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無能として家から追放されると決めた転生者の俺は、モフモフたちと一緒に第三の人生をエンジョイする  作者: トミ井ミト(旧PN:十味飯 八甘)
0000 1111[第15章]二度目の夏、妹無双の季節

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0258話 サーロイン家のその後

家具の運び出しも無事終了しました。

この半年で高さ1m以上の家具が、3→1に。

部屋の見通しが大幅に向上!


というわけで1週開きましたが、更新の再開です。

 アンゼリカさんとその娘たち、そしてカラミンサ婆さんと一緒に、蒼天宮(そうてんぐう)の奥へ小さな壺を埋葬する。



 ――母さん



 やっと家族のいる場所へ(かえ)してあげることができたよ。サーロイン家はスタイーン国から消えてしまった。父親だったエゴマは才人(さいじん)としての矜持や野心を失い、クリスピカトという田舎街(いなかまち)で、三人の妻たちと余生を過ごすらしい。


 配達員をしていた母さんなら、行ったことがあるんじゃないかな。俺も少しだけ見てきたけど、小さな牧場がある、のどかな街だったよ。


 息子のボリジとチャービルは、更生院への入所が決定した。スタイーン国の才人ということもあり、強制収容所への収監を免れたんだ。しかし彼らにとっては、死ぬよりつらい現実が待っている。なにせ魔法適性を失ったままなのだから。


 末っ子のディルは母親から離れ、首都(モルワーグリ)にある全寮制の養護院へ送られた。他家の子供たちと共同生活することで、女性を見下す悪癖や従人(じゅうじん)嫌いの性格を、治せるといいのだが……


 ニームはワカイネトコの家で元気に暮らしている。長男に傷つけられた心はすっかり癒え、俺との関係も今まで以上に良好だ。本妻っぽい貫禄が出てきたのは、ちょっと想定外の事態だけどな。まあ異母兄妹同士で仲の良かった母さんとタンジェリンさんみたいで、ある意味俺たちらしいのかも。


 サーロイン家に残っていた従人(じゅうじん)たちは、ロブスター商会に保護してもらった。だから心配しないでくれ。そうそう、母さんが可愛がっていたパインは、俺の屋敷で頑張っているぞ。料理の腕もかなり上がり、マンダリンと二人で厨房を任せられるようになったしな。



 あとは――



 祭壇の前に膝をつき、ここ最近の出来事を母さんに報告する。サーロイン家の歴代一族は共同墓地へと移されたが、母さんの遺灰だけ俺が預かってきた。やっぱり母さんが眠る場所はここしかない。きっとみんなに快く迎えてもらっているはず。



「ぶぇぇーん、ダッぐぅぅぅーん。ほんどうに、ありがどにゃぁぁぁー」


「無事に引き取ることができて、本当に良かったよ。ほらこれで涙を拭いてくれ」


「どっちが子供なんだか、わからないわねぇ」



 なぜか俺に涙を拭かせたがるんだよな、アンゼリカさんは。この年齢で大泣きすると、化粧が崩れたりして大変なことになるものだが、彼女の場合その心配は無用だ。涙と鼻水でひどい状態になってること以外、いつもと変わらない若々しい顔のまま。普段からほぼスッピンとか、色々反則だよ本当に。



「お母さんは甘え上手なの」


「私も頑張って……見習うれす」


「タクトは(わらわ)守護者(ガーディアン)なのじゃが……」


「ほら、子供たちへ悪影響を与える前に、ここを出よう」



 アンゼリカさんの手を引きながら蒼天宮を出て、全員で奥にある庭園へ。花の季節は終わってしまったが、緑に覆われた藤棚も美しい。


 って、なんで膝の上に座る。

 まったく仕方ないな……今日だけだぞ。



「あんまり甘やかしちゃダメよぉ」


「母さんの身元保証人になってもらったり、改葬に必要な書類の交付をやってもらったからな。今だけの特別サービスと思ってくれ」


「すごく頑張ったから、ご褒美にゃ!」


「私も……手伝ったれす」


「ラムズイヤーは、後で肩車してやろう」


「すごく……楽しみれす」



 ニームから話を聞いたらしく、時々肩車をねだってくるんだよな。二十歳の大人がどうかと思わないでもないが、はしゃいでいる姿が幸せそうなので、悪い気はしない。



「私もなにか欲しいの」


「今日は昼飯に、焼きビーフンを作ってやるぞ」


「ソース味を所望するの!」


「それなら野菜と肉たっぷりの、焼きそば風が一番だな。楽しみにしておくといい」


「嬉しいのー」



 子犬のようにまとわりついてきやがって。

 まったく、麺類大好きっ子め!



