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無能として家から追放されると決めた転生者の俺は、モフモフたちと一緒に第三の人生をエンジョイする  作者: トミ井ミト(旧PN:十味飯 八甘)
0000 1110[第14章]コーサカハウスにようこそ

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0239話 脱いだら凄いんです

 家族の紹介と屋敷の案内を終わらせたあと、ユズにはひとっ風呂浴びてもらう。身内を失ったあとの気力消失で、生活リズムや身だしなみが残念のことになっていたからな。せっかく一歩踏み出そうとしているんだ。まずは見た目から変えていけば、大きな原動力になるはず。


 しかし……芋ジャージを脱ぎ、黒縁(くろぶち)のメガネを外すだけでも、ずいぶん印象が変わる。これほどのスペックを持ちながら、どうして自己評価が低いのだろうか。



「〔視界がボヤッとしてて不安っす〕」


「〔少しだけ我慢してくれ。枝毛の処理とスキンケアが終わったら、近視の治療をやってみる〕」


「〔うー……目が良くなるのは嬉しいっすから、我慢するっす〕」



 ブラシを丁寧に通しつつ、遠赤外線ドライヤー魔法を発動。毛先を整えながら、暗い印象になってしまっている前髪を、清涼感の出る長さにカットしてしまう。みんなの髪をいじっているおかげで、俺も上達したものだ。


 魔法でやると切った髪が散らからないし、細かな調整も容易(たやす)い。そしてヘアセットまで並行して出来てしまうからな。まったく生活魔法は便利すぎるぜ。



「〔痒いところはございませんか?〕」


「〔なんかその口調、すごく似合ってないっすよ〕」


「〔まあ日本語以外では、まず口にしない言葉遣いだな〕」


「〔でも魔法で乾燥やヘアカットとか、タクトさんって器用っすよね〕」


「〔こういう細かな作業は得意でな。最近は妹にまで散髪を頼まれるようになった〕」



 まったくニームのやつ、俺を便利に使いすぎだろ。召使いや従者みたいに、思ってるんじゃないだろうな?



「〔妹さんって、いつ帰ってくるっすか?〕」


「〔雨の多い時期は短縮授業になるから、昼過ぎには戻ってくるはずだ〕」


「〔会えるのが楽しみっすよ。タクトさんがこんな感じっすから、きっと美人さんに違いないっす〕」



 歴代皇族の姿絵とか見せてもらったが、俺の容姿はそっちの遺伝だ。サーロイン家の血筋は、もっと濃い目の顔つきになる。元実家にいたエゴマの妻たちも同系統だし、実の姉であるクレソン・サーロインもそうだった。しかしニームはスッキリした顔立ちの美人なんだよな。


 あの母親のことだから、もしかして……


 いやいや、変な考えはやめよう。仮にそれが事実だったら、今までの軽口が現実のものになりかねん。



「〔とりあえず治癒術をかけてみようと思う。覚悟はいいか?〕」


「〔失敗したら黄泉(よみ)の国を彷徨うとか無いっすよね!?〕」


「〔ミントの力は、本来あるべき状態へ巻き戻すものだから、心配しなくてもいいぞ〕」


「〔じゃあ、お願いするっす〕」



 視力が衰えたのは高校に入ってからとか言ってたしな。数年前に発症したものなら、ミント一人でも治癒が可能だ。


 ユーカリにスキンケアとナチュラルメイクをしてもらい、ミントの治癒術を試してみる。

 うさ耳をふにふにとモフったあと、マジックバッグから取り出した手鏡をユズに渡す。



「〔ちゃんと見えるようになったか?〕」


「〔タ、タクトさん大変っす! 目の前に見たことない美少女がいるっすよ!?〕」


「〔問題なく回復したようだな〕」


「〔……そこは「誰が美少女やねーん!!」とか、ツッコミを入れて欲しかったっす〕」


「〔そんな期待を俺にするなよ。前世はなにわのお笑い芸人じゃないんだぞ〕」


「〔そうだったんっすか。登場するたびテルルちゃんにオシオキされてた、異世界転生ジャージアイドル・流転のミミルが関西弁でキレまくってたから、コータさんはそっちの出身だと思ってたっす〕」



 情報量の多いアイドルシリーズが、本当に好きだったんだな。ミミルを描いたのは、それほど多くなかったのに。



「〔ネットには優秀な方言変換サイトがあるから、それのおかげだ〕」


「〔とにかく、これだけクリアに見えたのは、生まれて初めてかもしれないっす。でもここに映ってるのって、本当に自分なんっすよね? 魔法が存在する世界っすから、自分の理想を映し出す鏡とか……〕」


「〔そんな訳あるか! 心配しなくても、全員にその姿で見えている〕」


「〔タクトさんから見て自分はどうっすか?〕」


「〔絶対に街へ一人で出るなよ。近くに学校があるから、若い男に声をかけられまくるぞ〕」



 この世界でもアジア系の顔つきは、幼い印象を与えてしまう。今のユズならニームと同い年くらいに見られるかも……


 なにせファンだった絵師が転生していたと知り、テンションは爆上がり中。涼し気なワンピースと、綺麗にセットされた髪。瑞々しく輝く唇や、目元ぱっちりに仕上がったメイク。それらが総合的に影響しあい、彼女の印象を大きく変えてしまった。



