表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
85/286

0085話 デートの続き

 ローゼルさんが手配してくれた自警団へコンフリーの身柄を引き渡し、俺はシトラスと一緒に店の外へ出る。現場の惨状に驚かれたが、別に死んでるわけじゃない。ギフトも俺の魔力が抜ければ復活するし、外傷などは皆無だ。全身の毛が抜けて、肌はカサカサになってるけどな。



「すまんシトラス、どこかで休ませてくれ。さすがに歩くのもつらい」


「真っ青な顔してるじゃんか、大丈夫なの?」


「少し休めば良くなる」


「どうせさっきまで見栄を張って、平気なふりしてたんでしょ。まったくキミは変にカッコつけなんだから……」



 いいだろ、別にそんな事。男は他人に弱みを見せたくないものなんだよ。



「あー、しんどくて倒れそうだー。こんな時に支えてくれる、優しい従人(じゅうじん)がいたらなぁー」


「はいはい、わかったよ。肩を貸したげるから、わざとらしくフラフラしないでったら」


「恩に着るぞ、シトラス。でも、ハイは一回な」



 シトラスに肩を貸してもらいながら、大通りから見えていた小さな緑地に二人で入る。日陰になっている場所へ座り、マジックバッグから取り出した果実水で一息つく。



上人(じょうじん)に対してギフトを使うのは二回目だが、やっぱりきつい」


「ボクたちに使うのと、なにが違うの?」


「お前たちは魔力を持ってないだろ、だからパスを繋いで一方的に流すことが出来るんだ。しかし上人は他人の魔力を受け入れまいと抵抗してくる。そこを無理やりこじ開けて流してるから、やたら疲れるんだよ」



 相手に気づかれないよう魔力を流すのは、かなり骨の折れる作業だ。気を抜くと逆流してくるしな。集中力が必要なので、精神的にもきつい。おかげで今も視界が少し回っている。ちょっと横になるか。



「あっ、寝るんだったらアレやったげるよ。キミがミントやシナモンにやってる膝枕」


「おお、いいのか! 今日のシトラスは優しいな」


「別に優しくしてるわけじゃないからね。ボクは早く家に帰って着替えたいだけさ」



 理由なんてどうでもいい。従人に膝枕してもらえるなんて、最高すぎるだろ。なんか、このまま死んでもいい気がしてくるぞ。



「なら今度は膝を貸してもらおう」


「変なことしたら、そのまま頭を落とすよ」


「するか、そんなこと」



 足を崩して座ったシトラスの膝に、そっと頭を乗せる。荒事に向かうからと、ズボンを履いているのが少し残念だ。次は素足の膝枕も堪能してみたい。


 しかし布越しにとはいえ、こうしてシトラスの体温を感じていると、とても落ち着く。それに柔らかさも絶品だな。にも関わらず、あんな強力な蹴りが出来るのだから、従人の体というのは本当に神秘的といえる。



「キミの魔力を流すってことは、相手と繋がりが必要なんだよね。どうやったのさ」


「あいつにシナモンの似顔絵を手渡しただろ。あの紙には俺の魔力を練り込んでたから、それでパスを繋げた」


「あー、あの時か」



 方法はいくつか考えていたが、(あぶら)ギッシュな肌に触れたくなかったので、間接的な方法にした。なんでワセリンを塗ったみたいに、テカテカしてるんだよ。年齢はまだ三十代に見えたし、肥満体型でもなかったのに。ムエタイでもやってたのか、あいつ。



「それにしても、姿が変わっちゃうなんてビックリしたよ」


「あれは俺も驚いた」


「えっ!? 知らないでやったの?」


「昔住んでいた家に泥棒が入ったとき、一度だけ上人に発動してみたことがある。その時は論理積(AND)しか使えなかったから、相手のビットはゼロのままだったんだよ」



 俺が暮らしていた離れの倉庫に侵入してきたので、ちょうどいい実験台だとばかりに、今回と同じような方法でパスを繋げた。その物取りは隠密系のギフトを授かっていたらしく、姿を隠せなくなったと驚いてたな……


 そしてじきに苦しみだし、体中から様々な液体を垂れ流して昏倒してしまう。まだ日本人の意識が強かった俺は、人を殺してしまったと大いに焦ったっけ。


 なにせ当時は細かい制御に慣れてなかったからな。ギフトを全力行使した反動で、俺も胃の中のものを全部吐き出して倒れた。今となっては苦い思い出だ。



「だから上人に対してギフトを使うのは、ずっと封印してた」


「なら今回はビットを一にしてみたんだね」


「使ってなかった論理和(OR)で、全てのビットを立ててみたんだ。まさかあんな結果になるとは思わなかったがな」


「キミって色々(さく)(ろう)する割に、変なところで行き当たりばったりなんだから」


「臨機応変と言ってくれ」



 十六種類ある全ての組み合わせを試してみたい気もするが、そのたびに体調不良をおこしたのでは話にならん。それに今回の件で、使役契約が強制解除されることもわかった。従人のレベルをリセットしてしまう力は、軽々しく使うべきじゃない。


 たとえそれが救いに繋がったとしても、繰り返せばどんなペナルティーに結びつくか不明だ。もしそれが自分の使役している従人に及んだら、悔いを千載(せんざい)に残してしまう。



「今回はたまたまうまくいったけど、あんまり無茶はしないでよ。見てる方はハラハラするんだからね」


「シナモンの境遇を聞いて、ついカッとなってしまったが、次からは別の方法を考える。やはり上人(じょうじん)に俺のギフトを使うのは、どんな結果を生み出すかわからん。また封印しておくことにするよ」


「あのさ……もしかしてボクたちのビットを全部一にしたら、あの人と同じ姿になっちゃうの?」


「いや、お前たちは元々動物の特徴を持って生まれている。だから上位四ビットを立てても、新たな力を得られるだけだ。今回の件は、あくまでもイレギュラーだからな」



 その力について、実家で読んだ本には載っていなかった。しかし天人(てんじん)と呼ばれていた太古の野人(やじん)が、獣の姿をしていなかったことだけは確かだ。


 とにかくその辺りの情報は、ワカイネトコの大図書館で調べてみよう。あそこなら古文書のたぐいも、大量に所蔵してあるはず。



「それを聞いて安心したよ。あんな姿になっちゃうと、外に出られなくなりそうだし」


「万が一そうなったとしても心配するな。俺はお前たちのことを絶対に捨てたりはせん。毎日全身をモフり倒してやるからな!」


「まったく……どうしようもない変態だね、キミは」



 呆れたような笑みを浮かべながら、シトラスが俺の頭を撫でてくれる。その優しい手付きを感じているうち、まぶたが徐々に重くなっていく。やがて少しの間、ウトウトとしてしまうのであった。


主人公がここまで無茶したのは、食べ物でシナモンを殺害しようとしたから。

コンフリーは食に対して一家言ある、彼の逆鱗に触れてしまったわけです。


次回は「0086話 これほど心強い味方なんて、なかなかないぞ」をお送りします。

シナモンとの契約をするにあたり、ローゼルからある提案が……


次で第6章は終わりです。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
食べ物を粗末にするとブ千切れる人は年配になるほど多くなり安和なあ 特に戦中・終戦直後みたいな食料手に入りずらい時代を経験した人なんかは
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