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ラゼルの青の遐福  作者: あいせ
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ラゼルの水族館

 眠い目を擦って目覚めた朝。ほんの少し蒸し暑くなってきた朝に、近い夏の訪れを感じる。

 青の小鳥を連れた朝食の席。ミレイアさんはにこにことした笑顔で私に予定を尋ねた。


 頭の中でメモしてある予定をひっくり返していく。アルメリアと次に予定があるのは、四日後。

 特に予定のない私は首を振って予定がないことだけを伝えた。


「空いているのね!?

それじゃあ、決まりだわ!」


 はしゃぐ様にして手を叩いたミレイアさんの行動がわからずに首を傾げるとテオさんが困り顔で笑いながらミレイアさんを止めた。


「ミレイア、説明していないから、ラゼルが困っているよ」


「あらあらあら!ごめんなさいラゼルちゃん!」


 すぐさま側に駆け寄るミレイアさんは、私に顔を寄せた。


「ではでは。発表します!

今日はみんなで水族館に行きましょう!」


「水族館・・・?」


 聞いたことがあるような。ないようなその言葉に首を傾げてしまう。


「沢山のお魚がいる施設のことだよ。海の中の様子が見られるんだ」


 私の疑問に気がついた様にそっと横から説明をしてくれたテオさんにお礼を言いつつ、頭の中で考える。


 魚が泳ぐ施設・・・。たぶん、本で読んだことがあった気がする。

 とても、綺麗な場所の様に描かれていたような記憶だけが残っているそれは、どんな場所なのか想像がつかなかった。



 荷造りを始めるミレイアさん達は、まるで今日行くことを決めていた様に素早く準備を進めていく。

 集めていたかのような荷物たちは、一瞬にして準備が終わる。


「それじゃあ、行きましょう!」


 いつものように差し出される手に、そっと手を重ねる。

 しっかりと握られる手に、ぎゅっと握り返す。



 たどり着いたのは、ミラーレ広場から少し南へ行った場所にある馬車広場だった。


 ぽかんと、惚ける私にミレイアさんは、優しく微笑んだ。


「隣町にある水族館に行くのよ?」


 そう言って、看板前まで行くと、次の馬車待ちの人たちなのか。3、4人ほどの人が立っていた。



 程なくしてやってきた大型の幌馬車には既に数人の人が乗っていた。

 1番後ろの景色の見えるそこに腰を下ろすと、流れゆく外を眺める。

 駆け抜けるスピードは人としては決して見れない速さに景色がまるで本をペラペラと廻るように移り変わる。

 流れる木々は変わりはしない為か、別段景色が変わることはないはずなのに、目が離せなかった。


 どのくらいの時間か。おそらく数分といえる時間眺め続けた緑の景色が途端開けた。

 荒く、土のみの道が整頓された石畳の道に変わる。ガタガタと揺れていたはずの幌馬車がゆったりとした揺れに変わる。

 カラカラと音を立てる車輪にカコカコと音を鳴らす馬の蹄の音が等間隔で耳に馴染む。


 程なくしてたどり着いた街は、クウェンデとは違った美しさを持つ街並みをしていた。

 白を基調としたクウェンデの街並みと比べて、レンガや石造りの多い街だ。


 背の高い建物も多く、どこか空が遠く狭く感じる。

 けれど、目新しくとても不思議な感覚だ。


 見上げた空に気を取られているうちに、そっと右手が暖かいもので包まれる。

 パッと見上げた先、ミレイアさんが優しい微笑みを携えて、私の手を握りしめていた。


「逸れちゃうと困っちゃうわ。だから、しっかり握っておいてちょうだいね〜」


 きゅっと入れられる柔らかな力に同じようにしっかりと握り返す。


「そうだな。ラゼルに取っては初めての街だから、きっと目新しい物も多くあるよ。見たいものはすぐに言うんだよ?

馬車の中であれだけキラキラした目をしてたんだから、きっとこの街も楽しいよ」


 反対の手を握り締めながら言うテオさんの言葉に一瞬固まってしまう。

 当たり前だが、あの外を眺める姿をずっと見られていたのだと思うと今更、恥ずかしさが込み上がるのだ。

 子供っぽいと思われてしまったかと。


 見上げた2人は、優しい微笑みを浮かべるだけで何も言わない。

 その事に、全てを飲み込んで笑いかける。


 大切な子供として扱ってくれる子の人たちに子供っぽいと思われることの何が悪いのかと、開き直ったとも言うのかも知れない。


 しっかりと握り込んだ手をゆっくりと引かれる。

 コツコツと音を立てて歩く街中は、ごく自然と緑が紛れ込んでいた。

 家の壁をつたう蔦や軒先に置かれた緑。

 そのどれもが街並みと混じり合っては綺麗だ。


 街の中の運河にかかる橋を越えた先。

 青のガラスと白で作り上げられたその大きな建物は姿を表した。

 目の前で広がる噴水は、全体を囲うようにしてぐるりと大きな円を描いていた。


 大きなその建物は、今まで見てきた施設の中でも圧巻といえた。


「ふふ、大きいでしょう。

この国の中でも最大級なのよ〜?」


 見上げる建物に驚いていると、ミレイアさんが笑いながらそう言った。

 楽しそうに弾むミレイアさんの声に頷く。


「うん。すごい・・・」


「ははっ。ラゼルがそう言って驚いているだけでもここに来た価値があったな」


 柔らかく微笑むテオさんがそっと、繋いでいるのとは反対の手で私の頭を撫でた。

 暖かなその手に撫でられながら、もう一度大きな建物を見上げる。

 よくよく見ると、建物の壁の中には、ちらりと小さな魚が描かれていた。


「チケットを発券してくるから少し待ってて」


 するりと抜ける手のひらに、ほんの少し寂しくなる。

 ずっと繋がれていた暖かい手が離れてほんの少しの冷たさを手に感じた。


「楽しみね、ラゼルちゃん!」


 私の反応に気づいていないのか、ミレイアさんが楽しそうな声で私に声をかけた。


「うん。水族館、初めてだから楽しみ」


 見上げて笑うとミレイアさんの優しい瞳と目が合う。


「あらあら、そうなのねぇ。それなら、いーっぱい楽しまないとね!」


 優しくとろりと瞳を細めて優しく微笑むその姿に、笑って返す。



「おまたせ」


 小走りで戻ってきたテオさんが再び開いた私の手を握った。

 片手に持ったチケットを見せるようにして振ると手を引いた。


「それじゃあ、行こうか」


 大きな白のエントランスを抜けると、数人の制服を着ていた人の側には人だかりができていた。


「あそこで、チケットを見せて入場するのよ」


 ガヤガヤとした室内で耳元で囁くように優しくそう言ったミレイアさんは、真っ直ぐと制服の人のところへと歩きはじめた。



「チケット拝見します」


 3枚のチケットを纏めて渡すと、その人は手で千切ると小さな方をテオさんへと返した。

 その不思議な行為に、じっと眺めていると再びミレイアさんがそっと声を落とした。


「チケットを見ましたよって証にああして千切っているのよ」


「そうなんだね」


 不思議なその行為に返答をもらい納得していると、不意に制服を着たお姉さんと目線が合う。

 柔らかく微笑むお姉さんは私に声をかけるように腰を落とした。


「ゆっくり楽しんでね!」


 バイバイと手を振るそのお姉さんに手を振る代わりにニコリと笑って返す。



 徐々に暗くなる廊下を過ぎると、重い扉が現れる。その扉を通り抜けると、更に暗い電気が私たちを迎えた。

 けれど、それを感じさせないほどの美しい青の輝きが部屋を包み込んでいた。




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