0252話 冒険者ギルドからの呼び出し
受け付けで簡単な手続きを済ませ、ワカイネトコ冒険者ギルドの中を歩く。対応してくれた職員によれば、公園で暴れていたチンピラに関して報告したいとのこと。しかしギルドの支部長が直々に呼び出したくらいだ。面倒ごとの予感しかしない。
「どうせキミのことだから、やりすぎたんじゃないの?」
「昨日も言ったが、殺してはいないぞ」
「親御さんが偉い人で、タクト様に文句を言ってきたとかは、ないのです?」
「周囲にいた野次馬たちの証言を聞く限り、この街に住む上人でないことは確実だ。仮に親が権力者でも、昨日の今日で手を回してくるとは考えづらい」
「例え発言力のある方だとしても、身内の恥をもみ消して旦那様を咎めるような真似、するとは思えないのですが……」
「あのエゴマって才人みたいな性格なら、悪いのはタクトだって言いそうなのよねー」
確かに可能性としては、否定できないんだよな。あいつが持っていた効果付きのナイフも、スタイーン国の才人が好みそうなものだし。
「……あるじ様、悪くない」
「誰一人被害者を出すことなく、主殿は見事に解決したのだ。堂々と胸を張っていればよい」
「キュイッ!」
「まあ、やましいことは何一つしてないし、これで俺にペナルティーが課せられたりすれば、ワカイネトコの住人たちが黙ってないだろう。ドンと構えていることにするよ」
刺されても傷一つ無く、燃やされても平気な顔で相手を制圧した。あまりに特異な場面だったから、気味悪がられると思いきや、あのあと公園は大盛り上がり。オレガノさんのお抱え冒険者や、ダエモン教の聖座という肩書が効いたらしい。すっかりヒーロー扱いされ、武勇伝として一気に広まっている。
そんな人物を叱責すれば、どんな反感を買うか。冒険者ギルドもよくわかってるはず。
あれこれ考えても仕方ないし、まずは支部長に会おう。三階の奥にある部屋まで行き、観音開きの扉をノック。すぐに入室の許可が出たので扉を開く。そういえばここに入るのは、流星ランクに上がったとき以来か。
「本日はお呼び立てして申し訳ありません」
「気にしないでくれ。俺はこの街を拠点にしているし、よほどのことがない限り応じるつもりだ」
「まずは昨日の件から報告させてもらいます」
あいかわらずパチョリさんは腰が低い。メドーセージ学園長の教え子だし、ギルド幹部の中では序列二位。次期総長に選ばれるのは確実と、言われてる人なのに……
「あいつカルビ家の関係者だったのか」
「三男で素行が悪く、既に実家から除籍されていたようで、そんな息子はいないとカルビ家から回答が来ました。その後、冒険者として活動していたようですが、重大な規約違反で資格を剥奪されています。別の国だったら登録できるとでも思ったんですかね。当ギルドで審査落ちしたことを逆恨みし、あの凶行に及んだようでして……」
「冒険者ギルドから追放されたってだけで、ロクデナシっぷりがよく分かる」
冒険者ギルドの門戸はかなり広い。荒くれ者から未成年まで、来る者は拒まない組織だ。しかも規則なんて、有って無いようなもの。それこそ犯罪者でも登録できてしまう。教えてもはもらえないだろうけど、なにをやらかしたのか興味があるぞ。
「あのナイフですが盗品でした。本来の持ち主は行方不明になっているそうです」
「従人を使って強奪し、簡単に足がつかないよう、まとめて処分したってとこか。やっぱりジマハーリの才人には、ろくなやつがいないな」
「ワカイネトコの有名人である、タクトさんの前でやらかしたのが運の尽きでしたね。すでに強制収容所へ収監されました。職員への被害も未然に防いでいただき、支部長として感謝します」
このスピード感、間違いなくダエモン教から圧力がかかってる。情状酌量の余地はなさそうだし、俺としてもその処分に文句はない。なにせ従人を人質に取ったんだ。どんな事情があったとしても、絶対に許すことなどできん!
