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ラゼルの青の遐福  作者: あいせ
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ラゼルの新奇(2)



 露店広場から向かった先は、ちいさなぬいぐるみが沢山置いてある店だった。


 ミレイアさん曰く、女の子だからぬいぐるみは好きかな、と思って。とのことだった。


 今までほとんどぬいぐるみを持つということのしたことのない私にとっては新鮮な感覚で、与えられたクマのぬいぐるみはふかふかでとても可愛い。


 そして、そのまま渡されたぬいぐるみを抱きしめたまま歩きだた。


 次に揃えたのは洗面用具。その次は、読み書きのための筆記用具を。これは、これからこの街で過ごすのに覚えるために必要だろうと与えられたもの。

 ちなみに、1番初めのページにはテオさんお手製の地図がすぐに描かれた。


 その後にもいろいろな店を渡り歩き、粗方揃ったかな?となる頃には手荷物は限界を迎えていた。

 流石に冬というこの時期でも汗が滲む程の荷物の量に、今日は引き上げて帰るという選択をすることに。





 帰り着いた家のドアを2人は顔を見合わせるようにして開け「ただいま」と2人で声をハモらせた後、私を振り返り「おかえりなさい」と言った。

 

 昨日失ったばかりの帰る場所を。2人の今のたった一言で与えてもらえた気になる。


「ただいま!」


 悦びに綻んだ体から発せられた声は自分でもびっくりするような大きな声となって響いた。


 恥ずかしい・・・。


 そう思えど、体は未だ歓喜に震え、やり直したところでもっと大きな声が出るのではないかと思えるほどだ。




 荷物を運び込んだ、ミレイアさんに手招きされて向かった場所はカウンターと思わしきテーブルや所々に置かれた大小様々な木目調の丸テーブル。そして、机同様の椅子達。それはまさしく「店」と呼ぶにふさわしい場所だった。


「ここは・・・?」


「見ての通り、お店よ〜。ウチは基本的に夫婦で喫茶店を営業しているの。お昼は基本的にここでお店をしているのよ」


 カウンターテーブルの中の椅子に座り込んだミレイアさんはニコニコと答えた。


「ウチの説明をしていないことに今更気がついちゃって。ごめんなさいね?娘として引き取っておいて、なんなんだけれど、お店もあってお昼間は放置ってことになっちゃうの・・・」


 片眉を下げて謝るミレイアさんは、心の底から申し訳ないと思っているようだった。けれど、寧ろ育ててもらうばかりで申し訳ない私にとっては嬉しいことだった。

 なにせ、労働という対価を支払うことができるのだから


「あの。わたしもここのお店を手伝えないかな?

せっかく、娘として引き取ってもらえたならお手伝いしたい!」


 申し出に対して、ミレイアさんは喜んだ後にやんわりと拒否の姿勢を示した。


「子供なんだもの。遊ぶのが仕事よ?」


 そう言うミレイアさんの顔は既に母親のような顔だった。


「違うの。ミレイアさん。わたし、2人のお手伝いがしたい。一緒にやりたいの。駄目・・・?」


 身長差のため、下から見上げる形となる私。

 手を組んでもう一度、願い見る。お願いします、と。


「・・・っ」


 息を呑むような音の後に長く吐き出されるため息が聞こえた。

 怒らせてしまったのだろうか?

 おそるおそる見上げたミレイアさんの瞳は潤んでいた。


「なんって、可愛いの!私の娘。

その上目遣い。可愛すぎるわぁ。ふふふ。そんな風に言ってもらえて嬉しいわ!そうね、そうよね。家族で仲間外れは良くないものね。でも、さっきも言った通り子供は遊ぶのも大切だから、お店のお手伝いは週3回。お手伝いのたびにお小遣いを渡すことにします!」


 抱きしめられ、合わせられた頬同士が擦れる。耳元で聞こえる上擦った声が私の鼓膜を通り過ぎて脳で木霊する。


 拒否、されていない・・・?


 そう気がつくのに一拍。

 心の中で安堵のため息を吐き出し、もう一度ミレイアさんを見上げる。


「週3回。時には外に遊びに行くこと!

