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無能として家から追放されると決めた転生者の俺は、モフモフたちと一緒に第三の人生をエンジョイする  作者: トミ井ミト(旧PN:十味飯 八甘)
0000 1111[第15章]二度目の夏、妹無双の季節

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0259話 ゴナンクの朝

 網目が付いた小さなドラムの中に豆を入れ、魔法の炎で取り囲みながら撹拌。過程で出てくる薄皮(チャフ)は、風魔法を使って集塵箱へ。やがて食堂全体にコーヒー豆の(こう)ばしい(かお)りが広がっていく。


 魔法で焙煎すると、焦がさない火加減を簡単に維持できるのがいい。パチパチと弾ける音がして、全体が濃い茶色になれば完成だ。よし、今日もむらなく仕上がったぞ。



「おふぁようございます。兄さん、コハク」


「おはよう、ニーム」


「キュッ!」


「んーーー、いい匂いがしてますね。一杯いただいてもいいですか?」


「いま豆を冷ましてるから、もう少し待ってくれ」



 魔法の風を豆に当てながら、食堂へ入ってきたニームを見る。掴んだ手首を引っ張りながら、屈曲ストレッチみたいに体を伸ばすなよ。脇腹が露出してるじゃないか。最近、俺の前で無防備な姿を見せすぎだろ。



「今日はちょっと眠そうだな」


「海でどんな事をしようか話し合ってたら、夜ふかししすぎました」


「じゃあステビアとローリエは、今も寝てるのか?」


「ええ、まだ起きてきません。ところで他のみんなは、どうしたんです?」


「シトラスとシナモンは、俺と一緒に朝のジョギングをしたあと、そのまま海を見に行ってしまった。ユーカリとミントは散歩中だ。ジャスミンとスイは海岸で飛ぶ練習をしてる」


「そういえば人の姿をしたまま飛べるようになったとか、スイが言ってましたね」



 人の姿でいることが、完全に馴染んできたんだろう。自分の体限定で、空中へ持ち上げられるようになった。飛行を完全にマスターしたら、光の(M78)星雲から来た超人のポーズを教えてやらねば……


 三分で色が変わるブローチを作れないか、などど考えつつ魔法の刃で豆を()く。フィルターをセットしたドリッパーに移し、熱湯を注いでしばらく待つ。ニームはミルク多めで、俺はブラックだ。



「ほら、出来たぞ」


「……ふぅ、美味しい。先日いただいたお金で、喫茶店の黒茶(コーヒー)を飲んでみたのですが、やっぱり兄さんの()れてくれる方が好きです」


「店によってブレンドの比率や、焙煎の度合いが違うからな。ニームに喜んでもらえるなら、何よりだ」



 雑談しつつ朝の一杯を楽しんでいると、シトラスたちが帰ってきた。どうやら二人で浜辺を走ってきたらしい。本当に体力が有り余ってるな、この二人。



「あっ、いいもの飲んでるじゃん。ねえアイス黒茶(コーヒー)作ってよ」


「……あるじ様。極限黒茶(きょくげんコーヒー)、飲みたい」


「二人とも、少し待ってろ」



 新しい豆でコーヒーを作り、シトラスの方は砂糖を溶かしてから魔法で冷却。シナモンの方は加糖練乳をたっぷり加えてよく混ぜる。



「火照った体に染み渡るー」


「……甘くて、美味しい」



 そりゃー甘さマックスなコーヒーだからな!

