0247話 未知のパワー
濁点と画面の汚れが区別できない、そんなお年頃です(ぇw
誤字報告ありがとうございました。
なんとか雨が降り出す前に、戻ってこられた。遠くのほうで雷鳴が聞こえるし、今夜も土砂降りになりそうだ。それにしても……おそろいの服を着ると、やはり一体感があっていい。シトラスの言っていた〝一緒〟が嬉しいんだろう。みんな上機嫌で歩いている。
そんな姿を眺めながら自宅を目指していたら、前方に見知った後ろ姿を発見。二人とも背筋がピンと伸びて、姿勢がいいよな。
「おーい、ニーム、ステビア」
二人がその場に立ち止まってくれたので、少し速度を上げて歩く。
「もうアインパエの方は片が付いたんですか?」
「お帰りなさいませ、タクト様」
「その様子だと、何があったか知ってるんだな」
「学園長先生に教えてもらいましたので。ですが指揮官程度に遅れを取るようじゃ、兄さんもまだまだですね」
「すまんなニーム。お前にも心配をかけた」
「しっ、心配なんかしてませんってば。いつも自信満々な兄さんが、無様に転がっている姿を見られなくて残念です」
「昨夜はずっと不安そうにされていて、寝ている間も私を離してくれなかったのですよ。至福のひとときを過ごさせていただきました」
「ちょっ、ステビア!? 兄さんの安否は確認できていましたから、不安だったんじゃありません。あれはたまたまです。たまたまあなたに甘えたかっただけなんですからね!」
頬を染めながらまくしたてる、ニームの頭に手を伸ばす。軽くナデナデしてやると、すぐに大人しくなった。
「まあこれは言い訳になるが、あいつらの軽率ぶりが度を超えていて、想像の斜め上を行かれてしまった」
「兄さんに危害を加えようとするなんて、愚劣の極致じゃないですか。アインパエが消滅しなくてよかったですよ、本当に……」
そんな事を言いながら、ニームが俺たちをじっと見る。怪我もしてないし、ピンピンしてるから大丈夫だぞ。心の負担を減らすためにも、あとで加護のことを話しておかねば。
「ところでシトラス。兄さんと何かありました?」
「えっ!? 急にどうしたのさ」
「スカートを履いていることもそうですけど、兄さんとの距離感がいつもと違いますよ」
鋭いな、ニームのやつ!
スイのときもだったが、女の勘ってやつか?
「なっ、なっ、なに言ってるのさ。せっかく作った服だから着ないともったいないし、すごく優しくしてもらったから少しだけ見直したくらいで、こいつとはそれ以上なにも無いったら。気のせいだよ、気のせい!」
「そうだぞ、ニーム。いつもと同じ、可愛いシトラスだ」
ワタワタする姿が愛おしすぎたので、抱きしめて頭を撫で回す。しっぽをフリフリ揺らしやがって、うい奴め。
「何があったかわかったので、もういいです。スイはまだしも、シトラスに先を越されてしまうなんて、ちょっと悔しいですね。私も大人になったことですし、そろそろ経験してみても……」
「ニーム様、宜しければこれで」
こらニーム、視線を下げるな。どこを見てやがる。
ステビアも自分のしっぽを差し出すんじゃない。何をしたいんだ、お前は。
「ミントも早くオトナになりたいのです」
「……私も、シたい」
「お二人が成人したときには、全員で旦那様と……」
おーいユーカリ、遠くを見ながらクネクネするのはやめろ。
「私は次のデートを楽しみにしてるわ」
「主殿よ我も忘れないでくれ」
「キューン」
みんな、程々で頼むぞ。
俺の体は一つしか無いんだからな。
「こらこら、往来でする話じゃないだろ。さっさと家へ戻ろう」
「それもそうですね。降り出す前に帰りましょう」
ちゃっかり俺の隣をキープしたニームを連れ、屋敷へ続く道を進む。しかしニームがどこかの男と、そういう関係になる姿とか想像できん。まあ半端なやつと付き合うとか言い出しても、俺は断固として首を縦に振らないが!
「なんかボクたちにとって最大のライバルは、実の妹な気がしてきたよ」
「よくわかってるじゃないですか、シトラス。私が認めた相手じゃないと、兄さんと付き合うことなんて許しません」
「お前は俺の保護者か!」
……人のことは言えんけどな。
「ニーム様的には、どんな方ならお許しになれるのです?」
「そうですねぇ……。兄さんのことをしっかり支えられて、わがままを受け入れられる器量があり、変態モフリストにも寛容で、ちゃんと叱れる人でしょうか」
「……すごく、難しい?」
「そんな事はありませんよ、シナモンさん。ニーム様の条件に該当するのは、わたくしたちですから」
「あなた達は七人揃って一人前なこと、忘れてはいけませんよ」
「妹君から更に認められるよう、もっと精進せねばならんな」
「キュキューイ!」
「なんだか将来は、八人になりそうな気がしてきたわ」
待て待てジャスミン、もう一人は誰だ。ニームか、それともユズなのか?
