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無能として家から追放されると決めた転生者の俺は、モフモフたちと一緒に第三の人生をエンジョイする  作者: トミ井ミト(旧PN:十味飯 八甘)
0000 1111[第15章]二度目の夏、妹無双の季節

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0264話 チャレンジ! ご主人様と夫婦レース

 リコリスをラベンダーに、そしてコハクをサントリナに預け、競技会場へと向かう。続々と集まってきた上人(じょうじん)たちを見ると、男が十二人で女が四人。年齢は上が三十代前半、下は二十歳前後といったところ。



(われ)を伴侶に選んでくれて、感謝するぞ主殿(ぬしどの)


「この競技はお互いの呼吸が大切だからな。それを考慮すると一緒に参加する相手は、スイ以外考えられない」


「確かに我と主殿は、体の相性が抜群だ。しかし、そこまで言われると胸が高鳴ってしまう……」



 言い方はさておき、恋する乙女モードになった姿は、相変わらず可愛すぎる。地鳴りがしてるから、しっぽの動きは程々にしておけよ。


 腕に絡みついてきたスイを軽く抱き寄せ、キラキラと輝く水色の髪に手を伸ばす。



『えー……っと。あの一角だけ、妙に空気が甘ったるいんですが、特別ゲストのアンゼリカ陛下。なにか一言ありますか?』


『ああやって所構わずいちゃつくから、皇居でも胸焼けで倒れる職員が続出してるにゃ。被害甚大にゃ』


『ホォーロロロロロロォー』


『カイザーちゃんも口から砂糖を吐いてるにゃ』



 ちゃんと役に立ってることもあるだろ。コルツフットのせいで心が壊れてしまった女嬬(にょじゅ)たちも、俺たちの姿を見て徐々に回復していってるじゃないか。


 まあ彼女たちの場合、時間があれば話しかけたり、寄り添いながらそっと見守っている、ベルガモットの功績が大きいのだが……



『私には仲の良い普通の男女に見えますが、スイ選手は本当に龍族なのでしょうか?』


『彼女は間違いなく、北方大陸を守護している青龍にゃ! 元の姿ににゃって、娘たちと一緒に乗せてもらったこともあるからね』


『機会があれば私もその姿を見てみたいところですが、今は競技の進行を優先しましょう。さて! 会場の準備が整ったようです。今年から始まった契約主トレーナー参加の新競技。〝チャレンジ! ご主人様と夫婦(めおと)レース〟が始まりますっ!!』


『パートナーとの仲良し度も加点対象にゃ! スタート前から競技は始まってるから、スイに負けにゃいよう、みんなもイチャイチャするにゃー!!』


『ホォォーウ!!』



 全員でスタートラインに立ち、片方の足をヒモで八の字に結ぶ。まずはペア競技のスタンダード、二人三脚。次は向かい合って挟んだボールを運ぶ、二人でサンドイッチ。そして布で作った二つの筒をつなぎ合わせ、その中に入って走るデカパン競争。


 練習期間中に、他の参加者がどれだけ上達したか、楽しみだ。ライバルになりそうなのは、冒険者っぽい連中と一緒に参加している、猫種(ねこしゅ)犬種(いぬしゅ)従人(じゅうじん)たち。レベル差次第では強敵になりうるが、こちらも簡単に勝ちを譲る気はない。



「練習どおり、結んでない方の足からいくぞ」


「了解した、主殿。いち・に、いち・に、の掛け声は我が出そう」


鐘の音(かねのね)と同時に全員がスタート! ここで二組の男女が飛び出したぁーっ!!』


『にゃんか一緒に走ってるというより、従人に操られてる感じにゃ』


『壊れた人形みたいな動きが、とても気持ち悪いぞぉー』



 従人の身体能力に物をいわせ、強引に歩幅を合わせる感じで、俺たちの前をいく二組の男女。しかしあれ、関節とか外れてないか?



『完全に走るのを諦めて、倒れたまま従人に引っ張ってもらってるペアもいるにゃ』


『審判のユズさんが赤旗を上げていますね。さすがにあれは競技の趣旨から、外れているということでしょう。スタート地点に戻ってやり直しです』


「先行してる連中は無視だ。このままペースを守っていこう」


「いち・に、いち・に」


『三位のスイ選手とタクトさんのペアが、最初のコーナーに差し掛かるー』


『身体能力の高いスイを、外側に配置してるのはさすがにゃ!』


『ホゥッ!』


『先行している二組のペアは、遠心力で飛ばされないように契約主(トレーナー)の首をガッチリ掴み、そのまま強引に曲がっていったぁー! 顔から血の気が引いていますが、大丈夫でしょうか』


『手元の資料によると使役主の二人は、冒険者ギルドでいつも張り合ってるみたいにゃ。ライバルには負けたくにゃいって執念が凄いにゃ』



 勝利をもぎ取るため、従人にそこまでやらせるのは、ある意味すごい。しかしこの競技は、二人三脚で終わりじゃないんだぞ。後先考えずに行動しすぎだろ。



『お互いの腰に手を回し、まるでダンスでも踊っているように、スイ選手とタクトさんがコーナーを抜けていくー! 契約主(トレーナー)と一緒に走るスイ選手の顔は、実に幸せそうだぁ!!』


