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無能として家から追放されると決めた転生者の俺は、モフモフたちと一緒に第三の人生をエンジョイする  作者: トミ井ミト(旧PN:十味飯 八甘)
0000 1101[第13章]アガ塔よいとこ、一度はおいで

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0228話 ロブスター商会 ワカイネトコ支店

 俺とコハク、そしてクミンを抱っこしたスイの四人で街を歩く。向かっているのはロブスター商会の支店。そこで契約する従人を決め、そのあと家具や日用品の買い出しだ。やることは山積みだが、一つ一つ片付けていこう。



「なんか抱っこされてるってより、透明な椅子に座ってる感じがするね」


「今の姿にも慣れてきて、本来の力をいくらか出せるようになったからな。人をひとり支える程度なら造作もない」


「その力で物を動かせたりするのか?」


「うまく加減ができれば可能だぞ。(われ)は不器用ゆえ、あらぬ方向に飛んでいったりするが」



 まあ元のサイズがあれだけ大きいから、制御が疎かになるのはある意味仕方ない。適当にやっても暴走なんてしないだろうし……



「今度ニームの前で使ってみてくれ。もしかすると、魔法の大革命が起きるかもしれない」


「魔力を垂れ流すような力なのに、なにゆえ革命が起きるのだ?」


「この世界には動力になるような魔法がないんだよ。もし加速や減速といった作用を魔法で再現できれば、魔道具が一気に進化する」



 魔法が手元から飛び出すのは、あくまでも投げているのと同じ。火の塊や石礫(いしつぶて)そのものが動く力を持っているわけではない。だから射程という面では、拳銃のほうが有利だったりする。


 ニームの誘導弾にしても、魔力で作ったレールを操作して、軌道を変えているだけだ。



「そういえばスコヴィル家の長男が、その手の研究をしていると言っていたな」


「火や風を使って実験を繰り返しているらしいが、知っての通りしょっちゅう爆発させている。もし物体を直接動かしたり、回転させたりできるようになれば、アインパエで作ってもらった精米機も、ハンドルを回す必要がなくなるぞ」


「子供たちの仕事を奪ってしまうのはアレだが、なかなか興味深い」


「なんか、すごく難しい話をしてるね」


「あー、すまん。つい夢中になってしまった」


「別にいいよ。聞いてるだけでも楽しいし」


主殿(ぬしどの)の話は面白いからの」



 前世の知識があるぶん、機械工学分野にはロマンを感じてしまう。車やバイク、それに生産機械が実用化されれば、古代文明に匹敵する生活環境だって夢じゃない。まあ実際のところスイが言ったように、従人たちの仕事を奪ってしまうので、影響を考えながら普及させないといけないが……


 どちらにせよスイの力をニームが再現できれば、魔法界に大きな功績を残せる。あの子にとってもメリットのある話だ。



「すごく長生きのスイと話が合うなんて、やっぱりタクトさんって凄いや」


「それを言うならクミンも同様だぞ。出会ったばかりの我と、これだけ仲良しになれたのだからな。お主には不思議な魅力がある。地域の支配者(リージョン・マスター)たる我が、代償なしに守護したいと思えるほどにな」


「私のどこを気に入ってくれたのか判らないけど、スイに好意を持ってもらえるのは、すごく嬉しい」


「難しく考えずとも、日々の暮らしを楽しんでいけば良い。クミンの心根は、主殿に勝るとも劣らぬ、素晴らしいものだ」


「タクトさんと一緒かぁー。なんか自信が出てきそう」



 クミンには人心掌握の才能があるのだろうか。ある種のカリスマかもしれないな。教祖とかになったら、一気に振興したりして。ラズベリーと組ませ、従人や野人(やじん)の地位向上に……


 ――って、そんな考えはやめよう。仮にそれを実現するとしたら、自分の手でだ。他者の威を借るようではモフリストの名折れ!