 膝の上に乗せたシナモンをモフりつつ、残りのコーヒーを楽しむ。そんな最中に聞こえてくる、バタバタバタという足音。食堂へ飛び込んできたのはフェンネルだ。



「もっ、申し訳ございません、タクト様、ニーム様。寝坊しました」


「今は休暇中なんだから気にするな。こっちへ来て一緒に黒茶(コーヒー)を飲もう」


「では、ありがたく」



 今日は半袖のワイシャツとスラックス、そしてカジュアルなシューズか。普段着のフェンネルは新鮮でいい。ワカイネトコの屋敷だと、休もうとしないんだよな。もう一人くらい、家令を増やしたほうが良いかもしれん。フェンネルの本家に相談してみよう。



「フェンネルが朝寝坊なんて珍しいですね。サーロイン家にいた頃には、一度も見たことありませんよ」


「慰安旅行など初めての経験で、ついつい油断してしまいました。昨夜も遅くまで、みなと今日のことを話しておりましたので」


「その気持、よくわかります。私も同じことをしてましたから」


「年甲斐もなく浮かれてしまい、お恥ずかしい」


「フェンネルが少し羽目を外すくらいでないと、アルカネットたちも心から楽しめないと思うぞ。ゴナンクにいる間は立場や年齢のことを忘れて、存分に羽を伸ばせばいいんじゃないか?」



 そんなこと伝えながらブラックコーヒーを差し出す。フェンネルがこんな調子だし、アルカネットたちもまだ寝ているんだろう。ということは、あの足音はユズだな。



「おはようございますっす。自分も一杯もらっていいっすか?」


「カフェオレでいいな? 少し待っていてくれ」


「朝なんで砂糖控えめにして欲しいっす」


「了解だ」


「……甘い方が、美味しい」


「自分はシナモンたんみたいに運動しないっすからね。今の体型を維持するために我慢するっす」


「朝飯を食ったら海水浴だぞ。そこでカロリーを消費すればいいだろ」


「それもそうっすね! じゃあいつもどおりでお願いするっす」



 体型を維持しようとするなら、基礎代謝を上げるのが一番。つまり筋肉で全てが解決できる。昨日は森の中を移動している時、行程の半分くらいでヘロヘロになってた。夏を前にしてこっそりトレーニングしていたようだが、まだまだ足りん。もう少し体は鍛えてもらおう。



「ただいま戻りました」


「ユーカリさんと、いっぱい散歩してきたです」


「ただいまー。やっぱり海の上は広くて気持ちいいわね」


「聞いてくれ、主殿(ぬしどの)。やっとジャスミンに追いつく事ができたぞ」



 おっ、みんな戻ってきたようだ。

 朝飯の準備をして、昼食の仕込みを始めなければ。なにせ今年は自重しないと決めている。セイボリーさんと、ある計画を立ち上げたからな。


 新しい遊び道具も準備してきたし、手分けして準備を始めるか!



◇◆◇



 必要なものはマジックバッグへ詰め込んだ。着替えもバッチリ抜かりなし。去年より海から遠い家だが、距離的には通り一本の差。ラッシュガードを羽織っておけば、水着のまま出歩いても問題ない。


 みんなも準備できたようなので、セイボリーさんのセカンドハウスを出る。持ち主を差し置いて、俺たちだけで使うのはどうかと思う。しかし全員で寝泊まりできる家は、ここしか無かったんだよな……


 セイボリーさんは二軒ある別荘の、どちらかを使ってるはず。まあこの恩は明日からの売上で返すから、楽しみにしておいてくれ。



「よし、出発しよう」



 特注した抱っこ紐の具合を確かめつつ、リコリスの体を胸の中へ。ジャスミンとコハクを肩に乗せ、サントリナと手をつなぎながら門を出る。


 それにしてもフェンネルのやつ、サングラスが似合ってるな。しかも年齢の割に筋肉質だ。トレーニングでもやってるんだろうか?


 ティアドロップ型で濃い色合いのレンズだから、ちょっと(いか)つく見えるぞ。俺もスポーツタイプのサングラスをかけてるし、並んで歩くと人が避けていく。女性陣が目立ちまくってるので、ちょうど良かったかもしれん。



「一年ぶりの海だー。今日はいっぱい泳ぐぞー」


「……シトラス、待って。私も行く」



 ラッシュガードを脱ぎ捨てたシトラスとシナモンが、マジックバッグを俺に預けて走っていく。朝あれだけ運動してるのに、相変わらず元気な奴らだ。


 まあいい、俺はパラソルを立てよう。獣人種とはいえ乳幼児に直射日光は毒だし、クミンだって炎天下で活動するのは、初めてだからな。



「精霊たちにお願いするから、少しだけ待ってね」


「よろしく頼む」



 ジャスミンの舞に()かれた精霊たちが、砂浜に細長い穴を掘ってくれる。そこへ支柱を差し込めば設置は完了。穴の周囲をガチガチに固めてくれているから、風で倒れる心配もない。今夜も水飴を供えておくから遊びに来いよ!



