0064話 ゴナンクへ到着
新章の開始です。
やっと警備隊の詰め所から開放された。前回はオレガノさんと一緒だったので色々手続きを任せられたが、今回は不慣れな俺一人ということもあって、時間がかかってしまっている。それにきっとタウポートンでは、優先して手続きをやってくれたんだろう。
「あー、やっと戻ってきた。このまま夜になるんじゃないかと思ったよ」
「お疲れ様でしたです、タクト様」
「もう街へ入っても構わないのでしょうか」
「待たせて悪かったな。手続きは全て終わったから、いつでも街へ入れるぞ」
日がかなり傾いているし、確かにシトラスの言うとおりだ。街へ到着したのはお昼すぎだったのに、ここまで時間がかかってしまうとは。まあ唯一の救いは、セイボリーさんの別荘を貸してもらえることか。鍵も預かっているので、これから不動産屋へ行かなくて済む。
こんなリゾート地にセカンドハウスと、別荘二軒も持ってるんだからセイボリーさんは凄い。さすがタウポートンで富豪と呼ばれるだけはある。
「それで、今回はどうだった?」
「またとんでもなくレベルが上って、五十八になった」
「あれだけ襲われたのですから、当然だと思うのです」
「わたくしたちばかり狙われた感じがしますね」
「知らないやつが見ると、俺は愛玩用の従人を三人も連れて、リゾート地へ向かう旅人だからな。それだけの税金を払える財力があるのに、護衛の冒険者すら連れていない。野盗にとっては、さぞやいいカモに見えたんだろう」
四人で旅をする俺たちは、野盗ホイホイだったわけだ。少なくとも海岸沿いの街道は、しばらく安全に行き来できるはず。なにせアジトも含めて六組ほど潰してきたのだから。
「なんかレベルが離される一方で、ボクなんだか悔しいよ」
「シトラスもセルバチコのように、掃除屋の活動をしてみるか?」
「うーん……キミ以外の言う事を聞くのはなんか癪だし、何十年も続けるのはきっと無理だよ。だから、今のままでいいや」
セルバチコのレベルがオレガノさんより高いのは、長年続けてきたボランティア活動のおかげ。街の下水設備などに発生するスライムを、ひたすら掃除してきたからだ。たまに冒険者ギルドでも依頼を見かけるが、不人気案件なんだよな。
「まあレベル差のことは、あまり気にしなくてもいい。そもそも俺たち上人は、どう頑張っても従人には勝てん。唯一のアドバンテージは、魔法だけなんだしな。生活魔法しか使えん俺は、ユーカリにすら惨敗してしまう」
「弱っちいキミのことを守ってあげるのが、ボクたちの努めだもんね。だからキミもガンガン野盗を倒して、少しでも強くなりなよ」
「その野盗なんだが。どうやら今がピークで、今後は落ち着いてくるだろうって話だ」
「それは一体どういうことなのです?」
「国を挙げて大規模な野盗狩りでも始めるのでしょうか」
俺は警備隊の詰め所で聞いた話を、三人に伝えていく。
北方大陸のアインパエで新しい皇帝が即位し、犯罪者の取締り強化を始めた。そのせいで密航者が跡を絶たず、海に面したこの地域へ流れ着いてるらしい。犯罪に手を染めて自分の国を逃げ出すような連中だ、他国でも同じようなことを繰り返す。
盗品の売買や違法な従人取り引きが横行し、正規の商売にも影響が出始めてしまう。そんな状態に業を煮やした大手商会が、連名で陳情書を提出する。さすがに商業国家としてこれを無視することは出来ず、とうとう重い腰を上げた。今後は水際対策を徹底するので、徐々に減っていくだろうとのこと。
「ふーん。変な言葉遣いの人が多かったのは、別の大陸から来たせいだったんだね」
「通貨も違うし、文化もかなり異なってる。なにせアインパエは、魔導工学に力を入れている国だ。俺たちが使っている魔道具も、あの国で開発されたものが多い」
「道具に頼ってるぶん、生身の戦闘能力は低いのかな」
「きっとシトラスさんが強すぎだと思うのです」
「わたくしやミントさんでも倒せるくらいですから、実力自体が足りないのだと思いますよ」
ユーカリの認識も、順調に麻痺していってるな。レベル二十のお前が持つ強さは、一部の上位冒険者が連れている従人並みなんだぞ。
「とにかくお前たちが暴れてくれたおかげで、俺は四つ星冒険者になることが出来た。実績を積みすぎたせいで、警備隊に誘われてしまったがな」
「そのお誘い、お受けしたのです?」
「もちろん断ってるぞ。ここに来た目的はコンテスト出場だし、新しい従人を探す責務もある。今の俺には治安維持などに関わっている余力はない」
「えっとレベル五十八ってことは、新しい力を二つ覚えたんだよね。何人増やすつもり?」
「残念ながら一人しか増やせない。新しく覚えたのはシフトとローテートでな、これは下手に使うと何がおきるかわからんから、しばらく封印しておくつもりだ」
新しい二つの命令にも算術シフトと論理シフト、そしてキャリーフラグ付きと無しのローテートがある。論理演算師のギフトが、どういった実装をしているのかまでは、俺にもわからない。そもそもコンピューターと全く同一かすら不明だしな。
今まではビットをマスキングするだけということで、最初から使える状態だった論理積の延長として、行使することができた。しかし今度の演算子は、ビットを動かすものだ。動かしたビットは元に戻るのか、空いたビットに挿入されるのは、どちらの数値か。下手すると取り返しの付かないことになる可能性すらある。
そんな実装方法が不明な力を使うような真似、とてもじゃないが俺の可愛い従人たちにはできん。
「タクト様にもわからないことはあるのですね」
「思慮深い旦那様がこう仰っているのですから、きっとわたくしたちのことを慮ってくださっているのでしょう」
ユーカリの言葉で、ふと思い出す。俺が最初にギフトの力を使ったのは、部屋の掃除に来ていた犬種の従人だったっけ。今にして思うと、彼女を実験台にしてしまったわけだ。結果的になにもなかったとはいえ、罪悪感がうずいてしまうではないか。
「でもキミのことだから、好奇心に負けて使いそうなんだよなぁ~」
「心配するなシトラス、俺は失敗から学べる男だ」
「やっぱり何かやらかしてたんだ……」
おっと。つい口が滑ってしまった。とりあえず昔の家でやっていたことは、歩きながら話をしよう。ミントが不安そうな目で、こっちを見ているし!
セイボリーさんの別荘へ向かいながら、新しい力の問題点や過去のことを伝えていく。ここでシフトやローテートが出てきたということは、新しい力は打ち止めかもしれない。他にビット操作のできそうな演算子は無いしな。
ならば最後の一人は、戦闘のできる従人で決まりだ。やはり前衛にシトラス一人というのは、どうしても負担が重くなる。その辺りを考慮しながら、八ビット持ちの従人を探してみるか。
アインパエとは一体どんな国なのか。
連載が続けば判明する日が来るかもしれません。
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なんて、よくあるテンプレを書いてみました(笑)
この章はノリと勢いだけで進んでいきますので、お楽しみいただけると幸いです!
次回は「0065話 海水浴へ出発」。
主人公のデザインした水着とは……