「なあタクトよ、妾には何もないのか?」


「午後からコーサカ研究室に行く予定だ。クミンの診察もあるから、マツリカと一緒に来るか?」


「お昼ごはんを食べたら、タクトとワカイネトコへ行くのじゃ!」



 マツリカも喜ぶし、クミンも話をしたがってた。この機会に連れていけば一石二鳥だ。ベルガモットも仲良くなったローズマリーやベニバナと会えて、嬉しいだろうし。



「すっかりスコヴィル家のお父さんねぇ。この光景、主人(アーティチョーク)に見せたかったわぁ」


「きっとすぐそこで見守ってくれていると思うぞ。今日の霊廟(れいびょう)はいつもと感じが違うからな」


「キュキューィ!」


「ホホォーゥ!」



 いつもは(おごそ)かな気配が漂う霊園だけど、今日は妙に空気が軽い感じがする。母さんが帰ってきたことで、先祖の霊たちが集まってるのかもしれない。霊的な現象が存在しない世界でも、これくらいのことは起きたっていいよな。


 みんな仲良くやってるから、安心して天国から見守っていてくれ。



◇◆◇



 授乳室にしている小部屋から、ラベンダーとリコリスが出てきた。俺の顔を見た途端、紅葉(もみじ)のような手を伸ばしてきやがって。まったく可愛すぎるだろ。ほれほれ、背中をトントンしてやるぞ。



「……けぷっ」


「ゲップも出たし、そろそろ出発しよう」


「行こっ、お姉ちゃん」


「うん、クミン」



 クミンと手をつなぎ、顔が緩みまくっているマツリカを先頭にして、屋敷の外へ出る。俺はリコリスを抱っこし、ベルガモットをエスコートしながら後ろに続く。



「本当にタクトは、いい父親をしているのじゃ」


「当主であるタクト様に甘えっぱなしで、なんだかとても申し訳ないです」


「遠慮なんかして俺の生きがいを奪うのは、無しの方向で頼む」


「リコリスも誰が命の恩人なのか、わかってるんだよ。だからタクトさんを喜ばせようして、甘えてるんじゃないかな」



 さすがクミン、素晴らしい考察だ!

 リコリスは純真無垢のまま育って欲しい。もし思春期になって、一緒にいるのは恥ずかしいとか、洗濯物は別にしてなんて言われたら、俺は死ぬ。間違いなく再起不能になる。



「タクト様にお伺いしたいことがあるのですが、宜しいですか?」


「改まってどうした、マツリカ」


「タクト様がお持ちの力は、更生院送りになったサーロイン家の元当主や弟に、ずっと働き続けているのですよね? ベルガモット様には無理なのでしょうか」


「あー、そのことか。あれは霊獣が俺の力を、相手の魔力に編み込んでるんだ。つまり魔力が無くなるか、霊獣の力でほどかない限り、効果が永続するって仕組みになってる」



 なので魔力を持たないベルガモットには適用できない。それに標準化(STANDARD)も試したみたが、二百五十五(1111 1111)の数値に変化なし。ブレイク(BREAK)で破壊すると、従人と同じ四ビット(4bit)になりかねないし、今のところ手詰まり状態だ。



「月に二回タクトに甘えられるから、妾は今のままでも十分なのじゃ」


「俺のレベルはまだまだ上がる。このさき解決策が見つかっても、そんな時間は作るようにしよう」



 今は上限が十六人のチーム用分配器(ディストリビューター)を使い、家族まとめてレベル上げの真っ最中。聖域経由で行ける場所も増えたから、スキマ時間に経験値を稼ぐことができる。秋くらいにはレベル百二十八(128)になれるだろう。そこでギフトが成長するはず。


 そんな話をしながら歩いていると、マノイワート学園へ到着。クミンは定期検診のため治療施設のある棟へ。付き添いはマツリカ、そしてルーとレモングラス。


 俺たちは校舎裏を抜けて研究室を目指す。激レアな栗鼠種(りすしゅ)なんか連れていたら、生徒や事務員たちに囲まれてしまう。可愛いリコリスを、見世物などにはできん!!



