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0270話 クローブの居候

引き続き、過去話への誤字報告ありがとうございます。

文字抜けが多いのはキーボードのせい?(責任転嫁w

◇◆◇

では第16章の開始です。

 クローブを連れて皇居の庭から、自宅の霊木へ飛ぶ。群がってきたシマエナガたちをモフり倒しつつ、エスコートしながら屋敷へ向かって歩く。



「へー。こっちはかなり暖かいな」


「もうじき秋になるとはいえ、日中は汗ばむくらいの陽気だからな。急な環境の変化で、体調を崩さないよう気をつけてくれ」


従人(じゅうじん)のスキルとやらで、病気は治せないのか?」


「ミントが持ってる治癒術では無理だ。詳細は不明だが治療術というスキルで、病魔を払えたという記録が残っている」


「お役に立てなくて、ごめんなさいです」


「そんなこと、気にしなくてもいい。ラムズイヤー姉貴の後遺症を消し去った、治癒術のほうが遥かに有用だ。病気なんて放っておけば治る」



 付き合ってみたわかったが、クローブは他人に気遣いのできるいいヤツだ。これから家族と一緒に暮らしてもらっても、問題はおきないだろう。



「それよりほら、しっかりしろ。玄関は目の前だぞ」


南方大陸(なんぽうたいりく)の直射日光に、僕の体が耐えられるわけ無いだろ。なんで日傘を用意してないんだよ」



 一番の問題は、ひ弱な体と精神力だな。生まれてすぐレベルの譲渡を受けてるのに、脆弱(ぜいじゃく)すぎるだろ。前世が肉体を持たない人類だったこともあり、直接感じる負荷に弱いってところか。ここで生活しながら、徐々に慣れていってもらおう。そうでないと図書館にも通えん。



「あーそうだ。専属の隠密は、もうこっちに来てるんだろ?」


「そのへんに隠れてると思うけど、なにか用事でもあるのか?」



 そう言われて周囲を見渡すと、塀の向こう側で物音がする。どうやら遅かったようだ。



「精霊たちに気づかれちゃったみたいね。ちょっと様子を見てくるわ」


「……連れてくる」



 ジャスミンが翼を広げ、シナモンが両手で印を組む。次の瞬間には塀の上へ飛び、向こう側へ消えてしまう。

 ――と思ったら、戻ってきた。



「……手、いっぱいウネウネしてて、可愛かった」


「不審者と間違えて、捕縛しようとしたみたい」


「ガタガタガタ、ブルブルブル」



 首根っこを掴まれた黒装束の隠密が、雨に打たれた仔犬のように震えている。シナモンのやつ、こっちを見ながら自慢気に差し出しやがって。飼い主に捕まえた獲物を自慢する猫みたいだな!


 ほれ、ナデナデしてやるぞ。



「……うにゃー」


「なんで隠密が簡単に捕まってるんだよ。こいつらが持ってる魔道具、皇家の秘蔵品だぞ」


「この屋敷はジャスミンの精霊(ファン)たちが、自主的に警護してくれてるんだ。彼らに隠形(おんぎょう)のギフトや魔道具は全く効果がないから、なにをやっても見つかってしまう」


「ちょっと脅かしたりイタズラする程度だから、安心していいわよ」


「とりあえず今回のことで顔は覚えてもらえたから、これからは大丈夫だ」



 地面や塀から伸びてきた手に掴まれた恐怖だろう、隠密の震えが一向に止まらない。仕方ないのでマジックバッグから、アルファ化米やフリーズドライのスープ。そしてナッツが入ったチョコバーと、ブロックタイプのバランス栄養食を取り出す。



「ほら、これをやるから元気出せ」



 ――パァァァァァ



 インスタント食品や携行食、好きすぎだろ。一瞬で震えが止まり、俺の方にすり寄ってくる。頭巾の間から見える目、キラキラしてるぞ。今度はチキン味の揚げラーメンにでも挑戦してみるか。



「僕の隠密を餌付けするの、やめてくれよ」


「これから長い付き合いになるんだ。仲良くしておいて損はないだろ。できれば屋敷に住んでもらいたいんだがな……」


「こっちで住み込みの仕事を見つけてるから、衣食住の心配はしなくてもいいぞ。僕の警護なんて、図書館に通う道中くらいだし、四六時中見張られたんじゃ息が詰まる。適度な距離感で任務を果たしてくれれば、それで問題ない」


「そういうことならスコヴィル家の方針に従ってくれ。俺はそっちの事情に介入する気はないからな。とりあえず屋敷には精霊たちと、高レベルの従人が大勢いる。それに図書館内もセキュリティーは万全だ。空いた時間でワカイネトコの生活を満喫すればいい」



