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無能として家から追放されると決めた転生者の俺は、モフモフたちと一緒に第三の人生をエンジョイする  作者: トミ井ミト(旧PN:十味飯 八甘)
0000 1110[第14章]コーサカハウスにようこそ

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0236話 TKG

 コッコ(ちょう)より二回りほど小さい、ガーガー(ちょう)の卵をトレイに並べる。サイズは鶏卵(けいらん)に近く、殻は赤茶色。濃厚な風味が特徴らしいので、今日の朝食と相性がいい。



「朝イチで生産者に掛け合ってくれて助かったよ」


「生食するならこっちのほうが安全だし、ちょうど産卵期でな。お前の話を聞いて、これしか無いと思ったんだ」



 やはり食材の知識では、イノンドさんに敵わないな。まさかこんなレア卵を仕入れてくれるなんて、思ってなかった。旨いだし醤油も完成したので、最高の朝食を提供できる。



「よう! おはようさんぜよ」


「よく来たな。すぐ食事にするから、中で待っていてくれ」


「ペッパー様がこの時間に来るなんて、珍しいですね。一体どうされたんですか?」


「タクトと約束したからぜよ。昨日の件で聞きたいこともあるき、楽しみにしちゅーたがじゃ」


「どれくらい解析が進んだのか、俺も知りたかったんだ。食事が終わったらゆっくり話そう」



 ペッパーが食堂へ入っていくと、部屋の中がどよめく。きっと昨日の女子会で、アイツの話題が上がったからだろう。珍しくニームも嫌っている感じではなかったし、二人の行く末が少し楽しみだ。ペッパーなら才人(さいじん)(しがらみ)と無縁だし、なんだかんだで良い相手なのかもしれん。まあニームの気持ちもあるから、俺が口を出すことじゃない。生暖かく見守ることにしよう。


 さて準備は整ったが、クローブは来るのだろうか。そんな事を考えていたら、廊下の角からフラフラと歩いてくる人影。朝から満身創痍とか、体力なさすぎだろ。もっとシャキッとしろよ。



「約束通り来てやったぞ、早く食べさせてくれ。朝っぱらから運動した僕のライフは、もうゼロだ」


「すぐ食べられるからしっかりしろ。ほら、俺の肩に掴まれ」


「なあタクト、その子は誰だ?」


「いつもイノンドさんが部屋の前に食事を置いてるんだろ? そこの主がこいつだ」


「クローブ様だったのか!? 今日は何の記念日だよ。スコヴィル家が全員揃うとか初めてだぞ」



 せっかくここまでたどり着いたのだから、とにかく中へ連れて行かねば。

 驚くイノンドさんを横目で見つつ、今にも倒れそうなクローブを食堂へ運ぶ。



「タクトよ、そやつは誰なのじゃ?」


「初めて会うかもしれんが、お前の兄だぞ」


「にゃ、にゃ、にゃ……にゃんでクロくんまで来てるにゃ!? 一体なにがおきてるにゃぁぁぁーーーっ!」



 ペッパーは特に驚いてないが、アンゼリカさんたちは唖然としてるな。十年以上まともに会ってないはずだし、仕方あるまい。事前に相談しなかったのは許してくれ。俺も本当に来るのか、確信が持てなかったし……


 まあサプライズってことで勘弁してもらおう。


 温泉で聞いた話によれば、ナスタチウムは六歳年上なので、幼い頃のクローブをよく覚えているらしい。二歳年上のラムズイヤーは、記憶が曖昧とか言ってたっけ。そして四歳年下のベルガモットとは初顔合わせだ。



「今日の朝食はクローブのリクエストで用意した。少し変わった食べ方だが、味は保証する」


「ここにある材料で〝ティー・ケー・ジー〟が作れるのか?」


「その答えは目の前にある。旧世紀のローカル言語は習得してるよな?」


「当たり前だろ。僕を誰だと思ってる」


「じゃあ俺が今から聞かせる発音を、ローマ字に変換してみるといい」



 さすがアルファベットの発音が、しっかりしてるだけある。ローマ字もばっちりマスターしていた。もし日本語が話せるなら、ユズの教育に協力してくれないだろうか。そうすれば俺が楽できるのに!



「そうか、そういうことだったのか! 〝タマゴ(Tamago)カケ(Kake)ゴハン(Gohan)〟の頭文字を取ってティー・ケー・ジーなんだな」


「クローブちゃんとタクトちゃん、不思議な言葉を話してるの」


「理解不能な……発音れす」


「ペッパー兄上殿やクローブ兄上殿と話が合うタクトは、やっぱり凄いのじゃ」


「今から作り方を教える。各自やってみてくれ」



 炊きたての(めし)を丼に盛り、ガーガー(ちょう)の卵とだし醤油を投入。軽くかき混ぜると完成だ。白身とだし醤油で混ぜごはんを作り、上に黄身を乗せて崩しながら食べる方法。醤油をかけた飯に、溶き卵を混ぜる方法とか色々あるが、最初はシンプルなのでいいだろう。


