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ラゼルの青の遐福  作者: あいせ
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ラゼルの新奇

 窓から挿し込む日の光に、閉じていた瞼を開ける。薄らと開いた視界に入ったのは見知らぬ天井だった。

 幾度か瞬きをしていると、昨日の記憶が怒涛のように甦る。


 ・・・ここは、ミレイアさんのお家だ。


 ふかふかとは言い難い簡素な布団から抜け出し、ベッドの縁に腰掛ける。すると、目線の高さにある窓から見える街が視界を埋め尽くす。

 朝日を浴びて紫色に輝く海と、既に働く人々。

 朝特有の澄んだ空気を肺いっぱいに吸い込んで今度こそは立ち上がる。


 部屋から出ると、外からは既に物音が聞こえていた。物音がする部屋を覗き込むと、中にはミレイアさんが立っていた。


「おはようございます」


「あら?おはよう。早いのねぇ」


 振り返ったミレイアさんは、くすくすと微笑んでいた。


「なにか、お手伝いできることはありますか?」


 そう問うた私にしばし考えた後、ミレイアさんは朝食のお手伝いをお願いした。



 机の上に広げられた朝食たちは、ほかほかと白くゆらめく湯気を漂わせていた。

 小さめのロールパンにハムと卵。横に添えられたレタスは初めて自分でちぎったものだ。



 ミレイアさんに用意してもらった席滑り込むと、目の前には黄色いスープが置かれた。


「コーンスープよ。甘くて美味しいのよー?」


 見たことのない不思議な飲み物(?)に首を傾げる私にミレイアさんは答えをくれた。


「さて、いただきましょうか」


 その掛け声に、各々手を合わせて朝食に手をつける。

 ふわふわのロールパンはなんと、ミレイアさん自家製なのだと、手に持った時に教えてもらった。

 外側はサクッと。中はふわふわのパンはとても家で作れるとは思えないほどに美味しかった。

 そして、ミレイアさんに教えてもらったコーンスープは本当に美味しく、とろりとしたコーンの甘味が喉をするすると通っていった。胃に落ちた暖かいスープが身体がポカポカと温めるようで、寒い冬の朝にはぴったりのものだった。


「お粗末様でしたー」


 お皿を片付けるミレイアさんを横目に目の前に置かれたお茶に口をつける。濃い緑色のお茶は苦味もなく口の中を攫っていく。


「さてさて。本日はー!

ラゼルちゃんの必要なものをみんなで買いに行きましょう?」


 素晴らしい提案だ!

 と言う風に手を合わせてにんまりと微笑むミレイアさんにテオさんもまた頷いて同意を返していた。


「そうだな。必要なものは多くある。買いに行こうか」


 チラリと私を見て微笑うテオさん。それに釣られるようにして私に目線を向けるミレイアさん。


「とりあえずは、今日は私のお古でごめんなさいね?」


「あの。私・・・全然気になりません」


 私と言う存在にたくさんのお金を使おうとしてくれるその優しさに思わず咄嗟に首をふる。

 そんな私の態度に頬を膨らませたミレイアさんの顔が近づいた


「娘に色んなものを買って贈って。なにもダメなことじゃないわ!

貴女も、娘になると言うことはそんなことを気にしなくていいのよ」

さぁ、行きましょう?


 差し出される柔らかな手。

 その手は、昨日と同じ手だ。


「はい。ありがとうございます!」


「のんのん。やり直し。敬語もダメよ?娘なんですもの」


「あ、ありがとう」


 嬉しさと恥ずかしさがぐるぐると混ざりあっていく。

 自分の頬が熱いのが分かる。手のひらを押しつけ少しでも冷えるようにと思うも、さっきのお茶のおかげで手も暖かく、何も意味はないようで。それでも、恥ずかしさから頬から手を離すのはなんだか憚られた。


「僕にも、その調子でね」


 そう、付け加えられた言葉に首がなくなるように頭が沈むのを感じた。


「が、頑張る・・・」


 顔を真っ赤なままにそう告げる私を2人は声をあげて優しく微笑った。そして頭を撫でていた。




「それじゃ、行きましょう?」


 踏み出した街は昨日、歩いた街の筈なのに。格好が、共にいる人が、違うだけで随分と違うように見えた。

 朝と夕方の違いもあるのかもしれないが、昨日と同じ顔には見えない街並みは、活気にあふれていた。



「先ずは女の子だものお洋服よね?」


 先先と歩き出すミレイアさんの態度にテオさんは慣れているのか続けて歩き出す。

 行きつけのお店があるのか、迷いなく歩くミレイアさんはとても楽しそうであった。


 そうして辿り着いたのは、街の中頃にある店だった。


「こんにちはー」


 ドアベルを響かせながら開けた扉の先には質素でありながら、煌びやかな服装が並ぶ洋服店。


「いらっしゃいませー!

あれ?ミレイアじゃない!!どうし・・・その子は?」


 元気よく返事する中にいたミレイアさんと同じ歳のほどの女性は私を見て言葉を止めた。

 首を傾げて尋ねる女性にミレイアさんはにやにやと笑いながら女性を見つめた。


「む・す・め。昨日からうちの娘になった子なのー!

是非、贔屓にして頂戴」


「娘!?

