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無能として家から追放されると決めた転生者の俺は、モフモフたちと一緒に第三の人生をエンジョイする  作者: トミ井ミト(旧PN:十味飯 八甘)
0000 1111[第15章]二度目の夏、妹無双の季節

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0257話 外交特権

 聖域渡りで自宅へ戻り、フェンネルに軽く事情を説明。沈着冷静なあの男が感情をむき出しにする姿なんて初めて見た。才人(さいじん)の事情に詳しく、スタイーン国に影響力を持つ各家の動きや派閥について、俺も色々と教えてもらっている。そんなフェンネルが非道と断言するんだ。あの国でも最低最悪な人格だったのだろう。


 ユーカリの妖術で瞳をブルーグレーに変え、上機嫌で隣を歩くニームに視線を向けると、繋いだ手をキュッと握り返してきた。二人の間から伸びているのは、(たわら)をくくりつけた長いロープ。いまいちパッとしないビジュアルだな……



「相変わらず仲良し夫婦だね。まあウチも負けてないけどさ!」


「いつまでも新婚みたいな二人のことは、羨ましいと思ってるよ」


「コーサカさんとニームちゃんは幼馴染だったね? ウチと一緒なんだから大丈夫だって。これはオバチャンの持論なんだけど、結婚するなら気心の知れたもの同士に限るよ。一緒になる前から相性がわかるってのは、重要だからね。その点コーサカさんとニームちゃんは――」



 角を曲がったところで、茶葉卸売店のオバサンと遭遇。今日もマシンガントークが冴え渡ってるぞ。女性陣がウンウン(うなづ)きながら話を聞いてるので、もう少し付き合ってみよう。



「私も兄さんとずっと仲良く暮らしていきたいです」


「ニームちゃんなら心配する必要なんかないって。結婚してもお兄ちゃんなんて呼んでる子が、幸せになれないはずないからね。オバチャンが保証するよ!」


「人生の先輩にそう言ってもらえるのは、とても心強いな」


「なんだか嬉しいですね」



 俺の方を見たニームが、ニコリと微笑む。狙って鉢合わせたわけじゃないと思うが、本当にいいタイミングで来てくれた。第三者からの言葉は、きっとニームの心に響いている。もうサーロイン家のことで、落ち込むことはないだろう。



「ホント、コーサカさんは若いのに落ち着いてて、いい男だね。オバチャンがもう二十若ければ、ほっとかないよ。ところで二人が運んでる荷物はなんだい? 宙に浮いてる気もするんだけど……」


「これは森で駆除してきた害虫だ。今から冒険者ギルドに持っていって、処分してもらってくる」


「あー、そういうことかい。相変わらずコーサカさんは仕事熱心だね。公園のことも聞いたよ。大活躍だったそうじゃないかい。こんなできる旦那を持てて、ニームちゃんは幸せ者だよ。コーサカさんのとこで働いてる従人(じゅうじん)は、礼儀正しく仕事もできるって評判だし、ほんとにいい人が来てくれたもんさ。あんた達はワカイネトコになくてはならない夫婦なんだから、黙って居なくなったりしないでおくれよ」


「ここに定住すると決めてるから心配は無用だ」


「それなら次世代のワカイネトコも安泰だね。あとはオバチャンがコーサカさんの活躍を広めてあげるから、安心おし。フェンネルさんやクミンちゃんにも、よろしく伝えといてもらえるかーい」



 言いたいことを喋り終えたのか、オバサンが手を振りながら去っていく。詳細をまったく教えてないから、どんな話に変貌するのかは気になる。しかしあの人が流す噂だ。変なことにはならないだろう。



