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無能として家から追放されると決めた転生者の俺は、モフモフたちと一緒に第三の人生をエンジョイする  作者: トミ井ミト(旧PN:十味飯 八甘)
0000 1110[第14章]コーサカハウスにようこそ

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0234話 初代皇帝のギフト

 やはり露天風呂は別格だな。お湯で濡れた石畳を歩くだけで、テンションが上ってくる。毎日でも入りに来たいところだが、そうもいかん。俺たちの宿泊を最優先にしてくれているとはいえ、ここ露草の館(つゆくさのやかた)はいわゆるゲストハウス。皇居へ招かれた地方の役人や、皇家に(ゆかり)のある者も泊まりに来るらしい。



「……あるじ様、ぶっかけて」


(われ)のしっぽも頼むぞ、主殿(ぬしどの)



 シナモンとジャスミンにかけ湯をし、スイのしっぽを軽く磨いていたら、湯浴み着を身につけたニームたちが入ってきた。三人とも露天風呂に興味津々の様子。アインパエでしか味わえない開放感、思う存分楽しめよ。



「へー、ほんとに空が見えるんですね」


「ユーカリさんの妖術で守られていなければ、少し躊躇していたかもしれません」


「こんなに大きなお風呂があるなんてすごいね、ステビアお姉ちゃん」


「俺との入浴に抵抗があるのかと思ったが、割と平気そうだな」


「来月になったらゴナンクへ連れて行ってくれるんでしょ? そのとき水着姿を見られるんですから、今のうちに慣れておこうと思っただけです」



 なんだよその顔は、そんなに海水浴が待ち遠しいのか?

 ニームにはハイネックの水着。ステビアにはビキニスタイル。そしてローリエにはワンピース型を発注済み。楽しみにしておくがいい!


 なにせゴナンクの夏といえば運動会。マトリカリアとの約束もあるし、ステビアも参加を決めてくれた。セイボリーさんに宿泊場所の手配を頼んでるから、家族全員でリゾート気分を満喫しよう。



「夜の花火も期待してるぞ」


「任せてください。炎色反応って面白いですからね。海水浴までにはマスターしてみせます」



 ユズは日本人なので本人に希望を聞くとして、アルカネットたちの水着も考えておかねば。せっかくのバカンスなんだから、既製品で済ませるなどモフリストの名折れ。レベルアップの恩恵と食生活の改善、そして毎日の風呂で、見違えるほど綺麗になってるからな。それぞれの魅力を最大限に引き出せるよう、デザインと色を考えてみよう。



「よし、しっぽもきれいになった。温泉に入るか」


「主殿といっしょの入浴は、やはり心が踊る。ささ、早く湯船に浸かろうぞ」



 逸る気持ちを抑えきれないスイに腕を引かれ、湯船にゆっくりと腰を下ろす。呼び寄せたミントを膝の上に座らせてくつろいでいると、ニームたちと一緒にスコヴィル家の面々も入ってきた。



「今日はどうだった? ぺーくんがなにか失礼なことしてにゃい?」


「なかなか有意義な時間を過ごさせてもらった。少し尖ったところはあるが、なかなか面白いやつじゃないか」


「ペッパー兄上殿を面白いの一言で片付けられるのは、タクトだけなのじゃ」


「業界では異端かもしれないが、彼は紛れもない天才だぞ。実は今、ニームのおかげで魔力を波として捉える理論が、見直されつつある。これまでの学説だと証明できなかった未解決問題が、波として定義することで打開できそうなんだ。そんな最先端の場所に、ペッパーは独学でたどり着いていた」


「私が感覚的に捉えている魔力の流れを、魔道具で可視化してしまいましたからね。あれは驚きました」


「魔道具のコアも独自に解析しててな。オーバークロックや同時マルチスレッド化とか、前世の先端分野に近いことを研究している。この世界だと理解できる技術者は、ほとんどいないと思う」



