表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
75/286

0075話 焼肉パーティー

 別荘の二階にあるルーフバルコニーへテーブルを運び、その上にエチゼン工房で作ってもらった魔道具を置く。魔力をチャージして起動させ、表面に油を薄く塗る。波型のプレートが熱を持ち始めたら準備完了だ。決して凝った料理ではないが、今日みたいな日にはぴったりだろう。


 トングを使って肉や野菜を並べていくと、食欲をそそる音が聞こえてくる。やはり魔法を使った調理とは、ひと味もふた味も違うな。プレートが大きいので、一気に調理できる点もいい。



「肉は焼きすぎると固くなるから、そろそろ食べられるぞ」


「やったー! いただきます!!」



 しっぽをブンブン揺らすシトラスが、取り皿へ肉を山盛り乗せていく。まあ優勝記念のパーティーだ、今日は好きなだけ肉を食え。



「お肉の食べ比べが出来るなんて、夢みたいなのです」


「どんどん焼いていくから、遠慮せず食えよ」



 ブル系の肉が三種、ボア系の肉が二種、そしてコッコ(ちょう)の肉も揃えてみた。しかもそれぞれ部位によるバリエーションもある。三十種類近くの肉を食べ比べるなんて、上人(じょうじん)でもめったにできない体験だろう。



「海で食べたときのと違いますが、こちらのソースも美味しいです」


「これは焼肉のタレといってな、鉄板で調理する料理専用のものだ」


「ご飯ともよく合うよー」


青菜(レタス)の上にタレ付きの肉を置いて、細く切った生野菜を巻いて食べても美味しいぞ」


「ミント、それやってみるです」



 やはり副賞で肉を選んだのは正解だったな。なにせ三人で四つの特別賞をもらえたから、欲しい物がすべて手に入っている。肉ばっかり選んでどうするんだと、セイボリーさんに呆れられたが……


 こうして焼肉パーティーでもすれば、景品でもらったぶんくらいなら、あっという間になくなってしまう。



黄玉(かぼちゃ)赤根(にんじん)も焼けてまいりましたね」


「次は丸菜(きゃべつ)丸ネギ(玉ねぎ)を乗せておくか」


「自分で焼きながら食べるというのは、とても楽しいです」



 大人から子供まで、どんな世代でも楽しめるのが焼肉だ。この手軽さに肩を並べる料理は、そんなに多くないだろう。なにせ材料を切るだけで準備が完了するし、乗せるだけで調理も終了する。


 まあ瓶入りのタレなど売ってない世界だから、その点だけは面倒なんだよな。


 セイボリーさんに教えて、焼肉のチェーン店でも作ってもらうか?



「運動会を頑張ってよかった! ボク幸せだよ」


「そうだシトラス、明日は二人だけで出かけないか?」


「いいけど、なにするの?」


「優勝のご褒美に、なんでも好きなものを買ってやるぞ」


「ホント!? じゃあ行く、絶対に行く!!」



 ユーカリとはよく買い出しに行くし、ミントとは時々散歩をしている。コンテストの準備でバタバタしていたから、ゴナンクではまだシトラスと出かけたことがない。この機会にデートを兼ねて、二人だけでショッピングと洒落込もう。



「そういうわけなんで、すまんが二人は留守番を頼む」


「はいです。ミント頑張って留守番するです」


「今日のシトラスさんはとても頑張ってましたから、明日は旦那様と楽しんできてください」



 さて、明日の予定も決まったし、俺も思う存分肉を食うぞ。なにせもう半分くらいなくなってしまったからな。のんびりしていたら、食い尽くされる。



◇◆◇



 順番に風呂を終わらせ、先に上がってきたシトラスのしっぽを、ドライヤー魔法で乾かす。肉を思う存分食べられたからだろう、今日のしっぽは実にごきげんだ。



「今日は激しい運動をしたが、ダメージが出てないようで何よりだ」


「ボクたちのしっぽって、そんなにヤワじゃないから平気だって。過保護すぎるんだよ、キミは」


「なにを言ってるシトラス。こういうのは、日々の積み重ねが大事なんだぞ。痛むのはあっという間だが、回復には時間がかかる。怪我なんかと同じで、一瞬の油断が命取りになりかねん」


「だからって、競技のたびにブラッシングしなくてもいいのに……」



 あのときモフっておけば、なんて後悔するのはゴメンだからな。チャンスがあればモフらせてもらう。なんのためにブラシを何本も持ち歩いてると思ってる。



「それより、なにか欲しい物があれば考えとけ」


「うーん、これといって思いつかないんだよね。まあ、キミと二人だけで出かけるのって久しぶりだし、今はそっちのほうが楽しみかな」



 くそっ、なんでこいつはいちいち可愛いことを言うんだ。俺を萌え殺す才能に(あふ)れすぎてるだろ。まったく恐ろしい奴め。



「まあ街を歩きながら決めてもいいが、できれば形の残るやつにしろよ。食べるものならそれとは別に、おごってやるからな」


「うわっ、そこまで気前がいいと、なにか裏がありそうで怖い」


「裏なんてあるか! コンテストで優勝するってのはな、それだけ意義のあることなんだ。今回のがもし国営のコンテストだったら、俺は迷いなくお前に家名を与えてたぞ」


「そんなのいらないけど、もしかしてボクって凄いことしたの?」



 この世界における序列ってのは、ある意味権力と置き換えられる。しかも力関係は、トップとそれ以外だ。一番を取ることが何より重要で、二位以下じゃ価値を認められない。


 だから敢闘(かんとう)や努力を評価される今回のコンテストは、かなり異端だったということ。主催者がローゼルさんじゃなかったら、絶対に実現しなかっただろう。



「明日になればわかる、シトラスはちょっとした有名人になったからな」


「なんか出かけるの、嫌になってきたんだけど……」


「諦めろ。遅かれ早かれ、人の目に触れることは避けられん。できるだけ早めに慣れておいたほうが、後になって楽だぞ」


「悪人っぽい顔をして、気が滅入ること言わないでよ!」



 ちょっと口角(くちかど)を上げただけで、なんて言い草だ。もう容赦しない。明日はどれだけ嫌がっても、あちこち連れ回してやる。そして俺の可愛いシトラスを、街中に自慢しまくってやるからな。覚悟しておけ!


次回は「0076話 シトラスとデート」をお送りします。

憧れの生徒会長様?

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