表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

28/286

0028話 お祝いハンバーグ

 ギルドの解体所からもらってきた肉を切り分け、肩ロースの部分をミンチに加工。残りはとんかつにでもして、ロースの部分でチャーシューを作っておくか。


 あとはじっくり炒めて粗熱を取った刻み丸ネギ(たまねぎ)、そしてマヨネーズを作った残りの卵白、更にパン粉と塩コショウを加え手早く混ぜる。空気を抜きながら形を整え、真ん中をくぼませておく。それをフライパンで焼けば完成だ。


 付け合せはマッシュした白芋(じゃがいも)と茹でた赤根(にんじん)、炒めたベーコンとちぎった青菜(レタス)を入れ、さっき作ったマヨネーズで()え、塩コショウで味を整えればポテトサラダの出来上がり。


 フライパンに残った肉汁で、ソースも作っておこう。



「二人とも、飯の時間だぞ」


「今日はどんなご飯かな」


「すごくいい匂いがするのです」



 水麦の精白をしていた二人が、ダイニングキッチンに入ってくる。どちらも初めて目にする料理に、興味津々のご様子。今日は経験値も金もがっぽり儲かったからな。ちょっとしたお祝い料理を存分に味わうがいい。



「これはハンバーグと言ってな、細かくした肉の塊だ」


「全部お肉で出来てるの!?」


「すり下ろしたパンや刻んだ丸ネギ(たまねぎ)も入っているが、ほぼワイルドボアの肉で出来てると言っていい」


「こんな大きなお肉の塊、ミント見たことないです」


「肩ロースという美味しい部分を使ってるから、とにかく食べてみろ」



 自分の分をナイフで切り分けると、中なら肉汁がジュワリとあふれ出す。魔獣であるワイルドボアは、豚肉のような甘い油と、牛肉に近い旨味を持った赤身が特徴だ。これ一つで合挽きミンチのように使えるので、ハンバーグとの相性は抜群といえる。



「すごいよこれ。口の中に美味しさがいっぱい広がる!」


「お肉がこんなに柔らかくなるなんて、魔法みたいなのです!」


「肉汁がたっぷりだから、水麦(みずむぎ)との相性もいいぞ」


「ご飯が何杯でも食べられそう」


「上にかかってるソースが濃い目の味なので、ご飯と一緒に食べると丁度いいです」


「お代わりも焼いているから、遠慮なく食べるんだぞ」



 二人ともすっかり、おかずと一緒に水麦を食べるという、食事スタイルに馴染んだな。お皿の上に盛った白い水麦が、みるみる減っていく。どちらも精白作業を頑張ってるから、今日も白くて艶のある水麦が食べられる。やはり元日本人として、パンより断然こっちの方がいい。



「そういえばさ、今日の二人組、面白かったね」


「タクト様やシトラスさんがバカにされて、ミントはちょっと悔しかったです」


「解体所の主任が〝いい薬になっただろう〟とか言っていたし、普段からいろんなやつに絡んでるんだろうな」



 俺たちの存在は、冒険者ギルドの中でもかなり異質だ。そもそも女従人を連れて森に入るやつは、ほとんどいない。例外的に女性冒険者が、同性を選ぶケースくらいか。その場合は腹筋が六つに割れているような、虎種(とらしゅ)の従人だったりするのだが。


 だから誰かに絡まれることは覚悟していた。逆に今日まで一度もなかったこと自体、奇跡的と言ってもいい。


 これで二人が四等級だとバレていれば、大騒ぎになっていただろう。小柄で非力なミントですら、そこいらの大男をねじ伏せるポテンシャルを秘めている。それだけの力を暴走させることなく、日常生活に支障がないレベルまで抑えられるのは、野人(やじん)という種族の持つ大きな特徴だ。



「一緒にいた二人って結構強そうな感じだったけど、数字はどうだった?」


「お二人とも二等級の印が首に出てたですね。すごく大きかったですし、お強いんでしょうか」


「ふたりとも普通の二等級で、六番と十番だった。俺のギフトでレベルまではわからんが、恐らく五十も行ってないんじゃないか?」



 二等級の経験値テーブルは、初項が四で公差は八。レベル五十まで上げようとすれば、一万匹の魔物や魔獣を倒さなければならない。



「まだ二十歳くらいのチャラい二人組だったし、従人を大切に扱っている感じでもなかった。きっとどこかのタイミングで従人を強い種に買い替え、増長していったんだろう。なにせ二人の支配値は百七十六(176)だったから、三等級の品質七番と十一番まで使役できる」