 だから業界や研究者に受け入れてもらえず、どこにも所属しない姿勢を貫いている。そんな彼のため、好きに没頭できる場所を用意した前々皇帝(タンジェリンさん)は、やはり子供思いのいい父親だ。



「いくら気が合うからって、こいつを助手にするのはやめたほうがいいと、ボクは思うなぁ……」


「タクト様だけでなく、ニーム様はプロポーズされてたです」


「例え相手がやんごとなきお方でも、ニーム様は渡しません」


「うにゃ!? ペーくんは魔道具が恋人みたいな性格にゃんだよ。そんな子に興味を持たれるにゃんて、やっぱりニームちゃんは自慢の娘にゃ!」



 例の一件以来、ニームは〝アンゼリカお母さん〟と呼んでるし、別に娘扱いしてもいいんだけどな。しかし、義理の娘になった子供と、実の息子が恋愛関係になるのって、心情的な抵抗がないのか?



「あれを求婚とは言えないと思いますが……」


「その辺り、詳しく聞かせてほしいの。今夜は女子会するの!」


「女子会……楽しみれす」


「久しぶりにニーム姉上殿と、じっくり語り合いたいのじゃ」


「それならタッくんとニームちゃんの従人も全員参加で、女子会の開催を宣言するにゃー!」


「ホホーウ!」



 勝手に決めるなよ。俺は参加できないんだぞ……



「……女子会って、なに?」


「女性だけでお話する集まりのことですよ」


「そのような風習が外界にはあるのか。これはまた興味深い」


「タクトだけ仲間はずれになってしまうわね」


「キュイー?」


「せっかくだから、コハクも行ってくるといい。俺は適当に時間を潰してるよ」



 まあ俺ぬきのイベントも経験しておいたほうが、生活に潤いが出る。一緒に過ごしてばかりだと、どうしてもワンパターンになってしまうしな。せっかくだからこの時間を利用して、碧御倉(へきみくら)にでも行ってみるか。皇家秘蔵の書物に、軽く目を通しておこう。



◇◆◇



 門番に皇籍証を見せ、マジックバッグを預けてから碧御倉の中へ。敷地内に三つの建物があり、真ん中にあるのが宝物庫。右側が書庫で、左は歴代皇族の遺品が収められているとのこと。入口にはテージクロノ学園にあったゲートと、よく似たものが設置されている。デザインがかなり古めかしいので、おそらくここの技術を転用して、学園のセキュリティーを作ったんだろう。


 上部が斜めに切り落とされた円柱のパネルへ、発行してもらったばかりの通行証を当てて魔力を流す。書庫の扉が開くと、鼻腔をくすぐる古書の匂い。これだけでテンションが上ってくるぞ!



「とりあえず初代皇帝に関する資料を探してみるか」



 (ひと)りごちた後、本棚を見て回る。パッと見た限り、北方大陸(ほっぽうたいりく)の歴史や文化に関する書物が多いな。元の世界にあった国会図書館みたく、あらゆるものを蒐集(しゅうしゅう)しているワカイネトコ大図書館と違い、国の成り立ちや過去の偉業に特化してる感じだ。


 古めの本をいくつか見繕い、奥にある閲覧スペースへ持ち込む。パラパラめくっていると、初代皇帝のギフトが載っていた。



豪鬼(ごうき)って隠しボスかよ!」



 いかんいかん。思わず声に出してしまったではないか。

 こんなギフトが発現したら、強者(つわもの)を求めて旅するわな……


 魔法より肉体的な強さを重視してたらしく、数多くの従人(じゅうじん)を配下にしていたようだ。魔法を生身で弾き返すとか、凄いどころのレベルじゃないぞ。一体どんな丈夫(ますらお)だったんだろう。


 そんな性格をしていたら上人(じょうじん)に興味を持てなくなりそうだが、ちゃんと妻はいたっぽい。今回チョイスした書物に、手がかりになりそうなものは無いな。とりあえず、元の場所へ戻しておくか。