「あれがロブスター商会のワカイネトコ支店だ」


「うわー、おっきな建物」


「本店の規模より小さいが、ここにも繁殖(ブリード)部門があるからな」



 スイから降りたクミンをエスコートしながら建物に入る。空いている窓口を探していたら、意外な人物を発見。難しい顔をしているが、オーナー自ら支店へ顔を出すとは、なにがあったんだろうか。



「こんにちは、ローゼルさん」


「やあ、タクト君。挨拶に伺おうと思っていたから、ちょうどよかったよ。もしかして、そちらにいる従人が噂の……」


「会えて光栄だローゼル殿。我が名はスイ。主殿とつつがなく契約できたのは、貴殿のおかげと聞いている。そんな人物がトップを務める商会に興味があったので、こうして同行させてもらった」


「こちらこそ、お目にかかれて嬉しいよ。タクト君と出会ってから、仲介業に全てを捧げて良かったと、毎日感謝している。その様子を見ると、貴方も同じようだね」


「大した目的を持たず、悠久の時をただ生きていた頃に戻れないと思えるほど、毎日が充実しているよ」


「なにせ話題には事欠かない人物だからね、タクト君は。ところで、そちらのお嬢さんもコーサカ家の関係者かな?」


「はい。タクトさんのお屋敷で働くことになった、クミンといいます」



 簡単な挨拶をすませ、ここへ来た目的を話す。クミンと年齢の近い従人で、一人は身の回りの世話と、屋敷の仕事ができる者。もう一人は護衛も任せられる者を見繕ってもらう。何人か紹介されたあとにクミンが選んだのは、十三歳で猫種(ねこしゅ)のルーと、十六歳で狼種(おおかみしゅ)のレモングラス。


 ルーはホワイトアイボリーの毛色で一等級の品質二番(0010)、レモングラスはダークブルーグレーの毛色で、同じく一等級の品質一番(0001)。さすがロブスター商会だけあり、どちらもあまり見ない毛色の従人だ。


 契約の準備をするために従業員が退出したあと、ローゼルさんが俺に近づいてくる。



「少し相談したいことがあるのだが、時間は大丈夫かね」


「ずっと難しい顔をしてるから、気になってたんだ。ローゼルさんがここに来ているってことは、なにかあったんだろ? 俺で力になれるなら、ぜひ協力させてくれ」


「実は我々にも打つ手がなくて途方に暮れている。私がここに来たのは、タクト君の助力を得るためなんだ」



 従人に関する知見は、世界でもトップクラスのはず。そんなロブスター商会でも打つ手がないなんて、かなり厄介な事態が発生してるんだろう。口で説明するより見たほうが早いと言うので、現場へ赴くことに。



「俺とスイは行ってみるが、クミンはどうする?」


「従人に関係していることなんですよね?」


「商会で養育している従人についての相談だよ」


「私じゃ力になれないかもしれないけど、ついて行ってもいいですか?」


「少しショッキングな光景を見せることになるけど、大丈夫かい?」


「はい。私、従人がどんな悩みを持っているのか、なにに困ったりするのかもっと知りたい。これから契約する子たちとも、家族のように付き合いたいんです。そのためにはタクトさんがやることを、間近で見るのが一番の近道だと思う。だから行かせてください」


「さすがタクト君の家で働くだけのことはある。素晴らしい心がけだと思うよ」


「いい子だろ?」


「当商会で雇用したいくらいだね」



 こんな逸材を簡単に渡したりしないぞ。なにせ龍族であるスイが、一目で気に入った相手だからな。きっと他の誰も持っていない、なにかがあるんだろう。


 スイに手を引かれながら歩くクミンを見守りつつ、ローゼルさんのあとを付いていく。不規則にドアが並ぶ廊下が終わり、マンションのようなエリアへ入った。ここが従人たちの暮らす区画か。さすがロブスター商会、上級冒険者用の宿屋並みに清潔で明るい。



「ここに見て欲しい従人がいる。かなりナーバスになっているから、刺激しないよう気をつけて欲しい」


「わかった」


「どのような状態かわからぬが、気をつけるとしよう」


「はい!」



 ローゼルさんが扉を開くと、キラリと光る細長い物体。鋭い刃物の先にあるのは、まだ幼い子供の姿。



「――ダメェーーーーーッ!!」



 俺が呑気に状況把握をしていたとき、クミンが部屋の中へ飛び込む。思い詰めた顔の女性に飛びつき、手からナイフを奪い取った。



「離して! 止めないでください。こんな姿で生まれてしまった我が子は、せめて自分の手で……」


「どうしてそんな事するの! いくら自分の子供だとしても、あなたにそんな権利なんてない。どんな運命を背負ってたって、一つの命なんだよ。それを守ってあげるのが、親の努めじゃない。なのに、なんで……そんな早まった真似しちゃうの……」



