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無能として家から追放されると決めた転生者の俺は、モフモフたちと一緒に第三の人生をエンジョイする  作者: トミ井ミト(旧PN:十味飯 八甘)
0000 1110[第14章]コーサカハウスにようこそ

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0235話 女子会

100年間違えていたので、0234話の中節にある「二十世紀初頭」を「二十一世紀初頭」に修正しています。ご指摘ありがとうございました。

卵かけご飯が生まれたのは明治時代と言われていますが、TKGと言われるようになったのは2000年代ですね。(江戸時代のメニューに生卵丼が記載されていたという資料もあるみたいですが……)

 浴衣に着替えた女性たちが、青の御所にある寝室へ集まる。そこにあるベッドは、タクトが持っているものより一回り小さいとはいえ、二十人近くが楽々と横になれる大きさだ。



「アンゼリカお母さんは、毎日このベッドで寝てるんですか?」


「これは満月の夜に使うベッドにゃ。さすがにこのサイズを一人で使うのは、大きすぎて落ち着かにゃいからね」


「明日はこれを露草の館(つゆくさのやかた)へ持ち込んで、タクトと一緒に寝るのじゃ。ニーム姉上殿も来るじゃろ?」


「そうですね。兄さんが過ちを犯さないよう、近くで見張ることにします」


「タクト様と一緒に寝るのは初めてだね、ステビアお姉ちゃん」


「ニーム様の貞操は、私がお守りします」



 巨大ベッドの利用シーンをアンゼリカから説明され、ニームはなるほどと納得した。特殊な体質を持っているベルガモットはまだしも、どうして()()()がスコヴィル家の者たちに、家族以上の親愛を向けているのか……


 なにせ身内になったフェンネルやクミンにも、見せたことのない顔をしていたのだから。



「それじゃあ……スコヴィル家とコーサカ家合同、第一回女子会の開催を宣言するにゃ!」


「ホォーーーウ!」


「パチパチパチなの」


「ワクワク……れす」


「楽しみなのじゃ」



 アンゼリカの開会宣言を合図に、全員がベッドの上で輪になって座る。小麦アレルギーのため、学園に通えなかったナスタチウム。失語症という負い目があり、友達の少ないラムズイヤー。満月の夜に姿が変わる体質を持ったせいで、人と深く関わることを恐れていたベルガモット。


 この三人が他家の人物と女子会をするのは初めてだ。期待に満ち満ちた顔で、両手を打ち鳴らす。実はニームもこうした催しは初体験で、内心ウキウキとしていた。



「最初のお題はペーくんのことにゃ。ニームちゃんから見て、あの子の印象ってどうだった?」


「思っていたより常識的な人でしたね。まあ、兄さんと話が合うという時点で、普通じゃないですが……」


「タクト様はペッパー様の履いていた靴に、とても興味を示しておいででした」


「高いところから飛び降りても大丈夫なんて凄い靴だと思うんだけど、失敗作とか言ってたよね。なんでだろ」



 タクトほどではなもののステビアとローリエも、ジェットブーツを欲しいと思っていたりする。ニームを守るため、機動力を上げたいステビア。シナモンのように、高い場所から飛び降りてみたいローリエ。二人の理由はそんな感じだ。



「お兄ちゃんは、あれで空を飛びたかったみたいなの。だから失敗って言ってると思うの」


「崖から飛び降りて……海に墜落したれす」


「しかも海中で爆発して、ものすごい水柱ができたのじゃ」


「それでよく無事でしたね」


「ペーくんってやたら運が良いにゃ。近くで魔道具が爆発しても、怪我したことが一度もないくらいにゃ」



 加えてアンゼリカは軽微な物的被害しか出ていないことを、ニームたちに話す。だから学園では恒常イベントとして定着し、生徒たちが食事券をかけて盛り上がっているのである。



