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無能として家から追放されると決めた転生者の俺は、モフモフたちと一緒に第三の人生をエンジョイする  作者: トミ井ミト(旧PN:十味飯 八甘)
0001 0000[第16章]秋、出会いと決別、そして新たなステージへ……

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0271話 クローブと学園へ

 さて、これからマノイワート学園へ行くわけだが、誰を誘おう。全員でイチャコラしながら歩いていたら、途中でクローブがキレかねん。


 コハクはもう俺の一部だし、首元に居てくれないと落ち着かない。この子と離れるのは論外として、今日はユーカリとスイを誘うか。何気にこの組み合わせで学園に行くのは初めてだし……



「今度アインパエに行くときは、ボクとデートだからね」


「……今日はあるじ様の、隣で寝る」


「ミントも腕枕してもらうです」


「私はシマエナガちゃんたちと、空の散歩をしてくるわ」


「チチチッ!」



 もうじき満月なのでシトラスとの約束は、すぐ叶えられそうだ。シナモンとミントは今夜かわいがってやるとして、ジャスミンと二人っきりの機会も作ってやらねば。



「どんな狂人が襲ってきても、わたくしが制圧してみせます」


「クローブ殿は(われ)が運んでやろうか?」


「女に運んでもらうとか恥ずかしいだろ。僕はペッパー兄貴にもらったこれで行く」



 そう言ってマジックバッグから取り出したのは、ゴルフカートを小さくしたような四輪の乗り物。つい最近、電動アシスト自転車並みと言っていた物体操作魔法の出力が、もうこんなものを動かせるまでに進化したのか。さすがペッパー、天才すぎる。



「ねえねえ、これなに、これなに? ボクにも動かせるのかな」


「……くるくる、四つ付いてる」


「試運転は終わってるから動かしてみるか? まだ人が歩く程度の速度しか出ないから、事故も起きないだろうし、ぶつけて(へこ)んだくらいなら、僕の再生(リファビッシュ)で修理できる」



 一人乗りのカートを庭へ持ち出し、希望者が動かしてみることに。サントリナのやつ、ダウンヒル最強伝説みたいなハンドルさばきだぞ。カウンターをきれいに当てるたび、俺の頭にユーロビートが鳴り響く。


 スリックカートのコースじゃないのに、どうしてあの速度でドリフトが出来るんだよ。こんな身近に天才ドライバーの卵がいたとは……



「タクトおとーさん、すごくおもしろかった!」


「いっぺんにやることが多すぎて、ミントは苦手なのです」


「……あるじ様、これ欲しい」


「ペダルを踏むだけで進んだり止まったりするの、なんか楽しいよね。でもこれで移動してたら、運動不足になりそう」



 体力が有り余ってるシトラスには必要ないかもしれないが、シニアカーとしての需要はありそうだ。馬の維持管理が大変な馬車と違い、これは魔力のチャージだけで燃料補給できるしな。それに低床だから、乗り降りも楽にできる。


 とりあえずシナモンがキラキラとした目で俺を見てくるし、ペッパーに製作の依頼をしておこう。



◇◆◇



 メイド服に着替えたユーカリとスイを連れ、カートを運転するクローブと共に学園を目指す。今の進捗状況を聞いてみると、色々と解決しなければならない問題が山積みらしい。とはいえ、短時間で自走できる製品を完成させたんだ。いずれ新たな交通手段として、普及していくだろう。