「あー、うー?」


「ここが俺たちの研究室だ。ローズマリーが会いたがってたから、きっと喜ぶぞ」


「きゃーう」



 理解できているのか、いないのか。まあ楽しそうなのでどうでもいいな。窓際に立ってリコリスと一緒に外を眺めていると、校門へ向かう学園生の姿がチラホラ見え始める。



「あっ、ベルガモットちゃんだ! 元気してた?」


「妾は元気モリモリなのじゃ。ベニバナも壮健そうで何よりなのじゃ」


「ご無沙汰しております、ベルガモット皇女殿下様」


「久しぶりなのじゃローズマリーよ」


「東部大森林で集めてきた素材を、テーブルの上に置いてある。後で確認しておいてくれ」


「ありがとうございます、タクト室長。これで新しい配合に挑戦できますわ」



 ドリルツインテールを伸び縮みさせながら、ローズマリーがニコリと微笑む。おっと、リコリスが手を伸ばしたぞ。活きが良い髪で面白いだろ。



「抱っこしてみるか?」


「宜しいのですか!?」


「ローズマリー様は、私の大切なクミン様を救ってくださった恩人です。ぜひ娘のことを抱いてあげて下さい」



 恐る恐る腕を伸ばしてきたローズマリーに、リコリスをそっと託す。天使のような可愛らしさに癒やされるがいい。



「ふっ!? ふぇっ……びえぇぇぇーん!!」


「あら……私の抱き方が悪いのでしょうか!?」


「お嬢様の抱き方に、特に問題はないと思いますよ」


「どうされたのです、泣き止んでくださいまし」



 突然泣き出したリコリスに、ローズマリーとルッコラがオロオロする。



「それはオムツが湿ってしまったときの泣き方だ。すぐ交換するから、こちらに渡してくれ」


「そうだったのですね。では、よろしくお願いいたしますわ」



 しっぽのボリュームがある栗鼠種(りすしゅ)は、仰向けにすると安定しないので、ラベンダーに支えてもらいながらオムツの紐を解く。汚れたオムツをさっと洗浄してから袋に入れ、下半身をホットミストと清浄魔法で清潔に。軽くベビーパウダーをはたき、新しいものと交換。



「よし、これで大丈夫だ」


「だぁー!」


「タクト室長って、すごく手慣れてらっしゃいますね。なんだか凄いですわ」


「色々と世話をさせてもらってるおかげで、だいぶ上達した。ほら、もう抱っこして泣かないと思うぞ」



 再びリコリスをローズマリーに託すと、今度は笑顔のままドリルツインテールに手を伸ばす。ローズマリーのやつ幸せそうな顔をしやがって。わかるぞ、その気持ち。



「可愛いですわー、癒やされますわー」


「見て下さい、お嬢様。私の指を握ってくれましたよ」



 ルッコラもすっかり骨抜きだな!

 男装している羊の執事が子供をあやす光景って、なかなか絵になるじゃないか。


 そんな姿を眺めていたら、検診が終わったクミンたちと、診察に協力していたニームが戻ってきた。よし、みんなで茶にしよう。マジックバッグから茶請けの菓子を取り出したとたん、シトラスのしっぽが暴れ出す。


 今日は砕いた土豆(ピーナッツ)入りのソフトクッキーだぞ。たくさんあるから、遠慮なく食えよ。



◇◆◇



 素材の整理もサクッと終わらせ、互いの近況報告をしながら茶を楽しむ。なるほど、東部大森林でしか入手できない素材が高騰していたのか。特に品質の良いものが、年々手に入りにくくなっていたと……



「そりゃあんな狩り方してたら仕方ないと思うよ」


魔創生物(まそうせいぶつ)や素材の知識が足りないから、あのように雑な真似ができるのです。旦那様やジャスミンさんを見習ってほしいですね」


「霊獣さんも怒ってたですよ」


「耳の痛い話ですわ。お父様にスクティタク学園のカリキュラムを見直すよう、提言しておきます」



 学生だけでなく現役世代も学び直して欲しいものだ。そもそもスクティタク学園は、実技に偏重しすぎなんだよ。素材やアイテムを提出するだけで、単位がもらえるからな。そんなシステムの影響は、カースト下位の連中から奪い取ったり、身内から融通してもらうといった、不正の温床として顕在化している。