どちらも上人なんだぞ。大穴でクミンだったら、間違いなくマツリカに斬られる。滅多なことは言わないでくれよ。
どちらにせよ今の関係は、ニームの公認を得られているということ。身内に味方がいるのは、何より心強い。この子が妹で、しかも俺の籍に入ってくれて、本当に良かった。
◇◆◇
雑談しながら歩いていると、あっという間に屋敷へ到着。玄関を開けたらサントリナと手を繋いだフェンネルが待っていた。すっかり孫と祖父みたいな関係になりやがって。俺は嬉しいぞ。
「お帰りなさいませ、タクト様。買い出し、ありがとうごいました」
「ついでだったから問題ない。あとでアルカネットとカルダモンに渡しておく」
「おかえりなさいませ、タクトおとーさん。ニームさま」
駆け寄ってきたサントリナを抱き上げ、頬ずりをする。ピクピク動くうし耳が、顔に当たって気持ちいい。
「お疲れ様でした。ニーム様もご一緒だったのですね」
「帰り道で兄さんとばったり出会ったんです」
少し遅れて入ってきたニームが、フェンネルと挨拶を交わす。その時ローリエとユズ、そしてリコリスを抱いたラベンダーが玄関ホールにやってくる。一気に人口密度が増したな。
「お帰りなさい、ニーム様!」
「あー、うー、あー」
サントリナをユーカリに預け、こちらへ手を伸ばすリコリスを抱かせてもらう。あー、しっぽのモフモフ感が最高だ。乳幼児の毛というのは、細くてサラサラで究極無双! 向かうところ敵なし!!
「いつも申し訳ありません。タクト様の声を聞くと、この子がそちらへ行きたがるので」
「まったく問題ないぞ。むしろいつでも来てくれ。こうして慕ってもらえるのは、俺にとって一番の褒美だ。なー、リコリス」
「きゃっ、きゃっ、きゃっ」
俺の顔をペタペタ触りながらリコリスが微笑む。無邪気な笑顔に癒やされながら視線を横へ。
ニームに抱きつき、頭を撫でてもらっているローリエの方を見ていたら、いつの間にかユズが背後へ忍び寄ってきた。気配を消して近づくなよ、怖いだろ。
「可愛い、セーラー服、最高!」
「おっ、だいぶ話せるようになったな」
「リボン、幅広。袖、ワンポイントある。構造、ダブルボタン。タクトさん、ツボ、さすが、押さえまくり」
「……しまパン、どう?」
「ふおぉぉぉぉぉぉー。ネコ耳セーラー服っ娘のしまパン、キターーーーーっす!! 最高っす、ラブリーっす、目線こっちっす」
おいおい、興奮したら流暢に喋れるとかなんだよ。スマホのカメラを起動したユズが、写真を撮りまくる。床に寝そべろうとするんじゃない。お前はローアングラーなのか!
「わー、シナモンちゃん。人前でパンツ見せたらダメだよ」
「……ユズ、家族。だから平気。ローリエも、見ていい」
「シナモンたんが尊すぎて、生きるのが辛いっす」
よくわからんが、ちゃんと話せるようになったぞ。言葉の壁を超える力が、しまパンにあったとは……
「撮影は程々にしておけよ。それとローアングルは禁止だ」
「了解っす!」
「それはそうとユズのこと、ほとんどローリエに任せっきりになってしまったな」
「ユズ様と話すの楽しかったから、全然構わないよ。萌えとか推しとか、色々教えてもらったし」
ユズの奴め、ローリエを沼にハメようとしてるんじゃないだろうな。あいつのスマホに刺さってたカード、テラバイトの表示が出てたし……
一体なにを保存してるのやら。
「こんど俺から、個人的に礼をする。やってみたいこととか、欲しいものがあったら教えてくれ」
「なんでもいいの?」
「大抵のリクエストには答えてやるぞ」
「エッチなことは禁止ですよ!」
未成年に手を出したりせんわ!
もっと兄のことを信用しやがれ。
「じゃあ思いついたらタクト様に言うね」
「ああ、それでいい」
そうと決まればリビングへ行こう。興奮するユズを引きずり、全員で玄関ホールをあとにする。胸に抱いていたリコリスは、いつの間にか眠っていた。
次回で第14章が終了。
「0248話 餅つき大会」をお楽しみに。




