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ラゼルの青の遐福  作者: あいせ
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ラゼルの回顧


 真白の美しい色を持つ教会は踏み入れた先でも美しい白を輝かせていた。

 けれど、そこらかしこに青が散りばめられていた。

 青はミシュランドの色を冠す色。それを散りばめると言うことは、ここはミシュランドを祀る場所だと表している様に見えた。


「綺麗。・・・それに」


 美しい見た目をそのまま、口に出す。

 そして肌を刺激するほどの神聖な魔力。おそらく、間違いなく。


「ミシュランドの魔力を感じる?」


 思っていたことをそのまま、アルメリアに口に出されて静かに頷く。


「ミシュランド王国に現存するミシュランドを祀ると言われている全ての教会にミシュランドのカケラが存在しているわ」

 ・・・どこにあるかは、秘匿されているけれど。


 静かに告げるアルメリアの言葉に納得する。

 そこらかしらから漂うミシュランドの魔力の気配は、特定はできない。


 特定されるということの危険性は理解しているつもりだ。

 もしも特定されるということは、ミシュランドのカケラを持ち去られる危険があるということ。持ち去られたなら、何に使われるか。それは、おそらく。悪用。それは決してあってはいけない。国を守る秘石が国を傷つけることなど、あってはならないのだから。


「ラゼル」


 柔らかな声が私の名前を呼んだ。


 振り向いた先、ゆったりとした動作で私の奥を指差すアルメリアがいた。


「うわぁ。すごい・・・」


 指の先。祭壇の奥には、壁の高さ一面に広がるパイプオルガンがあった。

 大きさ、美しさ、その全てに圧倒される。


「実は、この街でも年に一度ミサがちゃんとあるのよ。あのパイプオルガンはその時に使用されるわ。一度聞いてみるといいわ。洗礼の儀も同時に行っているから、その時には王都から専用の祭司様が訪れるのよね」


 アルメリアの言葉に、頭の中に美しい光景が蘇る。



 流れいでるパイプオルガンの音。聖女達が奏でる讃美歌。

 そして、ルシフェルの秘石の美しい輝き。


 白が基調とした建物の中で、純白の衣を纏う祭司達が聖花を使って洗礼の儀を執り行うその姿。

 巡礼者たちへルシフェルの力の込められた聖具による息災を祈る刻印。


『あなたに神の御加護を』


 司祭たちのその言葉を皮切りに光り輝く聖具はルシフェルのチカラを巡礼者へと。祝福を授けるのだ。

 何度も見てきたその光景たちがまるで目の前に広がっていくように見えた。


 聖女たちが祝福を祈る中。

 最高位の聖女として、鎮座して見守る私。


 あの時は、ただただ、人々の幸せを願っていた。

 健やかに生きられます様に。武運がありますように。

 開運を願い続けていた。


 今のは私は、人々に何を願うのだろう。


 幸福?武運長久?無病息災?


