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0087話 雑食性

一週間ぶりです。

休載期間中は、不法占拠された屋根裏を巡って戦ってました。

なにと戦闘してたかは活動報告の方で!

https://mypage.syosetu.com/mypageblog/view/userid/1353159/blogkey/3033516/


◇◆◇


ここから第7章が始まります。

章タイトルで示した通り、物語は次のステージへ!

第3章までの人物一覧にも記載しましたが、いよいよ妹ちゃんが出てきます。

 シトラスを先頭にして、森の中を慎重に進む。後ろを振り返ると殿(しんがり)を務めているシナモンが、しっぽを器用に動かしながらステップを踏んでいる。首につけた黄色いチョーカーには星のモチーフがあしらわれ、体が揺れるたびに木漏れ日を反射してキラキラ輝く。


 ホントにあいつは足場の悪い場所を歩くのが好きだな。細い倒木の上を渡ったり、ぐらつく石に乗ってバランスを取ったりしてるので、見ていると少し危なっかしい。しかしコケたり足を踏み外したことは、まだ一度もなかったりする。あの平衡感覚はシトラス以上だ。



「皆さん、止まってくださいです」



 ユーカリと手をつなぎながら索敵に集中していたミントの声で、全員がその場に停止。さて、今度こそ当たりだろうか。



「この先で物音がするです。たぶん何匹か固まってると思うですよ」


「じゃあ、あっちにある大きな木から覗いてみよう」



 息をひそめながらそっと回り込み、木の幹に隠れながら音がする方向を見た。そこは少し開けた場所になっていて、小型犬ほどの魔物がいる。赤い木の実を(むさぼ)っているのは、長い耳を持ったリスのような体つき。


 やっと見つかったぞ。



「あれがそうなの?」


「二日目で見つかるとはラッキーだ。しかも三匹いるなんて、俺たちはツイてる」



 カーバンクルは森でもなかなか見つけられない。しかもかなりすばしっこく、不用意に近づくと逃走されてしまう。ミントのような索敵役がいないと、姿を見ることさえ困難だ。



「体が緑で、ちょっと可愛いのです」


「見た目に騙されてはダメだぞ。あいつらは雑食性の魔物でな、きのこやら卵やらなんでも食い荒らす。森で採取できる食材は、全てカーバンクルの餌だ。俺たちにとって、天敵といって良い」



 いま手にしている実だって、甘くて美味い人気のある果物。それを芯まで食うならまだしも、表面の柔らかい部分だけ齧って捨ててやがる。そうやって食い散らかされた実が、足元にいくつも転がっていた。まったく、もったいないことしやがって……



「……頭についてる赤いの、飴みたい」


「あれを持ち帰れば依頼達成だ。なるべく傷つけないよう、倒してくれ」


「……わかった」



 (ひたい)についている紅玉(こうぎょく)は、魔を払い幸運を呼び込むなんて言われている。なので縁起物として人気が高い。犯罪組織を潰した時の報奨で金には困っていないが、手に入った分は全部売ってしまおう。



「旦那様、作戦はどうしますか?」


「俺とユーカリ、そしてミントで三方から追い立てる。シトラスとシナモンは、待ち伏せして駆除だ」



 それぞれの持ち場に分かれ、俺は魔法、ミントは小石、ユーカリは弓を構え、合図を待つ。音もなく木の上に登ったシナモンが、こちらへ向かって小さく手を振った。


 三方向から同時に放たれた攻撃に驚き、三匹のカーバンクルが一斉に逃げ出す。しかしその先には、シトラスが待ち構えている。慌てて急停止したが、もう遅い。シトラスのダガーが首をはね、飛び降りてきたシナモンのナイフは胴体を貫く。



「もう一匹はあっちに逃げたです!」


「わたくしが止めてみます」



 ユーカリの放った矢が、カーバンクルの前方に刺さる。しかしカーバンクルは減速することなく、直角に進路を変えやがった。この依頼が高難度に設定されている理由は、あの機動力ゆえか。不意打ちや出会い頭でもないと、正面から倒すのは無理かもしれん。