「おい、お前。人生何周目だ?」



 席を立とうとした時、背後から声をかけられた。後ろを向くと緑色の髪をした男が立っている。適当に切り落としたような、ボサボサのヘアスタイル。色白のひょろっとした体格で、俺より身長が低い。年齢は十代後半だろう。


 ここに入れる人物で、それに該当するのは一人だけ。



「部屋に引きこもってると聞いていたが、こんな場所に出てくることもあるんだな」


「いいから質問に答えろよ」


「俺は二度目を満喫中だ。初対面でその質問をするくらいだから、クローブも同じなんだろ?」


「やっぱりそうか。食事が米に変わったから不審に思ってたんだけど、お前があれこれやってるんだよな?」



 おーい、微妙に会話が成立してないぞ。こっちの質問にも答えろよ。



「前世は日本人だったが、お前は?」


「僕の生きていた時代に国なんて無い。ほとんどの人間が軌道上に浮かぶコロニーで生活していたからな」



 どうやら数世紀未来の地球から転生したようだ。環境やエネルギー問題を解決すべく、地球全体を保護地域にして、宇宙で暮らすようになったんだとか。しかも肉体を捨てて電脳パーソナリティー化してるとか、完全にサイエンス()フィクション()の世界だぞ。



「そんな状態だったら寿命なんて無いだろ。どうして転生なんかしたんだよ。ひょっとして社会に貢献できなかったペナルティーでパージされたとか?」


「馬鹿にするな、僕は優秀だったんだ。リソースだって他の奴らより多くもらってたんだぞ。ちょっと運が悪かっただけさ」



 地上で野良化していた人工()知能()が独自の進化を遂げ、軌道上のシステムに侵入。制御系を奪ってコロニー落としをやったそうな。死亡原因がそんな理由とか嫌すぎる。もしユズが元の世界に戻れるなら、予言書とか渡してやりたい。



「生身の肉体は重いしメンテが大変だし、めんどくさいったら無いよ」


「だから部屋に引きこもってるのか」


「意思の疎通なんて、思考するだけで伝わるのが当たり前だろ。喋るのも億劫(おっくう)だよ、まったく」


「そんな面倒くさがりのお前が、どうして俺のところに来たんだ?」


「僕は古代文明の研究をしててね。二十一世紀初頭の生活様式に関する分野では、第一人者だったのさ」


「ほう。それはすごいな」


「事故が起きる直前に調べてた〝ティー・ケー・ジー〟って食文化を解明できなかったのが心残りなんだ。もし知ってたら教えてくれ」



 電脳化して食事の必要もなくなったから、衰退してしまったわけか。食文化とはいっても国を代表する料理のように、資料にとして編纂(へんさん)しておくようなレシピじゃないしな。


 まあ教えるのは(やぶさ)かではないが……



「口で説明するのは難しい。明日の朝、御所の食堂へ来い。そこで食べさせてやる」


「わざわざ出向くなんて面倒くさい、部屋の前に置いといてくれよ」


「調理のタイミングにコツがいる。しかも作ってすぐ食べなければ、本物とはいえない。つまり食堂に来るしか味わえないってことだ」


「そんなにシビアな料理なのか。……わかったよ、気が向いたら行ってやる」


「新鮮な食材でしか作れないから、絶対に来いよ」



 そんな約束をしてクローブと別れる。まさか引きこもりの次男が会いに来るとは。それだけ心残りだったってことなんだろう。これは旨いだし醤油を作ってやらねばならん。明日はちょっと早めに仕込みを始めるか。



◇◆◇



 早起きの予定も決まったので、露草の館へ戻ることに。俺の夢に関する資料はゆっくり調べよう。資料や書物ではなく、遺品の方に手がかりがあるかもしれないしな。


 そんなことを考えながら、ベッドの近くで寝る準備をする。


 しかしシトラスたちが居ないだけで、こんなに時間を持て余すとは……


 それに全く眠くならん。これはモフモフ欠乏症に違いない!

