表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

42/286

0042話 オークション会場

 大きな邸宅が立ち並ぶ地区に入り、オークション会場を目指す。社交界からドロップアウトした俺が、まさかこんな場所に来るとは、人生なにがあるかわからんものだ。


 男性はタキシードや燕尾服(えんびふく)を着ている者が多く、色も暗めなものばかり。かく言う俺も、黒のスリーピーススーツをチョイス。まあ前世で着たことのあるフォーマルウェアがこれだったしな。


 逆に女性は華やかなドレスや、エレガントなワンピースなど、色とりどりで個性豊かだ。同じことは連れている従人(じゅうじん)にも言える。しかしセンスが悪すぎて、あまり目の保養にならん。



「招待状を拝見いたします」



 入り口で入場チェックをしている男性に、オレガノさんからもらった招待状を手渡す。優美な装飾が施された格子の門扉(もんぴ)は、資格のないものを拒む結界といった感じか。



「ここより先は、リードを出した状態でお入りください」



 シトラスに軽く目線で確認を取り、使役の指輪からリードを出現させた。そういえばこれを使うのは初めてだな。あまり使いたくない機能ではあるが、規則なのだから仕方がない。従人同士のトラブルや暴走を防ぐために必要な、保安上の理由ってやつだろう。


 人の少ない場所まで移動できたし、ここらで一息入れるとするか。



「ほら、そんなに緊張しなくても大丈夫だぞ」


「だってこの格好落ち着かないんだよ。絶対に変な目で見られてるって」


「そんなことあるか。その格好は、お前の魅力を存分に引き出している。現に街なかでは、羨望の眼差しで見られていたくらいだ」


「それって、都合のいい解釈な気がするんだけど」



 胸のまろやかさこそ劣っているが、肌の滑らかさと髪やしっぽの艶は、この会場にいる誰にも負けていない。



「近くにいる女の従人を見てみろ。ゴテゴテと着飾って原型をとどめていない者や、派手な露出でセクシーさを強調してるような者ばかりだ」


「あー、うん。確かに、あの格好よりはマシかな」


「スラリと伸びたしなやかな手足が、シトラス最大の魅力と言っただろ? 俺の言葉を信じておけ」


「ボクたちのしっぽや耳にしか興味のないキミに、そう言われてもねぇ……」



 着付けの直前までゴネていたものの、それ以降は文句を言わなかったじゃないか。それなりに気に入ってるのは、ちゃんとわかっているぞ。なにせ、お前のしっぽは嘘をつけないんだからな。



「それよりリードは平気か?」


「初めて使われたから抵抗感はあるけど、すぐ慣れると思う」


「オークションが終わったらすぐ消してやるから、少しだけ我慢してくれ」


「もー、頭を撫でないでってば。せっかくミントに整えてもらったんだから」


「相変わらず、お前さんたちは仲がいいの」


「赤い服がとても目を引きますね」



 無理して笑顔を作ってくれたシトラスの頭を撫でていると、オレガノさんとセルバチコが挨拶に来てくれた。さすがに二人とも燕尾服がよく似合っている。



「こんばんは、オレガノさん、セルバチコ」


「こんばんは。やっぱりボク、目立ってる?」


「シンプルな色使いなので、遠目ではさほど目立ちません。しかしながら、近くで見ると驚きます。たった二色で、よくここまで華やかになるものだと、感心いたしました。よくお似合いですよ」


「あ、ありがとう」


「赤に金糸の模様は鉄板だからな。それにオレガノさんに紹介してもらった店が、とてもいい仕事をしてくれたんだ」



 シトラスを照れさせるとは、なかなかやるな、セルバチコ。さすが長年、商人のそばで仕えてきただけあり、おべんちゃらに聞こえない褒め方が素晴らしい。



「おっ!? タウポートンにいたのか、オレガノ! どうして俺のところに来ない、寂しいだろ」


「すまん、すまん。取引先との商談でバタバタしとってな」


「ご無沙汰しております、セイボリー様」



 近づいてきたのは、白髪混じりで背の低い男性だ。連れているのは馬種(うましゅ)の女従人か。明るい栗毛の頭から、葉っぱの形をした耳がピンと伸びている。存在自体がレアな従人を使役しているくらいだし、かなりの資産家なんだろう。


 しかし、長い髪をポニーテールにしている辺り、なかなか良くわかってるじゃないか。それにバッスルスカートを履かせているのも、馬種の特徴である長い脚の魅力を、存分に引き出している。近くにいる成金たちとは、明らかに違うな。



「(キミ、ちょっと見過ぎだよ)」


「(珍しい従人だったから、つい目が行ってしまっただけだ)」


「それでこいつらは何者だ? 音信不通になってる息子にしちゃあ歳が若いし、とうとうお前も後継者を作る気になったのか?」


「彼らとは旅の途中で共闘してな、ここまで一緒に移動してきた。まあ年の離れた友人といったところかの」


「俺は()()()冒険者のタクト。狼種(おおかみしゅ)の従人はシトラスだ。よろしく頼む」


「ほう……三つ星か」



 背が低いため下から見上げる格好だが、その視線はかなり鋭い。二つ星から三つ星に上がるには、荒事(あらごと)を経験しないとダメだ。さっきオレガノさんが〝共闘〟と言ったし、そうした目で俺のことを見ているんだろう。



「おっと、わるい。俺はこの街で商会をやっている、セイボリー・タラバ。こいつはマトリカリアだ」


「儂の紹介した店も、この男がやっている商会の傘下でな」


「そうだったのか。腕のいい服飾職人が作業を優先してくれたおかげで、満足のいく服ができたよ」


「あそこには寝食を忘れて、服作りに没頭する職人が集まっとるからな。気に入ってもらえたなら何よりだ」



 俺たちが服を取りに行った時、全員がぐったりしていたのは、そのせいか。急がせて無理させたのかと思ったが、どうやらいつもの事だったらしい。



「おやおやぁー? 見慣れない上人(じょうじん)がいると思って来てみれば、従人に女装をさせる変態だったようだねぇ。一体どこの田舎者かなぁ?」



 近づいてきた小太りの男に突然声をかけられたが、誰なんだコイツは。しかもシトラスのことをバカにしやがって。この魅力がわからんとは、お前の目は節穴か?


 連れている狐種(きつねしゅ)の従人は胸元を大きく露出させ、ギリギリ股間が隠せる丈の短い服を着せられている。本来あるべきものが見えてないということは、履かせてないだろ。自分のことを棚に上げて、なにぬかしてるんだ。


 それにボリュームあるしっぽを、革のベルトで縛るなど愚の骨頂。ボンテージファッションをしたいのなら、体にやれ! もふもふを愚弄するんじゃない!! 性根から叩き直すぞ、コラ。


主人公のモフモフ愛に火をつけたこの男は一体……

次回「0043話 ジギタリス・アンキモ」をお楽しみに!

(海に面した街だけあり、家名は海産物で統一されてますw)


◇◆◇


執筆に使用しているPCは、起動ドライブのM2.SSDとデータ用のHDDを搭載しています。

今週中にデータ用HDDを、500GBから6TBへ換装します。もし更新が滞ったら、データ移行や組み込みでトラブルが発生したと思ってください!

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