『こっちのペアは、安心してみてられるにゃ』


『ホォーウ』


『愛玩用でも我々を簡単に圧倒できる従人と、平気で密着できるタクトさんはすごいですね。しかも相手は神にも等しい力を持つと言われる龍族ですから、私はこの光景がいまだに受け入れきれません』


『怒らせるようなことをしなかったら、スイは普通の女の子と一緒にゃ。私の娘もすごくにゃついてて、同じベッドで眠ったりするにゃ』


『それだけ力の制御が上手いということですね』



 まあ、それがスイの長所だからな。手加減に関しては、家族の中でも一番だ。そんな理由以外にも、シトラスは人前でいちゃつくことにまだ抵抗があり、本来の実力を発揮できない。ミントは体格差がありすぎて、うまく合わせられなかった。


 ユーカリは気持ちが高ぶりすぎると、すぐクネクネし始めてしまう。シナモンはマイペースなので、こんな競技は不向き。ジャスミンは普段飛んでいるから、走りの適性が全くなし。ある意味消去法で決まった人選だが、実際のところ俺たちの相性はかなり良い。阿吽の呼吸みたいに、お互いの動きを合わせられるんだよな……



「よし、ここでトップに立つぞ」


「先頭のペースがかなり落ちているな」


「あれだけ従人に振り回されたあと、腹でボールを挟む競技をやってるんだ。色々とぶちまけそうなものを、必死にこらえてるはず」


「なれば勝機は我らにあり。行こうではないか、主殿よ」



 手を後ろで組み、向かい合わせになってボールを挟む。あまり大きくないボールなので、スイの顔が間近に迫る。熱い目でこっちを見やがって……


 このままキスしてしまいたい気持ちを、俺は必死で抑え込む。今はまだ競技中、イチャコラするのは勝ってからだ。



「タクトおとーさーん、スイおねーちゃーん、がんばれー」


「キュゥーーーイ」


『おーっと、応援ブースの方から可愛い声援だぁー』


『ナイス声援にゃ! おかげでピンク色の波動が収まったにゃ』



 シトラスもそうだが、なんでそんな事わかるんだよ。ちょっといい雰囲気になりそうだっただけじゃないか。まあいい、とにかく動こう。



『これは凄い! 今にも触れ合いそうな距離をキープし、スイ選手とタクトさんが横走りでトラックをいくー』


『体を密着させて、ボールが落ちないようにするのはルール違反だから、意外に難しい競技にゃ』


『何度かボールを拾い直している先頭の二組とは大違いだぁっ!!』



 モタモタしているトップ集団を追い抜き、一度もボールを落とすことなく次の競技へ。トランクス状のデカパンを二人で履き、ゴールを目指す。これは二人のスピードを合わせるだけなので難易度は低い。



「主殿と肩を並べて何かに打ち込むのは、とても幸せを感じるな」


「俺もスイと一緒に体を動かすのは楽しいよ」


『さすが冒険者として数々の実績を残しているタクトさん。森で鍛えられた足腰は、従人の身体能力に見劣りしないー!』


『デカパン競争はブッチギリの速さにゃ!』


『後続をどんどん引き離し、今ゴォォォォォォォォーーールッ!!』



 デカパンを脱ぎ、スイを思いっきりハグする。嬉しいのはわかるが、しっぽを振りすぎだ。いつから犬種(いぬしゅ)になったんだよ、全く仕方のない奴め。


 荒ぶるしっぽに手を伸ばし、腕と胴体でがっちりホールド。そのままサワサワと撫でてやると、すぐに動きが収まっていく。あのまま暴れていたら、地殻変動で砂浜が隆起しかねん。遠浅のリゾート地を、潰すわけにはいかないからな。



「このままご褒美がほしいぞ、主殿」


「それは日を改めてやろう。二人で海岸デートなんてどうだ?」


「うむ! それで問題ない。楽しみが一つ増えたな」



 嬉しそうに抱きついてきたスイと腕を組み、一番の印がついた旗の(もと)へ。ここまで一途に好いてもらえるのは男冥利に尽きる。


 スイの話によれば、絶界(ぜっかい)で目を覚ましたとき、視界が最初に俺の姿をとらえ、ビビっと来たらしい。いわゆる一目惚れに近い状態だったのだろう。


 もしかしたらという気持ちはあるが、刷り込み(インプリンティング)という言葉は、そっと心の中に仕舞っておく。



『さすが〝衣食住(いしょくじゅう)〟と〝心技体(しんぎたい)〟を広めたタクトさん。競技を通じて()せた姿は、観客や参加者の心に刻まれたことでしょう』


『長年連れ添ってきた夫婦みたいに、息がぴったりだったにゃ』


『ホーゥ!』


『タクトさんの使役している従人が、あれだけ可憐に変身できたのも、きっと今の二人にヒントがあるはず! 来年の運動会で、他の参加者たちがどこまで親密度を上げられるのか、楽しみにしておきましょーう!!』



 しっかり結果を残せたし、待遇改善につながる種も()けた。何より去年はまだ踏み込めなかった、従人を恋人として扱う姿を見せられたのが大きい。それなりに影響力を増した今の俺なら、一笑に付されることもないだろう。


 やっぱりスイと参加したのは大正解だったな。

 今夜は存分に可愛がってやるぞ。楽しみにしておくがいい!


次回「0265話 ジャスミンの活躍とシトラスのリベンジ」

ジャスミンが活躍する競技は?

そしてシトラスがリベンジしたいのは、もちろんアレ!

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