「今日のパンジャンドラムだっけ、あれはさすがに危なかったと思うな。生徒が()かれそうになってたし」


「爆発しなくてホッとしたのです」


「旦那様とニーム様が、阻止してくださいました」


「タクトと話が合うくらいだから、技術力はあると思うのよね。どうして爆発するのかしら」


「……あるじ様、血筋って言ってた」


「さっきニームちゃんが言った通り、普通にしてたら常識的な子にゃ。でも魔道具が絡むと残念な子になってしまうにゃ。そんな性格だからノリと勢いで変な機能を付けて、爆発させちゃうにゃ」


「子供の頃は皇居にあった備品を分解して、よく怒られてたの」


「ご飯を忘れるくらい没頭して……倒れたこともあるれす」


「学園では定期的に講師として呼び出されるゆえ、そうした事故が起きにくいのじゃ」


「アンゼリカお母さんの旦那さんも、そうやってなにかに打ち込むタイプだったんですか?」


「男性の皇族って、特定のことに偏っちゃう人が多いにゃ。タンジェリンの場合は、タッくんのお母さんだったにゃ。そしてペーくんは魔道具、クロくんは知識欲かにゃ。夜ににゃったらこっそり宝物庫へ行ってるみたいだし」



 アンゼリカから語られる数々のエピソード。この場に女性しかいないこともあり、一癖も二癖もある男性皇族の性癖が、次々暴露されていく。



「血縁というのは面白いものであるな。(われ)も子孫を残してみたいものだ」


「キュキューイ」


「兄さんのケモミミやしっぽに対する執着心。そして妹離れできないところなんて、そっくりかもしれません」


「だから、そんなペーくんが異性に興味を示すなんて、大事件にゃ!」


「詳しく聞かせてほしいの!」


「興味津々……れす!」


「もしペッパー兄上殿がニーム姉上殿を射止めたら、マノイワート学園は大騒ぎになるのじゃ!」



 グイグイくる四人の姿に、ニームはたじろぐ。国の実権を握る皇族は才人(さいじん)たちと同じように、自由恋愛なんてできないと思っていたからだ。しかし四人の態度は、理想のタイプで盛り上がっている学園生たちと変わらない。


 他国の人間(カラミンサ)を側室として迎え入れたタクトの祖父(アーティチョーク)。腹違いの妹であるタクトの母(カモミール)を溺愛しすぎ、なかなか皇妃を決められなかったアンゼリカの夫(タンジェリン)。もっと(さかのぼ)れば強さが第一という信念の元、多数の従人(じゅうじん)と関係を持っていた初代皇帝。スコヴィル家の恋愛観は、かなり自由奔放だったりする。



「ペッパーさんは伴侶というより、話の合う異性を求めてる感じでしたね」


「ペーくんの言動は暑苦しいところがあるから、普通の女の子は引いちゃうにゃ」


「魔道具のことを語るペッパー様の熱量は、確かに凄まじかったです。ニーム様が通っておられるマノイワート学園にも、あれほどの方はいらっしゃいません」


「ニームちゃんはどう。生理的に受け付けにゃいとかない?」


「今まで見たことのないタイプの人ですが、あれくらいは気になりませんよ」



 ニームにとって一番許せないのは、自分を見下したり利用しようとする者だ。その点ペッパーは対等なパートナーとして見てくれていた。多少言動に極端なところがあっても、嫌う理由にはならない。


