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無能として家から追放されると決めた転生者の俺は、モフモフたちと一緒に第三の人生をエンジョイする  作者: トミ井ミト(旧PN:十味飯 八甘)
0000 1110[第14章]コーサカハウスにようこそ

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0246話 特別なデート

誤字報告ありがとうございました。

メインキャラの名前をタイポするとは、なんたる不覚!

 黒のスキニーパンツを履き、白いシャツの上から濃紺のサマージャケットを、ラフに羽織る。軽く髪をセットしたあと、レッドブラウンのデッキシューズに履き替えて出発だ。


 デートらしく外で待ち合わせしているが、シトラスはどんな服を着てくるのだろう。モデル体型のあいつは、どんな服装でも似合うからな。昨夜から楽しみすぎて、まったく落ち着かん。今朝は危うく寝坊するところだったし……


 北方大陸(ほっぽうたいりく)特有の爽やかな風を浴びながら、待ち合わせ場所を目指して歩く。はやる気持ちを抑えながら進んでいくと、左拳を天に突き上げ「我が生涯に一片の悔い無し」、とでも言いたげな石像が見えてくる。


 ここが待ち合わせで有名な、リンベル広場か。ベンチにカップルが座っていたり、着飾った上人(じょうじん)たちが、そこかしこに立っている。


 ……って、あそこの集団はなんだ?

 不審に思って近づくと、金色のイヤーカフをつけたケモミミが目に飛び込む。これだけ注目を浴びるなんて、さすが俺のシトラス!


 彼女が身に着けているのは、袖の短い白いブラウス。ゆったりしたサイズで、エンジェル・スリーブになっているのが可愛らしい。そしてヒザ下まで隠れる、涼し気な淡い水色のフレアスカート。履物は厚底の黒いベルトサンダルか。


 従人(じゅうじん)がこんな格好で立っていたら、そりゃ人だかりも出来るわ。ほら、散れ散れ。その子は俺の大切な彼女だぞ。



「おーいシトラス。待たせたな」


「ううん。ボクもいま来たとこだから」



 これこれ、これだよ!

 まさかシトラスとのデートで、定番セリフを聞くことが出来るとは。俺は今、猛烈に感動している!!


 群がっている男どもをかき分けながら進み、やっとシトラスの前に到着。周囲から舌打ちや、落胆の声が聞こえてきた。しかし俺が振り返ると、蜘蛛の子を散らすように離れていく。



「よく似合ってるな。可愛いよ」


「スコヴィル家で使ってた服を、アンゼリカさんが貸してくれたんだ。衣装部屋ってところに連れて行かれたときは不安だったけど、キミにそう言ってもらえて良かった」


「あれだけ注目されてたんだ。もっと自信を持っていいぞ」


「ボクが認めてるのはキミだけなんだから、他人の評価なんてどうでもいいよ」



 くっそ、シトラスのやつめ、ぐっと来ることを言いやがって。俺を萌え殺す気かっ!



「大体さ。こうしてチョーカーをつけてるのに、一緒に来たらいい思いさせてやるとか、失礼だよね。この格好じゃなかったら、蹴り倒してたとこだよ」


「まあ今日一日デートすれば、そんな連中は寄ってこなくなるだろ」


「そう言えばさっきも、一目散に逃げていったね」


「昨日、駐屯地で派手にやらかしたことが、かなり広まってるみたいでな。みんなは術のことを知らないから、全て俺がやったことになってるらしい。しかもカラミンサ婆さんの孫という、おまけ付きだ。あんな反応になっても仕方ないと思うぞ」


「それに目つきも悪いしね!」



 うんうん。やはりこういう会話は楽しい。()衣着(きぬき)せぬ言葉遣いはニームと同じだが、シトラスの場合は心が浮き立つ。きっと惚れた相手だからだな。



「とりあえず今からどうする? 行きたい所があったら言ってくれ」


「う~ん……ドアッガの街ってまだよくわからないし、あちこちぶらついてみようよ」


「よし、買い食いでもしながら歩くか」


「うん!」



 手を差し伸べると、ためらうことなく握り返してきた。そのまま恋人繋ぎをして、街へ繰り出す。



「そういえばさ。皇居にあった肖像画とここの石像って、ずいぶん印象が違うね」


「肖像画の方は、少し美化してるみたいだ。スイの話や書物から感じる印象だと、こっちのほうが本人に近いかもしれないな」


「腕もそうだけど、胸やお腹の筋肉がすごいよね。でも、どうして上半身が裸なんだろう?」


「恋のライバルだった義弟と、すべてを出し切る死闘ができて、満足してる状態だからじゃないか?」


「またキミはわけの分からないことを……」



 くだらない話で盛り上がりながら、気になる店へ入ったり屋台で軽食を買う。そしてお互いの食べ物を交換したり、路上でやっている大道芸を楽しむ。



「今日はいつもより視点が高いから、見やすくていいや」


「歩きにくくないか?」


「もう慣れたから平気。スカートはまだ違和感があるけどね」



 厚底サンダルのおかげで、シトラスの顔がほぼ真横に来る。今の身長差は五センチ程度だろうか。これくらいだと立ったままキスがし易いな、なんて考えが頭の片隅に浮かぶ。いやいや、焦りは禁物だぞ、俺。


 (よこしま)な気持ちを鎮めるべく、思いついた言葉を紡ぐ。



「出会った頃はあれだけ嫌がってたのに、よくスカートを履く気になったな」


「前に温泉で口を滑らせたの、もう忘れたの? シナモンにスケッチを見せてもらったけど、セーラー服とかいうのを作ってるんでしょ。無理やり着せようとか(たくら)んでるくせに」


「そういえば、そんな事もあったな」


「嫌がったり恥ずかしがったりするボクを見たかったんだろうけど、残念だったね。まんまとキミの楽しみを奪ってあげたよ」


「シトラスは本当に、なにを着ても似合うよな」


「また調子のいいこと言って……」



 ふっふっふっ。嘘の付けないしっぽが、ユラユラ揺れてるのだが?



