0087話 雑食性
一週間ぶりです。
休載期間中は、不法占拠された屋根裏を巡って戦ってました。
なにと戦闘してたかは活動報告の方で!
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ここから第7章が始まります。
章タイトルで示した通り、物語は次のステージへ!
第3章までの人物一覧にも記載しましたが、いよいよ妹ちゃんが出てきます。
シトラスを先頭にして、森の中を慎重に進む。後ろを振り返ると殿を務めているシナモンが、しっぽを器用に動かしながらステップを踏んでいる。首につけた黄色いチョーカーには星のモチーフがあしらわれ、体が揺れるたびに木漏れ日を反射してキラキラ輝く。
ホントにあいつは足場の悪い場所を歩くのが好きだな。細い倒木の上を渡ったり、ぐらつく石に乗ってバランスを取ったりしてるので、見ていると少し危なっかしい。しかしコケたり足を踏み外したことは、まだ一度もなかったりする。あの平衡感覚はシトラス以上だ。
「皆さん、止まってくださいです」
ユーカリと手をつなぎながら索敵に集中していたミントの声で、全員がその場に停止。さて、今度こそ当たりだろうか。
「この先で物音がするです。たぶん何匹か固まってると思うですよ」
「じゃあ、あっちにある大きな木から覗いてみよう」
息をひそめながらそっと回り込み、木の幹に隠れながら音がする方向を見た。そこは少し開けた場所になっていて、小型犬ほどの魔物がいる。赤い木の実を貪っているのは、長い耳を持ったリスのような体つき。
やっと見つかったぞ。
「あれがそうなの?」
「二日目で見つかるとはラッキーだ。しかも三匹いるなんて、俺たちはツイてる」
カーバンクルは森でもなかなか見つけられない。しかもかなりすばしっこく、不用意に近づくと逃走されてしまう。ミントのような索敵役がいないと、姿を見ることさえ困難だ。
「体が緑で、ちょっと可愛いのです」
「見た目に騙されてはダメだぞ。あいつらは雑食性の魔物でな、きのこやら卵やらなんでも食い荒らす。森で採取できる食材は、全てカーバンクルの餌だ。俺たちにとって、天敵といって良い」
いま手にしている実だって、甘くて美味い人気のある果物。それを芯まで食うならまだしも、表面の柔らかい部分だけ齧って捨ててやがる。そうやって食い散らかされた実が、足元にいくつも転がっていた。まったく、もったいないことしやがって……
「……頭についてる赤いの、飴みたい」
「あれを持ち帰れば依頼達成だ。なるべく傷つけないよう、倒してくれ」
「……わかった」
額についている紅玉は、魔を払い幸運を呼び込むなんて言われている。なので縁起物として人気が高い。犯罪組織を潰した時の報奨で金には困っていないが、手に入った分は全部売ってしまおう。
「旦那様、作戦はどうしますか?」
「俺とユーカリ、そしてミントで三方から追い立てる。シトラスとシナモンは、待ち伏せして駆除だ」
それぞれの持ち場に分かれ、俺は魔法、ミントは小石、ユーカリは弓を構え、合図を待つ。音もなく木の上に登ったシナモンが、こちらへ向かって小さく手を振った。
三方向から同時に放たれた攻撃に驚き、三匹のカーバンクルが一斉に逃げ出す。しかしその先には、シトラスが待ち構えている。慌てて急停止したが、もう遅い。シトラスのダガーが首をはね、飛び降りてきたシナモンのナイフは胴体を貫く。
「もう一匹はあっちに逃げたです!」
「わたくしが止めてみます」
ユーカリの放った矢が、カーバンクルの前方に刺さる。しかしカーバンクルは減速することなく、直角に進路を変えやがった。この依頼が高難度に設定されている理由は、あの機動力ゆえか。不意打ちや出会い頭でもないと、正面から倒すのは無理かもしれん。
しかし俺たちのパーティーにはシナモンがいる。小さな体躯と類まれなる平衡感覚を駆使し、木の枝から枝へ飛び移りながら、カーバンクルに接近。腰に差した二本のナイフを抜き、上空から襲いかかった。
さすがに上の方は警戒してなかったらしく、自慢の俊敏性で回避する間もなく消滅してしまう。そして魔物が消えた場所には、小さな魔晶核と楕円形の紅玉。これで依頼達成だ。
「……あるじ様、はい」
「二匹も仕留めるなんて凄いぞ、シナモン」
俺はシナモンから戦利品を受け取り、頭を撫でなからネコ耳をモフる。表情こそほとんど変化はないが、目を閉じてキュっとしがみついてくるのが可愛い。
「さすがにボクも木の上を移動するのは無理だもんね」
「シトラスも器用に剣の軌道を変えて、首をはねてたじゃないか」
「あれくらい誰でも出来るって。それより毎回頭を撫でるの、やめてくれないかな」
「俺は褒めて伸ばすタイプだ、諦めろ」
お前のしっぽは左右に揺れてるじゃないか。いわゆる口では嫌がっても体は正直ってやつだな。そんな姿を見せられたら、やめるなんて選択肢は選べん。
「ユーカリとミントもナイスタイミングだったぞ。特にユーカリは、その後の判断が的確で良かった」
「弓の扱いにも、だいぶ慣れてきましたので」
「ミントもコントロールが良くなってきたのです」
「最初は俺が倒されかけたもんな」
「あぅー、そのことは忘れてくださいです」
ジマハーリにいた頃、明後日の方向にばかり投擲していたミントも、いまや野球選手並みだ。成長度という観点で見れば、ミントが間違いなくトップだろう。まあ、時々暴投するのは玉に瑕だが……
ミントとユーカリの頭を撫でながら、そういえばとシナモンに視線を移す。
「レベルが上がって十一になったぞ」
「……ホント?」
「体重もだいぶ増えてきたし、森の中であれだけ動けるなら、もう万全と言っていいな。とにかく今日の狩りは終わりだ、街に戻って報告しよう」
毎日抱っこしてるから、シナモンの回復ぶりは体感できる。風呂に乱入されることも多いし!
レベルアップと高タンパク食のおかげで、体力もついてすっかり健康体だ。こうして抱きつかれても、ふんわり柔らかくて心地よい。そういえば先日、シナモンの下着を買い直すはめになって、シトラスが落ち込んでたっけ……
俺的にはまったく気にしない部分だが、強く生きてくれ!
なんにせよまだレベルは低いのに、あれだけアクロバティックな動きができるのは、天性の資質といってよい。シトラスと二人でやる立体的な攻撃は、芸術の域まで達してるかもしれん。ろくに連携の練習なんかしてないのに、息がぴったりなんだよな。
本当にいい従人が来てくれた。
「街はこちらの方角です、旦那様」
「とっとと帰って、ギルドに報告してしまおう。今日は依頼達成の褒美に、凝ったものを作ってやる」
「ボク唐揚げがいい!」
「ミントはまた、ロール丸菜が食べたいです」
「煮付けにできるお魚が売っていないか、市場に行ってみましょう」
「……白身魚のフライと、タルタルソース」
さすがにその品数を一度に作るのは無理だ。まあ市場に出ている食材を見て、夕食のメニューは考えればいい。機嫌良く歩く四人の従人を連れ、街を目指して森の中を進む。
色々な食材が手に入ったら、野菜や肉そして魚も食べられるあれに挑戦してみるか。
次回は「0088話 マトリカリアの意外な一面」をお送りします。
一度タウポートンへ戻っていたセイボリーが再びゴナンクへ。
そこには専属料理人の姿も……