それはまた・・・。随分別嬪な子が娘になったもんだね」


 私に目線を合わせた女性は、下から上までじっくりとみた後に苦笑いを漏らしていた。



 眉を下げて困ったように笑うその女性は私の耳に寄せ口を開いた。


「ミレイアの娘は大変かもしれないけど、子に恵まれなかったあの子の為に娘になってくれてありがとうね」


 小さな声で呟かれた声は私だけに伝えられた言葉だ。

 思わず、口角が上がるのが分かる。


「こちらこそ!」


 私の返答に満足したようにうんうんと頷いた女性は立ち上がった


「さて、ミレイア

服を一式用意すればいいのよね?」


「えぇ。そう。お願いできるかしら?」


「うちは、このクウェンデ1の品揃えの店。任せなさい!」


 腕を捲り上げた女性はそそくさと奥へと入っていった。


「彼女は、私の古い知り合いでね。ネリアと言うのよ。

彼女の見立てならきっと間違い無いわ。

あ、でも。欲しい服があったら言うのよ?

ここでなくとも、見かけたお店でもいいわ。欲しいものは言って頂戴ね」


 ネリアさんを見送ったミレイアさんは、うきうきとした雰囲気を隠さずにこちらを覗き込んでいた。


「そうだな。なるべく好きなものを揃えてやりたいからな。遠慮はするなよ?」


 頭に手を乗せながらそういうテオさんも何処か楽しげな雰囲気だった。



 数分後、ネリアさんは、大きな袋を一つ抱えて戻ってきた。


「とりあえず、普段着と寝巻きが数着。他にもお洒落着も何着か入れてあるよ!

あとは、カバンと帽子。ブランケットなんかも入れてあるわ。それから・・・」


 私の上に影が刺した。徐々に近づく降って来た影の正体は私の体をすっぽりと包み込んだコートだった。


 更にネリアさんは私の手を包み込んでから小さな手袋を。靴を脱がせて、履かせてくれたのは温かなモコモコのブーツだった。


「こっちは、あたしからのプレゼントね」


 暖かいその服たちはこそこそとしたファーではない何で、心のどこかを何処となくくすぐったくさせた。


「あ、ありがとうございます」


「あらあら。さすがネリアね。とっても可愛いわぁ〜」


 可愛い可愛いと褒めちぎるミレイアさんの瞳はキラキラと輝いていて、その横のテオさんも、静かに頷いている。

 そんな称賛達をネリアさんは、うんうんと自慢げに笑いながら聴いていた。



 店を出たミレイアさんが次に目指したのは、かわいい食器達が並ぶお店だった。


「かわいい食器がいいわよね」


 手に取られる食器達はどれも花や可愛らしい模様。動物が描かれたものたちや、淡く可愛らしい色をしたものたちばかりだった。


「・・・ミレイア。ラゼルの意見も聞いてやりなさい」


 苦笑いでそう止めたのはテオさんだった。


「あら。そうよね・・・、ごめんなさい。

ついついテンションが上がってしまって」


「あ、いえ!どれも可愛いなって見てたから・・・。

それに、ミレイアさんが選んでくれたのなら何れでも嬉しい」


 本当の気持ちだった。

 可愛らしすぎるとは思えど、ミレイアさんの選ぶ食器達は本当にどれも可愛かった。シンプルなカトラリーたちも先や持ち手に顔などがついていたりとワンポイントまで可愛いかった。


 正直に言うならどれも可愛くてズルい。である。


「あらあらあら!そんなこと言われちゃったら嬉しくてどんどん選んじゃうわよ?」


「うん。嬉しいから」


「・・・そうか。なら、僕も選ぼうかな。この際だから3人でお揃いのものを選ぼう」


 テオさんの提案にミレイアさんは手を叩いて喜びすぐさまにでもと揃いの食器のコーナーへと駆けていく。



 長考して結局選ばれたのは同じ種類のカラー違いの食器だった。桜と呼ばれる遠くの東北の島国に咲く、とても美しい花々達の描かれた食器はどのカラーも可愛くミレイアさんの一目惚れとして選ばれた。

 マグカップは白を基調として、その横に自分たちの頭文字と黒の猫がどこか気高く座る姿が描かれたものをテオさんが選んでいた。


 ちなみにミレイアさん曰く、テオさんは近所の猫に餌をあげるほどの猫好きだそうだ。

 可愛いテオさんの一面に、思わずミレイアさんと笑い合ってしまったのはテオさんには内緒だと約束した。


 私は、持ち手のところにぺろりと舌を出した顔の描かれたお箸を選んだ。カラー違いで置いてあり、使い勝手の良さそうなものを選んだつもりだった。




 食器の後は大きめの家具屋さんへ。

 そこでは、テオさんがわたしの寝具や使うための机。さらには、化粧台までもを選んでくれていた。

 どれも、ピュアホワイトやコーラルピンクといった可愛らしい色が基調とされているものばかりだった。

 意見を聞かれても、可愛い。としか言えない私に困ったように苦笑いをしていたテオさん。


 申し訳ないけれど、本当にテオさんの選ぶものはどれも可愛くて目移りしてしまうものばかりだったのだ。


 これらは大きな荷物となるために、また後日家に届くと言う。



 家具屋を出る頃、大きな鐘の音が鳴り渡った。

 コレは、お昼になる鐘だという。



「お昼は屋台でとりましょうか」


 という、ミレイアさんの発言で大通りの露店広場へとやってきた。

 みたことのない食べ物から、定番のものまで。たくさんの物と匂いに溢れた露店広場はお昼時ともあって多くの人で賑わっていた。


「さて。何か食べたいものはあるかしら?」


 そう尋ねられど見たことのない食べ物も多い中から選ぶのは困難だった。



 うーん。うーん。と幾度頭を捻ろうとも、ちっとも思いつくことはなかった。


 結局はミレイアさんの露店といえばひとまずコレ!

 と言う、串焼きと果実水を頂くこととなった。


 お昼からもまだまだ動くからね!

 という、言葉と共に差し出される様々な食べ物に目を回しそうになるのだった。


 



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