「おっ! コーサカの旦那。そっちの従人(じゅうじん)が着てるのって、新作のメイド服か?」


「つい最近、完成したんだ」


「二人とも似合ってるじゃないか」


「ありがとうございます。そう言っていただけると、凄く嬉しいです」


主殿(ぬしどの)が我らのために、作ってくれたものだからな。この服を身につけると、とても幸せな気分になれる」



 道の途中で出くわしたのは、定期運行の馬車業をやってる、小太りのおっさんだった。今日は珍しく食べ歩きしてないな。学術特区へ来るくらいだし、仕事中なんだろう。



「それより、面白いもんに座ってるな。なんだ、それ?」


「これはアインパエ帝国で開発中の、魔道具技術を使った乗り物だ」


「おいおい、あっちではそんなもん作ってるのか。俺たちの仕事を取らないでくれよ」


「この乗り物は大型化が難しくてな。大きくなればなるほど、航続距離が短くなってしまう。個人が移動する用途で製品化する予定だから、大型馬車を使った運行業とは棲み分けが出来ると思うぞ」



 なにせ重量によって、魔力の消費が指数関数的に上がっていく。ニームが成人男性六人を運んだときなんか、俺の魔力をギュンギュン吸っていた。高効率な魔力変換と燃費の改善は、実用化にあたって最大の難関だ。今は電動キックボードみたいに、十数キロ走ったら魔力チャージが必要で、手間がかかりすぎる。



「ほー、それなら顧客の奪い合いにならないか。まあコーサカの旦那が関わってるなら、そのへんの心配はしなくてもいいな。他の連中がなんか言ってきたら、俺の方で説明しといてやるよ」


「大勢の客を安全に運ぶことが出来るのは、定期運行馬車の強みだからな。変な誤解が広がらないよう、よろしく頼む」



 約束の時間があるというおっさんと別れ、再びマノイワート学園を目指す。しかし出会う連中が次々声をかけてくるので、なかなか進めない。



「お前って、この街で暮らしてる住人全員と知り合いなのか?」


「一方的に名前を知られてるって感じだけどな」


「旦那様は数多くの肩書をお持ちですから」


「ワカイネトコでは知らぬ者がいない有名人だ」


「だけど乗り物一つでこんなに騒がれたんじゃ、迂闊に外出できないだろ」


「ワカイネトコは学園の影響で、新しい技術や製品に対して慣れるのが早い。明日くらいには収まってると思うぞ」



 なにせこの街は、情報の伝達スピードが爆速だ。特定のコミュニティーに伝われば、一気に拡散していく。特に茶葉卸売店のオバサンとか……



「ふーん。それならまあいいや。学園についたみたいだけど、このまま入ってもいいのか?」


「このタイヤ径だと、玄関の段差も越えられないだろ。ここからは徒歩で移動してくれ」


「仕方ないなぁ」


「ちなみに学園長室は最上階だ。エスカレータやエレベータは無いから、覚悟しておくといい」


「げっ……」



 崩れ落ちそうなクローブを支え、警備員に無事到着したことを報告。校舎の中へ入るが、ちょうど休み時間だったらしい。途中で何度も足止めを食らったので、予定時刻を大幅に超えてしまったせいだな。



「あー、新作のメイド服だー」


「お店で売ってるのと随分形が違うよね」


「フリルがたくさん付いてて、すっごく素敵」


「皆の者。後ろも見てみるがいい」


「「「「「きゃー、リボンみたいな結び目が可愛ぃー」」」」



 スイが自分の後ろ姿を見せると、女子生徒たちが一気に沸き立つ。仕事のしやすさを優先した市販品と違い、こっちはデザインに振ってるからな。いわゆるサブカル方面でよく見かける、クラシカルタイプのメイド服だ。エプロンには大きなフリルだけでなく、いたるところにギャザーを付けてある。


 服飾職人が涙目になるようなデザインなので、量産化は難しい。本当にボジョレー衣料品店は、いい仕事をしてくれた!



