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0091話 土下座

誤字報告ありがとうございました。

テキスト読み上げソフト「VOICEVOX」でチェックしてるのですが、読みが同じだと見落としますね!

 ゴナンクからタウポートンへ続く街道は、直線部分がかなり多い。見晴らしがいい反面、いまいち距離をつかみにくいのは欠点だ。とはいえ最初の旅で渡った、ジマハーリからタウポートンを結ぶ街道との交差点も越えた。なかなか順調な旅路といえる。



「野盗も出ないし、なんかつまらないね」


「この街道は人通りが多い。わざわざそんな場所で狙うバカもいないだろ」


「あんな人たち、いないほうがいいと思うのです」


「旦那様のレベルを上げられないのは、少し残念です」


「……経験値」



 ミントの言う通り、あの手の連中は出ないほうがいいんだぞ。俺にとって美味しい経験値と、評価ポイントになるのは事実なんだが……



「ねぇ、なんか向こうの方に人が集まってるよ?」


「誰かが助けを求めてるみたいです」


「なにかに襲われてるという感じでもないが、行ってみよう」



 集団に近づくと助けを乞う声や、男女の罵声が俺の耳にも届く。どうやら小さな商隊と、護衛をしている冒険者たちのようだ。街道の真ん中で土下座しているのは、ボロボロの服を着た犬種(いぬしゅ)っぽい野人(やじん)。歳は五十くらいだろうか。



「お願いします、このままでは私たちの集落が」


「なんど頭を下げても無駄だ、そこをどけ」


「私たちは急いでるの。そんな所に居座られてたら、馬車が通れないじゃない」


「野人が街道まで出てくるんじゃない! 斬り殺されたいのか」



 かなり必死なのは伝わってくるが、そんな場所で土下座するのは逆効果になるぞ。護衛の冒険者たちが言う通り、切り捨てたって誰も咎めたりしない。依頼主の手前、血なまぐさいことを出来ないのかもしれないが……


 いくらなんでも危ない橋をわたりすぎだ。



「無理を承知でなにとぞ、お望みのものはなんでも差し上げます。私を従人(じゅうじん)として、使い捨てにしていただいても構いません」


「お前の年齢で従人って、無理がありすぎだろ」


「それにお金なんて持ってないよね? 私たち冒険者は、依頼を受けて対価をもらうものなの。三つ星冒険者を雇うのに、どれくらいお金が必要か知ってる?」


「少しでしたらお金もございます。どうぞこれを……」


「そんなはした金で、俺たちが動くわけないだろ。汚い手でさわるな!」



 ――ドカッ



「あぐぅっ」



 冒険者の一人に蹴り飛ばされ、野人の男が道の端へ転がっていく。そして差し出していた硬貨が、道へバラバラと落ちてしまう。



「まったく、無駄な時間を食ってしまった。申し訳ありません、先へ進みましょう」


「ホント、身分をわきまえない野人って迷惑よね」


「そっちの兄さんも災難だったな。障害物は排除したからもう大丈夫だぞ」


「俺たちはただの旅行だから問題ない。商隊の方は納品予定とかあるんだろ。こっちのことは気にせず、先に行ってくれ」



 タウポートンやゴナンクは従人の扱いが比較的まともだったので、こうして目にするとやはりきついな。怪我はしてないようだし、とりあえず硬貨を拾って話を聞いてみるか。



「大事な金だろ、ちゃんとしまっておけ」


「お見苦しい姿を晒し、申し訳ございません」


「そんなことはどうでもいい。かなり必死だったが、なにがあった。よければ話くらい聞くぞ」


「そう言っていただけるのは、大変ありがたいのですが……」



 野人の男性は俺とシトラスたちを見て、そっと視線を落とす。恐らくこれは、愛玩用を連れた旅行者には難しい、そんな依頼なんだろう。



「こう見えても俺は四つ星冒険者をやってる。それなりに難しい依頼でも遂行できるから、遠慮せず言ってみろ」


「ほっ、本当でございますか!?」



 驚く男性の前に、冒険者証を差し出した。例え文字が読めなくても、カードに刻まれた星の数くらいは、わかるはず。



「お願いします冒険者様、私たちを助けてください!」


「最初からそのつもりだ。そうでなければ声をかけたりせん。対価を要求したり、誰かを差し出せなど言わんから、安心して構わない」


「そんな好条件で……」


「あとで絶対にモフらせろって言うけどね」


「モフらせ?」


「タクト様がしっぽやお耳を、ブラシで整えてくれるですよ」


「魔法で体もきれいにしてくださいます」


「……とても気持ちいい。体験しとくべき」


「よっ、よくわかりませんが、耳としっぽを触られるくらいなら、誰も文句は言わないと思います」



 言質は取ったぞ。

 ふふふふふ……どんな頼み事かわからんが、俺に任せておけ。必ず解決してやろうじゃないか!!



◇◆◇



 あぜ道を移動しながら話を聞くと、どうやら集落の近くにある沼地で、水麦(みずむぎ)がどんどん枯れているらしい。その範囲は徐々に広がり、集落の目前まで迫ってきた。このままでは収穫前の水麦は全滅し、謎の異変が住んでいる場所にまで影響するかもしれないと、住民たちは不安になっている。そこで集落の代表としてこの男性が、行きずりの冒険者に頼んで回った、ということだ。



「それって、水が汚れてるんじゃないの?」


「井戸くらい掘ってると思うが、飲み水はどうしてるんだ?」


「今のところ水に異変はありませんし、住人たちに体調不良をおこす者もいません。それどころか、水麦が枯れた場所も特に水が濁ったり、異臭がしたりという変化がないのです。それだけに、目に見えないナニかが迫ってきていると、皆が不安になって……」



 汚染が原因じゃないとすれば、魔力の乱れや生態系の変化か。だが、徐々に広がっているというのは気になる。以前の依頼で見つけたことのある魔鉱石(まこうせき)のように、原因になる物体が埋まっているのかもしれん。



「スライムなんかは大量発生してないか?」


「特にそういった異常もありません。ただ水麦は森に近い方から、徐々に枯れているようです」


「それなら森に入ってみるしか無いな」


「あそこは〝迷いの森〟と呼ばれておりまして。踏み込んで戻ってきた者はいない、そう言われている場所です。さすがにそこまでのことを、お願いするわけにはまいりません」


「それなら平気だ。俺たちにはユーカリがついているからな」


「お任せください、旦那様」



 歩きながらユーカリの肩を軽く抱き寄せると、小さくガッツポーズを取りながら微笑む。その手の森で迷う理由は、木々が陽光を遮り障害物の多い地形になっているからだ。見通しが悪く真っすぐ歩けないので、あっという間に自分の方向を見失う。


 とにかく現場に行って、まずは魔力糸(まりょくし)を伸ばしてみよう。それに反応がなかったら森の中へ突入する、その作戦でいくか。


森の奥で見つけたものとは……

次回「0092話 森の異変」をお楽しみに!

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