「今日のデートは一生忘れられない思い出になりそうだ」


「キミに喜んでもらおうと思って選んだんだから、せいぜい感謝してよね」



 あー、ちくちょう。頬を染めながらはにかむシトラスが、可愛すぎてつらい!

 ついに我慢できなくなり、背後からギュッと抱きつく。



「まったくもー、人前で急に抱きつかないでったら」



 周りの観客が何事かとこちらを見るが、無視だ無視。俺たちはそのままの姿勢で大道芸を眺める。今の俺は、とんでもなくだらしない顔をしてるだろう。そんな姿をシトラスには見せられん。



◇◆◇



 散策デートを存分に楽しみ、海の見える丘までやってきた。ベルガモットたちが穴場スポットだと、言っていただけはある。俺たちの他には誰もいない。


 大きな木の根元にレジャーシートを広げ、マジックバッグから弁当を取り出す。わっさわっさと揺れるシトラスのしっぽを愛でつつ、電子レンジ魔法でおしぼりを加熱。スープを温め直したら完成だ。



「よし、食べるか」


「やったー! いただきまーす」



 目をキラキラさせたシトラスが、耐油紙に包まれた物体へ手を伸ばす。作ってる途中から気にしていたし、やっぱりそれからか。



「焼き肉ライスバーガー、おいひー! タツタアゲもさいこー!!」


「こっちは新作だぞ、食ってみろ」


「この串に刺さってるのってなに? お肉じゃなかったんだけど」


「それは白身魚のすり身に、野菜やハチワン(タコ)を混ぜて、油で揚げてある。前世ではさつま揚げと呼ばれていた」


「丸い方は中にご飯が入ってるんだ。すごく味が染みてるし、色々入ってて美味しいね!」


「そっちは昨日から仕込んでいた料理で、イカ飯という。今回は二種類の水麦(みずむぎ)に、たけのこ・油揚げ・黒茸(しいたけ)赤根(にんじん)黒根(ごぼう)を加え、五目ごはんにしてみた」


「これ、ボク好きかも。そこの全部もらっていい?」


「二杯持ってきたから、遠慮なく食え」



 さつま揚げをぺろりと平らげ、イカ飯を次々と口に運ぶ。相変わらず気持ちのいい食べっぷりだな。そんな姿を見ているだけで、俺は幸せになれる。



「あのさ……そんなふうに見つめられると、食べづらいんだけど」


「すまん、すまん。シトラスはいつも旨そうに食うなと思って、つい」


「だって美味しいんだから、仕方ないじゃんか。やっぱり今日は、お弁当にしてもらって正解だったよ。お店じゃこんな料理、絶対に食べられないもん」



 ドアッガにも従人同伴で入れる店はあるが、弁当はシトラスからリクエストされた。まあ(かしこ)まった店じゃ息も詰まるし、頑張って作ってきた甲斐があるってものだ。



「これからはもっと旨いものが作れるようになる。期待しておくといい」


ミリン(味醂)コメズ(米酢)チョウリシュ(調理酒)だっけ? ユズが作ってくれるんだよね」


「彼女に発現した神酒(ソーマ)ってギフトは、発酵に必要な麹菌(こうじきん)を生み出せるそうだ。秋くらいになれば、試作品がいくつか出来上がるとか言ってたな」


「へー、楽しみだなぁ」


「ってシトラス。頬に米粒が付いてるぞ」


「えっ!? どこどこ?」


「俺が取ってやるから、じっとしてろ」


「うん」



 シトラスの顔に手を伸ばし、頬についていた米粒をつまむ。それをそのまま自分の口へ。少し驚かれてしまったが、こういうのも恋人同士っぽくていいよな!


 軽くイチャコラしつつ食事も終了。デザートとほうじ茶で一息つく。



「んー、風が気持ちいい。シトラスも横になったらどうだ?」


「ボクは疲れてないし、このままでいいや。それよっか、お弁当のお礼に膝枕してあげるよ」


「ほんとか!? ぜひ頼む」



 横座りしたシトラスの足に頭を乗せる。優しく髪を撫でてくれる手が、とても気持ちいい。この瞬間がいつまでも続けばいいのに。そう思ってしまうほど穏やかな時間だ。



「あのさ……このあと、行くんだよね?」


「そのつもりにしているが、今日はデートだけでも十分だと思ってるぞ」


「それはヤダ。昨日のことで、キミの存在がボクにとってどういうものか、わかっちゃったんだもん。逆にキミはボクのこと、どう思ってるの?」


「俺の人生で最も幸運だったことを挙げるとすれば……シトラス、間違いなくお前との出会いだ。あの日の出来事がなかったら、俺はまだジマハーリでくすぶっていたかもしれない。それに今日デートしてみて実感した。俺はシトラスに惚れている。誰にも渡したくないし、全て自分のものにしたい」


「それはボクも同じだよ。だからね……して」



 シトラスの顔が、俺にゆっくり近づいてくる。少しだけ見つめ合ったあと、そっと口づけを交わす。軽く余韻に浸ってから起き上がり、シトラスと腕を組んで繁華街へ。


 こんなに愛してもらえるなんて、俺はなんて幸せ者なんだろう。生まれ変わることができて、本当に良かった。


とあるアイテムに秘められた力とは?

次回「0247話 未知のパワー」をお楽しみに!

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