「相変わらず嵐のような人でしたね」


「ニーム様とタクト様がすっかり夫婦扱いされていて、少し羨ましいです」


「まあステビアとローリエは、私の一部みたいなものですから、兄さんとは別枠ですよ」


「そう言っていただけると、幸せです」


「あたしも嬉しい!」



 少し軽くなった空気を肌で感じながら、冒険者ギルドへ続く通りを進む。男六人分の大荷物を軽々運んでるのは、客観的に見ると異様な光景に感じるはず。しかし誰も立ち止まったり、声をかけたりしてこない。刃物で刺され、更に魔法で焼かれても無傷だった俺。そんな人物がやってることだから、何でもありと思われてそうだ。



「あれ? 入り口はそっちじゃありませんよ」


「これはギルドの窓口でなく、凶悪犯を勾留する場所へ持っていく。そろそろ目を覚ますだろうし、暴れられたらたまったもんじゃない」


「なるほど、それは妥当な処置だと思います」



 常駐している警備兵に扉を開けてもらい、分厚い壁に囲まれた中庭へ六人を運び込む。あまり広い場所じゃないし、殺伐とした雰囲気で空気が悪い。ニームたちには建物の中に、入っていてもらおう。ボリジのやつが目を覚ましたら、どうせ余計なことを言い出すだろうし……


 威圧術の使えるユーカリを残し、パチョリさんの到着を待つ。その時、肩の上にいるコハクがピクリと反応。どうやら俺たちに悪感情を持ってる人物が、近づいているようだ。


 一緒に入ってきた、糸目の男がそうか?



「こんな短時間で依頼達成とは、さすがとしか言いようがありませんね」


「時間をかければかけるほど、状況は悪化していくからな。それに俺としても、こうした芽は早く摘み取っておきたい」


「だからといって、いきなり他国の冒険者ギルドへ連行するなど、性急すぎるのでは?」



 いきなり口を挟んできたこの男、ワカイネトコに常駐している外交官とのこと。なるほど、いくら十六家や御三家が黙認しても、国家としては面白くないってことか。



「いつものように事故で済ませられたとあっては、冒険者ギルドとしても納得できかねますので」


「それは聞き捨てなりませんね。まるで我々が不正をしているようだ」


「今回は流星ランクシューティング・スターが重症を負ったのです。こちらも徹底調査をしなければなりません。彼らの身柄は冒険者ギルド中央本部で、預からせていただきます」


「我が国の才人は公としての地位を持ち、官職と同じ特権が与えられている。十分な証拠もなしに捕縛するのは、明確な主権侵害ですよ」


「彼の証言を聞かずに判断するのは、それこそ性急かと」


「冒険者の証言など、なんの参考にもなりませんね。不正やごまかしを平気で行う冒険者と、国のため自ら危険な任務をこなす才人。どちらの立場が上だと思ってるんです」



 さすがスタイーン国から来た外交官。冒険者に対する偏見がものすごい。そして何でもかんでも序列を付けたがる悪い癖。この世界だと当たり前のことではあるが、スタイーン国は特に顕著だ。



「……ん? くそっ、ここは……どこだ」


「気が付きましたか、ボリジさん」


「お前は誰だ?」


「私はスタイーン国から外交官として派遣されている、ラビッジと申します。このたびは災難でしたね」


「ああ。そこの無能に卑怯な手で捕まったんだ」


「炎帝というレアギフトをお持ちの貴方が捕らえられるなど、おかしいと思っていたのですよ。すぐに拘束を解かせますので、今しばらくお待ち下さい」


「こっちは忙しいんだ、早くしろよ」


「一つ聞きたんだが証拠さえあれば、素直に引き渡してくれるのか?」


「もしそんな物が用意できるのならね。わかっていると思いますが、そこの従人に証言させるのはダメですよ。制約でいくらでも偽証させられますから」



 そんな事は百も承知。俺はユズのスマホを起動し、森で撮影した動画をタップ。ズーム機能まで駆使して、完全に個人が判別できる動画を、全画面モードで流す。大丈夫かラビッジ。顔に冷や汗が出てるぞ。



