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次の日、オレは待ち合わせ場所に5分前には着いて紬を待った。


紬はほどなくして現れたが、様子がおかしかった。


いくらまだ少し寒いと言ったって、3月なのにおかしいぐらいに着こんでいて、マフラーをぐるぐるに首に巻いた上に、もこもこの帽子をかぶり、顔は赤らんでいた。



「あざひぐん、おばよ~(朝陽君 おはよ~)」


声もおかしいだろ!


「紬、お前」


「ばず がばん びにいく~?(まず 鞄 見に行く?)」


鼻声で何を言ってるのかわからないのに、まるで何事もないかのように振舞っている。

いや、全然普通に見えないから。


「お前、おかしいだろ」


「だに?(何?)」


「来い!」


オレは紬の手を引いて目的地とは逆方向のバス停へと向かった。

バスが到着すると有無を言わさず紬を乗せ、家に向かった。


「あざひグン~(朝陽君)がいぼのは~?(買い物は?)」


「お前、買い物なんか行ってる場合か?熱があるじゃないか!なんで家でおとなしく寝てない!?」


「だっで(だって)」


紬は赤い顔をして、熱で潤んだ目で恨みがましくオレを見上げた。

(可愛いだけだからヤメロ)


「買い物は今度でいいから、帰って寝ろ!」


「ぞんな~だのじみにじてだのに(楽しみにしてたのに)」


「元気になったら、いくらでも付き合ってもらうから。今日は寝てろ」


「ばがっだ(わかった)」


「着いたら起してやるから、寝てろ」


オレは隣に座る紬の頭に手をやり、自分の肩に頭をもたれさせた。

紬はうつむいて大人しくなった。

その後オレは家まで送って行き、またその道を戻り、今日二人で行く予定だった店へと行った。

正直一人で選ぶなんて考えてなかったから、何を選んでいいかわからない。

アクセサリーなんて皆同じに見えるし、店の中は女子しかいなくて居づらい。

だけど、あんな熱出してるのに自分との約束を優先しようとする紬を見たら、今すぐなんとかしたくなった。

散々悩んで、小さな花のモチーフの指輪に決めた。


「サイズはおいくつですか?」


なんて聞かれて「そんなもん知るか!!」と思ったけど、お直しもしてくれるというので、一般的なサイズの9号にしておいた。

どうか、ピッタリであってくれ!!

高校生のオレにしたらかなり奮発したけど、喜んでもらえるだろうか。


オレはもう一度バスに乗って、紬の家へと向かう。

バス停から家までの途中でコンビニに寄って、プリンと飲み物も買った。

コンビニで入れてもらったビニール袋の中に、アクセサリーショップの紙袋も突っ込んでおいた。

紬の家のインターホンを押すと、母親らしき人がでてきた。


「あら?あなた、ひょっとして朝陽君かしら?」


「はい、あの、今日、オレ達約束してたんですけど、紬、さん、熱出したみたいで」


「そうなのね。ごめんなさいね。

あ、あがってちょうだい」


そう言ってオレを家の中に案内しようとしたけれど、オレは辞退した。


「いえ、あの、これ渡しといて下さい。お見舞いです」


そう言ってコンビニのビニール袋を母親に渡した。


「あら、ありがとう。渡しておくわね」


そう言って母親は中に入っていった。


指輪……気に入ってもらえるだろうか


そう思いながらなんとなく紬の部屋だと思われる2階の窓を見上げてぼんやりしていると突然紬が窓際に現れた。


「あ、あざひぐん!!」


慌ている様子で窓を叩いてアピールしている。

オレは片手をあげて、それに答えた。

すると紬は慌てた様子で窓から離れ、ドタドタと音を立てて下りてきたようで、ドアを突き破るようにしてできた。


「こ、これ」


そう言って差し出したのは、アクセサリーショップの紙袋


「あの、これ、ま、間違えて、入ってた?」


そんなことを言うから笑ってしまった。


「間違ってないよ」


そう言って紙袋を紬から受け取ると中身を取り出し、ラッピングのリボンも解いた。

小さいながらもちゃんとした箱に納められている指輪を取り出した時、紬の通常より潤んでいた瞳からとうとう涙がこぼれた。


「義理チョコが化けたな」


「ぎ、義理じゃないし」


手を取って勝手に指輪をはめてやった。

ちょっと大きい気もするけど、抜けるほどでもなさそうだ。


「よかった。サイズ直ししなきゃいけないとかなったら、オレ死ぬと思った。」


オレがそう言うと紬はきょとんとした顔でオレを見た。


「え、なんで?」


「だってもう一回あの店行くなんて、恥ずかしくて死ぬ」


そう答えると紬は潤んだ瞳で笑った。


「ふふふ」


その顔が、すごく可愛かったから、オレは一歩前へ出て、踏み込むと見上げる彼女にキスをした。

目を開けたまま、その目を大きく見開くからおかしくてオレは笑ってしまった。


「あ、朝陽君、か、風邪移るよ」


そういう紬の顔は真っ赤だ。


「そうだな、移ると困るから、もう帰るよ」


「え、嘘」


「もう、部屋に戻って寝ろ。」


「あ、うん」


「じゃあまた、月曜日に」


オレがそう言うと紬も笑って


「うん、月曜日」


そう答えた。




オレが歩き出すと紬は後ろでいつまでも大きく手を振っている。

その手に、オレがプレゼントした指輪がキラリと輝いているのが見えて、オレは顔がにやけるのを押さえられなかった。

そんな顔を見られたくなくてオレはすぐにまた前を向いて歩きだした。

紬の家からだいぶ歩いて、角を曲がるときもう一度後ろを振り向くと紬はまだこちらに手を振り続けていた。


早く家に入れ、風邪が悪化する。


そう思いながらも、オレは立ち止まり手を振り返した。

大きく、大げさなぐらいに

この気持ちが、今のどうしようもなく彼女を愛しいと思う気持ちが、紬へと届くようにと。







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