「フェンネル様どうでしょう。どこかおかしい所はありませんか?」


「心配しなくても、よく似合っている。少しドキッとしてしまったくらいだ」


「本当ですか!? 嬉しいです!」



 カルダモンのやつ、早速フェンネルにアプローチしてるな。それでこそタイサイドのセクシー系ビキニを、作った甲斐があるというもの。ビスチェビキニをチョイスしたアルカネットも、さり気なく自分をアピールしてるし、ナツメグとマンダリンそれにパインまで、フェンネルに水着を披露し始めた。みんな頑張るんだぞ。



「タクトおとーさん。およぎかた、おしえて」


「おう、いいぞ。クミンたちも一緒に来るか?」


「うん! みんなも行こっ」


「リコリスちゃんは、わたくしが見ていますので」


「お願いします、ユーカリさん」


「ユズはどうする?」


「自分はタイムちゃんと、砂遊びするっす」


「お城を作ってみたいです、ユズ様」


「任せるっす!」



 実家で水難救助訓練をしたことがあるというフェンネルは、自分の従人たちとうまくやるだろう。ジャスミンとスイは沖まで行ってみると飛び出していき、ミントはローリエと砂遊びに参戦。俺はリコリスをユーカリに預け、サントリナのパーカーを脱がす。


 現れたのは胸に白い布を縫い付けた、紺色のスクール水着だ。去年同じタイプを着たミントが、似合いまくってたからな。将来有望なサントリナも、実に可愛い!



「私は少しここで休んでからにします」


「お供します、ニーム様」


「あとで兄さんのことを独占してあげますから、覚悟しておいて下さい」


「その時は泳ぎでも砂遊びでも付き合ってやる」



 コーサカ家が全員参加した初めての家族旅行なんだし、ニームにも楽しい思い出を作ってもらわねば。後日開催予定の花火大会で世話になるから、今日はしっかりサービスするとしよう。



「たくとおとーさん、すごい。みずがうごいてる!」


「これは波っていうんだ。風の強い日には、もっと大きなのが見られるぞ」


「足に当たると、ちょっとくすぐったいね」


「いきなり水の中に入ると体の負担になりますので、少しづつ慣らしていきましょう」


「準備運動も大切です、クミン様」



 ゴナンクで生まれただけあり、ルーとレモングラスは基本的な知識があるようだ。みんなで波打ち際に立ち、しっかりと体をほぐす。


 しかしまあ、遠巻きに見つめてくる視線の凄いこと、凄いこと。この一角って、レア種の見本市みたいになってるもんな。さほど珍しくないアルカネットたちですら、快適な生活環境と急激なレベルアップの恩恵で、コンテスト出場者なみの美貌になっている。


 コハクが反応した方向へ閃光魔法(バルス)を発動しつつ準備運動を終わらせ、ゆっくりと海の中へ。



「タクトおとーさん。みず、しょっぱい」


「塩がいっぱい入ってるから、飲んだらダメだぞ」


「うん!」



 浮き輪のおかげだろうか。足がつかない深さになっても、サントリナは笑顔のままだ。水を怖がる様子もないし、これなら思う存分楽しめるな。


 さあ、目一杯遊ぶぞ!


妹ちゃんとボートで沖に出る主人公。

ちょっとしたイベントと共に、胸の内が語られる。

そしてタラバ商会を巻き込んだ計画とは……?

次回「260話 ゴナンク海岸、夏の陣」をお楽しみに。

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