 なにせ問題児だらけのサーロイン家で育ってきたのだから。



「ニームちゃんはお兄ちゃんの言ってること、わかったの?」


「兄さんから科学知識を教わっているのですが、それでも理解できたのは六割くらいでしょうか……」


「話についていけるだけでも……驚異的れす」


「ニーム姉上殿が気に入られるのも、よく分かるのじゃ」


「ペーくんとニームちゃんが結婚にゃんて未来があったら、スコヴィル家は安泰にゃ」


「ニーム様にはタクト様がいるから、浮気になっちゃうね」


「ちょっ、ローリエ!? 私と兄さんは血が繋がってるんですよ。結婚なんて、その……」



 一気に落ち着きがなくなったニームを、みんながニヨニヨと見つめる。そんな視線にいたたまれなくなったニームは、強引に話題の転換を図った。



「そっ、それより! 皆さんは兄さんのこと、どう思ってるんですか?」


「ニームちゃんと一緒に、自分の子供にしたいにゃ!」


「美味しいご飯を作ってくれる人なの」


「お父さんみたいな……人れす」


「理想の兄上なのじゃ」



 明確な恋愛感情を持ってないことがわかり、ニームはほっと胸をなでおろす。親戚とはいえ、兄と結婚できる可能性は自分より高い。アインパエ帝国はいとこ同士の婚姻を明確に禁止しておらず、気が気ではなかったのだ。



「ニームちゃんってタッくんに結婚して欲しくにゃいの?」


「兄さんが上人(じょうじん)と結婚するとか、万に一つの可能性もないと思いますので、想像できないだけです。だから人間失格な兄さんの面倒は、妹である私が見てあげるしかない。まったく、困ったものですね」


「ユズが来たら変わるかもしれないよ。なにせアイツの前世と同じ世界から来てるじゃん。結構可愛い子だったし、ボクたちにもすごく興味があるみたいでさ。もしかしたら意気投合しちゃったりして」


「ちょっとシトラス! その辺り詳しく聞かせなさい!!」



 ニームは掴みかからんばかりの勢いで、シトラスに詰め寄る。妹離れできない兄。兄のことが好きすぎる妹。本当に仲の良い兄妹だなと、スコヴィル家の面々は相好を崩(そうごうをくず)しながら話に参戦。


 こうして女子会は盛り上がっていったのだった。




――…‥・‥…―――…‥・‥…――




 ふと違和感を覚え、ナスタチウムは目を覚ます。自分を抱きかかえるように眠るスイを目視しながら後ろを確認すると、手は空を切るだけ。



「起きてほしいの、スイ」


「ふむ? どうしたナスタチウムよ」


「シトラスがいなくなっちゃったの」


「布団が冷えているということは、ここから離れて時間が経っているということだな」



 スイが手を差し伸べると、シトラスの寝ていた辺りは、すでに冷え切っていた。この場を離れてから、相応の時間が経過していることは確実。二人がシトラスの居場所を推測していたとき、ジャスミンが声をかける。



「心配しなくてもいいわよ。多分タクトのところに行ってるんじゃないかしら」


「それなら確かめに行くにゃ!」



 近くで寝ていた数人が起きてしまい、シトラス捜索に乗り出す。一同は寝室に備え付けられた、大きな棚の前へ。アンゼリカが開き戸に魔力を流すと、パタパタパタという音が鳴り響く。扉の内部に階段が現れたのだ。



「ここから露草の館(つゆくさのやかた)へ行けるの」


「こんな仕掛けがあったのですか」


「有事の際に使う秘密の出口にゃ」



 アンゼリカを先頭に、地下の隠し通路を進む。突き当りの扉を開くと、露草の館にある回廊の奥へ到着。そこから寝室へ向かい、そっと扉を開く。



「本当に……居たれす」


「ジャスミンの推理が当たったのじゃ」


主殿(ぬしどの)は幸せそうな寝顔をしているな」


「キュイッ!」



 大きなベッドで抱き合うように眠る、シトラスとタクト。二人ともぐっすり寝入っており、起きてきそうな気配はない。



「兄さんを独り占めとか、なかなかやりますね」


「私はニーム様を独占したいです」


「今日のところは作戦負けにゃ。乱入するとか無粋な真似はやめて、大人しく引き上げるにゃ」


「仕方ありません。情報提供のお礼も兼ねて、今夜はシトラスに譲ります」



 明日は思いっきりタクトに甘えよう。そんな決意をしながら、みんなが去っていく。アインパエ帝国は、今日も平和であった。


果たして次男は現れるのか?

次回「0236話 TKG」をお楽しみに。

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