 クミンの目から、涙がポロポロこぼれだす。彼女の両親は、子供を守ろうと無理をして命を落とした。そして姉も自分を生かすため、別大陸へ渡っている。俺には想像できないほどの思いが、溢れてしまったのだろう。


 近づいて抱きしめると、胸の中でわんわん泣き出した。



「まずは落ち着け。これ以上、この子を泣かせるなよ」


「……ううっ……はい」



 栗鼠種(りすしゅ)の少女が座っているベッドに横たわる小さな影。その姿は満月の晩に見たベルガモットと同じ。俺のギフトで見た数値も、その異常さを物語っている。



「こうした子供が生まれる事例は?」


「記録に残っているケースはないね」


「つまり誰の手にも負えなかったということか」


「私が……私が悪かったんです。望まぬ妊娠をずっと悔やんでいたから、きっと天罰が……」


「自分を責めないで、あなたは何も悪くない。生まれてきた子に、罪なんてないんだから。どんな運命を背負っていたとしても、幸せになる権利はあるんだよ」



 どうやらこの母親は、自転車操業状態だった業者から引き取ったらしい。事業を継続させるために、手持ちの従人たちを強引に繁殖させ、資産を増やそうとした。しかしそんな目論見が実を結ぶこともなく倒産。そこで飼育されていた従人の大半を、ロブスター商会が保護した。


 なにせここにいる栗鼠種の子は、まだ十七歳だ。なりふり構わずやった結果がこれか。本当に民間の仲介業者ってのはピンキリだな。



「どうだろう、タクト君。この子を救ってやれないだろうか」


「申し訳ないが、()()()では無理だ」


「タクトさんでも助けてあげられないの?」


「主殿は〝今の俺〟と言ったろ。つまり希望はあるということだ」


「スイの言う通り、まだ手はある。論理演算師(ろんりえんざんし)のギフトは、これまで何度も奇跡を起こしてきた。この状況に俺を導いた以上、必ず解決策を提示してくれるはずだ」


「本当かね!?」



 全身に毛が生えた子供が示している数値は、二等級の品質五番。一つだけ例外があるとすれば、俺のギフトで見えている数値。そのビット配列が〝101〟であること。


 コハクのように一ビットと三ビットに分かれておらず、数値そのものが一ビット足りない。通常より少ない一ビット分が、その体に影響を及ぼしているのだろう。


 レベル九十六でビットを壊す能力を得たのだから、生み出す力だって存在するはず。だったらレベルを上げるだけだ。今のレベルは百三(103)。レベル八ごとに増えてきたギフトの特性から、百四(104)で間違いなく何か変化がある。まずはそれに賭けてみるしかない。



「俺は今から森へ行ってレベルを上げてみる。クミンは一旦屋敷へ戻るか?」


「私はこの親子と一緒にいたい。構いませんか?」


「君のような子が近くにいてくれると安心できる。どうか二人を支えてやって欲しい」



 そうと決まれば行動あるのみ。スイと一緒に商会を出て、全速力で屋敷へ向かう。今は断腸の思いで諦めるが、治療のときにはモフりまくってやる。首を長くして待っていろ!



「クミンの行動力、実に見事であった」


「考える前に行動をおこせなかったのは反省点だ。あの素晴らしいモフモフが失われるなど、世界的な損失だからな。クミンには感謝せねばならん」


「思慮深いことが主殿の美点だぞ。今回の役目はクミンだった、ということであろう」



 適材適所ということか……

 互いの長所や短所を補い合えるクミンは、やはり俺たちにとってかけがえのない存在だ。ニームやスコヴィル家と同じくらい、大切にしてやらねば。



◇◆◇



 庭で遊んでいたシトラスとシナモンを呼び戻し、フェンネルや彼の従人たちにも事情を説明。着替えをすませて、軽くつまめるものも作っておく。もし百四(104)で望むものが得られなければ、百十二(112)までレベルを上げたい。さすがにプラス九レベルは、どれだけ時間がかかるかわからん。クミンの迎えもフェンネルに頼んでおこう。



