0098話 ワカイネトコへ到着
誤字報告ありがとうございました。
漢字になっていても気づかない、それは読みが同じだから!
ワカイネトコの街へ近づくにつれ、街道を歩く人の数も増えていく。そしてほとんどの視線が、俺たちへ注がれている。
「おい、あれ見ろよ」
「どこかの跡取りか?」
「そんなやつが護衛もつけず、徒歩で移動したりしないだろ」
「連れてる従人は愛玩用のレアカラーばかりだし、いったい何者なんだ……」
始終こんな感じなので、みんなはすっかり慣れてしまった。今も外野の視線など気にせず、旅の思い出話に花を咲かせている。
「長年仲介業をやっているが、金色の狐種なんて見たことがない。どこの業者が扱っていたのか、調べてみなければ」
「隣にいる銀色のメス従人も新種だぞ。うちも商材として確保したい」
「ねえねえ、ピンクの兎種、超可愛くない?」
「いやいや猫種の子でしょ。黒い髪やしっぽが、光を反射して虹色に光ってるじゃん。あれ反則だよ」
「ちょっと待って!? 上人の肩に座ってる人形、いま動いたよ!」
「ほんとだ、こっちに向かって手を振ってる?」
「まさかあれって……」
「「「「「――有翼種!?!?!?!?!?」」」」」
四人が視線を集め、最後にジャスミンを確認して驚く。すっかり定番になってしまった。
なにせ全員が進化して、他では見られない毛色になったからな。だからいくら探したって無駄だぞ。これは俺の従人しか持ってないユニークカラーだ。
「みんなの反応、面白いわ」
「男と間違われなくなったのはいいんだけど、どうしてこっちは進化しなかったんだろう……」
「体つきは誰も変わりませんでしたから、仕方ないですよシトラスさん」
「ミントは毛がフワフワになっただけでも、嬉しかったのです」
「……髪としっぽ、キラキラになった」
出会ってからまったく変化のない三白眼で、シナモンが俺に両手を伸ばしてくる。なんだ、また抱っこしてほしいのか。太古の力を取り戻し、レベルが急上昇しても、シナモンは甘えん坊だな。
「うわー、甘える姿が可愛い! 私、今度は猫種の従人にする!!」
「私は兎種を探してみようかなぁ……」
「有翼種……欲しい」
「金色の狐種、絶対に入手してみせる」
「必ず銀の狼種を仕入れてやるぞ!」
大昔ならいざしらず、今の有翼種は警戒心が強く、隠れるのが上手になった。それに街の近くにある森を、棲家にしている者はいないそうだ。多分見つからないと思うぞ。
ヨロズヤーオ国では、従人をアクセサリーのように扱う上人が多いと聞いていたが、どうやら本当らしい。服や場所に合わせて連れて行く者を変えたり、その日の気分で種族を決めたりするのか……
周りにいる上人たちの話から、そうした言葉が聞こえてくる。
学問に力を入れている国だし、強さはあまり求めていないのだろう。ファッション感覚で使役するから、従人売買が他国より一桁以上多いなんて、ローゼルさんも言っていたしな。この街にもロブスター商会の支店があるので、折を見て挨拶に行っておかねば。
そんな事を考えていたら、入場手続きの順番が回ってきた。さっさとすませてオレガノさんの所へ行こう。
◇◆◇
予想通り大騒ぎになった手続きを終わらせ、商業区へ向かってぶらぶら歩く。ジャスミンは無理やり捕獲したんじゃないからな。人を犯罪者扱いしやがって。指輪に記録された登録情報を、ごまかせるわけ無いだろ。こちとら、ちゃんと正規の魔道具で契約してるんだぞ。
ロブスター商会の身分証がなかったら、危うく取り調べを受けるところだった……
「本人が一緒に居たいって言ってるのに、聞いてくれないなんて驚きよ」
「まあ制約で無理やり言わせることもできるから、従人の証言ってのは軽くみられるんだ」
「首の従印もなんか違うとか言われちゃうし、失礼しちゃうわね」
首に浮き出る従印には、等級を表すひし形の模様がある。四等級の場合、武田信玄の家紋とそっくりだ。しかし全てのビットが立つ八等級になったことで、隅立て四つ目結紋みたいになってしまった。これも疑われてしまった原因だ。有翼種は体が小さいので、特殊な印が出ると押し通したが!
「ジャスミン用のチョーカーはすぐ発注する。色は空をイメージした青にするが、中央のモチーフはなにがいい?」
「もちろん羽根よ。それ以外に考えられないわ」
「よし。オレガノさんに店の場所を聞いて、行ってみるか」
「オレガノさんのお店って、どこにあるの?」
「旦那様から預かった地図によると、三番通りを奥に入ったところみたいですよ」
「あそこが二番通りなので、その向こうなのです」
「……まだ字、読めない」
「この街ではのんびり過ごす予定だし、時間はたっぷりある。ゆっくり覚えていけばいい」
抱っこしているシナモンの頭を撫でると、腕にしっぽをくるっと巻き付けてきた。なんかしっぽの動きが、一段と器用になってるよな。これも進化の影響なんだろうか。
「私もシナモンちゃんと一緒に、勉強しなくちゃね」
「……うん、頑張ろ」
シナモンは読み書きを覚えて、もっと役に立ちたいと思ってるんだろう。だが今のままでも十分だ。こうして抱っこしてなかったら、入場審査の時にキレ散らかしてたかもしれん。
「あっ、見つけたよ!」
シトラスの指差す先には二階建ての建物がある。骨董品を扱っている店だけあり、外観はモダンでレトロだ。この世界で貴重な木材を、ふんだんに使っているだけでも凄い。アンティークな木製の扉を開けると、ドアベルの澄んだ音が鳴り、奥のカウンターにいるオレガノさんと目が合う。
「おぉ! 久しぶりだな。セイボリーから、お前さんたちが旅に出たと、手紙が届いとったぞ。随分のんびり来たようだが、途中で寄り道でもしてたのか? とにかくみな元気そうで――!?」
「お久しぶりです、タクト様、みなさ――!?」
こちらへ歩いてきたオレガノさんとセルバチコが、俺の後ろに視線を向けたまま固まってしまった。まあ仕方ないよな、加齢以外で毛色が変わることなんて無いんだから。
「あの……セルバチコさん。そんなに見つめられたら、恥ずかしいんだけど」
「――はっ!? 失礼いたしました、シトラスさん。あまりに魅力的だったもので、年甲斐もなく見とれてしまいまして」
種族的に近い犬種と狼種だ。真っ先にシトラスへ目が行くのはわかる。見つめられた方も頬を染めながらモジモジしてるし、相変わらずシトラスを照れさせる能力が高すぎるぞ、セルバチコ!
「儂が心配になるくらい奥手なセルバチコが見とれるのもわかる。しかもお前さんの肩に乗っとるのは、有翼種じゃないか」
「あなたのことは、タクトたちから聞いてるわ。私はジャスミンっていうの、よろしくね」
「いったい何があったのか、旅の土産話をじっくり聞かせてもらおう」
好奇心にあふれた表情で、オレガノさんが詰め寄ってきた。あの顔はおにぎりを食べた時と同じだぞ。まあ最初からそのつもりにしていたし、飯でも食いながらゆっくり話をするか。
この連休に年忌法要があるため、更新はお休みします。
次回は火曜日に「0099話 タクトの考察」をお届けします。
お楽しみに!