 ……ってサフランのやつ、相変わらずお代わりが速いな。飽和脂肪酸の摂り過ぎになるから、二杯までにしておけよ。



「こりゃ美味いぜよ! 簡単に作れるき、忙しいときにピッタリや」


「確か完全栄養食とか資料に残っていたな。食べやすいし、明日からこれだけにするか」



 待て待て。たしかに完全栄養食と呼ばれているが、ビタミンCや食物繊維が足りないぞ。そもそも、この世界の卵も同じなのか不明だ。その辺のバランスがしっかり考えられてる、イノンドさんの料理を食べておけ。



「美味しい……美味しいにゃぁぁ……。……ぐすっ……家族みんなで食事ができて……幸せにゃ」


「感動する気持ちはわかるが、泣き止んでくれ。メシが塩辛くなるぞ」



 最近のアンゼリカさんは、本当に涙もろいな。新品の布巾(ふきん)を差し出すと、潤んだ瞳でこっちをじっと見てきた。あー、はいはい、わかったよ。



「さっそく甘えてるの」


「お母さん……策士れす」


(わらわ)は今夜まで取っておくのじゃ」



 昨日の女子会で、なにか取り決めでもしてたのか?

 そういえば今朝のニームも、やたら俺に絡んできたっけ。まあ彼女たちなら、変なことなどしまい。成り行き任せでいいな。



「あの人も出来なかったことをやっちゃうにゃんて、やっぱりタッくんは自慢の息子にゃ」


「おっ、母ちゃんの子供になるがか? ニームも一緒に誘うといいぜよ」


「俺はコーサカ家の当主なんだ。他家の養子になるわけにはいかん。それにニームも、簡単にコーサカ家を捨てたりしないと思うぞ」



 親子揃って気に入った者を見境なく取り込もうとするなよ。

 スコヴィル家というのは、そうやって発展してきたのだろうか。


 その点は優秀な血を取り入れようという、スタイーン国の才人(さいじん)と似た部分がある。しかし嫌悪感はないな。きっと俺たちの人となりを、気に入ってくれているからだろう。



「ちょっと質問がある。いいか?」


「どうしたクローブ」


「ナスタチウム姉貴が米を食べてるけど、大丈夫なんだよな」


「すでに病としては絶滅していたと思うが、ナスタチウムは小麦アレルギーだ。その病気に関わる特定タンパク質は、米に含まれていない」


「あー、なるほど。いくら調べてもわからなかったわけだ。アレルギーなんて、僕が思いつくわけ無い」



 肉体を捨てた人類に、アレルギーが存在しないのは必然。それなのに彼女のことを気にかけていたのは、もしかして……



「ならラムズイヤー姉貴の失語症は?」


「表に出てこない割には、詳しいじゃないか」


「僕にだって独自の情報網くらいある。馬鹿にするな」


(けな)してるわけじゃなく、逆に感心してる。クローブとは仲良く出来そうだよ」


「おっ、お前と仲良くするために、調べてたんじゃないからな。それより質問に答えてくれよ」



 まったく、このツンデレさんめ!

 こうして家族を気にかけるのは、タンジェリンさんの影響だろう。本当にいい子どもたちを(のこ)していったな。



「ラムズイヤーは旧時代のスキルで完治している。太古の従人たちが持っていた力については、碧御倉(へきみくら)にも資料が残ってると思う」


「それは僕も知ってる。復活させる方法までは、わからなかったけどね」


「かなり長い話になるから、ここで全てを語るのは無理だ。続きは食後にしよう」


「わかったよ。じゃあ、もう一つの問題は?」


「そっちは今のところ緩和策だけしかない。こうした事例が生まれるルーツを探るべく、皇家の歴史を調べてるところだ」


「ふーん……」



 ただの引きこもりかと思ったら、家族の体質をこんなに心配していたとは。碧御倉に現れた理由も、手がかりを探していたからに違いない。



「もし良かったら協力してくれ。あそこの書物は雑多すぎて、時間がかかりそうなんだ」


「なんで僕が手伝わないといけないんだよ」


「気になる食べ物があるなら再現してやるぞ。それでどうだ」


「うーん……それなら〝オクトパスボール〟とかいったかな。それを作れるか?」


「ああ、たこ焼きだな。本家とは少し異なるが、ナスタチウムも食べられる材料で作ってやろう」


「もうひとつ〝ワタシノオイナリサン〟ってのも頼む」



 どんな伝わり方してるんだよ、未来の人類!

 豆腐があるから、油揚げは自作できる。せっかくのリクエストだし、挑戦してみるか。



「タッくんがクロくんと普通に話してるにゃ」


「クローブばっかり、ずるいぜよ。ワイとの約束も、守ってくれや」


「そうだな、食後に三人で男子会をするか」



 面倒くさがるクローブをなだめすかし、三人で集まることにした。ペッパーになら前世のことを打ち明けても大丈夫だろう。俺たち三人だけだったら、気兼ねなく話ができるはず。


 ソロで冒険者活動してるから、男の仲間がいないんだよな。親しい友人や知人は、全員が遥かに歳上だし。この機会に同年代との交流を図るとするか。


フオオオオオオオオッ!!


◇◆◇


次回、おや? 皇帝の姿が……

「0237話 タクトの計画」をお楽しみに。

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― 新着の感想 ―
・・・クローブと会話してればペッパーの研究ってもっと早く進んでたんじゃ?
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