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0009話 絶景かな絶景かな

誤字報告ありがとうございます。

いつも助かってます。


少し前に買い替えたキーボードですが、どうにも自分には合わず、また別のものにしてみました。

今度はアイソレーションタイプ(ノートPCみたいな隙間の空いたキーボード)

タイプミスが減るといいな!


◇◆◇


今日はお昼と夕方にも更新します。

 この家で迎える初めての食事も終え、後片付けや明日の仕込みを終わらせる。その間ソファーに座ったシトラスは、ひたすら水麦の精白作業だ。チャーハン効果だろう、実にやる気に満ち溢れていた。



「おーいシトラス、そろそろ寝る時間だぞ」


「これ、まだ途中だけどいいのかい?」


撹拌(かくはん)魔法でも似たようなことは出来るし、今日はもう終わりにしていいぞ」


「え!? 魔法で出来るのに、なんでボクにやらせるのさ」


「どうすれば美味しい飯が食べられるか知っていたほうが、よりありがたく感じられるだろ? それにお前は俺にばかり仕事をさせて、自分はなにもせず飯が出てくるのを待ってるつもりか?」


「それはそうかも知れないけど、魔法のほうが簡単に終わりそうじゃないか。この作業ってかなり疲れるんだよ。意地悪されてるとしか思えないんだけど」



 美味しいものを食べる苦労を知らないというのは、よくないんだぞ。自分の子供を谷へ突き落とす獅子(しし)じゃないが、わざと試練を与えることで成長させる親心と思え。



「確かに楽な面もあるが、欠点だって存在するんだ。魔法で水麦(みずむぎ)を長時間撹拌すると、摩擦熱というものが発生する。それが水麦の成分を変質させ、味を落としてしまう。加えて作業中の俺は、他のことができない。つまり手の混んだ料理が作れなくなるってことだ」


「うぅ……わかったよ。じゃあ明日もボクが頑張る」


「よしよし、いい子だなシトラスは」


「子供じゃないんだから頭を撫でないでよ! キミのほうが年下のくせに」



 ぺたんと寝てしまったケモミミを元気づけようとしただけなのに、なにを言うんだこいつは。なでなでだって、ずっとやりたかった事の一つなんだ。そう簡単に俺の楽しみを諦めてたまるか。



「あー、そうだ。まだ寝間着になるようなものを買ってないし、さすがにその格好で布団に入るわけにはいかんな。俺のシャツで悪いが、今夜はそれに着替えてくれ」


「どうせボクは床で寝るんだし、服なんてなんでもいいよ」


「なにを言ってるんだ、一緒にベッドで寝るに決まってるだろ」


「うっ……やっぱりボクにエッチなことをするつもりなんだ」



 うーん。どうもシトラスは自分が女として求められることを、すごく怖がってる感じがするな。心と体の不一致でもなさそうだし、単に慣れてないだけならいいのだが……


 その辺りに踏み込むのは、まだやめておこう。



「エッチなことはしないから、早く着替えてこい。グズグズしてると、裸で寝かせるぞ」


「キミはボクに美味しいものを食べさせたり、お風呂で洗ってくれたり、やることがおかしすぎるんだ。なにか企んでるんじゃないかって、すごく不安になるんだよ」


「店でも言ったろ。俺は道具をしっかりメンテナンスして、長く使い込むのがポリシーだと。シトラスは俺が初めて手に入れた従人(じゅうじん)なんだ。この先ずっと働いてもらうからには、それ相応の扱いをする」



 対外的に道具と言っているが、それは俺の本心じゃない。独自の基準で判断するなら、モフ値を持っていない人族のほうが、無価値で役に立たないものだ。



「もちろんこんな待遇が、世間一般の常識から外れていると、理解した上でやってるぞ。だからお前は、俺に振り回されとけ」


「わかったよ、今はそういうことにしておく」



 渋々納得した感じで、シトラスは物置にしている(しつけ)部屋へ消えていく。そのケモミミとしっぽがある限り、俺は絶対にやり方を変えたりしない。前世と合わせて四十年近く抱えてきた夢が、まさにいま(かな)ってるんだ。まだまだやりたいことは山のようにあるから、覚悟しておけ。



