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0044話 オークション開始

 オークション会場は中央に大きなステージがあり、その周りを取り囲むように座席が並べられている。腰の高さまである仕切りで区切られた、半個室といった感じの造りだ。


 机に設置してある入札用の魔道具で、金額を提示するわけか。匿名性が担保されているのはありがたい。入札合戦に熱くなり、恨みを買うことだってあるだろうからな。



「従人の椅子は用意されていないが、立ちっぱなしでも平気か?」


「かかとの高い靴じゃないし、大丈夫だよ」



 そう言ったシトラスが、軽くステップを踏むように足を動かす。チャイナ服のメリットは、靴底の薄いシューズを履ける点にある。なにせパンプスとか絶対に嫌だと懇願された。


 いざという時、ボディーガードとして動けないようでは本末転倒だし、シトラス最強の武器は足技だ。それを考慮すると、選択肢は限られてしまう。だから決して趣味だけでチャイナ服を作ったわけでは、ないのである。


 そんな言い訳じみたことを考えていると、司会者がステージ上に現れた。どうやら開催時間になったらしい。簡単な挨拶と説明のあと、競売にかけられる従人たちが、一人ひとりステージに上ってくる。


 出品順とか言っていたので、最初に出てくるのは実用的な者たちだ。そして次が、いわゆる見切り枠か。最後に登場したのはレア枠だな。


 丸い耳をして猫種(ねこしゅ)より更に細いしっぽの持ち主は鼠種(ねずみしゅ)、そして小さなツノが生えてはち切れそうな胸の従人は牛種(うししゅ)。先の方だけ黒くなったしっぽに三角の耳、あれは狸種(たぬきしゅ)の従人じゃないか。その隣にはクルッと巻いたボリュームのあるしっぽを持つ従人もいる。すごいな栗鼠種(りすしゅ)が見られるとは。


 さすが金持ちの集まるオークション、さしずめレア従人の博覧会とでも言ったところだ。めったに見られない種は、とても目の保養になるな。



「相変わらずキミは、お尻しか見てないよね」


「見ているのはしっぽだ。それにちゃんと数値もチェックしてる」


「それで、どう?」


「お前たちと同じ四等級に、一人だけいた。中央にいるから、競争もあまりないはず。なんとしても手に入れてやる」



 ざっと会場を見た限り、二百四十の支配値を持つ者は、十名にも満たない。それに見切り枠にいるということは、何かしらマイナスポイントがあるんだろう。


 野盗討伐のおかげで軍資金はかなり潤沢にある。俺はオークションの様子をボーッと眺めながら、お目当ての従人が登場する瞬間を待つ。


 そして中盤に差し掛かった頃、八ビット持ちの従人がステージに登場した。



「こちらの従人は二十四歳と(とう)が立っております。しかしスタイルの良さはまだ衰えを見せておりません。そしてこの歳にも関わらず、純潔を守り通している貴重な存在。四等級と契約は難しいものの、極めて従順だという評価つき。安定した人気の高さに定評がある狐種(きつねしゅ)を、皆様のお手元にいかがでしょうか」



 赤い従印(じゅういん)が首に出ているということは、誰かから契約解除されたという(あかし)。会場からも「中古であの年齢では」とか「毛色が悪い」とか聞こえる。確かにくすんだ土色(朽葉色)は、華やかさにかける。それにあの表情は、何もかも諦めた者がする目だ。



「開始価格は百からです。どなたかいらっしゃいませんか?」



 先ほどまでは四桁スタートだったので、価値的にも十分の一か。まあ、安く買えるに越したことはない。俺にとって年齢や毛色は、さして問題にならんしな。


 そう考えながら机の魔道具に手を伸ばそうとした時、ブースの一つで動きがあった。あいつはさっき絡んできたジギタリスだ。お前の支配値は八十しかないだろ。契約できない従人に手を出してどうする。隣に控えている執事っぽい男が支配値二百四十だから、そっちに契約させるつもりか?


 上流階級あるあるとはいえ、あいつにだけは渡せんな。ろくな扱いを受けられないのは、確定的に明らか。少々無理してでも絶対阻止だ。



「ただいま百で入札がありました、どなたか他にはいらっしゃいませんか?」


「おっと、いきなり上がって百五十です」



 入札単位は開始価格の一割以上だが、一気に五十上乗せした。さあ、どう出る?



「二百、二百が入りました」



 同じだけ乗せるとは、なかなか(いさぎよ)いな。



「なんと五百です! 倍以上の金額で入札がありました」


「八百、いま八百の入札が!」



 あいつ、俺が上乗せした金額を、そのまま足していくつもりなのか?

 ならばとことん付き合ってもらおう。



「千五百! 一気に千五百です!!」


「今度は二千二百! 盛り上がってまいりました」



 さっきセイボリーさんに聞いた話では、あいつは仕事をしてないらしい。例え家が裕福でも、自由に使える金額には限りがあるだろう。俺は入札を繰り返しながら、ジギタリスの様子を注視し続ける。


 巨乳好きという性癖の情報が正しいなら、きっと本命は牛種(うししゅ)の女なはず。どこまで別の従人に回す金があるか、勝負といこうじゃないか!



◇◆◇



 あいつの顔色がどんどん悪くなってきたぞ。そうやって地団駄を踏んでいると、誰が入札してるのかバレバレだろ。

 まあいい、そろそろトドメを刺そう。



「三万二千! 想定価格を遥かに超える金額です。さあ他に、他に入札する方はいらっしゃいませんか?」



 執事に止められているし、これで打ち止めといったところか。なにせ現時点で最高になる落札額を、出してしまったからな。軍資金はかなり溶かしたが、依頼や収集で稼げばいいだけ。なんの問題もない。



「無駄遣いしすぎだよ」


「そう言うなシトラス。お前にだって、あいつの従人になったらどんな末路が待っているか、簡単に想像はつくだろ?」


「まあ不幸になる従人が一人でも減ったんだから、喜ぶべきことだけど……」



 待て待て。どうしてそこで自分の胸を見る。大きさで選んでいるわけじゃないからな。さっきもちゃんと言っただろ、あの従人は八ビット持ちだと。立て続けに胸の大きな者と契約しているが、俺にそんな性癖はない。ジギタリスと同列に扱われるのは、誠に遺憾だ。



「うつむいてどうした。疲れたのなら、俺の膝に座ってもいいぞ」


「人前でそんな恥ずかしい事をするくらいなら、ここで服を脱いだほうがマシさ」



 相変わらず勢いだけで、さらなる羞恥プレイに向かうのが面白い。そんなところが俺の心にクリティカルヒットする。やっぱりお前は最高の従人だよ。


次回は「0045話 オークションの闇」をお送りします。

見切り枠に出品されていた理由とは……?

お楽しみに!

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― 新着の感想 ―
「無駄遣いしすぎだよ」「そう言うなシトラス。お前にだって、あいつの従人になったらどんな末路が待っているか、簡単に想像はつくだろ?」 2200から32000って、無駄遣いのレベルじゃないでしょう。世間…
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