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無能として家から追放されると決めた転生者の俺は、モフモフたちと一緒に第三の人生をエンジョイする  作者: トミ井ミト(旧PN:十味飯 八甘)
0000 1110[第14章]コーサカハウスにようこそ

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0248話 餅つき大会

誤字報告ありがとうございました。


アインパエ帝国を中心に進んだ14章もこれで終わりです。

 食堂のテーブルと椅子を端に寄せ、中央に(うす)(きね)を置く。臼に張っていた水を捨て、代わりに熱湯を注いで杵も温める。こんな手順、俺は知らなかった。ユズの知識は本当にすごいな。


 しばらく放置した後、蒸し上がったもち米を食堂へ運ぶ。



「最初は杵に体重をかけて、もち米を潰していくっす」


「それは俺がやろう」



 臼のまわりを周回しながら、もち米をグイグイ押しつぶす。形を整えてくれるユーカリと連携しつつ繰り返し、つぶつぶ感が無くなってきたら完了だ。



「それくらいでいいっすよ。あとはひたすら、つきの作業っす」


「ボクそれやってみたい!」


「わたくしの合いの手に合わせて、声をかけてくださいね」


「わかった」



 シトラスとユーカリが、「よっ」「はい」と声を出しながら餅をつく。食堂に響くペッタンペッタンという音を聞いていると、ここが異世界だって忘れそうになるな。



「……私も、やってみたい」


「いいよ。はい、シナモン」


「ねえユーカリちゃん。お餅をひっくり返すの、やってみていい?」


「ええ、いいですよ。交代しましょう」


「それじゃあシナモンちゃん、いくよー」


「……とやっ」


「えい!」



 つき手がシナモンに、返し手がローリエに交代し、再び餅をつき始める。だいぶ滑らかになってきたし、次の準備をしておこう。


 テーブルに調薬で使うシートを敷き、白イモ粉(かたくりこ)を振っておく。ボールに水を張り、ぬるま湯になるまで魔法で加熱。人数が多いし丸餅でいいな。全員でやれば、すぐ終わる。



「手の空いてる者は、全員こっちへ来てくれ。俺が餅を取り分けるから、白イモ粉(かたくりこ)をまぶした手で、クッキーみたいな形に整えるんだ」


「なんか家族揃ってワイワイやるのって楽しいね」


「クミン様と肩を並べて作業するのは、いつも以上に心が踊ります」


「まだ熱いですから、気をつけてください、クミン様」


「幼い子供を育てながら働けるなんて、とても幸せです」



 酷い家になると子供を仲介業者に売られたり、仕事の能率が下がるからなんて理由で、他の使用人や従人(じゅうじん)に虐められたりするからな。コーサカ家ではそんなこと、絶対に許さん。



「タクトおとーさん、これでいい?」


「上出来だ、サントリナ。その調子でどんどん作ってくれ」


「うん!」



 可愛いサントリナが作った記念すべき一個目は、絶対に俺が食べるぞ。あとで目印を付けておこう。



「ねえ兄さん。こんなにたくさん作って、大丈夫なんですか?」


「時間が経つと固くなってしまうが、常温でも数日だったら保存できる。その状態になっても、焼いたり煮込んだりといった、調理法があるしな」


「以前、ニーム様の記念日に出していただいた品種の水麦(みずむぎ)は、このような加工品にもなるのですか。本当に奥深いです」


「次につき上がった餅は、和菓子にしてしまうぞ。ユーカリ。きな粉と砂糖、用意しておいたこしあんを頼む」


「すぐ持ってまいります、旦那様」



 餅の取り分けをパインとマンダリンに頼み、ユーカリと一緒にきな粉餅と大福の制作に取り掛かる。粒あんでも良かったのだが、スイがこし餡を食べてみたいと言っていたし、今回はこっちで作ろう。そうだ、黒たまりの煮汁( しょうゆ )で、砂糖醤油も作っておくか。海苔で巻いた餅を、甘じょっぱい砂糖醤油で食うのも旨い。