「やっぱり支配値が高いのも、偉そうにする原因?」


「でもタクト様には敵わないのです!」


「俺の場合は特殊だが、冒険者をやるようなやつの支配値は、総じて高いな。なにせ数は力だ。金に余裕ができたら、品質と等級の小さい従人に買い替えて大勢使役するほうが、結果として強いパーティーになる。だから支配値の大きいやつほど、冒険者ランクも上がりやすい。そうなると当然、他人を見下すようになったりする」



 やたら序列にこだわるのは、この世界が数字に支配されてるからだろう。しまった、今日絡んできた二人組の冒険者ランクを、解体所の主任にでも聞いておけばよかった。



「そういえば、キミの冒険者ランクも上がってるよね」


「ああ、おかげで二つ星になったぞ」


「ランクが上がると、なにか変わるのです?」


「受けられる依頼の種類も増えるが、一番大きなメリットは信用と権限だな」



 登録したての一つ星は、無職あるいは自由人扱いしかされない。事故で死ぬやつも多いし、冒険者を諦めて別の道に進む者もいる。それが二つ星になると収入や依頼達成率が安定し、正式に有職者として認められるといった感じだ。



「全部で五段階だっけ?」


「五つ星の人とか、とても強そうなのです」


「その辺りのランクになると、この国では上人(じょうじん)から才人(さいじん)になって、家名を持つことが許されたりする。ジマハーリの上層街にも、冒険者の家がいくつかあるな」


「タクト様はその……再び才人になりたいとか思ってないのですよね」


「前にも言ったが、従人を政治の道具にされるのは我慢できん。だが家名は決めてるぞ」


「へー、聞かせてもらってもいいかい」


香坂(こうさか)……ここでの発音だとコーサカになるか。フルネームはタクト・コーサカだ」



 十五年しか使ってないセージ・サーロインより、二十年以上慣れ親しんできた香坂(こうさか)拓人(たくと)のほうが愛着も深い。この世界では見慣れないタイプの家名だろうが、別に違和感はないはず。



「ならミントは、ミント・コーサカになるのですね」


「ミントはこんな性悪と結婚するつもりなのかい?」


「はわわわっ! そんな恐れ多いこと、考えてないのです」



 両手をワタワタ振りながら、顔を真っ赤にするんじゃない。耳が左右に波打って、可愛いすぎるじゃないか。



「結婚とは少し違うが、別の国では従人が家名を名乗れたりもするぞ」


「そんな国があるんだ」


「西にある商業の国マッセリカウモは、従人の品評会が盛んなんだ。そこで評価の高かった者に、契約主が与えることもある」


「品評会なんて、ボクには縁のない世界だなぁ……」


「ミントはそんなのに出たくないです」



 従人の武闘大会でもあれば、シトラスなら優勝を狙えそうだ。残念ながら品評会は外見だけだしな。胸のサイズが圧倒的に足りない。



「キミ……なんか失礼なこと考えてるだろ」



 おっと、シトラスの察しが良すぎる。ここは話題を変えてごまかそう。



「実はな、そろそろ旅に出ようと思っているんだ」


「この街を出ていくですか?」


「街というか国を、だな。行き先はいま言った、マッセリカウモにしようと思ってる」


「ふーん、三人旅も面白そうだね」



 シトラスの意識は、すっかり旅行に移っているご様子。無事はぐらかすことに成功した。



「マッセリカウモは、ここスタイーン国より従人の扱いが若干マシだ。お前たちも暮らしやすいと思う」


「タクト様はやっぱりミントたちのことを、第一に考えて下さるのですね」


「ここだと身なりの良いお前たちは目立つからな。それに俺の欲しい物が、この街には売ってない」


「それなら、まずはどの街に行くんだい?」


「マッセリカウモ最大の都市、港街(みなとまち)タウポートンだ」



 そこは漁業の盛んな街だから、海産物も手に入りやすいはず。そうすれば料理のバリエーションが、一気に増えるだろう。美味しいものを食べさせるためなら、生まれた国に未練などない。


 今日大幅にレベルアップしたおかげで、道中の安全確保も万全だ。俺自身もレベル十八になり、持久力が大きく上がっている。それに魔力や耐久力も上昇してるから、長旅でも問題ない体になった。


 そうと決まれば、明日から準備を開始しよう。


 スタイーン国=東国:イースタン

 ジマハーリ=始まりの街

 マッセリカウモ国=商業連合国:もうかりまっせ!

 タウポートン=港街:ポートタウン


・次話で出てくる分

 ヨロズヤーオ国=央国(おうこく)(宗教国家):やおよろず

 ワカイネトコ=学園都市:ネコと和解

 ゴナンク=リゾート地:南国


地名の由来です(笑)


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