お約束が守れるのならお手伝いをお願いするわ」


 指を三つ立てたミレイアさんはそう言った。


「うん。守る。守るよお約束」


「えらいわね。ゆびきりげんまん〜。

じゃあお小遣いの件はテオと相談して決めるわね!」


「あ、あの。お小遣いなんて・・・」


 いりません。そう続けようとした言葉はレイアさんは人差し指で押し留められた。


「だーめーよー。どの家でもお手伝いをしたらお小遣いを渡すものなんだもの!あ、もちろんお手伝いなんてしなくても渡す予定だったけど。お手伝いをしてくれるなら奮発して出さないとね!受け取って頂戴ね?」


 念を押すミレイアさんの声は強く、思わずコクコクと頷き返した。


 ・・・ちゃんと受け取ります!


「ふふ。ありがとう」


 私の頷きに納得したミレイアさんはいつもの笑顔で喜んだ。


「さて、それじゃあお店をお手伝いしてもらうのなら覚えることは沢山あるわね。せっかくだわ。さっきのノートとペンを持っていらっしゃい」



 言われた通りに持ってきたノートにミレイアさんはスラスラと文字を書き込んでいく。



「お店のOpenの時間は10時。閉店は16時よ。10時から11時30分までは朝食モーニングをやっているわ。この時間だけは朝食メニューがあるのが違いよ、気をつけて頂戴ね。土日も基本的には同じ時間で営業しているの。定休日は月曜日。」


 説明をしながらお店のルールを書き出し、下にはメニューを。キッチリとモーニングと通常メニューを分けて書き出してくれていた。


「キッチンはテオが。ホールは私が基本的に出ているのだけれど、ラゼルちゃんは私と一緒にホールをやりましょうね!」

 今から楽しみだわ


 目を細めて笑うミレイアさんの表情につられてへらりと笑う。


 覚えることは多くある。けれど、私もミレイアさん達と働くのが楽しみだと思えた。



「おや?ラゼルも店を手伝ってくれるのかい?」


 ミレイアさんと2人。ノートを見ながら会話しているところに上から声が降る。思わず身体がびくりと震える。

 そろりと見上げれば、上から覗き込むテオさんのお顔がそこにはあった。

 目が合えば、ニコリと笑ってくれるテオさん。


「すまないね、びっくりさせてしまったかな?」


「だ、大丈夫です・・・」


 声が降ってきたことには正直に驚いたが、別段背後に立っていたのは気づいていたために、素直に首を振る。


「そうかい?それならよかった。

それよりも、ラゼルもお店を手伝ってくれるのかい?」


 先程の疑問をもう一度口にするテオさんにミレイアさんが立ち上がって喜びを示す。


「そう、そうなの!

お手伝いがしたいの。だめ?なんて上目遣いで言われて断れないわ!」


「そうなのかい?

それは可愛い。僕も見たかったな」


 こちらに目線を流すテオさんの顔はありありと「見たかった」と書いており、それをへらりと笑って流してみる。


「まぁ、いつか。パパ、お願い。なんておねだりをしてくれる時が来るかもしれないからね。楽しみにとっておこう」


 笑顔で頭に乗せられたテオさんの手が少楽しげにに頭を撫でた。


 パパ。と呼ぶことがあるのかどうなのかは少し疑問だが、いつか呼んでみたいかもしれない。なんてね。


「それ、良いわね!

わたしもいつか。ママ、お買い物に行こう?なんて言われて一緒にショッピングに行きたいわ!」


 テオさんがパパなら。と考えていた思考にかぶるようにミレイアのはしゃぐ声が鼓膜を震わせた。

 楽しそうな未来を語るミレイアの声は弾んで、まるで音階をはねる音符達のようだ。

 そして、その弾む未来には自分のことを考えてくれている。そのことがまた胸の奥をコソコソとくすぐっていた。



 その後も、話が幾度となく脱線しながら続き。

 「明日、とりあえずちょっとやってみましょうか」と言うミレイアさんの言葉によって、明日。私のはじめての出勤が決まったのだった。

 


 



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