 首を縦にブンブン振った隠密が、眼の前から一瞬で消えてしまう。まあ論理演算師(ろんりえんざんし)のギフトには、遠ざかっていく数値が丸見えなのだが。


 とにかく顔合わせは終わった。シトラスが開けてくれた扉をくぐり、全員で玄関ホールへ。



「タクトおとーさん、おかえりなさい」


「おー、あー、いー」



 駆け寄ってきたサントリナの頭を撫で、伸ばした手で一生懸命アピールするリコリスを抱く。フェンネルやクミンたちにクローブを紹介していると、酒蔵で作業していたユズもやってきた。



「お帰りなさいっす、タクトさん。そっちのイケメンがクローブさんっすね。二人で並んでると、とても絵になるっす!」


「お前が二十一世紀の日本から来たユズってやつか」


「そうっす。クローブさんのことはタクトさんから聞いてるっすよ。これからヨロシクっす」


「その頃普及してたスマホってやつ持ってるんだろ? 見せてもらってもいいか」


「お安い御用っす。リビングに置いてあるから、一緒に行くっす」



 ユズに会うの楽しみにしてたもんな。当時の文化を研究してた未来人(クローブ)にとって、俺やユズは生の情報を持った人間。文字や映像だけだと解読できなかった知見を得られるだろう。知的好奇心の塊みたいなクローブにとって、それだけでもここに来た甲斐がある。



「これがスマホっす。使い方はわかるっすか?」


「古文書や低解像度の映像で見たことある。画面を触ったり、指で引っ張ればいいんだろ」


「データを消さなかったら、自由にいじってもらっていいっすよ」



 画面をいろいろな角度から見たり、ひっくり返したり。クローブのやつ、実に楽しそうだ。



「ふーん。ホログラムや脳接続端子ブレイン・インターフェースが無い頃の情報端末って、こんな感じに伝達してたのか……」


「俺やユズが暮らしていた時代だと、プロトタイプみたいな技術はあったが、まだまだ実用化には程遠かったな」


「それにしてもこのスマホ、あちこちに傷があるな」


「結構使い込んでるっすからね。そのうち壊れると思うっすけど、日本やこっちに来てからの記憶が消えるみたいで、ちょっと悲しいっす」


「なら僕の再生(リファビッシュ)で新品と同じ状態に戻してやる」


「そんなこと出来るんっすか!?」



 なんでもリファビッシュというギフトは、無機物限定で働く力とのこと。完全に破壊されたものは無理だが、傷や経年劣化であれば全て修復してしまう。バッテリーの電極なんかも復活するから、そっちも新品同様になるとか凄いな。



「中のデータに影響が出ないのは、碧御倉(へきみくら)に保管してる別の電子デバイス(二つ折りゲーム坊や)で確かめたから、安心していい」


「それならお願いするっす!」



 宝物殿の方には、そんなものが保管されているのか。どんなゲームカートリッジが刺さってるのか、ちょっと興味があるぞ。時間があるときにでも覗いてみなくては……



「ほら、きれいになった。中身を確かめてくれ」


「ダウンロードしたデータや写真は全部無事っす。ありがとうっす! めっちゃ嬉しいっす!!」


「もしジャパニメーションとかいうのを持ってたら、見せてくれないか? 手書きの絵を動かすロストテクノロジーとか聞いたことがあって、すごく興味があるんだ」


「ギガを消費しないように、ローカルに保存してたサブスクの動画が、何故かこっちでも見られるんっすよ。何作品かシリーズで持ってるっすから、それで良ければ見せられるっすよ」


「よし、今からアニマラソンとかいう競技をするぞ」


「待て待て。今日はマノイワート学園で手続きがあるから、一気見(いっきみ)は帰ってからにしろ」


「ちっ、仕方ないなぁ」



 とはいえ、この家で昼夜逆転の生活とか、食事を抜くような真似は厳禁だ。うちへの居候を許可するときに、アンゼリカさんが()した条件だからな。もう一度そのことを徹底しつつ、クローブを部屋へ案内する。


 まあユズと相性が良さそうなのは、はっきり言ってありがたい。一人で作業してることが多いから、いい話し相手になってくれ。


クローブを連れ学園へ行く主人公たち。

その時クローブが取り出したものとは?

次回「0271話 クローブと学園へ」をお楽しみに。

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アニマラソン…最後にやったのはいつだったか… 暇ができたらテレビ、旧劇、新劇と一気したいな
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