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0084話 論理演算師

 魔道具を受け取ろうと伸ばした俺の腕を掴み、コンフリーがニヤリと笑う。



「かかったな、バカめ! このまま弾け飛べっ!!」


「あれはコンフリーさんの必殺ギフト! 【爆裂】を食らって生き残った者はいな……えっ!?」



 偉いぞ、バーテンダー。お前のような解説キャラがいると、非常に助かる。それにしても爆裂とは、珍しいギフト持ちがいたものだ。恐怖で部下を従わせるような、お山の大将にピッタリではあるが。



「なんで爆発しねぇ! どうなってんだ」


「どうも何も、ギフトが発動しなかったんだろ」


「そんなバカなことがあるか! 今日はまだ一度も使ってねぇんだぞ」



 ほほう、どうやら回数制限があるらしい。まあ強力なギフトだ、なにかしらの縛りがつくのは当然か。

 それにしてもコイツラ、面白いように自分からネタばらしするよな。



「なら自分のギフトを確かめてみろ」


「今まで何度も使ってきたんだ、確かめるまでもねぇ。ちゃんと念じればギフトの名前が……って、なにも浮かばねぇし、思い出せねぇ。俺のギフト、どこに行きやがった!?」


「どうした、どこかに落としでもしたのか? 探すなら手伝ってやるぞ」


「てんめぇー、なにしやがった! 返せ、俺のギフトを返しやがれ!!」



 顔を真っ赤にしたコンフリーが、俺に詰め寄ってくる。まだそんな元気があるとは驚きだ。そろそろ自覚症状が現れる頃のはずだが……



「どうして俺がやったと思ったのか教えてほしいな」


「このタイミングでギフトが消えたんだ。てめぇが犯人に決まってる」


「犯罪者を拘束する魔道具でも、ギフトの発動を抑えることしかできないんだぞ。そもそもギフトは神から授かった力だ。人間の俺がどうこうできるわけ無いだろ」


「ああ……ギフト、俺の大切なギフトが……」



 がっくりと項垂(うなだ)れたコンフリーを、俺は腕を組んで上から見下ろす。



「ギフトが無くなってるなら、ひょっとすると魔法にも影響が出てるんじゃないかぁー?」


「うぉー、魔法も使えねぇ。どうしちまったんだ、俺の体」


「おや? ショックのせいで、立ち上がれなくなってるぞー」


「かっ、体が重い。それに息も苦しい。毒でも……盛られたのか」


「ひっ!? ひぃぃぃ! コッ、コンフリーさん、その姿……」



 床に這いつくばるコンフリーを見て、バーテンダーが腰を抜かしてしまう。まあこの姿を見たら仕方あるまい。



「ヴォイ。ドオシテソナ()デ……(オデ)ヲ、()ヤガル」


「自分の手を見てみろよ、それに顔も」



 俺はマジックバッグから鏡を取り出し、コンフリーの前に掲げてやる。



「ナ、ナンデ(オデ)()()ダラゲニ、ゾレニゴノ(ガオ)……ダヌギ?」


「なかなか男前な顔つきになってるぞ、それに尻尾も生えてきたな」



 絶対にモフりたくはないが!



「ドボジデゴンナ()()ヴ。イッダイ(オデ)(ナニ)ジダッデンダ」


「アインパエから流れてきた犯罪者を集めて、色々やっていたようじゃないか。そいつらに従人(じゅうじん)を契約させ、使い捨てにしてたんだろ? これは今まで殺された従人たちの呪いかもな」


「ゾンナ……動物(ドヴブヅ)ニナンガ、ナリダグネェ」



 徐々に毛深くなっていく手足を必死に動かしながら、ズルズルとコンフリーが這い寄ってきた。

 キモいから近づいてくんな。



「お前たちが使役契約に使っていた、密造品の魔道具を差し出せば、助かるかもしれんぞ」


(ワダ)ズ! ナンデモ(ワダ)ズガラ、(ダズ)ゲデグレ」



 やはりさっき俺に渡そうとしていたのはダミーだったか。言われたとおりに金庫の中を漁ると、それっぽい魔道具が見つかる。正規品はサークルロックとよく似ているが、密造品は和錠(わじょう)の形にそっくりだ。