 大切な人。知らない人。皆すべての人に等しく。

 なにを願っているのだろう・・・。



「・・・ゼル?ラゼル?」


 ふらりと、肩が揺れる。


 振り返った先には不安に揺れる瞳のアルメリアがこちらを静かに見つめていた。


「アルメリア・・・?」


 小さく名前をつぶやくと、アルメリアがほっと息を吐き出したのがわかった。


「ラゼル、大丈夫?いきなりぼーっとしてたから、びっくりしたわ。体調が悪い?」


 アルメリアの手が額に優しく触れた。

 自身の額にも手を当てるその姿はまるで幼い子供の熱を測る姿の様だ。


「熱は・・・、ないみたいだけど。体調が悪いのなら、今日はもう帰る?」


 思っていた行動だったことに、びっくりしつつ、優しい言葉たちにそっと首を振る。


「ううん。ごめんね。大丈夫だよ。・・・ちょっと教会にびっくりしちゃっただけだよ」


 なるべくアルメリアが安心できる様にと笑ってもアルメリアの疑いの瞳のまま、こちらを見つめていた。


「・・・本当に、大丈夫だよ」


 無理に笑う姿じゃなく、ただ、ゆっくりと目を細める。

 貴族であるアルメリアは、作った笑顔が分かってしまう。だから、自然な私自身の笑顔で笑って伝える。

 その笑顔にか、アルメリア肩の力を抜いた。


「信じるわ」


「ありがとう」


 優しく微笑むその笑顔に感謝を述べる。



「上にも上がれるのよ。行ってみる?」


 しんみりとした空気を吹き飛ばす様な明るい声で問いかける、アルメリアの魅力的な言葉に、気がつけば即座に頷いていた。


「行きたい!」


 食い気味の私の返答に笑ったアルメリアはそっと私の手を取った。

 祭壇の横の扉をくぐり抜けた左側。螺旋を描くその階段は姿を表した。


 数段踏み入れて少しすると、明るい光が一気に差し込む。

 光の正体は、ステンドグラスをくぐり抜けた美しい太陽の光だ。


 そして、光を通すステンドグラス達は、神聖な雰囲気を保ったまま、じっと鎮座していた。

 見たことのある色味を持つそのステンドグラスのイラストを眺めていると、足を止まったことに不思議に思ったのか。

 アルメリアがゆっくりとこちらを振り返った。


「・・・?」


 不思議そうな瞳のまま、私の視線をたどったアルメリアは納得が言った様に笑うと、私の隣に並んだ。


「ミシュランド。ラミエール。ウェルテ。ガルテア。そして、ルシフェル。国を守る5つの秘石ね。そのうちの一つ。ミシュランドこそが、我が国の歴史であり、誇り。そして、我が国の全て。・・・そう、この国の貴族達は教わるわ」

 もちろん、私もそう教わったわ。


 青く美しい輝きを秘めた1つのステンドグラスを見つめたまま、目を細めるアルメリアは、何を思うのか。

 悲しそうな、嬉しそうな。さまざまな感情が混ざり合った、複雑な瞳で見つめていた。


 声をかけることの躊躇う瞳に視線をもう一度、ステンドグラスへと戻す。

 ミシュランドの隣に鎮座する5つの中で唯一色の保たない秘石。ルシフェルを見つめる。


 思い浮かんだ情景の中で、七色の色を放つルシフェルは、ステンドグラスの中では白銀の色を纏っている。恐らく他国から見たルシフェルの(いろ)なのだと、初めて知る。

 すべての色を持ち、何の色をも持たぬルシフェルはおそらく白銀の色であるとそう思われているのだろう。


 触れられるほどに近くにあるのに、決して触れることのできない光。

 そっと伸ばした手は、光をすり抜けて自身の手に光を写しただけとなった。


「ラゼル?」


 その行動を眺めていたのか、アルメリアは不思議そうに私名前を読んで首をかしげていた。


「綺麗で、触れるかなって」


 本当は、ルシフェルという光にもう一度触れたいと思った心の行動だった。

 けれども、それを悟られないために嘘をつく。

 本当に少し思っていたことだ。この綺麗な光に触れたいと。だから、真実味を持ったその嘘にアルメリアはおかしそうに笑っていた。


「ふふふ。そうだね。綺麗だから触れてみたくなるよね」


 そう言って、私と同じ様に手を伸ばしたアルメリアの手には美しい青が映り込んでいた。


 掴めない光に、2人で笑ってまた階段を登る。


 短い階段はあっという間で、登り切った先には広い青空が広がっていた。


「すごい!街が全部見えるー!」


 眼前に広がる光景は、このミラーレ教会を中心に栄えるクウェンデという街が円形に広がっていた。


「でしょう?私のとっておきのスポットの1つなのよ」


 嬉しそうに笑うアルメリアに何度も頷いて同意する。

 本当に綺麗な光景だ。

 青い空と白を基調とした街。遠くに見える碧の海。


 手を広げたら、全てが手に収まりそう。


 そう思ってしまう。


「全部が手に入ってしまいそうに思うでしょう?」


 まるで、心を読んだかの様な言葉に驚きつつも頷くと、アルメリアは目を細めた。


「私も、初めてきた時は同じことを思ったわ。そして、この街を治めていく家の者として恥じない生き方をしようと決めたのよ」


 覚悟の宿る瞳で見つめられて、まるで自身の気持ちもすっと入れ替わる様な気がした。

 あの、聖女と呼ばれた頃の自分が呼び起こされる様な、そんな。


「そう。頑張って、アルメリア」


 呼び起こされたラゼンシアが、言の葉を紡いだ。

 祝福であり、呪いでもある。ラゼンシアの言の葉に笑って頷くアルメリアの何と強いことか。


 この地域に生まれ育つ人が羨ましいと思う。

 未来を背負うこの小さな少女に、これ程までに思われるこのクウェンデのなんと、素晴らしいことなのだろう。



 今日この日を何があろうと忘れたくないな。そう、思った。

 


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