「これは酷い。よくもこれだけ心無い言葉が出てくるものだ」


「こ、こんなの作りものです。我が国の才人が、卑劣で非道な行いなど、するはずありません」


「そうだぞセージ。卑怯な真似ばかりして恥ずかしくないのか。この魔道具頼みの無能が!」


「残念ながら、この古代遺物(アーティファクト)にそんな機能はない」



 ということで、いま撮影した動画を再び再生する。直前に起きた出来事が、そっくりそのまま映ってるんだ。これで納得せざるをえないだろう。



「くっ……この件は本国に持ち帰って検討します。外せない用事がありますので、今日の所はこれにて失礼」


「逃げたな」


「いきなり冒険者ギルドへ乗り込んでおきながら、あっさり逃げましたね」


「さて、外交官にも見捨てられたようだが、お前はどうしたい?」


「クソッタレがっ! サーロイン家の当主である俺をコケにしやがって。魔道具なんかに頼らず、正々堂々勝負しやがれ」


「お前の口から正々堂々とか、よく恥ずかしげもなく言えたもんだな。だが、まあいいぞ。俺に勝てたら開放してやろう」


「その言葉、忘れるなよ! すぐ後悔させてやる」



 魔封じの拘束を解かれたボリジが、俺から距離を取った。それを見たパチョリさんや警備兵たちに緊張が走る。なにせ火力特化の炎帝ギフトだ。もしボリジが全力で魔法を放てば、中庭にいる全員が消し炭になってしまう。



「そこにいる全員、焼け焦げて死ねっ!!」



 ――ポヒュッ



「どうしたボリジ、調子が悪いみたいだな」


「クソセージ、また魔道具で邪魔しやがって!」


「ここにはそんなもの、設置されていませんよ」



 パチョリさんが目配せすると、警備兵の一人が魔法を発動。中庭の中央に巨大な火柱が立つ。



「クソッ! クソッ!! なにがどうなってる」



 他の魔法を発動しても、出てくるのはそよ風や、チョロチョロ流れる水だけ。今のボリジが引き起こせる事象改変規模は俺以下だ。これぞ論理演算師(ろんりえんざんし)が持つ参照(REFERENCE)の力。しかも霊獣を介して適用しているため、更に効果が上がっている。



「こうなったら素手で勝負だ、死ねやセージィィィィィ」


「いい加減覚えろ、俺の名前はタクトだ」



 たいして鋭くもないパンチを避け、ボリジのみぞおちへ(こぶし)を叩き込む。



「――ぐはっ」


「魔法だけじゃなく、体も鍛えたほうがいいぞ。これからの生活で必要になるんだからな」


調子(ぢょうじ)が……戻っだら、(がなら)ず……(ごろ)じて……やる」


「お前たちは森の守護者から見限られたんだ、そんな日はもう二度とこない。もちろんチャービルや一緒にいた四人も、属性魔法の適性はゼロになってるぞ」


「……な、なんだど」



 俺のギフトを使ったとはいえ、効果を生み出しているのは霊獣の力だ。彼が解除するまでは永続的に発動し続ける。悠久の時を生きる霊獣にとって、人の一生なんて瞬きするような時間でしかない。ボリジたちが生きている間に、(ゆる)されることはないだろう。



「とりあえずこれは、ニームが受けた心の痛みだ。二度と忘れないよう、心に刻んでおけ」



 ――バキッ!!



 ボリジの体が宙に浮き、鼻血を撒き散らしながら壁に激突。そのまま膝を折り、前かがみになって地面へ沈む。少しだけだがスッキリした。祝福術の効果時間内だったので、気持ちよく吹っ飛んでいったしな。


 才人にとって魔法は心の拠り所。それを失ったショックは、想像を絶するものになるだろう。自分の無力さを(なげ)きながら、これから生きていけ。それがお前たちに対する罰だ。


元実家との因縁は断ち切れたのか?

次回「0258話 サーロイン家のその後」をお楽しみに。


◇◆◇


次の週末は連休を使って、家具の新調と入れ替えをするので、更新ができません。

背の高い家具を撤去するため、風通しと明るさが改善するはず!


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