「次のもち米が蒸し上がるまで、おやつにしよう。みんな休憩に入ってくれ」


「どれから食べようか、ミント迷ってしまうです。タクト様のおすすめは、どれなのです?」


「そうだな……これを食ってみろ」



 目移りしていたミントに、大福を二つ差し出す。可愛らしい口でかじりついた途端、その顔が驚きの表情へ変わった。



「これ、中に果物が入ってるです!」


「そっちが赤粒を入れたイチゴ大福、もう一つがバナナ大福だ」


主殿(ぬしどの)(われ)にもそれを頼む」



 イチゴ大福を差し出すと、そのままパクリとかぶりつく。幸せそうな顔しやがって。俺に食べさせて欲しかったんだな。ほれ、バナナ大福も食え。



「……あるじ様、あ~ん」


「砂糖たっぷりのきな粉餅だぞ」


「……うまうま」



 わらび餅サイズの小さな粒を爪楊枝に刺し、シナモンの口へ放り込む。天使の笑みに癒されながら、俺も砂糖醤油につけた餅を一口。



「キュッ!?」


「おっ、コハクはこの味が好きか」


「キュイ、キュイ」



 明日は焼いたバージョンの磯辺餅を作ってみよう。次につく分は、のし餅にしなければ。



「タクトおとーさん、ユーカリおかーさん、とってもおいしい!」


「お口の周りが粉だらけですよ。拭いてあげますから、少し動かないでくださいね」


「ありがとう、ユーカリおかーさん」


「この甘辛いお餅は、フェンネル様がお好きな味付けだと思います。お一ついかがですか?」


「ふむ、いただこう」



 カルダモンから差し出された餅を、フェンネルはそのまま口にする。自分の従人たちと、いい関係を築けているじゃないか。アルカネットやナツメグも、餅を取り分けたり飲み物の用意をしたり、甲斐甲斐しくフェンネルの世話をしているもんな。



「タイムちゃんはどれが好き?」


「うーん、どれも美味しいけど、好きなのはこれかな」


「あたしも、きな粉のお餅が好き」


「一緒だね」


「うん!」



 ローリエとタイムは、相変わらず仲良しだ。今日は屋敷でユズと勉強していたから、ローリエもメイド服姿。二人の猫耳メイド少女が仲良く語らう光景は、まさにパラダイス。おいユズ、盗撮はダメだぞ。


 こうして見ると、タイムもずいぶん明るくなったと思う。なにせチャービルにしっぽと耳を切られたせいで、なかなか男の上人(じょうじん)に対する苦手意識が抜けなかった。そうしたトラウマが薄れてきたのか、最近はフェンネルと風呂に入ることもあるらしい。


 買い出しの荷物を渡しに行ったとき、羨ましそうな顔でカルダモンが語ってくれた情報だ。別に十七歳だからって、遠慮する必要はないと思うがな。フェンネルのことが好きなら、お背中流しますとか言って乱入してやれよ。


 サーロイン家の激務に忙殺されていたせいで、フェンネルには浮いた話が一つもない。当主の俺がこんな感じだし、ニームだって上人と従人の関係には、一定の理解を示してくれている。障がいになりそうなのは、三十七歳という年の差か。夏にはゴナンクでバカンスを楽しむし、寒くなってきたら慰安旅行で温泉に連れて行ってやろう。まあ応援してるから頑張れ!



「餅つきってさ、雨の日も出来るから楽しいね! またやろうよ」


「せっかく臼と杵が完成したんだし、定期的に開催するか」


「この臼と杵、すごく良く出来てるっすね。まるで長年使い込んだみたいに、表面が整ってるっす」


「俺が大まかな形にして、あとはジャスミンの錬金術で仕上げてもらうんだ」


「大きな物は作れないんだけど、表面加工なら少しづつやればいいからね。タクトと一緒になにか作るのって、とても楽しいのよ」



 伸びる餅と格闘していたジャスミンが、俺を見ながら嬉しそうに微笑む。シトラスから言われて再認識するようになった、〝一緒〟というキーワード。こうして意識してみると、従人たちの心を動かしていたんだと実感できる。


 毎日の食事だけでなく、ちょっとしたイベントも積極的に開催しよう。そうすればコーサカ家は、もっともっと住みやすくなっていく。仲良く暮らす姿を街の住人に見せてやれば、俺や聖女(ラズベリー)の野望が叶うかもしれない。将来に向けた明確な目的もできたし、これからも従人の地位を上げるため邁進(まいしん)するぞ!


 そんな決意をしつつ、家族全員で餅つき大会を楽しんだ。


年末のゴタゴタで、1-2週の休載を挟むかもしれません。

その間、活動報告に登場人物の一覧を投稿できればと。

チェックしていただけると幸いです。


◇◆◇


大家族になった主人公たちは、二度目の夏をどう過ごすのか。

元実家サーロイン家との決着もつく第15章をお楽しみに!


まずは「0249話 頑張ったローリエにご褒美を」をお送りします。

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