「〔自分がナンパされる姿なんて、想像できないっすよ〕」


「〔まあしばらくは言葉の習得と、ここでの生活に慣れることを、最優先にしてくれ。余裕があれば味噌や日本酒づくりに、挑戦してくれてもいい〕」


「〔免許や届け出なしにお酒が作れるとか、なんか凄いっすね〕」


「〔自家醸造を禁止してる国って、確か日本くらいだっただろ〕」


「〔一から酒造りを始めようと思ったら、ものすごく面倒臭いんっすよ。だから許可無しで作れるのは、めっちゃ嬉しいっす〕」



 ひとまずユズもかなり落ち着いてきたようだし、昼飯の準備を始めるか。せっかくだからここは、和懐石みたいなメニューにしてやろう。アインパエで仕入れた新鮮な食材を、ふんだんに使ってやるぞ。楽しみにしておけ。



◇◆◇



 意思疎通用のカードを追加したり、錬金術で作ったリング付きの単語帳に二ヶ国語を書き込んでいたら、ニームたちが帰ってきた。どうやら先に着替えてくるようだ。外の雨はかなり激しいからな。シマエナガたちも、今日はずっと家の中にいる。霊木が安定して、数日離れても大丈夫になったんだし、今夜はここに泊まっていけよ。



「〔なんか梅雨末期(つゆまっき)の雨みたいっすね〕」


「〔雨季のある地域だと聞いていたが、俺もこんな警報級の豪雨は初めての経験だ〕」


「〔こんな天気っすけど、この家にいると落ち着くっす。床が畳じゃないこと以外は、日本にいるみたいっすよ〕」


「〔快適に過ごせているなら良かった。食事に関しては不自由させないことを保証するからな〕」


「〔タクトさんに引き取ってもらえて、自分は本当に幸運っす。あんな豪華で美味しい料理、日本でもなかなか食べられないっすからね〕」



 なにせパインとマンダリンも、料理の腕がメキメキ上達してきた。すでに俺と同レベルなユーカリの四人でやれば、手の込んだ料理だって作り放題だ。



「〔魚介類の生食は安全面で難しいが、それ以外で食べたいものがあればリクエストを聞くぞ。みりんが完成したら、更に完璧な日本食も作れるだろうしな〕」


「〔それじゃあ、まずは米焼酎に挑戦してみるっす。みりんを作るには、もち米と醸造用のアルコールが必要っすから〕」



 ユズから必要な設備や、作業しやすい環境について聞き出す。味噌はある程度の温度が必要になるのか。夏場の気温が二十五度以上になるワカイネトコの方が、北方大陸(ほっぽうたいりく)より発酵しやすいみたいだ。熟成させておく場所も必要になるし、やはり酒蔵を建てよう。


 膝の上で昼寝しているサントリナを愛でながら、細かいやり取りを重ねていく。しばらくするとニームたちがリビングへ入ってきた。



「〔うわっ! すっごいキレイな子じゃないっすか。化粧品のコマーシャルに出てくるモデルさんみたいっす〕」


「すごくキレイな人だって言ってるよ。良かったね、ニーム様」


「ひとまず自己紹介しましょうか。頼みましたよ、ローリエ」


「〔えーっと、始めましてユズ様。あたしの名前はローリエ。こちらの方が契約主のニーム様で、もう一人は従人(じゅうじん)のステビアお姉ちゃんです〕」


「〔ふぇっ!? なんでこの子、日本語が話せるっすか。もしかしてタクトさんと同じ転生者?〕」


「〔ローリエは現地人だぞ。話せるのが俺だけでは困ると思って、日本語をマスターしてもらった。スラングなんかの特殊な単語はわからないが、日常会話くらいなら問題なく理解できる。困った時は俺かローリエを頼ってくれ〕」


「〔うひゃー、まだ子供なのに凄いっすね。ローリエちゃんみたいな可愛いネコ耳少女と会話ができるとか、嬉しすぎるっすよ〕」


「〔えへへっ。可愛いって言ってくれて、ありがとう〕」



 くっそ……俺の時とは違って、感激しまくりやがって!

 まあ、その気持ちすごく理解できるぞ。異世界転移した直後に現地人と出会い、何の問題もなく意思疎通ができるなんて、お約束の特典がなかったんだからな。ユズにしてみれば、喜びもひとしおだろう。しかも相手がファンタジーなケモミミ娘なのだし。



「あー、そうだ。ニームに話がある」


「どうしたんです? 兄さん。ローリエはしばらく預けますから、気にしなくても構いませんよ」


「ローリエのことは感謝してる。それとは別件で、味噌の量産に目処がたった」


「凄いじゃないですか! もしかすると、ユズさんのおかげ?」


「ああ、彼女は凄い。味噌だけでなく、俺の欲しかった調味料や、嗜好品まで作ることができるらしい」



 ユズに発現した[神酒(ソーマ)]というギフトについて。みりんや調理酒がいかに重要か、ニームに説明する。そしてユズのために酒蔵を建てることも。


 って、なんで機嫌が悪くなるんだよ。これは必要な投資なんだぞ。



「兄さんの前世と同じ世界から来たからといって、負けませんからね!」


「一体お前は何と戦ってるんだ……」



 まあニームの性格からして、これが原因でユズと敵対したりはしないはず。彼女を歓迎してるのは、言葉の端々からにじみ出てるのだから。なにせ今やニームも、味噌なしでは生きられない体!


 朝の味噌汁から始まり、野菜炒めや味噌漬け肉。ここ最近は毎日なにかしらの形で、味噌を口にしている。そんな食材が無限に手に入るとなれば、ユズに悪感情を持つとかありえない。


 しかし、なんだ。俺に特別な感情を持ってくれているのは、少し嬉しいぞ。直接問いただしても、絶対に認めないだろうが。


あの人もこの人も。

有名人が続々登場!


次回「0240話 千客万来」をお楽しみに。

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