「これからは冒険者も、東部大森林に入りやすくなるでしょうし、徐々に解消していくと思いますよ。なにせ森を独占すると、兄さんに(たた)られますからね」


「祟るとか言うな。あれは霊獣の力であって、俺がやったんじゃない」


「タクト室長は、スタイーン国最強と言われていたボリジさんを無傷で倒し、森の守護者から力を得て魔法技能を封印した、そんな話題で国中を震撼させています。いま首都(モルワーグリ)に行かれたら、才人たちが一目散に逃げ出すと思いますわ」


「これでタクトさんに逆らえる国って、無くなっちゃったんじゃないの?」


「クミンも粗相しないように気をつけなさい」


「失敗したくらいで怒ったりせんわ!」


「そうだよ、お姉ちゃん。タクトさんってすごく優しいもん。そうじゃないとリコリスが、ああやって腕の中で眠ったりしないよ」



 まったくマツリカのやつ、俺のことを暴君とでも思ってるのか。しかたがない、ここはコハクでも吸って心を落ち着かせよう。



「クゥー」


「……実際のところ、十六家や御三家はどう動いてるんだ?」


「そのことなのですがシャトーブリアン家のご当主様から、タクト室長に手を出すことはまかりならん、と声明が出たそうですわ。十六家はそれを尊重するとのこと。ただ、タクト室長には大きな借りができましたので、国の存亡に関わるような要求でなければ、できる限りの便宜を図ると決定しております」


「俺からの要求は、東部大森林で才人から嫌がらせを受けた場合、国内で処理せず冒険者ギルドにも調査させること。あとは元サーロイン家の関係者を、俺たちの生活圏に踏み込ませないこと。これくらいだな」


「捜査権のことは了解ですわ、お父様にも伝えておきますので。それと、ボリジさんとチャービルさんには、生涯出国禁止の処分が下っています。ディルさんは本人の能力次第ですが、退院後は公務に関わる部署へ配属されることになるかと。その場合は申請なしにモルワーグリを出ることができません。エゴマさんたちは事実上の永蟄居(えいちっきょ)ですね。ですので、ご安心下さい」



 さすが仕事が早い。これならカラミンサ婆さんも納得するだろう。あの人も俺が絡むと、すぐ実力行使しようとするからな。悠長なことをやってると、モルワーグリに乗り込みかねん。シャトーブリアン家の当主は、間違いなくそれを避けようとしたはず。



「……あるじ様。えいちっきょって、なに?」


「死ぬまで部屋の中に閉じ込めたり、敷地から出られないようにする処分だ。エゴマたちの場合、そこまで行動の制限はないだろう。しかし所在の確認ができなくなると、即座に手配書が回って連れ戻される」


「ボリジとチャービルはどうなの? あの二人のことだから、汚い手を使って逃げ出すかもしれないわよ」


「出国禁止ってのは、かなり重い処罰でな。みんながつけてるチョーカーより高性能な魔道具で、常に位置情報をチェックされるんだ。そして監視員から離れすぎると、首が徐々に締め付けられていく」


「ちなみに、無理やり外そうとしたら、爆発しますわ」


「あら、それなら安心ね」


「これで憂いなく海水浴を楽しめるな、主殿(ぬしどの)よ」


「そうだな。みんなで夏のリゾートを満喫しよう」



 この学園にローズマリーがいてくれて助かった。なにせ限りなく生に近い情報を、聞くことができるからな。きっと父親のウォータークレスさんも頑張ってくれたんだろう。いずれプロシュット家には、なにかお礼をせねば。


 それはともかく、明日からバカンスの準備開始だ!


次回からいよいよ夏のリゾート編。

新しい家族と、そして妹や従人たちと、どんな思い出を作っていくのか。

「0259話 ゴナンクの朝」をお楽しみに。

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― 新着の感想 ―
ボクシングの階級分けみたいなもん作らないと 水着運動会詰まらんものになり兼ねないよなあ
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