「その場で文句を言わなかったとか、雑魚じゃんか」
「ギルドには強い方がいっぱい居るですから、きっと怖気づいたのです」
「どんな理由があったとしても、公園で一般人を狙うなんて卑怯者すぎます」
「……人質とるの、ダメ、絶対」
「二度と強制収容所から出てきて欲しくないわね」
「キュッ!」
「主殿に殺意を向けたのだ、そう簡単には出てこれまい」
「その点はご安心ください。強制収容所で事故はつきものですから」
さすがにパチョリさんも、こっち側の人間か。そうでなければ組織のボスなんか務まらないよな。とにかく今回の件は、これで終了だろう。
「次は本題の方を聞かせてくれ。わざわざ呼び出したくらいだから、あるんだろ?」
「さすがタクトさん、察しが良くて助かります。ベチパー・テバサキという冒険者をご存知ですか?」
「スタイーン国で活動している、ベテランの流星ランクだよな? 確か一度も依頼を失敗したことのない凄腕だと記憶してる」
「その彼ですが、初めて依頼未達になりました。使役していた従人は全員死亡、本人も重症を負い復帰は絶望的とのことです」
「一体なにをやらせたんだよ。魔物の群れに突っ込んでいっても怪我一つ負わず生還した、なんて噂を聞いたことがある人なんだぞ」
「ボリジ・サーロインの行状調査と警告です」
「返り討ちに遭ったってわけか……」
ボリジのやつ、とうとうやりやがった。警告を出す場合、必ず身分を開示する。あいつは流星ランクとわかった上で、仕掛けたんだ。
「徒党を組んだ才人たちに囲まれ、一方的に嬲られたとのこと。今回の件を重くみた冒険者ギルド上層部は、スタイーン国との全面抗争もやむなしと、対応を検討しているところでして」
「東部大森林を封鎖でもされたら大事だぞ。世界経済に影響を与えてしまう」
「これまで散々煮え湯を飲まされてきたこともあり、東部大森林を冒険者ギルドの管理下に置こうという意見が、噴出してるのですよ」
「そうなるとスタイーン国自体が弱体化するだろうな。いずれマッセリカウモかヨロズヤーオの、属国にでもなるんじゃないか?」
「その可能性は高いでしょうね」
冒険者ギルドの幹部って、わりと脳筋揃いだもんな。どんな無理難題も拳で解決、みたいな傾向が強い。パチョリさんみたいな人は、レアな存在だったりする。
「支部長としては、俺になんとかして欲しいわけだ」
「お願いできませんか?」
「サーロイン家にペナルティーを与えるとして、十六家がなんと言ってるか教えてくれ」
「モツ家とハラミ家以外、了承あるいは黙認するとのことです」
「その二家はサーロインから利益供与を受けてるでの仕方ない。なら御三家は?」
「シャトーブリアン家の縁者が手を下すなら、抗議も非難もしないと文書で回答が寄せられています」
やっぱり冒険者ギルドの次期総長は、この人しかいないのではないだろうか。根回しとか完璧すぎだろ。そして俺の個人情報、ダダ漏れ状態なのでは?
「わかった。とはいえ、政治的にデリケートな依頼だし、危険も大きい。家族と相談する時間をくれないか?」
「ええ、もちろん構いません。最悪、断っていただいても、問題ありませんので」
ひとまず答えを保留にし、部屋から退出する。アインパエで冒険者ギルド支部長に加護のことを話し、公園で発生した事件は多くの人に目撃された。ボリジやその取り巻きに対して、強力な切り札になると踏んでの依頼だろう。更に俺の影響力や血筋が、決め手になったってところか。
とりあえずこんな案件、俺の一存では決められない。シトラスたちともじっくり話し合いたいしな。屋敷に戻って全員が納得できる答えを見つけよう。
みんなの結論は?
次回「0253話 家族会議」をお楽しみに。