◇◆◇



 従人販売店で支給されたのは、野暮ったいシャツとズボンだった。しかし今のシトラスは、俺が渡した半袖シャツ一枚の姿。いい、実にいい。大きめのシャツしか身に着けていないというのは、どうしてここまで心躍るんだろう。しかも服の裾から覗くしっぽが、見事な絶景を演出している。


 うーん、明日買う予定の寝間着は、丈の短いネグリジェにしてしまおうか。



「やはりしっぽがあると、なにを着ても似合うな」


「キミって本当にボクのしっぽにしか、興味がないよね」


「そんな事ないぞ」


「じゃあ、他にボクのどこがいいのさ」


「もちろんそのピンと立った耳だ!」


「はぁ……」



 そんな呆れ顔をするな、シトラス。今の格好だと、ジト目で睨んでも可愛いだけじゃないか。



「お前は磨けば光る原石なんだぞ。もっと自信を持て」


「耳としっぽにしか興味のないキミに、なにを言われても信じられるわけ無いだろ。捕まってから何回も〝お前の体型じゃ商品価値はない〟って言われたし……」



 まあこの世界にある一般的な価値観だと、胸の大きさが美に直結するからな。特に愛玩用の従人を囲うような奴らほど、その傾向が強い。だが俺はこの世界にいる連中とは美意識が違う。スレンダーな体型でも、まったく気にしないぞ。むしろどんと来い言えるほどだ。


 とはいえ、今それを伝えたところで納得はすまい。食事のおかげで少し距離は縮まったが、まだ出会ったばかりだしな。長い付き合いになるんだし、のんびりやっていこう。



「なにをするにも、まずは明日の買い物だな。今日はそろそろ寝よう、シトラスも疲れただろ」


「キミに振り回されて、身も心もヘトヘトだよ」


「よし。じゃあ明かりを落としてくるから、先にベッドへ入っておけ」



 天井の明かりを消し、サイドテーブルに置いてある魔道具を起動する。そのまま俺もベッドへ上がろうとするが、この状況はいかん。断じて看過できない。



「どうしてそんな端っこにいる、シトラス。眠っている間に落ちてしまうぞ」


「絶対になにか企んでるって顔をしてるキミに、近づけるわけ無いだろ」


「何もする気はないから安心しろ。ちょっとしっぽと耳をモフりながら寝たいだけだ」


「やっぱりボクの体を(もてあそ)ぶ気満々じゃないか!」



 ()でるという行為を不当な表現にするのは、やめてもらいたい。



「主人がずっと(いだ)いてきた夢のため、その身を捧げるは従人の務めだぞ。お前がちょっとしっぽを差し出せば、俺の快眠が約束される。実に名誉なことじゃないか」


「逆にボクは気になって眠れなくなるよ!」


「なにも一晩中、揉んだり撫でたりするわけじゃない。それにシトラス、お前はこんな場所で眠るのなんて、初めてだろ?」


「確かにキミの言うとおりだけど……」


「近くに誰かのぬくもりを感じるほうが、安心して眠れるぞ」


「なんかうまいこと言って、丸め込まれてる気がするなぁ」



 だってお前、自分の気持がすぐしっぽに出るじゃないか。不安そうに(しお)れている姿を見たら、ほっとけるわけ無いだろ。俺が抱えてきた長年の夢も叶うし、ウイン-ウインってやつだ。


 おずおずと近づいてきたシトラスと一緒に布団へ入り、腕の上にケモミミが付いた頭を乗せる。しっかり洗って丁寧にブラッシングしたモフモフは、控えめに言っても最高だな!



「今夜はいい夢を見られそうだ」


「ボクの夢はきっと、変態に捕まって乱暴される内容だよ」


「その変態が俺じゃないことを祈ろう」



 そう言いながら、シトラスの頭をそっと撫でた。



「あのさ……」


「どうしたんだ?」


「さっきお風呂で言ってたボクの数字、あれをもっと詳しく聞かせてよ」



 長風呂しすぎるのもよくないと、話を途中で切り上げたんだったな。

 もう一度軽くおさらいしつつ、少し突っ込んだ話をしてやろう。


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