表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

40/286

0040話 タウポートン到着

第4章の開始です。

 湿地の向こうに堤防のような壁が見えてきた。あれで海と湿地を完全に分断しているのか。まあ湿地に海水が流れ込むと、水麦(みずむぎ)の生育に影響が出るからな。野人(やじん)を排除するためだとしても、ある意味ちゃんと役に立っているはず。



「なんか変な匂いがするよ?」


「恐らく海……というか、磯の香りだろう」


「海の水はしょっぱいって、本当なのですか?」


「海水を蒸発させて、塩が作れるくらいだからな。この街で作られた塩は、世界中に輸出されている」



 シトラスとミントは未知の光景と出会える楽しみで、さっきから落ち着かない様子。俺もこの世界で海を見るのは初めてだから、ちょっとテンションが上ってきていたりする。早速食材を探してみたいところだが、まずは入国審査を受けなければならない。


 途中で討伐した野盗の報告や、押収した金品も提出しないとダメだしな。その辺りはオレガノさんが慣れているので、存分に頼らせてもらおう。



「うわー、入場待ちで結構並んでるね」


「大きな荷物を持った人が、いっぱい居るです」


「さすが商業国といったところだな」



 数人で入場審査をしているが、処理が追いついていない感じか。これだけ人が並んでいると、最後尾プレートを持って立ちたくなる。



「儂らはこっちに行くぞ。付いて来るといい」


「一番うしろに並ばなくていいの?」


「順番は守らないといけないと思うです」


(わたくし)たちは野盗の討伐をしていますので、特別な手続きが必要になるのです」



 どうやら手続きに時間がかかるため、別の場所で対応してくれるらしい。そのへんは元いた街(ジマハーリ)とシステムが違うな。裏を返せば、それだけ野盗に襲われるやつが多いということだ。



「ようこそタウポートンへ、オレガノ様。こちらに来られたということは……」


「途中で野盗に襲われてな」


「やはりそうでしたか。もうお年なのですから単独で移動せず、商隊を組んでくださいとあれほど申しましたのに」



 詰め所の方から出てきた三十代くらいの男性が、オレガノさんを見て走り寄ってきた。さすが上級商人、しっかり顔パスになっている。こうして心配される辺り、この国でかなりの実績を積んできたんだろう。



「気ままな旅ができなくなったら、儂は商売人を引退するよ」


「とにかくご無事で何よりです。それで、お連れの方は一体」


「彼らが野盗の掃討に協力してくれてな。そこの若者に討伐記録を持たせているから、諸々の手続きを頼む」


「俺は二つ星冒険者のタクト。たまたま襲撃現場に出くわして、オレガノさんから執行人の任命を受けた。この冒険者カードに記録されているから、よろしく頼む」



 俺は自分の冒険者カードを取り出し、野盗の持っていたマジックバッグと一緒に、男性へ差し出す。



「このたびは野盗討伐の協力、感謝する。カードとマジックバッグは、こちらで預からせてもらうよ。向こうの建物に控室があるから、オレガノ様と一緒に待っていてくれるかな」



 さて、あの野盗たちにどれだけの犯罪歴が付いていたか、これでやっと明らかになる。なにせ執行人として処刑しているので、罪科(ざいか)に応じた経験値がペナルティー無しで俺につく。レベルが上って新しい演算子を覚えたら、従人(じゅうじん)の追加も考えてみよう。



◇◆◇



 オレガノさんと一緒に詰め所をあとにし、外で待っていた三人のもとへ向かう。取り返した金品類の謝礼や野盗討伐の賞金は、後でまとめて振り込まれる。手続きは色々とややこしいが、これは傭兵稼業をやろうって気にもなるわけだ。ただし、ハイリスクハイリターンだけどな。



「お帰りなさいませ、旦那様、タクト様」


「やっと終わったんだね。ボク待ちくたびれちゃったよ」


「お疲れさまでしたです、タクト様、オレガノ様」


「なんど経験しても、面倒でかなわんな」


「俺としては、レベルが大幅に上昇して感謝しかない」


「ねえ、いくつになったの?」


「聞いて驚け、シトラス。一気に二十上がってレベル三十八だ」



 マジックバッグに溜め込んでいた品数を見て、オレガノさんが事前に推測してくれていた。しかし結果はそれ以上に多い。あのボスともう一人の男、集めた部下を切り捨てながら、悪事を繰り返してたんだろう。


 今回逃げられなかったのは、見張り役の男を俺が倒してしまったから。ミントの聴覚がいい仕事をしてくれたおかげだ。今夜は久しぶりの風呂に入れそうだし、感謝の気持を込めてモフりまくってやろう。



「新しいお力はどのようなものなのです?」


「それは後から説明してやる。とりあえず従人は、もう一人増やせるようになった」



 レベル二十四と三十二で覚えたのは、否定論理和(NOR)排他的論理和(XOR)。このうち否定論理和は、一が立ったビットを必ずクリアしてしまうので使えない。しかし排他的論理和なら、自由にビット操作が可能。これがあればシトラスやミントと同じ配列の従人でも、一等級相当にマスキングしてやれる。



「珍しい従人を探しているのなら、オークションを覗いてみんか? もうじき開催されるはずだが、その頃には報奨金も手に入ってるだろう」


「俺でもそのオークションに参加できるのか?」


「儂がおるから問題ない」



 従人のオークションなんて、一般人には縁のない世界だしな。しかしオレガノさんの地位で参加させてもらえるなら、一度くらい経験しておくのも良いかもしれない。なにせ市場に出回らない従人というのにも興味がある。


 もし特殊な配列を持った者が出品されたなら、少し無理してでも落札してみよう。



「参加には従人の同伴が必要なので、ご準備をお願いします」


「自分の使役しておる従人を、自慢する場でもあるからな」


「そうなると、連れていけるのはシトラスだけか……」


「えー、やだよ、そんなのに行くの。ミントを連れて行ってあげればいいじゃん」


「その手の場所には、未成年を連れて行くことはできない。つまり俺の従人だと、参加できるのは十五歳のシトラスだけだ」


「うー、残念なのです」



 なにせ金持ちの集まる社交場だからな。ドレスコードなんかも存在する。間違いなく嫌がるだろうが、スカートを履かせてやるぞ、シトラス。


 フフフフフ……そっちも楽しみになってきた。


次回の更新は1週間後の予定です。

執筆時間が取れれば、どこかで更新するかもしれませんが……


出来れば今週中に3章までの登場人物一覧を、活動報告の方へアップしたいと思っています。そちらもお待ち下さい。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