 俺のマジックバッグに入ったってことは、所有権の移譲が完了している証。それならもう、こいつに用はないな。



「すぐ仲介組合の自警団が来る。お前が取引していたモグリのブリーダーも、すでに捕まってるはずだ。大人しくお縄につくんだな」


「……」



 論理演算師の発動を解くと、全身を覆っていた毛がサラサラと粉になって消えていく。中から現れたのは、白目をむいて気絶したコンフリー。髪や髭はすべて抜け落ち、脂ぎっていた肌はカサカサになっている。


 このまま引導を渡してやりたいところだが、そうもいかん。ローゼルさんに引き渡す約束をしてしまってるからな。目的のものが手に入ってるし、今はそれで我慢しておくか。



「さて、次はお前だ」


「ひぃぃぃぃぃ……くっ、来るな」


「あいつと同じタヌキがいいか? ネズミやサルなんてどうだ。なりたい動物があれば、早めに教えろ」


「……いやだー。あんな目に合うのはゴメンだ。来にゃいれくりぇー」



 本当に気が弱いな、こいつ。失禁して気を失いやがった。まあいい、放置して外に出よう。そろそろ騒ぎになってるはず。



◇◆◇



 バックヤードから店内へ戻ると、従人の男が陥没した壁を背もたれにし、上を向いて座り込んでいた。先ほどまでの覇気はまったく無くなり、ただただ天井を眺めているだけ。



「気がついたのか。さすがレベル二百四十だな」


「骨とか折れてない?」


「平気だ、なんともない。それより俺は、レベルがリセットされたのか?」



 男の首に刻まれている従印(じゅういん)は、黒から赤に変わっている。やはりあの使い方は危険だ、また封印しておこう。



「すまんな。俺のせいで使役契約が強制解除されたようだ」


「いや、あなたが謝る必要はない。命令されていたとはいえ、俺は今まで多くの仲間を手にかけてきた。その罪を償わねばならん。だから、これで良かったんだ」



 俺に拳を向けた時にも謝っていたし、向けられた目も悲しみに染まっていた。あんな男に使役されていたせいで、意に沿わぬことを続けさせられてたんだろう。



「コンフリーの証言次第だが、お前には情状酌量の余地がある。もしやり直したいという気持ちがあるなら、ロブスター商会も力を貸してくれるだろう。死をもって償うのではなく、これから不幸になる従人が一人でも減るよう、尽くしてほしい。俺はそう願っている」


「こんな男に気を使ってもらい、感謝する。俺もあなたのような人に、仕えたかった」


「ねぇ、立てる?」


「いや、しばらくこのままでいさせてくれ。それより、お前の名前を教えてくれないか」


「ボクの名前はシトラスだよ。それであなたは?」


「俺はタンジーだ。最後にシトラスのような強者(つわもの)と戦えてよかった。負けたのにスッキリしている」



 そう言いながらタンジーが、こちらに手を伸ばす。ガッチリ握手を交わす二人の顔は晴れやかだ。これは戦って友情が芽生える、みたいなものなんだろうか。パンチとキックそれぞれ一発だったが、二人にしかわからない何かがあるのかもしれん。



「俺たちはそろそろ戻るが、一つだけ聞かせてくれ」


「ああ、構わない」


「お前は制約に違反しない方法で、シナモンのことを逃してくれただろ?」


「……さあ、どうだろうな。それより、あの子の病気は治ったのか?」


「すっかり良くなって、飯も食べられるようになったぞ。これからは俺の従人として、尽くしてもらう予定だ」


「そうか、それは良かった。あなたに使役してもらえるなら、安心できる」



 薄く笑みを浮かべたあと、タンジーは目を閉じる。本当にこの男、根は優しいやつだな。もう少しコンフリーのやつを、痛めつけてやればよかった。


 まあ、今はどうでもいい。入り口が騒がしくなってきたし、俺たちも外へ出よう。


ギフトの反動で体調を崩す主人公。

次回は「0085話 デートの続き」をお送りします。


お盆期間中(2022年8月13日~2022年8月15日)は投稿をお休みしますので、ご了承下さい。

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