「思う存分暴れられるのは、願ってもないことなんだけどさ。そんな数の魔物や魔獣を、どうやって探すの?」


「霊獣たちに協力してもらおうと思う」


「敵がたくさんいる場所を、教えてもらうですか?」


「森には必ずどこかで、魔素の(よど)みが発生している。そこでは大量の魔物や魔獣が生まれるんだ」


「そうした危険な場所ができないよう、霊獣たちが流れを作り出しているのですよね」


「もし短時間で行ける場所に淀みがあれば、魔素の調整を少しだけ遅らせてもらう。そこへ俺たちが突っ込んで一掃だ」


「……霊獣の仕事、代行する?」


「魔物の場合は倒して魔素に戻したほうが、霊獣の負担も減るしな」


「案内は私とコハクちゃんに任せてね」


「キュイッ!」


「新しい命が健やかに成長できるよう、ひと暴れしようではないか!」


「まずはハクのところに行くぞ。みんなよろしく頼む」



 モンスターハウスに突っ込むような真似、まともな冒険者だったら絶対にやらない。得られる経験値に対して、あまりにリスクが大きすぎるからだ。しかし俺たちの火力があれば、遠距離から削り切ることができる。接近されても強力な前衛三人と、精霊たちの守りを突破できないだろう。


 庭の疑似霊木から聖域へ渡り、ハクをモフり倒しながら事情を話す。幼い命を救うという目的が響いたらしく、喜んで協力してくれることになった。


 拳銃二丁を腰のホルスターに差し、コハクとジャスミンの案内で森を進む。



「あの先がそうよ」


「足音がいっぱい聞こえるです」


「まずは、わたくしが」



 〈厳冬の使者よ 我が呼びかけに応え顕現せよ 薙ぎ払え冬将軍〉



 ――(ザン)



 氷でできた巨大な鎧武者(よろいむしゃ)が現れ、手にしていた大太刀を()ぐ。攻撃範囲内にいた魔物や魔獣が次々倒れ、運良く逃れた者たちも凍りつく。強烈な一撃で力を使い果たした冬将軍は、ダイヤモンドダストになって消えてしまう。射線が空いたら俺たちの出番だ。



 ――ドパパパパパパァーン



「……えいっ、やぁっ、とぉっ!」



 マシンガンのようにばら撒かれた銃弾と、シナモンの真空斬(しんくうざん)が乱れ飛び、生き残りを次々と(ほふ)る。



「あっちから集団が近づいてるです」


「我の出番だな」



 ――カッ!!!



 スイの体内にエネルギーが収束し、臨界と同時に敵の集団を貫く。美女の口から破壊光線が出るのは、相変わらず酷いビジュアルだ。



「残りはボクに任せて」



 ナックルガードをつけたシトラスが躍り出て、動いている魔獣や魔物を殴り倒す。素材や肉をかなり無駄にしてしまったが、今回は効率優先。とりあえず無事なアイテムだけ回収しよう。



「レベルは上がったかしら」


「おかげで百四(104)になった」


「ギフトに変化はあったです?」


「新しくスクリーン(SCREEN)が増えたな」


「それはどのようなお力なのでしょうか?」


「残念ながらビットを増やす効果はない。検証してみる必要はあるが、これは覆い隠すとか遮蔽するという言葉だ。数値を偽装するような用途にしか、使えないと思う」



 壊す(BREAK)の対義語になる修復(REPAIR)修理(FIX)、あるいは作る(MAKE)生み出す(CREATE)なんかが来ると思っていたが、まさかの偽装系とは……



「キミのことだから、これで諦めるなんて言わないよね?」


「当たり前だ。今日中にもう八レベル上げてしまうぞ」


「……頑張る」


「我も大暴れしようではないか」



 ハクが他の霊獣にも連絡を取ってくれるみたいなので、回れる場所はすべて行ってみよう。このペースで狩りができれば、今日中にもうワンランク、ギフトを成長させられるはず。


 とにかく出来ることは片っ端からやるだけ。後悔や反省は終わってからだ。


次回は視点を変えて「0229話 聖母クミン」をお送りします。

主人公の影響を受けた少女が見せる姿をお楽しみに。

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