイアさんは、承知しましたとばかりに頷くとすれ違うように中へ。



 午後のまちまちとしたお客さんを相手にしていると時刻は一気に閉店の時間だ。

 午後の鐘が鳴れば、それは閉店の時間を表している。


 最後のお客さんを見送り、ドアプレートをcloseに換えると、一気に閉店作業の始まりだ。


 掃き掃除をして軽く拭いていく。

 使い切らなく残った豆は、テオさんやミレイアさんの食後に飲むコーヒーとして使わない分は廃棄となってしまう。

 コーヒーの粉を捨てた瓶からラベルを外して、洗浄機の中へ入れて一気に洗浄していく。その間に棚を片付けて、コーヒーの機械2台を棚へ。


 私の作業のその間に、ミレイアさんは店の売り上げを数えて業務日誌を付けていくのだ。


 その日誌を付け終われば、ミレイアさんも一緒に片付けに入る。



 全ての作業が終わる頃には17:30を回っていた。


 ここから、ミレイアさんは家に戻って夕食の準備に取り掛かるのだ。それを横からお手伝いを申し出て、一緒に作っていくのが、働いた日の私の最後のいつもの流れであり、楽しみでもあるのだ。



 今日の献立は丸パンとビーフシチューだ。

 パンはすでに焼くだけの状態にしておいたものを予熱したオーブンで焼く。その間に、私が野菜を剥いて、ミレイアさんが切って水にさらしていく。

 それが終われば、バターでお肉を焼き、その中へ野菜を入れて更に数分炒めれば、赤ワインやソースなどを入れてグツグツと煮込んでいく。蓋をして圧力で煮込んでいる間に焼けたパンを網に載せ替えて、粗熱をとっておく。


 パンの粗熱が抜けた頃がビーフシチューの食べごろだ。



 3人で夕食を食べ、食後のデザートにはミレイアさん特製のゼリーを食べた。その後は、お茶を飲みながら他愛のない会話をすれば、順番にお風呂に入って就寝する。



 それがここに来ての私の日常。

 わたしの、当たり前になってきた日常だった。


 

 

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