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0099話 タクトの考察

台風が近づく中、年忌法要もなんとか無事に終わりました。

今日からまた更新を再開します。

 この果物、初めて食ったが美味いな。食感や甘みは洋梨に近いだろうか。店で見つけたら、ジャムにでもしてみよう。


 一口だけ食べたあと、小さく切ってからピンチョスに刺し、肩の辺りへ持っていく。するとジャスミンがそのままかぶりついた。



「森で見たことのない果物だけど、とても美味しいわね」


「こちらは乾地(かんち)で栽培している品種ですので、森で暮らしておられたジャスミンさんがご存知でないのは、仕方ないと存じます」


「タクトの従人(じゅうじん)にしてもらってから、知らない食べ物にたくさん出会えて楽しいわ。みんなと同じで、元の生活へは戻れない体に、されちゃったけど」



 今の生活を気に入ってもらえて何よりだが、言い方に気をつけてくれ。まあそれは良いとして、どうして俺の手から食べようとする。これくらい自分で持てるだろ。お前がそんなだから、みんな真似しようとするんだよ。


 ほら言わんこっちゃない、膝に座ってるシナモンが、こっちをじっと見てるじゃないか。まったく、仕方がないな……



「口を開けろ、シナモン」


「……あーん」



 別の手で果物を刺し、シナモンの口元へ差し出す。かじりついた途端に破顔するシナモンを見て、オレガノさんとセルバチコの頬が緩む。この笑顔には、誰も勝てんからな。


 あー、ミントとユーカリもか。ジャスミンが来てから、デザートタイムが忙しくてかなわん。



「別にボクは食べさせて欲しくないんだけど?」


「まあ遠慮するな。一人だけ仲間はずれは嫌だろ?」


「キミが世話を焼きたいだけじゃん」


「シトラスにも餌付けの素晴らしさを、知ってもらいたいだけだ」


「そんな事したって、ボクの態度は変わらないよ」



 とか言いつつ、ちゃんと食べてくれるのが、シトラスのいいところだ。百二十モフまで上昇したしっぽが揺れて、実に素晴らしい眺めじゃないか。



「世界最強の力を得たというのに、お前さんたちは変わらんな」


「まあ目の前で助けを求められた場合を除き、この力を見せびらかすつもりはない。家族の安全と豊かな暮らし、そして自分の手が届く範囲を守っていくため使う、そう決めてるんだ」


「どのような力を得たのか、具体的にお伺いしてもよろしいでしょうか?」



 おっ、珍しくセルバチコがのってきた。やはり従人としての強さに、興味があるのかもしれない。



「ああ、構わないぞ。じゃあまずはシトラスから説明しよう」


「ボクは[体術]と[強化術]が発現したよ」


「身体能力が高い種族だからだろう、どちらもそれに関したスキルだ」



 俺たちが持つ力は、神からの授かりものと言われているので、ギフトと呼ばれる。だから俺は、シトラスたちに発現した力を、スキルと名付けた。



「体が思い通りに動くようになったんだ。まだ実感しにくいけど、体力なんかも上がってると思う」


「次はミントだな」


「ミントは[治癒術]と[神聖術]なのです」


「ちょうど俺が怪我をしていたので、さっそく世話になった。おかげで傷跡も残らず完治してる」


「神聖術はよくわからないですが、解毒とかできるんじゃないかって、タクト様が言われたです」



 この世界にアンデットはいないからな。使い道のないスキルが発現するのはおかしい。だとすれば、浄化系と考えるのが妥当だろう。



「わたくしは[魔術]と[妖術]です。どちらも使い方がわからないので、まだどんな事ができるのかは……」


「俺たちがやる訓練を試してみたが、効果はまったくなかった。なので間違いなく魔法とは別系統の力だろう。事象改変とは異なり、自然の力を借りるものではないか、俺はそう考えている」


「その場合は相性があるかもしれないと、旦那様が言われてました」



 妖術という響きが怪しげで、ユーカリは少し落ち込んでいた。まあ元の世界だと、狐に化かされたなんて民話のせいで、負のイメージみたいなものはある。だが力なんてものは使い方次第だ。もし相手に認識阻害をかけられれば、敵から逃げるとき大いに役立つ。



「……私は[仙術]と[投擲術]。投げるのうまくなった。あとはわからない」


「仙術は体の中に流れる〝()〟を、コントロールする技術だと思う。しかしこの世界にはそうした概念がないから、今のところ使い方はさっぱりだ」



 格闘ゲームみたいにエネルギー弾を飛ばしたり、自然治癒力を高めたりできるんだろうか? 極めたら髪の毛が金色になったりしてな。



「最後は私ね。こうやって自力で浮き上がれるようになったのは、[飛翔術]ってスキルのおかげ。他には[召喚術]と[錬金術]が発現してるわ」


「どちらも何がおきるか不明なので、今のところ封印してる」



 変なものを呼び出して寿命を要求されたり、錬金術の等価交換で体を持ってかれでもしたら、目も当てられん。魂だけを鎧や人形に定着させるとか、俺にはできんからな。



「錬金術の方は面白そうだから、早く使ってみたいのよね。だって色々なものを作れそうなんだもの」


「まあ、ざっとこんな感じだ。とにかくみんなに発現したスキルには、〝術〟という言葉が使われている。つまり俺たちが使う魔法やギフトみたいな能力とは異なり、技術の延長線上にある気がする。ミントの場合も傷口を触る、いわゆる〝手当て〟という行為がないと発動しない。だから呪文のような儀式や、(いん)を結ぶといった動作が必要になると思う」


「いやはや、とんでもないの。みなの授かった力もだが、お前さんの洞察力もだ。いくら前世の記憶があるからとはいえ、わずかな手がかりでそこまで考察を進めるなど、世界中の学者が腰を抜かすぞ。セルバチコなど、完全に固まっとる」



 この世界の人間にとって異質な力ばかりだから、セルバチコの反応も仕方あるまい。効果が判明してるスキルで一番チートなのは、ミントの治癒術になるだろう。まだ切り傷くらいしか試してないが、大怪我や部位欠損まで治せるようになれば、権力者どもに狙われかねん。オレガノさんのように信頼できる人にしか明かせない力だ。



「とにかくわからないことだらけなので、じっくり調べてみようと思っている。その件でオレガノさんにお願いがあるんだ」


「大図書館の閲覧許可だな。異世界の知識があるお前さんなら、失われた技術をよみがえらせることが、可能かもしれん。こんなにワクワクすることなど、なかなかない。とっておきのやつを用意してやるから、儂に任せておけ」



 いや、普通の紹介状で構わないんだが……

 タラバ商会とロブスター商会の身分証だけでも、オーバーキルになりかねんのだし。


 とにかくあそこで古文書なり、市場に出回ってない本を探そう。きっと手がかりが見つかるはず。


次回は「0100話 学術特区」です。

大図書館に到着した主人公たち。

オレガノの用意したとっておきの効果やいかに……


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