「ウチは使用人たちにメイド服を支給したんだけど、屋敷の中が華やかになっていいよな」


「わかる、すごくわかる! 街を歩いてたら、つい目で追っちゃうもん」


「俺の所は従人に着せてみたぞ。そしたらすごく喜んじゃってさ。やたら張り切って仕事するようになったんだ」


「目の保養にもなるし、仕事の能率も上がる。メイド服って凄いよなー」



 この様子だと、売れ行きもかなり良さそうだ。ブームが波及していけば、近い将来メイド喫茶が誕生するはず。その時はユズを誘って見学に行こう。



「ねえねえタクト室長。さっきから気になってたんだけど、室長の後ろに隠れてるカッコイイ人って誰?」


「室長が男の人を連れてるのって、珍しいよね。お屋敷には家令のフェンネルさん以外、男の人は居ないし、どこで拾ってきたの?」



 拾うとか言うなよ。生徒たちの(かしま)しさに押され、俺の背中で小さくなっているが、こいつは皇位継承順が第二位の男なんだぞ。



「彼はベルガモットの兄で、クローブという名前だ。今日から聴講生として、学園に通うことになった。レポートに必要な講義をいくつか受けるだけで、普段は大図書館で資料の収集と分析をやってる。学園内で見かけることは少ないと思うが、よろしくしてやってくれ」


「皇族ってことは室長の親戚かー」


「言われてみれば、顔の感じがよく似てるかも」


「でもタクト室長より、付き合いやすそうだね。目つきが怖くないし!」



 ボサボサだった髪をカットしてきたから、女子生徒たちの受けがいい。玉の輿を狙って人が殺到するかと思ったが、みんな意外に冷静だな。



「なにか困ったことがあったら、私たちを頼ってね」


「学園の案内なら俺らに任せろ。どこでも連れてってやるぜ」


「なんか、あっさり受け入れられてるんだけど……」


「だってベルガモットちゃんのお兄さんでしょ? それにアンゼリカ陛下の子供だったら、変に(かしこ)まらない方がいいかなって」


「母さんとベルガモット、一体なにやらかしたんだよ」


「アンゼリカさんがここに来たとき、あちこちで愛想を振りまいてな。今ではファンクラブができてるらしい。それにベルガモットは、学年問わずほとんどの生徒と友だちになってる」


「それもあるんだけどタクト室長の身内に、ちょっかいなんてかけられないって。変に迷惑かけるとダエモン教が黙ってないし、怒らせたら世界が滅ぶとか学園長が言ってたもん」


「「「「「うん、うん」」」」」



 学園長のやつ、生徒たちになに吹き込んでやがる!



「お前って、そんな危ないやつだったのか」


「ただの冗談だから気にするな。俺になにかあっても、この世の終わりが来たりしない」


「怒りのあまり、大きな地震が発生するかもしれぬがな」


「わたくしも、うっかり周囲を焼き尽くしそうです」



 こら、スイもユーカリも余計なことを言うな。ちょっと生徒たちが引いてるだろ。



「キュッ、キュゥー」


「俺の理解者はコハクだけだ」


「キュィッ!」


「タクト室長って、ホント面白いよな」


「従人や霊獣と仲良すぎでしょ」


「見てると飽きないもんね。私、この年代に入学できて、良かったなって思ってる」


「コーサカ研究室ができてから、学園の雰囲気もずいぶん変わったからな。研究棟の方も活気が出てるって、俺の親父が喜んでたよ」



 好意的に受け取ってもらえてるなら何よりだ。いつまでも駄弁(だべ)ってるわけにはいかないし、とりあえず学園長室へ向かおう。


 盛り上がる生徒たちに別れを告げ、クローブを引っ張りながら階段を登る。

 って、おいこら。まだ一階と二階の途中にある踊り場だぞ。


 え? 南方大陸の気温と、生徒たちの熱気にやられただと……


 本当に手間のかかるやつだな。

 まあ、そんなところも含めて、クローブのことは気に入ってるんだが。


いよいよ妹ちゃんの母親が登場。

いったい何をやらかすのか……

次回「0272話 ヘンルーダ襲来!」をお楽しみに。

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― 新着の感想 ―
段差に弱いなら多脚せん・・・・無限軌道の方向に舵を切ればいいのに https://www.youtube.com/watch?v=7DpK2m22x-U https://www.youtube.com…
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