 しかし俺たちのパーティーにはシナモンがいる。小さな体躯と類まれなる平衡感覚を駆使し、木の枝から枝へ飛び移りながら、カーバンクルに接近。腰に差した二本のナイフを抜き、上空から襲いかかった。


 さすがに上の方は警戒してなかったらしく、自慢の俊敏性で回避する間もなく消滅してしまう。そして魔物が消えた場所には、小さな魔晶核(ましょうかく)と楕円形の紅玉。これで依頼達成だ。



「……あるじ様、はい」


「二匹も仕留めるなんて凄いぞ、シナモン」



 俺はシナモンから戦利品を受け取り、頭を撫でなからネコ耳をモフる。表情こそほとんど変化はないが、目を閉じてキュっとしがみついてくるのが可愛い。



「さすがにボクも木の上を移動するのは無理だもんね」


「シトラスも器用に剣の軌道を変えて、首をはねてたじゃないか」


「あれくらい誰でも出来るって。それより毎回頭を撫でるの、やめてくれないかな」


「俺は褒めて伸ばすタイプだ、諦めろ」



 お前のしっぽは左右に揺れてるじゃないか。いわゆる口では嫌がっても体は正直ってやつだな。そんな姿を見せられたら、やめるなんて選択肢は選べん。



「ユーカリとミントもナイスタイミングだったぞ。特にユーカリは、その後の判断が的確で良かった」


「弓の扱いにも、だいぶ慣れてきましたので」


「ミントもコントロールが良くなってきたのです」


「最初は俺が倒されかけたもんな」


「あぅー、そのことは忘れてくださいです」



 ジマハーリにいた頃、明後日(あさって)の方向にばかり投擲(とうてき)していたミントも、いまや野球選手並みだ。成長度という観点で見れば、ミントが間違いなくトップだろう。まあ、時々暴投するのは玉に瑕だが……


 ミントとユーカリの頭を撫でながら、そういえばとシナモンに視線を移す。



「レベルが上がって十一になったぞ」


「……ホント?」


「体重もだいぶ増えてきたし、森の中であれだけ動けるなら、もう万全と言っていいな。とにかく今日の狩りは終わりだ、街に戻って報告しよう」



 毎日抱っこしてるから、シナモンの回復ぶりは体感できる。風呂に乱入されることも多いし!


 レベルアップと高タンパク食のおかげで、体力もついてすっかり健康体だ。こうして抱きつかれても、ふんわり柔らかくて心地よい。そういえば先日、シナモンの下着を買い直すはめになって、シトラスが落ち込んでたっけ……


 俺的にはまったく気にしない部分だが、強く生きてくれ!


 なんにせよまだレベルは低いのに、あれだけアクロバティックな動きができるのは、天性の資質といってよい。シトラスと二人でやる立体的な攻撃は、芸術の域まで達してるかもしれん。ろくに連携の練習なんかしてないのに、息がぴったりなんだよな。


 本当にいい従人(じゅうじん)が来てくれた。



「街はこちらの方角です、旦那様」


「とっとと帰って、ギルドに報告してしまおう。今日は依頼達成の褒美に、凝ったものを作ってやる」


「ボク唐揚げがいい!」


「ミントはまた、ロール丸菜(きゃべつ)が食べたいです」


「煮付けにできるお魚が売っていないか、市場に行ってみましょう」


「……白身魚のフライと、タルタルソース」



 さすがにその品数を一度に作るのは無理だ。まあ市場に出ている食材を見て、夕食のメニューは考えればいい。機嫌良く歩く四人の従人を連れ、街を目指して森の中を進む。


 色々な食材が手に入ったら、野菜や肉そして魚も食べられるあれに挑戦してみるか。


次回は「0088話 マトリカリアの意外な一面」をお送りします。

一度タウポートンへ戻っていたセイボリーが再びゴナンクへ。

そこには専属料理人の姿も……



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