 元実家で暮らしていたときは、よくこの禁断症状に耐えられたものだ。なんか動悸に息切れ、手足の震えや目眩(めまい)までしてきそうな感じがするぞ。


 徹夜で料理の仕込みでもするか……なんて考えていたとき、部屋にノックの音が響く。



「誰だ?」


「入ってもいいかい?」


「シトラスか。構わないぞ、入ってこい」



 部屋の扉が開き、浴衣姿のシトラスが入ってくる。その姿を見ただけで、落ち着かなかった気持ちがスッと()いでいった。やはりモフモフは最高の精神安定剤だな!



「女子会はどうしたんだ?」


「もうお開きになったから、みんな寝てるよ」


「楽しめたか?」


「まあキミ抜きのイベントも、たまにはいいものだね」



 しっぽを揺らしながら歩いてきたシトラスが、ベッドの上に腰を下ろす。

 ん? こっちをじっと見てどうした。俺の顔なんて見慣れてるだろ。



「有意義な時間を過ごせて良かったな」


「だけどなんか眠くならないんだよ。どうせキミも同じだろうと思って、見に来てあげたのさ」


「実は徹夜でもするかって考えてた」


「やっぱり禁断症状が出てるじゃん。仕方ないからこっちに泊まってあげるよ」



 やっぱりシトラスは最高の従人だ。こんなに俺のことを(おも)ってくれるなんて嬉しすぎる。



「明日は早めに起きたいから助かるぞ。じゃあ早速寝よう」


「着替えてくるから、ちょっと待っててくれるかい」



 隣の部屋に入っていったシトラスが、男物のシャツとショートパンツ姿で戻ってきた。ベッドに潜り込んで腕を差し出すと、嫌がる素振りも見せずに自分の頭を置く。



「こうして二人っきりで眠るのは久しぶりだな」


「他の人が居ないからって、変なことしないでよ」


「俺はこうしているだけで満足だ」



 部屋の明かりを反射して銀色に輝く髪を撫でたあと、ピンと立ったオオカミ耳をふにふにとモフる。シトラスの容姿はテージクロノ学園でも、従人(じゅうじん)たちから注目されていた。そんな彼女を独り占めできるとか、なんて贅沢なんだろう。



「ほんとにキミときたら、自制心がないんだから。やっぱりボクたちが一緒じゃないと、死んじゃうんでしょ」


「少なくとも寝不足で死にかけてただろうな」


「こうして来てあげたんだから、感謝してよね」


「ああ、愛してるぞシトラス」


「また恥ずかしげもなく、そんなこと言う……」



 そういうシトラスだって、最近は素直に受け入れてくれてるじゃないか。以前は怒ったり、狼狽(うろた)えたりしてたくせに。



「そういえば碧御倉(へきみくら)で、珍しいやつに出会ったぞ」


「ふーん。捜し物のことも含めて、話を聞かせてよ」



 書庫で出会ったクローブのことや、初代皇帝の逸話なんかをシトラスに話す。そんなことをしていたら、すぐ眠気が襲ってきた。



「ふわぁ~……。そのティー・ケー・ジーってやつ、ボクも楽しみだな」


「シンプルで奥の深い料理だから、色々アレンジができて面白いぞ」


「明日の朝ご飯、いっぱい食べるから……ね」



 そんな話をしながら、二人で夢の中へ旅立つ。シトラスのおかげで、今夜も快眠間違いなしだ。


次回は視点を変え「0235話 女子会」をお送りします。

恋バナや0198話に関する答えとか……

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― 新着の感想 ―
卵かけご飯は日本の衛生基準で育てた鶏の卵でやらんと罰ゲーム以外のなにものでもないんだが・・・ 生卵ってそんぐらいの危険物なんよなあ、外国だと
[良い点] 過去や近未来の転生者は時々見るけれど、遠未来は珍しいですね ティー・ケー・ジーってカタカナで言うところを見るとアルファベットもなくなってるのかなぁ [気になる点] 誤字報告でもよかったの…
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